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いぬみ
2021-08-01 10:13:39
5848文字
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ガ!!
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〝雷帝〟の覚悟と〝兄〟の独白
ベル兄弟の話。
原作時空、バオウに喰われた時のゼオンの独白。
「お前は、これからだ
…
」
「バオォオオオオオオオオ
……
」
自分の声と、バオウの恐ろしいほどの轟きが、さいごに聞こえた。
自分の周りに、何かがまとわりついてくる。電撃の轟音とバオウの雄叫びが脳を揺らす中、まとわりつく何かに噛みつかれ自分が少しずつなくなっていくような感覚がした。
頭はガッシュの記憶が流れ込み、体は先程のガッシュのように少しずつ喰われ、上空から落下している。
ちぐはぐの身体感覚に混乱しそうになるが、何とか踏ん張って意識を保った。
気を失うのは、最低でもガッシュの記憶を見終わってからだ。
もう過去から目を逸らすことなどしてはならないのだ。
もう自分は、ガッシュを憎んでいない。いや、正確には憎みたくなかった。
ガッシュの記憶を通じて、恐ろしいはずだった優しげな顔つきの父から話された事実は、自分が知りたかったことが言及されていた。
なぜバオウが自分ではなく弟に受け継がれたのか、そしてなぜ兄弟離れて暮らしていたのか。
それは自分が親愛なる父から受け継いだ精神と、今までずっと誤解していた本当の〝バオウ〟のためによるものだ、と理解した。
怒りや憎しみを持ちやすい、王の〝修羅の部分〟を色濃く受け継ぎながら、同時に受け継いだ才能を鍛えあげられ、王宮で育てられた兄。
使用者を含めた全てのものを喰らい尽くす恐ろしい最凶の術、バオウ・ザケルガを封印され、生まれたことすら〝なかったこと〟にされ外に出された弟。
それは、紛れもない自分たちのことであり、オレが知りたかった真実の全貌だった。
事実がこの身全体に染み渡っていくと共に、ちらちらと脳に叩き込まれていくガッシュの記憶が心を締め付けていく。何の因果か共有された記憶は容赦なく頭に、体に、決して弱くない衝撃を走らせる。
家に帰れば理不尽なことで叩かれ、蹴られ、学校で出会った他人には「術も出せない落ちこぼれ」と揶揄されツノをつつかれる。寝息さえも、寝返りさえも、「目障り」と見なされ、また叩かれる。邪魔者扱いをされる。とても、冷たく痛かった。
今喰われている体よりも、ずっと痛んだ。
自分はこんなに、ガッシュよりも辛くなかった。確かに体は厳しい訓練で傷つき辛かったが、その全ては王になるため、強くなるためという目標ゆえと思えば納得ができた。きっと知らなかっただけで父上も母上も暖かく自分を見守っていたのだろう。その証拠に思い返せば、体調管理体制は万全に整っていた。
愛されていた。そのことを、今知った。
ガッシュは、どうだろうか。命すら、危なかったのではないだろうか。
愛情など、心配されることなど、そもそも知らなかったのではないだろうか。
バオウを押し付けられ親元を離れさせられた挙句に、理由なき暴力に怯えながら必死に生き延びていくなど、壮絶にも程がある。
記憶で、家族すらいないと、独りぼっちだと今まで母だと思い込ませていた乳母に告げられた。どんな暴力よりも残酷に突き刺さる絶望の言葉だった。
過去の全貌が暴かれる度に、息が荒くなっていく。大の字になり投げ出している手が震える。鼓動が、早く、苦しくなる。
自分には味方がいた。跳ね除けてしまったとはいえど、あの時は本当に必要ないと思いつつも、中将はその大きな手を差し伸べてくれていた。
オレは、誰かに慕われ、暖かな感情を、向けられていた。
ガッシュには、そんな輩はいなかった。
あたたかな温もりの縁など、全く。
自分が、ただどうしようもなく無知なだけだった。弟のことも、バオウのことも、自分のことも、父のことも、差し伸べられた手のありがたみも、仲間と協力する強さも。何もかも知らずにくだらないと足蹴にし、憎み、恨んでいた。
それがどれほど醜く、空しいことであろうか。何も知らずに憎むオレと、全て知った上で間抜けに思えるほど前を向くあいつら、どちらの方が愚かなのか。もうその答えは見いだした。
だからこそ、喰われた。これが自分の求め出した〝答え〟だった。
罪のない者たちも含め苦しめた自分への罰。そして、自分に巣食うドロドロした感情を無に還すためでもあった。
そうでないと、自分は性懲りも無くガッシュや父を恨み憎しみ狂ってしまうから。
事実を垣間見ても、まだ、ふつふつと沸き起こる欺瞞や、羨望や、憎悪。
それらを、消してしまいたかった。まっさらに消し去って、汚く醜く愚かな自分とおさらばがしたかった。
例え、存在そのものが消えようとも、この愚か者が消え去るのなら良いと思った。
間違い続けたのなら罰が必要だ。そうしないと自分は満足できなかった。
一抹の贖罪と、自己満足のため。最後までエゴを貫き通してしまう自分に苛立ちが一瞬浮かぶが、すぐに喰われて無くなった。
そして、その瞬間、違和感に気づいた。
自分が抱いた苛立ちだけが、喰われていくのだ。
それはガッシュの時のようなスピードではなかった。肉体にできるだけ届かぬように、垢だけを取るようについばまれている感覚だった。
確実にちりちりと体やマントが電撃で焼け焦げていくが、それだけだ。三歳の頃に折檻で落とされた父上の雷よりも弱い。さっきはそうでもなかったというのに。おかしい。使い慣れてないといえど、父の第一の術に届かぬほどこの術は弱くない。
そこで、バオウが自分の体ではなく憎しみそのものだけを喰らい尽くそうとしているということに気づいた。ガッシュや清麿が加減でもしているのだろう。何故わざわざそんなことをしているのだろうか。
本当のバオウなら、オレという存在を消し去ることなぞ容易いというのに。そうした方が無駄な体力を奪われずに済むというのに。なぜ。
────なんなら自分は、死んだっていいと言うのに。いざというとき自分には髪の毛から作り出される手紙があり、使い魔がある。思いを伝える手段を持っているのだ。オレが消え去っても、支障は出ない。
そのことをガッシュたちは知らないのだろうか。確かにガッシュたちに直接目の前で出したことも説明したこともない。
清麿のアンサー・トーカーがあればわかるはわかるだろうが、デュフォーが清麿のものはまだ未熟で不安定だと言っていたから、知らないのも無理はないだろう。
それでも、一応今まで散々に酷いことをしてきた自分に、手加減などするのだろうか。
生き残らせたあと復讐でもするつもりか、と考えを巡らせたところで、己の額にある、脳に直接繋がる鍵の存在に気づいた。
────ああ、これか。これの、おかげか。
壊れたら、困るだろうな。それくらいの〝答え〟は出るだろうし、そんな能力がなくたって、考えたらすぐわかることだ。
これが壊れたら、操縦者という名のストッパーがいなくなったファウードは、本能のまま暴れ、破壊の限りを尽くすだろうことは明白だ。
日本を壊したくないという思いでこれまでファウードの中を戦ってきていた奴らだ。
そんなこと許しはしないだろう。
そういえばデュフォーは平気だろうか。
納得の中、ぼんやりと自らのパートナーの身を案じた。
父から貰い受けたあのマントの強度は素晴らしく高いから、切れ端であってもかなりの時間持つだろうが、不安だった。
切れ端は再生能力を持たない。はみ出てしまったらバオウに喰われ、焼け焦げてしまう可能性がある。それを避けるために、護るために、急いで包んだというのに。
人間は、か弱い。あいつはアンサー・トーカーを持っているが、生きる気力がない。
魔物よりも断然死にやすい癖に、怪我の治りも遅い癖に、避けられないと悟った攻撃は避けようともせずに当たるような奴だ。なおさら心配だった。
…
オレたちを繋げていた銀色の本は燃えるだろう。この電撃の中だ、掠っただけでもきっと本に火が点く。この戦いに、自分は色んな意味で負ける。
しかしもう、未練はない。自分は負けた、だから燃えたというだけだ。
そのことに、少しほっとしている自分がいる。
もう勝ち続けなくていいのだと、安心して満足している自分がいる。
今だからこそ気づけたが、きっと自分は勝ち続けるのが辛かったのだと思う。
負けた時、父は、母は、周りは、どんな風になるのか。それを知るのが怖かった。
負ける自分は、弱い自分は、きっと誰からも認められない。強くなれば強くなるほど、その思いは強くなっていった。
こいつらになら、負けてもいい、負けさせてくれる。
あの女の魔物──ティオと言ったか、彼女がオレの力の結晶であるジガディラスを受け止め、運が良かったとはいえ耐えきった時から、ふつふつと少しずつ沸き起こっていた期待。
本来ならば、三度目のジガディラスはあの程度に収まる器ではない。生まれつき強く容量も多いオレの雷の力はまだまだ有り余っている。デュフォーの心の力と合わせれば、あの盾を出されていようが、壊すことができたろう。バオウを、打ち倒せていただろう。
それをしなかったのは。
ファウードの脳内という面積が限られた敷居を戦いの場に選んだのは。
いまいち本気を出せていなかったのは、ガッシュがバオウを使いこなせるよう、強くなれるように促したのは。
無意識に〝負け〟を望んでいたからだった。
良く考えれば、最初、ガッシュの本を燃やさずに記憶を奪うだけで済ましたのも、もう既にその頃には負けたかったのかもしれない。
ガッシュを見て、ガッシュの記憶の父を見て、負けても受け入れられると確信をした。それだけで張り詰めていた気が緩み、今まで自分を襲い無理やり背中を押していた不安が枯れるように萎んでいった。救われた気分だった。
ガッシュの記憶は流れ続ける。
独りぼっちの記憶。友達にすがっても冷たく押し返され、どうしようもなく。夜、家に帰りたくなくて暗く寒い公園でぽつり、膝を抱えて。
あたたかな家に共に帰るきょうだいが純粋に羨ましく思えて。
憎悪に似た羨望でも、どす黒く燃える嫉妬でもない。純粋に憧れるような、気持ち。 自分だったらきっとこんな綺麗に想えない。自分がどれだけ醜い感情を抱いたか、わからされる。
──私には──
さっきも見聞きした、一節が流れる。
否定して、かき消してしまった記憶。今度は逃げない。目をそらさない。
そうだ。お前にはいるのだ。
父と、母がいる。本当の、家族がいる。あたたかな、絶対的な、お前を想い安否を願う仲間がいるのだ。
そういった言葉がくると身構えていれば、予想していなかった単語が飛び出してきた。
──〝お兄ちゃん〟がいる。
──ずっと欲しかったお兄ちゃんまでいるのだ
…
きらきらとした星。白黒の、真っ暗な記憶から一転して光が灯る。
妙にはっきりと、頭に響いた。
さっきとは違う意味で心臓が高鳴っていく。
お兄、ちゃん。ずっと、欲しかった、と。 記憶もそれに伴う想いも、勢いよく自分の頭に流れ込む。憧れ、嬉しさ、喜び、幸福感。暗い絶望から、明るい希望に、支配されていく。
必要と、された。
紛れもない、弟に。
高揚感。まばゆい記憶。強く生きていく記憶。自分の存在を糧にして。今と同じように、間抜けに思えるほど、輝くように、笑って。それは全て、
自分
兄
という存在が根本にあるからこそ、で。
お兄ちゃん
オレ
という存在は、
弟
ガッシュ
にとってはとても大きなものだということが直接、伝わった。
手加減されているのは、兄だからという情状酌量だろうか。そんな甘ったれた理由で生かされるのだろうか。そんなの、許されるのだろうか。許してくれるのだろうか。
手加減されることなぞプライドが許さないようなことだと言うのに、兄だということが、必要とされているお兄ちゃんということが、それで生かされるということが、嬉しかった。
こんな兄らしくもない兄でも、許してくれるのだろうか。兄だと、認めてくれるのだろうか。
お前はどんなに辛い時でも、オレという存在を明るい未来の光にしてくれていたのに。兄はそんなことも知らず勝手にお前の存在に絶望し、嫉妬し、憎しみの炎を燃やしていたというのに。
それでも、お兄ちゃんでいていいのか。自惚れても、よいのだろうか。
自分は、〝いらない子〟では、ないと。
自分の中のなにかが満たされていく。
バオウ以上に欲しかったものに気づいた。
ずっとオレは、誰かに、家族に、必要とされたかった。そして、それはとうの昔に叶っていた。三年前には、既に。
気を張っていた心がすっと溶けていくような。そんなあたたかな感覚を覚えて直ぐに、ぶつりと、意識が途切れた。
誰かに、必死な声色で幾度も、名を呼ばれていた。
気がつくと、これまで味わったことのないほど全身が痛んだ。どうやらかなり傷ついているようだった。
手加減はされていても、やはりバオウは強い術。防御なしで飛び込めばどうなるかなんて一目瞭然だ。
鉛のように重く動かぬ満身創痍の体。
ぼんやりとした視界。
そのくせ妙にはっきり聞こえる周りの喧騒。
それらに構わずに声に出す。
「許せ、ガッシュ」
無意識に流れ出ていたらしい涙で濡れた目を、自分の名を呼ぶ声に応えるように開ければ、同じように目から雫を垂らす
弟
﹅
が見えた。
視界の端には、焼け焦げたマントに包まれたデュフォーが膝立ちのまま固まっているのが目に映った。特に外傷は見当たらない。そのことに安堵した。
許して欲しいと懇願したのは、今までしてきたこと。罪も何もないお前らにしてきた、非道で残虐な仕打ち。許されない、許されてはいけない、行為。
許せとはいえども、別に責められたって、罰されたって良かった。そんな覚悟はもうつけた。
……
ただ。
「兄が、愚かだった」
愚かさを重ねてしまうのはわかっている。
それでも、どうか。お前の兄でいることだけは、許してくれないか。
自己満足だろうと贖罪の言葉だけは、聞き入れては貰えないだろうか。
〝手加減〟をしてもらって生きているからだは皆にほんの少しの期待をして、話し出した。
最後のお別れが、後悔のあるものにならないように。
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