Momosei808
2024-11-24 18:57:47
3833文字
Public SD(リョ花)
 

思いも寄らないプロポーズ

リョー縁ワンライ④「プロポーズ」

「俺と、結婚、してください! 男同士だし、色々大変、かもしれないけど、た、たいせつ、に………、だぁ~~~~~!!! また噛んだぁ~~~~!!!!!」
またしても『失敗』して、俺は自分の家の一室で、苛立ちを隠すようにクッションを叩いた。
これで練習何度目だ!?
もう指輪は用意したし、プロポーズに行くためのレストランの予約も取った。
普段なら絶対行かねーような、高いところ。
ちょっと格式ばったところで、『あいつ』に、いつもと違う雰囲気ってのを悟らせねーと。
そんでもって、明日は俺も、ちょっと良いジャケットとパンツを着ていくつもりだ。
勿論あいつにも、いつものトレーナーとジーンズじゃねえ、ちょっと良い服用意しとけ、とは言ってある。

プロポーズの予定は──明日だ。

俺、宮城リョータは、明日、恋人である桜木花道に、最高のプロポーズをする予定なのだ。


思えばここまで到達するのに、何年もかかったし、それこそ色々あった。
境遇こそ違うけど、バスケに支えられて生きているような俺たちは、最初は普通の友達関係だったのに、気づけば自然と惹かれ合った。
それこそ、磁石のN極とS極みてーに。
二人揃ってアメリカに渡って、バスケの本場で幾年も揉まれて鍛えられた。
シーズン中に花道が負った怪我のリハビリも兼ねて、日本に帰って来たのが数か月前。
俺は今、日本の実業団チームに所属している。
花道は、まだ怪我のリハビリ中だけど、回復次第、日本のチームの何処かに入団することを目指している。

そんでもって、今は俺たちは、日本で一緒に暮らしている。
アメリカだと、所属チームが全然違うし、練習拠点も州単位で離れてて、二人が会えるのは数か月にいっぺんくらいだった。
けど、日本で花道と一緒に暮らしてて、『このまま一緒にずっと暮らしたい』と思うようになった。
アメリカ時代も漠然とは思ってたけど、花道と一生一緒に居られたら──。

そう思ったら話が早い。
俺は、花道の指のサイズをこっそり測って指輪をオーダーして、プロポーズするための準備を始めた。
日本では現在、同性婚が認められてないから、事実婚になる。
けど、俺は、花道と公私に渡ってパートナーになりたい。

そう思って、着実にプロポーズまでの準備をしていたんだが。


「ヤスぅ……、俺、もうダメかも……
『リョータ、しっかりしなよ。プロポーズの言葉を噛んでも、桜木は気にしないと思うよ?』
俺は、何度目かのプロポーズの練習の後、しおしおになって、高校時代からの友人であるヤスに電話した。
こんな風にヤスに相談に乗ってもらうのも、もう何度目か分からねえ。
俺は、携帯電話にひそひそと話しかけた。
「だってよ、プロポーズなんて、一生に一回だろ? ビシっと決めときてーじゃねえか」
『ビシっと決まらないリョータもリョータだと思うけどね』
「何だよそれ。……ヤス先生は、どんな風にプロポーズしたんですか?」
ヤスは、大学を卒業して早々に結婚していた。
バスケ部同学年の中では圧倒的に結婚が早く、だからこそ俺はヤスを色々と頼りにしていた。
ヤスは、受話器の向こうで笑ったみたいだった。
『言わないよ、そんな。だって、他人のプロポーズの言葉なんて、参考にならないだろ』
「そぉかぁ?」
『そうだよ。プロポーズは、自分の本心を誠心誠意、相手に伝えることが大切だから。その時にちょっとぐらい突っかえたり、どもったりしても、相手は気にしないから。寧ろ、それだけ必死になってくれてるんだって思って、感激すると思うよ』
落ち着いたヤス先生の声に俺は、ふぅん、と相槌を打った。
『あ、ゴメン、そろそろ切るね。もう帰らないと』
「わりーな、職場なのに電話して」
『ううん、もう今日の業務は殆ど終わったところだったから。……頑張ってね、健闘を祈ってるよ』

そうして通話が切れた携帯電話の液晶画面を眺めていた俺は、もう一度自分に気合を入れようと、てめーの顔を両手ではたいた。


……うし、もう一回!!」

今は、花道は夕飯前の買い物に行ってる。
花道は買い物に行ったら、最低でも一時間は帰って来ない。
俺は、その間を縫って、こうして花道へのプロポーズの練習をしているワケだ。

改めて、手元のカンニングペーパーを見る。
其処には、色々と歯に浮くような──『愛してる』だのなんだの、っていう台詞が書き連ねてある。
流石にキザすぎるのは線を引いて打ち消してる。
「けど、こんなカンペ、本番じゃ役に立たねえよな」
ぼそりと呟いた。
プロポーズの現場でカンペ見るヤツなんか居ねえだろうし、居たら相手もドン引きするってのは、俺でも分かる。

カンペの内容を丸暗記するのも微妙だし、最低でも要点ぐらいは覚えておかねーと。
あー、やべ。緊張してきた。
「ぅぷっ」
緊張すると出る、俺の悪い癖。
おえって気持ち悪くなるのを落ち着けるように、自分の掌を開いて、握る。
ふーーーーー、と、深く息を吸って、吐く。

深呼吸した俺は、そのまま、壁に向かって話しかけた。


「俺と、結婚、して下さい。俺と一生、一緒に居て欲しい。お前が辛いことがあったら傍で支えたいし、お前が幸せで笑ってる顔を、一番傍で見ていたい。そりゃ、男同士だし、世間の目もあって苦労かけるかもしれないけど、それでも俺は、お前と一生一緒に居たいから。だから、俺と、結婚して。──花道」


「良いぞ」


──へ!?!?!?!?
突然、自分の背後から聞こえて来た声に、俺は目を見開いた。
誰よりもよく知っている、通りの良い低い声。
まさか、何で、もう?
色んな思いが駆け巡りながら、俺は後ろを振り返った。

其処には──、

「オレも、リョータと一緒に居たい。ヨロシクオネガイシマス」

俺のプロポーズ(練習)の言葉を受け止めて頬を赤らめた、花道が居た。


「へ? 何で?? 花道??? お前、もう帰って来たの!?!?!?」
俺は、余りの事態に錯乱気味に花道に問いかけた。
すると、花道はあっさりと答えた。
「今日、そんな買い物多くなかったし。スーパー一軒行くだけで済んだから」
「お前、いつから其処に居た?????」
「多分、五分くらい?前から」
「おおおおおおおい!! しっかりばっちり最初から聞いてんじゃねえか!!!」

俺は、まさかの練習でのプロポーズの言葉が相手に届いてしまったという事態に、頭を抱えた。
それで、今更のように気が付いた。
「花道、お前……、五分も前から何で、こっそり聞いてたんだ? それに、帰って来た音、しなかった……
そうだ、花道は普段、帰ったら『帰ったぞー!』ってハッキリ言うし、言動がドタバタと賑やかなんだ。
それなのに、今日はこうして、俺が何も気づかないくらい音を消して帰っていたなんて。
俺の問いに、花道は気まずそうに頬を掻いた。
「ほんとのコト言うと……、リョータのこと、ちょっと疑ってた」
「疑い? 何の??」
「浮気、してんじゃねーか、って」
「は……、ハァァァァァァァァ!?!?!?!?」
何だよソレは!!
余りに思いも寄らない言葉に頭に血が上りかけたが、花道はぼそぼそと話し始めた。

「だって、最近リョータ、何かコソコソしてたし、オレに隠れて何かやってんな、ってのは気づいてた。オレが居ない間に何かしてるっぽいし。オレに隠れて電話してるのも、勘づいてたぞ」
……マジで?」
電話の相手は主に、相談相手のヤスだろう。
まさか、花道は、俺が浮気してるのを疑って、現場を確認するために、音を消してこっそりと帰宅したって言うのかよ。
「さっきも、コソコソ電話してたしよ……。オレに隠れて、誰かと付き合ってたらどうしよう、って……。明日の食事の時に、別れ話切り出されんじゃねーかな、って、思ってた」
「はなみち……
俺は、俺より二十センチ以上高い花道の顔を見上げた。
花道は、普段からほの紅い肌をもっと赤く染めて、俯いていた。
俺としっかり目が合う。
すると、花道のきりりとした目がふにゃりと歪んだ。

目の端に、涙を湛えて。

「だから、さっき、リョータからああいう……、プロポーズの言葉、言われて、本当に嬉しかった」

そう言って、目から涙を零して、花道は笑った。

俺は、色んな思いでぐちゃぐちゃになって、堪らずに花道の胸に抱きついた。
練習のつもりがいきなり本番になったけど、もうどうでも良かった。
ただ、花道のことが愛しくて。
花道が、俺のプロポーズに応えてくれた、ってことを、実感して。
そして、花道を不安にさせてしまったことを反省していた。
抱きつくと、どくんどくん、って花道の熱い心臓の音が聞こえる。
花道の身体の熱さと匂いに埋もれていると、花道の長い腕が、俺を胸に閉じ込めるように回されて。

それから暫く俺たちは、黙って抱き合っていた。


*******

「でもよーリョータ、明日は明日でちゃんとプロポーズしてくれんだろ?」
「え゛!? マジで!?!?」
「ちゃんとプロポーズ、リョータの顔見ながら言われたいし、仕切り直しってコトで」
「おま……、マジかよ~~~」



二度目のプロポーズがどんな感じだったかは、俺と花道だけの秘密だ。

けど、結果的に俺と花道は最高にハッピーだった、ってことは、言っておく。


<終>