ワインを静かに少しずつ呑んでいたゼオンの肩に、突然ずしりと誰かがもたれかかった。現在は、王宮で定期的に行われるパーティーの真っ最中だった。皆、酒を呑み出してやかましくなってきた頃であった。デュフォーは、雰囲気が普段と一転し豪華に飾られた王宮内が気になったらしくふらふらとどこかへさまよい歩いていた。当分帰ってこないだろう。ガッシュは王が故、他の場所の当事者や貴族と話していて、まだ随分と時間がかかりそうだった。じゃあ、誰だろうか。自分にもたれかかれるような者は。
ゼオンは、魔力を探ってみた。こうした方が、正体だけでなく、状態や能力まで知ることができるから効率がいい。反逆や裏切り目的の予防でもあった。用心するに越したことはない。
すると、なにか得体の知れぬ古い魔力──ファウードの魔力と一致している──と、ほんの少しだけ、我が弟の魔力を感じた。一見人間なのに、魔力の少ない魔物といっても通じそうな気配。この感じは。
「がっしゅぅ、おまえ、でっかくなったなあ」
ああやはり、この声は、ほぐれきってふにゃふにゃに砕けているとはいえ、確かにゼオンの同僚、魔界王第二補佐官のもので。そもそも一応、警戒心の強いゼオンの肩に突然もたれかけられるほど、ゼオンに気づかれないように近づけるほど慣れられている人物というのは限られていたが。
濃厚な酒の匂いがゼオンの鼻腔をくすぐった。魔界のお酒の中でも、特に度数の強い酒の香り。……恐らく、この前王宮に入った竜族でも酔っ払うと噂の酒。このせいで自分とガッシュを間違えているのだろうと、ゼオンは勘づいた。どうやらそんなきつい酒を、間違ったのか試したのかは知らないが大量に呑んでしまったらしい。いくら酒に強いといっても流石に酔うだろう。デュフォーが見たら「お前頭が悪いな」をひとつやふたつ言っている。引っ付かれることで近くに感じる酒の匂いだけで、魔物の中ではお酒に弱い方であるゼオンは酔いそうになっていた。
「こぉんな、こんな、ちっちゃかったのになぁ。いつのまにかおれ、抜かされちまって」
そう言って、清麿は緩慢な動きでゼオンの肩から少し離れ起き上がると、手で身長を再現した。……本格的に酔っ払っているらしく、ゼオンをガッシュと間違えたまま、話を続けて。その手は、座っている椅子よりもほんの少し下くらいのあたりをうろついている。立ち上がった時、目の前の酔っ払いの膝よりも低いであろう位置。
「イヤ、さすがに六歳の時でもそこまで小さくはなかっただろ」
せいぜい、頭のてっぺんがちょうど股間あたりで落ち着くぐらいだろう。自分がそうだった。あの頃はゼオンの方がガッシュよりも身長が高かったが、それでも一センチかそこらの微々たる差だ。そこまでちんまりとしたサイズではなかったと思うが。
それだけ清麿にとって当時の六歳のことが小さく見えていたのか、酔ってとんちんかんなことを言っているのか、判別がつかなかった。そもそもいつの頃のガッシュと比べているのだろうか。ゼオンとイギリスの森で出会ったばかりの、……ユノとの暮らしで栄養失調気味でほんの少し成長不良を起こしかけていたガッシュだったら、それくらいだったのだろうか。真相は分からない。
清麿は、ただぼんやりと熱っぽくゼオンを見ている。きっといつも、ガッシュはこの視線を味わっているのだろうと、わからずを得ない視線だ。
──こいつ、酔っ払ったらこうなるんだな。ゼオンは、純粋にそう思った。清麿が意識を混濁とさせるほど酔うことなど皆無に等しい。どうやら、死んだ時ファウードの回復液を直接体に取り込んだ影響で、元々強かった肝臓がさらに強くなったらしく、そこらの酒では清麿を満足させることはなかった。いわゆる、ザルを越えたウワバミだ。何十杯も酒を呑むくせに顔を赤くすることもぼうっとすることもなく平然としている様と、怒るとべらぼうに怖いことから、王宮騎士の間では〝鬼〟と影で言われている。ゼオンにとっての〝雷帝〟のようなもの、つまり、字名である。
デュフォーによれば、清麿の体は半分人間であり、半分人外 らしい。いたって健康であるのはわかるのに一部の数値がバグを起こしていて、健康診断の結果を見るのが個人的に楽しい、とこぼしていた。
そんな清麿が、酒に酔い熱っぽく顔を赤らめ、挙句に兄と弟を間違えたのだ。非常事態といっても過言ではない。双子の兄弟が故、元からガッシュと間違われることは多々あったのだが、それはマントのデザインが似通っていたからだったり、髪が光に反射して白銀とブロンドを見間違えたからというのが大半で、ここまで近くに来て、長時間間違われ続けるのは初めてだった。
清麿が、動いた。蕩けたようにじっとりと熱を持った眼差しでゼオンを真っ向から見つめる。
「? どうした、きよま」
ろ、とも言いきらぬまま、ゼオンの言葉は途切れた。途切れざるを得なかった。
「!? や、ん、んぅ…ッ!」
まず感じたのは、今まで味わったことのないほどの酒の味。ただほんの少し不可抗力で舐めとっただけなのに、ただそれだけでアルコールで殴られるような感覚がした。
「っふ、……んん、」
あたたかく妙に色っぽい、酒の匂いが濃い吐息がかかる。(半人外とはいえ)人間の熱く火照った舌が魔物の舌を捏ねる。ぐちゅぐちゅ水っぽい音が鳴る。その度に濃い酒の匂いと、熱気に満ちたこの雰囲気に酔ってしまいそうだった。
「ん……っふ」
ゼオンは、戸惑っていた。その舌に、その目に、その声に、その全てに。
何しろ、今までデュフォーと食べ物しか入るのを許さなかった口内に、いとも容易く踏み込まれたのだ。ゼオンは、その衝撃で体が動かず、抵抗もできなかった。それに、清麿は大事な弟の恋人であり、仲の良い同僚であり、お互いの伴侶についての良き相談相手でもある。なおさら抵抗はできなかった。だいじな仲間を傷つけてしまうことは、ゼオンが今最も恐れていることで、いつ何時でも気をつけていることだった。かといって、こんな不純な行為は無条件に受け入れてはいけないことだともしっかり理解しているのに、どうすればいいかわからなかった。
そんなこんな考え込んでいれば、ようやく唇が離れ、開放された。はふ、と清麿から移った熱を逃がすように、息を漏らす。ほっとしたのもつかの間、清麿はまだあの熱に浮かれたような目を止めずに、ゼオンの肩にその熱い手を乗せたまま、ゼオンをうっとりと見つめる。そろそろ気づいてはくれないか、酔いが覚めてはくれないかと祈ったが、無念に終わってしまったようだ。
「が、っしゅ、おまえも、きす、すきだろ?」
いつもこうやって、おれのくちのなかぐちゅぐちゅするもんなあ、おれにもさせるもんなあ、おとついなんてきすしてってねだってきたもんなあ、とゼオンの耳に弟と同僚の、人目をはばからせるような甘い事情が飛び込んでくる。正直弟のそういう事情は知りたくない。しかも、こんな、実践を交えた方法で、など。
……それにしても随分口吸いが上手いものだ。焦らすようにきもちいいところだけ避けたり、逆にピンポイントに突っついてきたりの一連の動作は、その絶妙な加減は、やけに手馴れていた。あの愚弟に鍛え上げられているのだろうか。無意識にアンサー・トーカーでも使っているのだろうか。それとも元々上手いのか? ガッシュに聞けば、わかるのだろうか。ともかく、そんなことを確かめることも、ゼオン一人にはできる気がしなかった。
また、清麿はゼオンに体重をかけると、そっと唇を捧げた。促すように、ちろり、とゼオンの唇を舐める。続きだ、とでも言うように。
「ッ、や、めろ、きよまろっ、オレはゼオンだ、ガッシュじゃな…ンッ…」
顔を背けながら、とりあえず口に出したはいいものの、またその拒否の言葉はかき消されてしまった。構わず入ってきた舌と唾液を、ついごくりと飲み下した。
「……がっしゅ」
なんでそんな意地悪を言うんだ、とでもいうように、清麿はいじらしい目線を目の前の魔物に向け、名を呼んだ。
「がっしゅじゃ、ない、って……」
ああ、これはもうダメだ、とゼオンは悟った。先程つい呑んでしまった濃い酒の味に当てられて、頭も呂律も回らなくなってきている。たったひとしずくの酒を纏った唾液はゼオンの体と理性を鈍らせた。最後の抵抗にとやっと出し始めた全力は本領を出すことが上手くできなくなっていて、清麿の勢いに消されてしまう。
ゼオンはもう、強い本能に抗うことができなかった。意味のない抵抗を止め、そっと動き出した。
「……ッ、は……んふ」
やられるばかりではないとそっと、舌に動きを合わせ、舐めてやる。ぴくりと近くの体が跳ね、息を漏らした。あんなに熱いと思っていた舌の温度が、ゼオンにとって今はちょうどいい温度に思えた。
「ん、ンン、ぅ」
負けじと清麿も舌を動かす。それに抗うようにまた慣れないながらゼオンはリードしようと試みる。またそれに清麿が応えぢゅ、と自分のものではないゼオンの肉を吸う。互いの歯茎をなぞりあい、歯を舐めあい、舌を吸っては食みあった。
「……んふ、っぅ、ぁ」
双方、もうこの喘ぎに近い吐息が、漏れる声が、どっちのものなのかわからなかった。どっちの舌がどっちの舌をこねくり回し、舐め、吸い、ふれあいというには濃厚すぎる行為をしているのか、考えられなかった。吸えば吸うほどにどこかに落ちていくような背徳感を感じて、それがまた官能的でやみつきになりそうだった。
そして──正直、清麿は、気づいていた。先程歯をなぞるように舐めとった時、違和感に気づいた。ガッシュの歯は、八重歯はあっても、こんなに尖ってはいない。なぞる歯全てが鋭利に尖っていてまるで猛獣のようだった。それに、普段なら縦横無尽に動き回る自分の舌から一気に主導権を奪い取る力強い舌が、今日は随分と消極的に自分を受け入れ続けていたのだ。いつも自分の舌をやわく食む歯も、今回はなりを潜め微塵も動かなかった。〝焦らし〟にしては長く、ようやく動き攻め始めても、戸惑うような慣れていない舌使いは見慣れないもので。
それでもその舌が〝誰〟のものかまでは、酒の回ったふにゃふにゃの頭ではわかりはしなかった。普段酒に酔わないからこそ、酔うということに、清麿は不慣れだった。
酔うと、理性がなくなるとは、欲望に忠実になるとは、真実で。清麿もゼオンも夢中になってしまった。追うも追われるも、逃げるも逃げられるもどっちも良かった。どちらも気持ちよく、心地よかった。
「……」
「清麿」
そんな二人を引き剥がし、快楽を貪る獣からかろうじて人型を保つ生き物へと戻したのは、清麿とゼオンにとって、何よりも愛しきものたちであった。一人は真面目な声色で名を呼び、一人はただ無言で、べりっと音がしそうなほどの勢いで離した。
「んぇ、あ……?」
名を呼ばれ強い力で引っ張られキスを中断された清麿はのっぺりとした素っ頓狂な声を上げ、ゆったりと顔を上げた。
「がっしゅが、ふたり? でぃまぶるくでもつかったのか、おまえ」
同じく、もう一人の妨害者──デュフォーに引き剥がされ今どこかへと連れて行かれているらしいゼオンの後ろ姿と、ガッシュを交互に見やると、いつのまにおぼえたんだ、と舌っ足らずに清麿は言い放つ。この後に及んでもまだ酒に頭を支配されているらしい。ガッシュは頭を抱えそうになった。
「私は後にも先にも私一人だけなのだ、飲みすぎだぞ」
目を離した隙にお主という者は、とため息混じりの声が呟かれる。
「ほら、清麿……水なのだ、今飲ませてやるからの」
んぅ、と曖昧な返事を清麿から返されたガッシュは、水を──口に含み、そのまま清麿へと口付けた。塗り替え、元に戻すように、深く。
三ヶ月程度で、細胞ごとその唇は入れ替わり、ゼオンとのキスがなかったことになるといっても。今すぐ、塗り替えなければ、気が済まなかった。
──嫉妬しない、わけがないのだ。自分にだけ向けられていた〝王佐様〟の裏が、艶やかで甘美な様が、自分以外に見られてしまったのが。清麿の匂いが、酒と自分以外の香りに、雷の気配に塗れてしまったことが。幸いなことに、酒で盛り上がっていたこの場に、清麿とゼオンの、水面下で行われた濃厚なキスを目撃した者はいなかったようなのだが。甘い声も蕩けた顔も身内以外にバレていない、のだが。それでも。
水と唾液と酒を交えながら、舌と舌を組み合わせて。ぐちょ、ぐちゅ、と水っぽく扇情的に奏でられる。
そうしているうちにこくり、と喉が鳴って、水が飲み下されたことが近距離でわかった。それでもまだほんの少しだけ、続けた。
綺麗な白い歯を、健康的な桃色の歯茎を、ひとつひとつなぞる。先程まで、酒に呑まれ、唾液に塗れ、水に濡れた口内を自分の色に染めるように、ガッシュは丁寧に舐めとっていく。その仕草は、〝犯す〟というにはやさしく、〝交わる〟というには荒々しい。
大方舐めとり尽くし、清麿本来の匂いがしてきたところで離した。人気がないとはいえど、人目につく場所ではある。
「っは、ふ……がっしゅ……♡」
清麿は息を吸うと、あまい声で、ガッシュの名を呼ぶ。先程行われていたゼオンとのキスの時上げていた嬌声よりも、蕩けた声色。いつも吊り上げている凛々しい眼差しはとろんと解けて、うっとりとガッシュの目を見つめる。
「ああ、こっちかあ、ほんとうのがっしゅは」
水に上に浮かぶボールのように、ふわふわと清麿は呟いた。ようやっと、当たり前で何よりも気づいて欲しいことに気づいたらしい。ほうっとガッシュは肩の力を抜いた。
……それにしたって、濃い。口の中はあまりにも濃い酒の香りで充満した。水で中和されマシになっているとはいえど、ザルでベロベロに酔ったことがあまりないガッシュすら、酔ってしまいそうだった。竜族をも酔っ払う酒の恐ろしさが身に染みる。厳しい規制をかけなければいけないかもしれない。今度検討しておこう。
清麿は、ぼうっとガッシュを見つめるとまた、呟いた。
「こっちのほうが、さっきのより、ずっといいなぁ」
あたりまえかぁ、と続けて、ほわっと柔らかく笑うその姿がどうにもガッシュの脳裏に焼き付いて。普段は凛と輝く月明かりが、惑わすように、誘うように、そっと差し込んできて、かっとガッシュの体を熱くさせた。酒の効果が後に来たらしいと、ガッシュは言い訳じみたことを思って。高ぶった熱い劣情を持て余しながら、とりあえずどうにもならずに目の前の伴侶を抱きしめた。
……もうすぐパーティーが終わる。ガッシュは、もう、終わった後のことについて考えてしまっていた。早く終わらないだろうか、終わるまで持つだろうかと危惧しながら、ひとまず耐えてみせ、お楽しみに取っておこうと、ガッシュは名残惜しげに抱きしめる腕を強めた。
一方、で。
「……大変だったな、ゼオン」
今まで無言で、ただ清麿から引き剥がしておぼつかない足取りのゼオンを引っ張っていったデュフォーは、ひとまず足を止め、ゼオンの方を向いた。とりあえず、人気がない安心できる場所で二人きりになりたかったのである。
……ビックリした。心底、ここ数年でも例を見ないほど、ビックリした。知的好奇心に誘われるがままそこら辺をうろついて、ふとゼオンの方を見てみたら、清麿とそれはもう濃厚なキスをおっぱじめていたのである。驚かないわけがない。
『なぜそんなことになっているのか』の答えを出す前にデュフォーの体は動いていた。気がついたらすぐ、ゼオンから清麿を引き離していた。なぜそんなことをしてしまったのかについて、愛を知り随分と経つデュフォーの頭は理解をしていた。
歩いている間に出した〝答え〟は、何も言えなくなるものだった。清麿が、焼酎のロック(この語感だけで末恐ろしくはあるが)と、竜族も酔っ払う酒を間違い、気づかずに一気に呑んでしまったらしい。当然ふらふらのべろべろに酔ってしまった清麿が、ゼオンをガッシュだと錯覚しキスをし、ゼオンがそのキスで酔いが移り道連れになり……という経緯らしい。もう何を責めればいいのかわからない。とりあえず自分は酒に強いからと侮って一気飲みはするな、とだけ清麿に後で言っておこう。半人外でなければ急性アルコール中毒で死んでいたっておかしくない。
「でゅ、ふぉー…?」
ふわふわとぼんやりした様子でゼオンはデュフォーの名を呼んだ。かなり酒が回っているらしく、その目は焦点がずれ、虚ろにぐらついていた。ゼオンは、雪のようなというありふれた例えが良く似合う白い肌を真っ赤に上気させて、不思議そうな声をこぼす。力なくされるがままデュフォーに手を握られて、やんわりと握り返している。
ゼオンがここまでへろへろに酔うことは珍しい。弱い方だとはいっても、あくまで〝魔物の中で〟の話だ。人間界の酒なら何十杯呑んだって、ふらつきはするだろうがまだ平静を保つことができる。
そして、ゼオンは、酒の呑み方が上手いのだ。自分が酒に弱いことを理解している故に、基本的にちまちまと舐めとるように呑んでいる。そして、ほろ酔い程度になったところで酒を止め、他の飲み物(主にカツオダシ)に移行するのだ。……そうしなければ、本当に酒に弱い酒乱のデュフォーを無理やり連れて帰らねばならないとなった時困るから、というのもあるのだが。
つまりは、酔ってふらふらになっているゼオンを、デュフォーは見慣れていなかった。自分は酒に弱くすぐ潰れては暴れているらしいので、なおさら。
とろんとした目つきでデュフォーを不思議そうに眺めるゼオンの顔は、デュフォーの目にはどこか色っぽく映った。
「でゅふぉ、だ」
ぐい、と魔物の強い力で引っ張られて、清麿とは違いただの純粋な人間である非力なデュフォーはされるがまま、ゼオンに引き寄せられた。──そのまま、口が口へと合わせられる。いつもより高い体温がデュフォーの口の中へと割り入ってきた。……ゼオンからとは、珍しい。しないわけではないが、デュフォーからするのが大半だった。酒の力というものだろうか。デュフォーは正直、強いアルコールを最短距離で浴びせられて、頭がクラクラとしそうになっていた。これは流石の清麿も酔う。こんなのを一気飲みしたら多分自分は吐く。デュフォーは身をもって理解をした。
しばらく口を合わせていれば、ぱっと離された。ぷは、とゼオンは口を開けて、デュフォーをじっと見る。
「でゅふぉー、なんだな」
……もうこれで、ゼオンがデュフォーの名を呼ぶのも三回目だ。何度も何度も確かめるように繰り返し呼ぶ姿は普段のしっかりとした面倒見のいい様子と打って変わって、甘えたい盛りの幼子のようだった。
そしてゼオンは、ふにゃりと笑った。普段はキリッと引き締めて、シワが寄ることも多い眉を脱力したように下げて、鋭い歯がちらりと見える口元も緩ませて。
「でゅふぉー……♡」
すり、とデュフォーの肩に頭を押し付け、ゼオンは擦り寄った。甘えるような声をあげて、ぎゅ、っときつく抱きしめながら。それは、生まれて間もない子猫が、懸命にか細く鳴きながら母猫の元へ甘えに行くような、ゆったりとした一生懸命な仕草に似通っていた。
筋肉があるから、ゼオンは割とずっしりとしている。そんな重量感のある体が、全身で甘えてきている。少しでも身動ぎすれば、いやいやと首を振りながらまたくっついてきた。再三言うが、ゼオンがここまで酔うのは珍しい。デュフォーは酔ったゼオンを見慣れていなかった。……こんな風に、甘えてくることも、見慣れない珍しい姿、だった。そんな姿を今全身全霊で浴びせられている。どうにかなってしまいそうだった。酒に酔って幻覚でも見ているのかと馬鹿なことを思えばアンサー・トーカーは『否、現実 である』と返した。
人目を避けておいて良かったと思った。こんなゼオンを見るのは、自分だけでいい。戸惑いを消化して、ゆっくりと噛み締めながら、思う存分独り占めできる、と。
……パーティーも終盤に差し掛かっている。もはや人前に出向くのは不可能だろう。
デュフォーは、離れようとしないゼオンの腕をそっと自分の肩に回させると、密着度はそのままにゼオンの部屋へと歩き出した。きつい酒にもそうだが、ゼオンにも酔ってしまいそうだった。……今日はきっと泊まりになる。〝答え〟も出さずに、そう思った。
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