いぬみ
2021-09-18 00:00:20
9614文字
Public ガ!!
 

九月十八日のプレゼント

高嶺清麿!誕生日おめでとう!!
※ナチュラルにガたちが八歳くらいの時に既に再会してる
※清←鈴 描写有り 水野の想いに『気づいている上で照れてる』麿がいる

 夜も更け、いい子は眠りにつく時間、オレはもうすぐ終わりかける今日のことを反芻していた。……九月十八日。高嶺清麿 オレが、産まれた日。かつてのパートナーたちや友達が、たくさん、それぞれ違う形で、オレに贈り物をくれた。

 恵さんとティオからは、洋服を貰った。多くの衣服を用意して、その中から恵さんが選んだもの、ティオが選んだもの、二人が話し合って選んだもの、と三着決めたそうだ。仕事の合間を見計らって一生懸命選んだのよ、とティオが誇らしげに言っていた。
 長持ちしそうだ。一目見たときの印象はその一言だった。高い服はその分質が良く、長く持つ。結果的にお得である、とはわかっていても、結局着慣れている服を選んでしまって、見苦しくないように着ればいいか、という意識になりがちだった。服だのブランドだのに無頓着なオレでも、この三着が少しお高めなものだということがわかった。

 今度時間ができたらコーディネートさせてね、とやけに恵さんが熱量を持って頼んできて、つい了承してしまった。前された時は、オレが自分から選んで着たものに、休日のお父さんみたいだのどこで買っているのかも分からないような芋臭いデザインの服を着るなだのヤクザの親玉みたいだのとボロクソの評価を頂いた。あの時はなんでズボンが綿パンしかないの、と驚かれたっけな。着やすいし合わせやすいからなんだが。だからか、プレゼントの中にはオシャレなダメージジーンズとやらがあった。正直、ガッシュに引きずられて破けたズボンみたいだな、と思った。寒そうだ。そんなこと口に出したらオシャレのことを何も分かってないと呆れられてしまうのだろうけど。まあ、機会があったら着よう。着心地が良さそうだ。

 フォルゴレは仕事で忙しく来れなかったらしい。プレゼントは用意してくれていたようで、キャンチョメが代わりにと手渡しをしてくれた。
 フォルゴレからは、サイン入りのCDと、お祝いの旨のコメントが入った色紙を貰った。この前発売されたばかりのパルコ・フォルゴレ傑作厳選コレクションCDらしい。嬉しいっちゃ嬉しいが自己顕示欲が高すぎやしないか。恵さんもそうだが。まあ、芸能人というのは自分を売り出していくものだからしょうがないとはいえど。
 ガッシュがよく踊っていたチチをもげやら、無敵フォルゴレやら、他にも色々収録されていた。どれも聞き馴染みのないタイトルだが、結構有名な曲だらけらしい。水野が「これ、どこのお店に行っても売り切れてるんだよ!」ときらきらとした眼差しで言っていた。結構フォルゴレは人気芸能人らしい。多分、聞き慣れていないタイトルの曲も、フレーズだけ聞いたら分かるんだろうなと思う。最近フォルゴレに似た歌声が町中からすると思っていたから。

 キャンチョメ個人からも、キャンチョメ自身が選んで入れたというお菓子の詰め合わせを貰った。黄色いラインが入っている透明な袋から彩色豊かなお菓子が透けている。様々な味のキャンディ、一口サイズのチョコレート数個、クッキー、ガム、ゼリー。中には、某乳酸菌飲料も入っていた。この目の前の子供が、乳酸菌は体にいいんだぞ、と自慢するように言っていたのを思い出す。あの時はガッシュに、あげないと意地悪く言ってきていたが、誕生日の人には特別らしい。色とりどりに彩られた袋はまさに子供の夢の体現のようだった。糖分は疲れた頭脳に最適の栄養だ。ありがたく頂いた。

 サンビームさんとウマゴンからは、バッグを貰った。パッチワークが施された布製の手作りバッグだった。二人で手分けして作った作品らしい。布でできた本体の部分はサンビームさんが、シスターから教えてもらいながらも自力で縫って作り、紐の部分はウマゴンが魔界の母親から習いながら編んだものらしい。サンビームさんもウマゴンもこの作業は初めてだったという。二人とも誇らしげな、やり遂げたような清々しい顔をしていてこちらもなんだかつられて嬉しくなった。
 背負うタイプのバッグらしい。試しに二人の前で背負ってみると、大きく良く響く拍手と、ポクポク鳴る独特の拍手の音、似合ってるぞという賞賛の大人の声とメルメルメーと馬か羊か犬かわからない鳴き声が聞こえた。意味は分からないが褒めてくれているらしいというのは分かった。このバッグも、丈夫そうだ。しっくりと肩に馴染む感じがする。今度出かける時にでも使おう。

 デュフォーからは、外国語辞典を貰った。この前出たばかりの最新版のもの。それゆえ高いから、学生の身であるオレには手が出せなくて、手に入れるのを諦めていたブツ。もったいぶって後ろ手にプレゼントを持ちながら、
「〝答え〟は出さずに答えろ。オレからの贈り物 プレゼントは何だと思う?」
と言ってきた時は面倒くさい彼女かと思ったが。無駄に茶目っ気を出さないで欲しい。それでも、つやつやと光沢を持った高級感たっぷりのカバーを目の前にそっと差し出された時。それを見た瞬間つい気持ちが高ぶってテンションが上がってしまった。気の利いた小洒落た包装などまるでしていない、買ったそのままの風貌で差し出してきたのが彼らしい。前訊いた時は確か「どうせ剥がすのに紙の無駄遣いだ」と言っていたな。隠したいのなら自分の体か何かで隠せばいい、と。今のデュフォーの行動のように。全く、人間味があるのかないのか分からないやつだ。結果として、だんだん荒ぶっていく高揚感を味わうことができたが。

 この前本屋で物欲しげに見つめていただろう、と何でもなさげにデュフォーは言った。見られていたのか答えを出したのかは知らないがバレていたらしい。彼も随分変わったものだ。今までの、居候し始めの彼ならば、切れかけてた部屋の電球だとかそろそろ補充したいと思っていた電池だとかを差し出しそうだったのに。というか去年がそうだった。箱ティッシュ三箱詰め(割と質が良くて高いやつ)を誕生日プレゼントだと差し出してきた時よりも人間味が増えたというか、情緒が育った。……回想はほどほどにして、ありがたく読ませてもらおう。楽しみだ。

 デュフォーに続いて、ゼオンからは、しおりと付箋を貰った。デュフォーとは違って丸のままそのまま渡すのではなく、中性的な雰囲気のラッピングが施されたものを手渡された。白い布に包まれ、銀色のラッピングタイで装飾されている。その中身であるしおりも付箋もシンプルだが素っ気ない訳ではなく、使いやすいデザインだ。魔界の中でも有名な職人が作った紙で作られたものらしい。確かに肌触りは上等品のそれだ。デュフォーが本を贈ると聞いたから、それに関連付けて使えるこの二つを寄贈しようと決めた、とゼオンは言った。これならいくらあっても困ることはないだろう、ということらしい。こういう場でプレゼントを差し出すのは不慣れな様子だった。

 そして。もうひとつ、ゼオンが差し出してきたものがあった。大きい四角形の箱に散りばめられるように印刷された和の趣を醸し出すデザインのロゴ。それはふと食べたくなるとたまに土産屋や大型スーパーで探す姿で。静岡県の定番の土産である夜のお菓子、うなぎパイだった。大容量の六十四個入り、パック詰めの手軽に買えるようなミニサイズのやつじゃなくて、普通サイズのどっしりがっつりボリューミーな箱詰めのやつ。モチノキ町じゃあまり見ないもの。好きな食べ物はうなぎだと自負しているが、うなぎの蒲焼きやひつまぶし以外にも、こういうお菓子も大好きだ。
 カツオブシ生産量一位である静岡県にふらっと寄ってカツオブシを調達していた時、ちょうどいいからついでに買っておいたとゼオンは言った。こればっかりはガッシュに強請られてもはいそうですかと分けられない。お袋にもだ。一個二個くらいなら交渉してもいいが。ありがたく食べよう。毎日一個ずつ、たまに数個ずつ大事に食べよう。楽しみが増えた。

 つくしからは、植物園の半額券を貰った。十回程度使えるらしい。ガッシュが代わりに手渡ししてくれた手作り感満載のチケット。無料だとかではなく、〝半額〟なのが妙に生々しい。きっと本人に言ったら、『こっちも商売ではあるからね、無料じゃやってけないよ』と朗らかに返してくるんだろう。ここにはいないはずなのに鮮明に声が聞こえてきた。……今度久しぶりにガッシュと一緒に植物園、行くか。最近、高校での生活が忙しくて楽しくて全然行けていなかった。たまには顔を見せたい。あそこは居心地がいい。また日向ぼっこがてら木の観察でもしよう。

 水野に誘われついてきたらしい仲村からは、水野との合唱と、高校で別れた皆のメッセージをまとめた手紙を貰った。合唱は、綺麗な歌声だった。水野も仲村も歌が上手かった。確かあの高校は合唱に力を入れていたような。水野が第二志望で行った、仲村も通っている高校。お互いがお互い主張しつつも出張りすぎずに調和して響いた歌声は、この場ではよく響いて。音程はほんの少しだけ拙くて、コンクールだとかでは埋もれてしまうのだろうが、何よりも聞き心地が良くて安心できる歌声だった。あたたかな気持ちが詰まった歌だった。さすが元合唱部だ。中学生の頃、放課後によく聞こえていた音。水野の歌声も、仲村の歌声も久しぶりで、懐かしかった。終わった後の拍手に力が入った。

 皆のメッセージも読ませてもらった。クラスのしっかり者の面影はご健在のようで、わざわざ連絡を取って書いてもらったらしい。さすがに全員ではなかったが、懐かしい顔ぶればかりだった。

 山中は野球が強い高校へ進学したらしい。引き続き野球部に入り、そこで結構いいポジションで今度大会へ出るそうだ。「その大会での優勝がプレゼントだ!」と書いてあったが高校が違うんだからどちらかというとライバルだしそれが贈り物ってすごい皮肉になるんじゃないか。オレは相も変わらず帰宅部だからそう関係はないけど。祝う気持ちは伝わってくるしいいか。まあ、頑張って欲しい。

 岩島は、簡潔で読みやすい祝いの言葉だった。相変わらず癖のある字の手紙だ。高校では、オカルトクラブを高校の新しい同級生と組んで創設して、活動を頑張っているようだ。この前は夏休みにオレにさせたあの儀式を再挑戦したらしい。人数が多くなれば多くなるほど良いらしいから、とのこと。「高嶺も今度協力してくれないか!?」と熱量の増した文で締められた。丁重にお断りする。

 野口は、一番無難な手紙だった。最初に祝辞を述べ、近況報告、回想、別れの言葉。ある意味誰よりも安心して読めた。一緒に送られてきたものはアサガオの種だった。「夏休みの時の種だよ、ぜひ育てて欲しい」というメッセージ付きの袋に入れられている種。今度育てるか。庭に花壇があるし、空いたスペースもあったはず。というか本当に誰なんだ。三年生、中学最後の一年間同じクラスにはなったが、結局面識は少なかった。何でこんなに慕われているんだろう。

 金山は近所の高校へ行ったようだ。帰り道、すれ違ったことが一度二度かある。手紙は大きく勢いのある字で祝辞と、改めてあの頃の謝罪が載せられていた。正直オレにしたことについてはもう気にしてはいない。過ぎたことだしもう謝られた。ただ水野にも謝って欲しい。あいつの胸ぐらを掴んで脅したの忘れてねえからな。
 一緒に送られてきたのは腹の部分が丸く膨れた蛇の写真だった。急いで撮ったのかかなりブレていてお世辞でも見やすいとはいえない。
「ツチノコをついに発見した! 焦っていたせいで逃げられてしまったが今度こそ捕まえてやる!」と興奮した様子の乱雑な文字が付属していた。正直大きな卵を飲み込んだだけの野生の蛇に見える。よくある話、というか、ツチノコの所以が卵を飲み込みすぎた蛇の見間違いだという説がある、というか。ニワトリが先かタマゴが先か。まあ何も言わないでおこう。あいつは高校でもツチノコにお熱らしい。一体何が彼をそこまで奮い立たせているのだろう。

 水野からは、皮に顔が描かれたみかんと、うさぎ型にカットされタッパーに詰められたりんご、そして雀の形をしたキーホルダーを貰った。
 見てるこっちの気が緩むほど幸せそうな顔をしたみかんは『ハッピーみっちゃん』といって、誕生日限定のスペシャルなみかんらしい。去年はいなかった子だな。新入りの顔を見てなんだか食べるのがもったいないと感じた。
 確か水野は、去年もオレにうさぎりんごをプレゼントしてくれていた。包丁使いが(比較的)上手いだけあって、飾り切りも得意らしい。練習も怠っていないらしく、うさぎ以外に切り抜かれたりんごもちらほらと見られた。人知れずにいる努力が実り、腕も着実に上達しているらしい。去年よりも絆創膏の数が減った水野の手を見て、ほっとそう思った。

 そして、キーホルダー。紙粘土を着色してこねて形作ったらしい、図画工作で作った作品のような微笑ましい産物。ありふれた茶色の小鳥の形をした小物に丈夫そうな紐が括り付けられた、手作りらしいもの。みかんやりんごを渡してきた時よりも口ごもって、照れながらおずおず差し出されたそれが〝スズメ〟の形をしている理由 ワケがわからないほど、鈍くはなく。かと言ってはっきりそれに答えられるほど、大人でもなく。ただ嫌ではなくて、そっと受け取っておいた。あの時の、〝無事に帰って来れるためのおまじない〟の時のような黄昏時の薄暗さは持たずに、ただただ純粋に、照れくさかった。……よくできてる人形だ。ペンケースにでもつけよう。

 ガッシュからは、ブックカバーを貰った。生臭くて案外デカくてビチビチ跳ねる彼の好物を持ってこられやしないかと危惧していたが杞憂に終わったらしい。深緑色の、マントと同じ色をしたブックカバーだった。不思議な雰囲気をまとっていた。人間界 こちらのものではない気配。訊けば、マントと同じ素材──というか、ガッシュのマントから直接作ったものらしい。試行錯誤しながら、ゼオンに教えて貰いながら、マントに魔力を注いで何かを作り出すための練習がてら作ったのだという。なかなか思う通りにできなくてのう、でも最後の最後に一番上手くできたのだ! ときらきらした満足気な眩しい笑みをこちらに向けて差し出してきた。

 ゼオン曰くそれなりに高価らしい魔法のマントからできただけあって、普通のブックカバーとは違う性能を持っていた。丈夫なのはもちろん、伸縮自在な特性により、どんな本でもしっくりぴったりとサイズが合うそうだ。試しにさっきデュフォーから貰った外国語辞典に包んでみるとなるほど、さっきまで文庫本サイズだったブックカバーがしゅるりと伸び、いとも容易く辞典を包んだ。これは便利だ。本を守る役目もしっかり勤め上げてくれそうだ。安心感がある。ひとまず、外国語辞典を包んだままにしておいた。ありがたく、他の本にも使わせて貰おう。

 もちろん貰ったものは物だけじゃなくて、言葉もたくさん貰った。

 親父からは、わざわざ電話でお祝いの言葉と、宅配でアンティークの懐中時計を貰った。今度は一人息子の誕生日を間違わなかったらしい。忙しいだろうにイギリスからわざわざ電話をかけて、贈り物を送ってくれた。届くのが楽しみだ。正直、期待していなかったから驚いた。なんてったって、中学二年生の五月に、魔物の子供を遅ればせながら誕生日プレゼントだ、と送ってくるような適当な父親だ。誕生日を覚えていたこと自体が意外だ。まあそのプレゼントのおかげで今こうしてたくさんの仲間に囲まれて楽しくやれてる訳だが、許している訳ではない。
そのことを電話で恨みがましく言ってやると、
「こっちの新学期は九月だから、華からもうすぐ清麿も中学二年生です、という旨を聞いて早とちりしてしまったんだ。日本の新学期は四月だということを忘れていた。スマンスマン」
と言い訳してきた。理屈はわかる。親父はイギリス生活長いからな。日本の常識を忘れかけてしまってもおかしくない。でもそれでも一ヶ月は遅れてるじゃねえかクソ親父!!! やかましい無視しないだけいいと思えアホ息子!!! そう、電話越しでドッタンバッタンと言い争いをした。お袋が微笑ましそうにこちらを見ていたのを覚えている。
 ……まあ、アンティークの時計が届いたら、また改めて電話してやろう。

 一番最初にオレにお祝いの言葉を送ったのは水野だ。午前零時ちょうど、〝水野〟の宛名でメッセージが届いた。『高嶺くん、お誕生日おめでとう!』とシンプルな、それでもありがたい、メッセージ。高校に入学すると同時に買い与えられたスマートフォンのモバイルメッセンジャーアプリケーションからだった。
 最近の高校生は携帯のグループとかで教科変更だとかの連絡をするらしいし、友達付き合いででもいるでしょ、とお袋が買ってよこしてくれたのだ。やけに機嫌を良くしながら。……『少なくとも三年、卒業まで分解も改造もしない』という約束つきで。もう子供の頃とは違うんだから流石に、爆発だのもう直せないほど壊すだのはしないとは思うのだが。まあ、そういう改造するためのものはあとで自分で買えばいいだけだし、いいか。

 ……そして、オレの返事は。数分、考えて送った『ありがとな』の五文字。既読こそ付けど、返信がなかったメッセージ。きっと寝落ちしてしまったのだろう。水野は至って健康的な高校生だから、夜更かしに慣れていない。そこまでしても、一番にお祝いしたかったらしい。今頃とっくに夢の中であろう水野に、『おやすみ』のスタンプを送っておいた。アプリを入れたはいいものの最初から入っているスタンプしか持っていないオレを見かねた水野がプレゼントしてくれたスタンプだった。

 二番目はガッシュだ。零時を少し越えたあたりの時間帯、水野にスタンプを送り終わった丁度にドタバタとやかましく部屋に入ってきた。わざわざスタンバイして出待ちしていたらしい。それでも遅れたのはガッシュが夜更かしに慣れていないからか、王の仕事で忙しく時間を取るのが難しかったからなのか。勢いのあるお祝いの言葉の後、一番だったかのとキラキラした顔で訊いてきたから、二番目だと言えば、
「またスズメに先を越されてしまったのだ!」
と悔しそうにしていた。そういえば去年も、ガッシュがオレの誕生日を知ったのが当日オレの登校後だったから遅れて、オレの誕生日を覚えていた水野が先に祝ってくれたのだっけな。教えなかったのはいじわるからではなく、純粋に誕生日のことを忘れていたからだったが。次は負けぬ、とすぐ来年に意気込むガッシュに呆れながら、ありがとうの言葉の代わりに、去年の誕生日プレゼントである王の頭を撫でた。

 三番目はお袋だ。朝飯を食べに起きてきたオレにかけた言葉は、普段のおはようの言葉と違って、誕生を祝うおめでとうという挨拶だった。その響きが新鮮で何だか照れくさい。
 毎年、というか毎日料理を担当しているお袋は今年も例外ではなく。(おそらく)無断で家に来た奴らも多いだろうに、安くてたくさん買っちゃってたから助かるわ〜、と全員分の料理を作ってくれた。

 さくっと揚げられたコロッケ。かりっとした衣の唐揚げ。柔らかジューシーなハンバーグ。ほくほくのポテトサラダ。パリパリのソーセージ。揚げたてのポテトフライ。子供の好きそうな、作るのに手間がかかる食べ物ばかり。きっと前から下準備とかしていたんだろう。せっかくゼオンちゃんも遊びに来てくれたから、と具は少なめとはいえカツオダシの味噌汁までも作っていた。
 ブリを丸ごと捌いた刺身もあった。……言わずもがな、ガッシュが取ってきたそれはもう新鮮なブリ。杞憂に終わったと思っていたが当たっていたらしい。ひとりじゃ捌けなかったから、デュフォーや魚屋のおっさんに協力して貰って全身を捌いたらしい。お袋が嬉々として話していた。大変だったろうににこにこ楽しそうに笑う。

 ケーキは流石に店のものだ。誕生日といえば、の体現のような赤いイチゴと真っ白な生クリームで覆われたホールケーキ。プレートのようなチョコレートに綺麗な字で『高嶺清麿』と書かれていて恥ずかしさすら覚える。高校生にもなって。お袋やガッシュたちにはそんな羞恥心など関係ないんだろうけど。切り分けて、大きくて皆のものよりイチゴがひとつふたつ乗せられたものがオレの前に置かれた。誕生日特権というやつらしい。……ケーキは甘酸っぱくて美味しかった。他の皆が美味しそうに食べているのを見て、微笑ましい気分にもなったから、このケーキで良かったのかもしれない。

 お袋にとっては赤の他人同然の奴も多いのに、お袋は「今日は賑やかになるわねえ」とのんきな台詞を吐いて準備をして。一番重労働だったろうに、文句も吐かずに。お袋らしいっちゃらしい。こんなに騒いで楽しく祝えるのは確かにお袋にとっては何よりも嬉しいことなんだろうけど。三年ほど前までは、まともに祝うことすらできやしなかったのだから。

 ──誕生日は、産まれた本人だけではなく、産んでくれた親に感謝を伝えるいい機会にもなるとは、どこで聞いたっけな。そんな言葉を思い出しながら、パーティーも終盤を迎え、友達や魔物やその元パートナーたちが家に帰ったり家に泊まったりして人員もまばらになってきた頃。洗い物に勤しむお袋にぽつりと、
「オレのこと、産んでくれてありがとう」
と小声で言った。しばし動きが止まった後お袋は、そんなこと言えるようになったのねえ、と感慨深そうに言って、目頭をタオルで抑えた。少し震えた涙声、だった。……まさか泣かれるとは思わなくて固まっていたら、ガッシュちゃんたちのお布団を用意しておいてくれる、と頼まれて、了承して。布団ついでに贈られたプレゼントを整理して、随分な量を貰ったな、と振り返って、今に至る。

 もうすぐ、寝る時間だ。ガッシュやゼオンはまる一日予定を空けたらしく、今日はオレの家に泊まるらしい。お袋は二つ返事で了解したし、ちゃっかりとデュフォーも泊まる気満々だし。まあ、デュフォーとゼオンは空いた別室の客人用布団で寝させるから、別にいいが。

 ガッシュは、懐かしいのう〜、と魚柄の布団に潜り込んでいた。こちらとしても懐かしくて、あの頃を思い出させる風景だった。そして布団にもぞもぞ潜り込んでそのままぐっすりと眠ってしまった。しばし〝王〟ではなく〝ただのガッシュ〟としてパーティーに参加しはしゃぎ回っていたから、疲れが出てしまったのだろう。

 オレは、なんだか興奮が覚め止まなくって、布団の中で手慰みに貰った辞書を捲ったり、ふと隣にかけた服やカバンを見やったり、手紙を見返したり、携帯を意味もなくいじったり、ドタバタしつつも楽しかったパーティーのことを思い返したりしていた。
 ──楽しかった。心底、楽しかった。あんなに思い切りテンションが上がったのも久しぶりだ。やっぱり慣れ親しんだ友や仲間と共に集まって何かをするということは楽しい。終わってしまうのが惜しい、と思ってしまうくらいには。

 ──誕生日が終わって欲しくないとほんの少しでも思ったのは、初めてのことだった。ただ産まれて何年目かというだけ、と冷めた見方をしていた日もあったというのに。

 ……もうそんな頃とは違う、もうひとりじゃない。皆あたたかく自分を祝福してくれる。そのこと自体がもう、何よりのプレゼントだと、親父の〝誕生日プレゼント〟も間違いじゃなかったのかもな、と、浮かれたように、絆されるように、思った。