いぬみ
2021-06-13 14:53:05
3601文字
Public ガ!!
 

罪と体を重ね合わせて

事後の切なめデュゼオ
デュは事実上付き合ってると思ってるけどゼは自分の片思いだと思ってる

気だるさが残るベッドの上、先程までしていた行為を少し反芻していた。
二人、なだれ込むようにベッドに倒れこんで始まって。
どこか熱に浮かれたような頭で、目の前の人間を引き寄せた。
唇や手が数回触れ合うだけで胸が高鳴った。感覚が研ぎ澄まされていった。デュフォーを受け入れる準備が整っていった。
その手を、肉体を、全てを受け入れて。そうして快楽に堕ちて夢中になって、気づけばいつも通りに終わっていた。

じっとりとかいた汗がシーツにしみる感覚がする。
隣を見れば、今までひとつになっていたパートナーはいなかった。
確か喉が渇いたとかで水を取りに行ったか。こちらはなかなかに疲れ果て動くのも躊躇うほどだと言うのに、あちらは怠そうではあったがしっかりと歩いていった。
毎回そうだった。体力も筋力もこちらが上回っているというのにいつもふらふらになるのはこっちだった。
しかし、オレの体力が衰えたわけでも、デュフォーが鍛えたわけでもない。
どうやらアンサー・トーカーを最中に使って活用しているらしく、なにのどことは言わないが正確に良い所を突いてくるのだ。
自分はそれに為す術など無く、ただただ呼び起こされる快感に集中させることしか出来なかった。
数時間快楽に絆され続ければ、誰だって体力をすり減らされる。
逆にオレだからこそ、こうして終わった後も緩慢ではあるが動くことができるのかもしれない。
始めたての頃は、疲れるどころか最中に意識を飛ばすことも多かったが、最近はそうでも無い。自分が慣れたのもあるが、あっちが加減を覚えたらしいというのもあるだろう。

優しくされていると思う。十分すぎるほどに、大事にされていると思う。
しかしそれはきっと〝家族〟故なのだろう。
この関係に純情に似た恋情を持ち出しているのはきっと自分だけで。
それに不満はない。それが異常なことなのだから。自分たちは〝家族〟であり、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
そんな汚れなき繋がりに劣情と恋情をぶつけ出してしまったのは、そんな罪を犯したのは、紛れもない自分なのだから。

その時、水が体積の半分ほど入ったペットボトルを手にして、デュフォーが戻ってきた。
かろうじてパンツは履いているが、それ以外は何も纏っていなかった。
こうしてみれば、随分と細っこい身体をしている。出会ったばかりの頃より筋肉がついてはいるのだろうが。
裸体なんて、ガッシュと自分のもの以外に見たことはないが、それにしても細いとは思う。
この身体に抱かれているのだと思えばこの胸は性懲りも無くまたきゅんとときめいた。

それをなかったことにするよう、デュフォーに気づかれないよう、ゆるゆると頭を揺らす。シーツと頭部が擦れて音をたてた。
デュフォーは、ゆったりとベッドの上に座ると、オレに向けて声をかけた。ちゃぷりと水の入ったペットボトルを揺らして。
「ゼオン。飲むか?」
「ああ、ちょうどオレも喉が乾いたところだ」
さっきまで嬌声をあげていたからなのか、汗をかいたからなのか、実をいえば喉はからからに乾いて水を欲していた。
やんわりと体を起こす。差し出されるであろうペットボトルを受け取りろうと、普段よりも重い手を動かそうとした、その時だった。
急に、唇と唇が重なった。かと思えば、冷たくも体温でほんのりとぬるまった水が喉へと流れてくる。
驚いて少し自らの肩が揺れたが、その水流に抗うことなくゆっくりと飲み下す。時間が経ち水が尽きるとすぐ、唇が離れた。
ぷは、と口を開いて息を吸う。喉は潤っていた。

急に、どうした? デュフォー」
「嫌じゃなかっただろ」
「それは、そうだが」
さも当然のように返してきたデュフォーがよく理解できなかった。
なぜこんなに急に、こんなことを仕掛けてくるのだろうか。
思いつきの気まぐれ、なのだろうか。動きにくそうなこちらを見かねて、効率を重視したんだろうか。それとも。
考えるとどうしようもなくなる。ぼすりと頭をシーツに預けた。
案外柔らかだった唇の感触がまだ残っている。あんなに長く、意識しながらキスをしたのは、記憶の限りでは初めてのことだった。
どくどくと脈が早くなっている。
デュフォーもそうなのだろうか。涼し気な顔をしている人間をちらりと見やった。

きっとこんなに意識しているのも、心臓が高鳴っているのも、期待しかけているのも、自分だけのことだ。
この関係に、家族以上の感情を持ち出してしまったのは確かに自分で。
それはきっと許されないことで。それがなぜか許されてしまっていて。
嬉しくも、その事実に胸が締め付けられた。過去、自分のした行いを赦した、ガッシュ率いる皆に抱いたものと同じ感覚。罪悪感と、幸福感と、後ろめたさと。ぐずぐずに混ざったそれが、鋭く心を抉る。

「ゼオン、頭を少し上げろ」
もぞもぞとベッドに潜り込みながら、デュフォーが言った。
反射でその声に従う。ふとチェリッシュとの戦いのことを思い出した。まだ、お互いにお互いがどんな名前の存在なのかわかっていなかった頃。家族を自覚していなかった頃。
懐かしい記憶に浸っていれば、デュフォーは頭を上げたことによりできた空間に腕を差し込んだ。差し込んだ腕はそのままに、ベッドに寝転ぶ。
もういい。楽にしろ」
「これは」
デュフォーの腕の上に、頭を乗せている。骨と、少しの筋肉との感触を感じる。
「ああ俗に言う、腕枕だな」
横を見れば、普段よりもずっとそばに、互いの鼻先が触れそうになるほどの位置にデュフォーはいた。
「近、いな」
「今さらだろ」
ひょうひょうとデュフォーはわざわざオレの方を向いて言う。こちらのことなんてお構い無しのようだった。
今日はこいつに振り回されてばかりだ。仕掛けられるたびに熱に浮かされそうになるのも知らないで。
顔が火照りそうになる。心臓が勢いよく血を送り出しそうになる。
いつも、なんとか悟られまいと隠し通し押し殺しているが、いつまで持つだろうか。むしろ持っているのだろうか。

───もうそろそろ、やめ時かもしれない。
終わらせないといけないことはわかっているのに、ずるずると引き延ばしにしていた。
何度もやめようと思っても、やめられずにいた。
自分が嫌になって不安になるたび、かつてのパートナーにすがりついてしまうのは、体を重ねてしまうのは、悪い癖となり自らを蝕んでいた。
気持ちいいからだとかそれ以前に、繋がれることに悦びと嬉しさを感じていた。

────デュフォーは、この行為を気持ちいいと思ってくれているのだろうか。
ふと、そんな不安にも似た疑問に襲われた。
誘ったら基本断らない所を見るに、嫌ではないのだろうが。何回もするほどには、気に入ってはいるようなのだが、心配だった。
オレがしたいと言っているからしているだけなのか、デュフォーもこれを望んでいるのか。
遠慮をするようなやつではないと分かってはいるが、したくないことをするような無理はさせたくなかった。

繋がっている間は、罪悪感も罪を犯す自分への嫌悪感も何もかも忘れられている。愛に身を任せている。
そうして終わったあと、欲望に身を任せ、懲りず自分勝手に罪を重ねる愚かな自分が嫌になってまたデュフォーに手を伸ばしている。
完全な、悪循環だった。手元にデュフォーがいる限り、きっと止められたものでは無い。
だからこそ、早く帰らせなければならない。

……はやく、終わらせなきゃな」
自分に言い聞かせるように呟く。

いつも、忘れそうになる。この関係は、あの戦いの時のように有限のもので、永遠に続けることなどできないということ。
いつかは、帰らせなければならないこと。
デュフォーには、あの後新たにできた人間らしい生活があっちの世界にある。本来はこんな場所になどいないはずだったのに、こちらの都合という理由に隠した、オレのエゴで連れてきてしまった。

他の魔物も、かつてのパートナーに会いたいだろうし、中にはそのパートナーと想いを実らせ重なり合いたいという者もいるだろう。
それを両方、オレはそうそうに叶えてしまった。酷い仕打ちをした、優先すべき数々の魔物らを置いて。別れも約束も難なく伝えられたオレが、よりにもよって。

ひとりよがりに連れてきてしまったのなら、せめてその目的を速急に終わらせて帰らせるのが、礼儀というものだった。

そして、さらなるエゴの塊でできた、この関係も行為も終わらせなければならない。これ以上罪に罪を重ねないように。手遅れになる前に。オレがひとりで生きられなくなる前に。
…………ああ、わかった。絶対に、終わらせる」
そう言ったデュフォーの顔が寂しそうに、残念そうに見えたのは気のせいにして目を閉じて、一人まどろみに落ちた。