koto
7295文字
Public れめしし😈🦁
 

ウタカタアフター

れめ←ししのワンナイト後の朝
昨夜のことを一人噛み締めてた🦁だったが、帰ったと思ってた😈がなぜかまだ居て……

始まりかけたけど始まりきらない😈→←🦁のクロス恋慕(?)れめしし

「ん、ぅ……
 肩を竦め小さく身じろぐと獅子神は煩わしそうに眉根を寄せた。眠りから覚める一歩手前。素肌に触れるサラリとしたシーツの感触を楽しみながらゆるゆると微睡んでいたのに、瞼越しの明るさがそれを阻んできたからだ。無視できないほどの眩しさに仕方なく、それでも往生際悪くほんの少しだけ薄目を開ける。視線の先では部屋のカーテンがなぜか全開になっていて、窓からはこれでもかというくらいに燦燦と陽の光が降り注いでいた。なるほど、これは瞼越しでも眩しいはずだと寝起きの頭で納得する。
 窓枠に切り取られた青空がいつも以上にはっきりと明るく見えることを不思議に思いつつ、またうとうとと眠りに落ちかけた瞬間。獅子神は冷水でも浴びせられたみたいに一気に目が覚めた。なんで明るいのかなんて考えるまでもない。外がいつもより明るいのは、いつもよりも時間が遅いからだ。
 普段ならアラームを聞き逃すなんてあり得なくて、なんならアラームよりも先に目を覚ますほうがザラだった。滅多にない事態に現在時刻を確認しようと焦り、慌ててスマホへ手を伸ばす。勢いで腕を振り上げ身体を捻った途端、鈍い痛みと軋む感覚が獅子神の身体に走った。馴染みのない違和感は腰より下に集中していて、そこで獅子神は重要なことを思い出す。昨夜、叶に抱かれたことを。抱いてもらったというほうが正確かもしれない。

 寝過ごしと、まだスッキリしない頭の原因は昨夜景気づけに呷ったアルコールのせいだった。慣れない酒を慣れないペースで慣れない量飲んだのだから、こうなってしまったのも仕方ない。獅子神の頭の中では昨夜の断片的なシーンが順序も解像度もばらばらに取り散らかっていた。

 –– 敬一君、気持ちいいの?
 –– あ、ココ好きなんだ……どう? って聞くまでもないな
 –– もっと聴かせて。声抑えないでよ
 –– もうトロットロじゃん。かわいい
 –– ん? いーよ、見たい。おかしくなっちゃう敬一君、見せて

 おぼろげな記憶を手繰ると、叶に浴びせられた言葉の数々が一気に蘇る。聞き慣れたはずの声なのに、そのどれもが獅子神の知らない響きをしていた。その声と言葉に易々と翻弄され追い詰められた。どの言葉も、お互い気持ち良く盛り上がるためのリップサービスだったのはもちろん獅子神も分かっている。あの場限りの言動をベッドの外にまで持ち出す気は全くなかった。
 それでも余裕綽々に見えた叶が汗を滲ませるくらい腰を動かしてたのは事実で、その汗がポタリと自分の肌に落ちた光景と感触が獅子神をたまらない心地にさせたのも事実だった。やっちまったな、という気持ちはもちろんある。次に顔を合わせるときどんな風に振る舞えばいいかなど考えるべきことはあるものの、今はあれこれと憂うよりも昨夜の思い出に浸ることを優先させたかった。なけなしの勇気と勢いで運よく手に入れた貴重なひと時だったから。

 最中の表情とか身体への触れ方とか、初めて知ったことを片っ端からなぞり反芻する。蘇る記憶で腰の辺りにじんわりと甘い痺れが広がりそうになる。身体の小さな不具合や掠れからくる喉の不調すらも含め、行為の名残すべてが獅子神の頬を緩ませた。
 馬鹿馬鹿しいほどに浮かれている自覚はもちろんあった。いつもは二度寝なんてまずしないのに、今寝たら夢でもう一回あの光景を味わえるかもなんて笑えることを半ば真剣に試そうとしているくらいだから。
 叶が酔っ払いの友達相手に手を出すヤツで本当に良かった。
 獅子神はそう感謝して目を瞑る。そこまで眠くもないが視覚も触覚も聴覚も今はそのどれにも余計な情報を上書きしたくなくて、聞き分けの悪い子供みたいにまだベッドの上で横になっている。幸い今日は休日で特に予定もない。だから、こんな時間の無駄遣いをしてもなんの問題もなかった。

§

 再び目を開くと窓際の影がほんの少し形を変えているような気がした。予定がないとはいえ、いくらなんでもさすがに起きるべきかとソワソワし始めてしまう。慣れないことはするものじゃないなと、内心苦笑いを浮かべた獅子神がごろりと寝返りを打ったときだった。
「っっっ!?」
 視界に入った予期せぬ光景に獅子神は声にならない叫びをあげる。その身体はビクリと数センチ後方へ跳ね退いた。驚きのあまりかっぴらかれた獅子神の目にはベッドのすぐ横で床に座り込む男の姿が映っていた。
「やっと起きたな、敬一君」
 そう言いニカッと笑みを浮かべるのは、今朝からずっと獅子神の頭を占領している男だ。ここに居るはずのない人間を目の当たりにし、獅子神は固まりながらも状況を理解しようと努める。幻にしては存在感がありすぎ、目を覚ましたばかりだから夢の線も薄い。往生際悪く別の可能性を模索したものの、どう考えても目の前に居るのは叶黎明その人だった。
「オマエ、なんで居んだよ」
「え? 昨日泊まるって言ってたじゃん」
 それは分かっている。そもそも昨日の集まりで叶一人が泊まると言い出さなければ、獅子神が酔った勢いでセックスの打診をする機会もなかった。獅子神が分からないのは、なぜ、今、帰宅もせずに家に居残っているのかだった。
「敬一君、オレがヤり逃げする前提で考えてたの酷くない?」
 獅子神の視線が物語っていたんだろう。叶は不服そうに声を上げる。ヤり逃げといえば聞こえは悪いが、翌朝そっとしておいてくれるような配慮を当たり前のように叶に期待していたことに気付いた。
 そこはとっとと帰っておくところだろうが。
 お互いにとってどうするのがベストかなんて叶なら分かりそうなものだ。叶の行動に半ば言いがかりに近い恨み言が湧いてしまう。獅子神の心中渦巻く苦情は思いっきり伝わっているはずなのに、叶は一切素知らぬふりを通していた。
「あー、悪ぃけど、オレ今めちゃくちゃ二度寝したい気分だから……寝るわ」
 無理があるのは百も承知だが、今この場から退散してもらえるような上手い言い訳が浮かばず、獅子神は叶に背を向け身体を丸めて目を瞑る。今日のところはお帰りくださいという意思表示だったが、そんなものがまかり通るはずもなかった。

 寝室のドアが開けられた音は無く、それどころか、すぐ後方でベッドのスプリングが成人男性一人分くらい沈み込む。叶との間を隔てていた布団はバサッと呆気なく捲り上げられ、中へと侵入されてしまった。不可解すぎる行動に困惑していると、叶の奇行はエスカレートしていく。じりじりと近寄ってきた気配を察知した時には、獅子神の背中から尾てい骨にかけてぴったりと身を寄せていた。なにがなんでも自分の方へ注意を向けたいのか。ここまでくると無視することもできず、全神経が背後へと集中してしまう。
「こんなあからさまに無かったことにされることある?」
 獅子神の頭上から信じられないとばかりにクレームが上がった。別に無かったことにする気はない。叶とセックスをしたのは紛れもない事実だ。ただ言ってしまえばあくまで一夜限りの行為であり、それは昨夜で完結しているはずだった。
「なんつーか、ほんともうお構いなく」
 密着した身体に隙間を設けようとじりじりと前へ移動するものの、離した身体はまたすぐにくっついてくる。柔らかなスウェット越しにほんのりと叶の体温を感じ取ってしまうのが嫌だった。
「構うだろ。ってか、むしろ敬一君がもっと構えよ」
 逃げるのを防ぐ為か、今度は腕が回される。ギュッと力を込められて、背中越しに叶の心音が微かに響いてくる。一刻も早くここから逃れたいのに、そんな獅子神の思いとは裏腹に腕の中が案外心地好くて気持ちを挫いてくる。
 つーか、マジでコイツ何がしたいんだ?
 叶の目的がまったく分からなかった。お得意の観測が目的なら悪趣味が過ぎるだろうし、友人に対するフォローだとしたら的外れもいいところだった。単なる気まぐれなのかなんなのか。獅子神には叶の行動の真意が全く見えない。分からなさすぎて、いっそ腹立たしくすら思えてしまう。

「なあ、敬一君ってば」
 耳元で名前を呼ばれ、唇が耳の縁に触れるか触れないかくらいの距離に寄せられる。それだけで耳の付け根からぶわりと放射線状に肌が粟立っていくようだった。昨日もこんな風に何度も何度も名前を呼ばれ、それだけで感じてしまいそうになっていたことを思い出す。
 顔も体も頭も良くて更には声もだなんて、天はコイツに何物与えたら気が済むんだよ。
 作り始めたら楽しくなってしまい、あれもこれもと盛りに盛ってしまったんじゃないかと疑いたくなる。ただ同じくらいの強さであまり褒められたもんじゃない点が浮かび、まあプラマイゼロくらいに収まってんのかもしれないなと勝手に納得してしまう。
「この距離でオレのこと無視するなんていい度胸じゃない?」
 くだらない思考に獅子神が脳のリソースを割いていると、ぐいっと乱暴に肩口を掴まれ強く引かれる。油断していた身体は勢いのまま仰向けにされた。背中から熱が離れ、シーツの感触を覚えた時には視界は薄暗くなり叶が覆いかぶさっていた。
「ねえ、敬一君。覚えてる? 昨日誘ってきたのは敬一君だって」
 ぼんやりとだが覚えてはいる。アルコールがもたらす根拠のない万能感と昂揚感に包まれた獅子神は、なんでもできるような気がして、たとえ失敗しても取るに足らないことに思えた。いつもより叶との距離を詰めて、気持ちばかりのスキンシップを仕掛けて。振り払われたり避けられたらそれまでとばかりに、今思えば随分と怖いもの知らずだった。上手くいった場合に備えて、叶に絡む前には既に受け入れるための準備を済ませていた。それが叶にバレていたのかどうか獅子神には分からない。
「オマエ、男としたことある? できそうだったら、一回だけオレとしてみない? って」
 言うとしたらそんなところだろう。ベッドの上での記憶はそこそこあるものの、そこまでの経緯に関しては曖昧だった。
「あー……叶、悪ぃ。昨日のことは、なんつーか感謝してんだけどよ。オマエがなんでまだ居んのか、ほんと分かんねぇんだけど」
 考えても分からないものは分からなくて。獅子神は疑問をそのまま叶へとぶつける。見上げている叶の顔が微かにだが面白くなさそうに歪む。
「昨日の夜……ってか、ヤりまくってたから今日の朝か。終わってから確認したいことがあって。敬一君寝落ちしちゃったから今までずっと待ってたんだよ」
 叶の口から発せられた「確認したいこと」という言葉に嫌な予感がした。跡に何も濁さずに終わりたかったが、どうやらそれは許してもらえなさそうだった。
「敬一君、キモチイイとか、ここ好きとかは教えてくれるのに、一個だけ聞いても絶対答えてくれなかったことがあって」
 話の展開に嫌な予感が的中しそうな気配が強まり、獅子神の身体が強張る。
「オレのことは? 好きなの? って聞いてもそれだけ答えないの。酔って頭回ってないはずなのに、絶対答えなかった」
 そこは無理やりこじ開けないほうがいいと分かりそうなものなのに。どうしてそんな真似をするのかと疑問だったが、獅子神はすぐに思い直した。この男は相手が何かを隠し持っていると思えば、己が不利益を被ることを厭わず、暴かずにはいられないのだった。つい、普段の振る舞いから他者を慮れる男と認識してしまっていたが、この男の本質はそうではない。完全に失念していた。
「あー……っと、そこ言及する必要なくね?」
「あるよ。あるから敬一君が起きるまで待ってもう一回聞いてんのっ」
 叶をどう思っているかなんて、ここまできたら分かりきっていそうなものなのに。頑なに自分の口から言わせようとする叶に獅子神は少しだけ呆れてしまう。お互いになんの得にもならないのに、それでも暴かずにはいられないらしい。
「なあ、オレのこと好きなの? それとも身体目当て?」
 随分な言い草だったが丸っきり濡れ衣だとも言えなかった。答えないという選択肢は獅子神に残されてなく、叶の目がじいっと見下ろしてる。あまり長い時間待てない男だから、いよいよ痺れを切らすかもしれない。
 獅子神は目を伏せ小さく息を吐き、そうして再び叶の目を見る。自分で仕掛けたことの後始末はつけるべきかと覚悟を決めた。
「オマエのこと、好きだよ。一回で良いから抱かれたいって思うくらい」
 分かりきっていたセリフなはずなのに、嬉しそうに叶の口元が綻ぶ。好きなんてそれこそ飽き飽きするくらいに言われ慣れてるはずなのに、それでも多少なりとも気に入ってる人間から言われるのは嬉しいらしい。自分の答えで相好を崩す叶を直視できなくて、つい視線を泳がせてしまう。
「じゃあさ、付き合っちゃおっか? 今日から」
 機嫌良く吐かれた叶のセリフに獅子神は耳を疑う。本気かと思い視線を叶に戻せば、どうやら冗談で言ってるわけではなさそうでニコニコと笑みを浮かべている。

 獅子神の視線が所在なさげに漂いながら唇が動く。
「あー、悪い。それは、ちょっと遠慮しとくわ」
……は?」
 上がった声に思わず視線を叶へと戻せば、ただでさえ大きな目が更に見開かれ、落っこちてきやしないかなんてバカな心配をしてしまう。獅子神の返答があまりにも想定外だったのか、見たことのない表情で固まる叶に、獅子神はなんとも言えない心地に襲われる。別に叶を振り回したいわけではなかったし、獅子神からすれば、むしろ昨夜の一件で叶がそんなことを言い出したことが想定外だった。
「え、ゴメン。ちょっと言ってる意味分かんないんだけど」
 本当に理解できないものに遭遇したとき、コイツはこんな顔をするんだなと場違いな感想が獅子神の頭をよぎる。これもまた、現実逃避なんだろう。
「敬一君はオレのこと好きで、昨日はお互い同意のもとヤることヤッてて。オレも敬一君のことかわいいな、好きだなって思ったのに付き合わないとかあんの?」
「別に好きだったら絶対付き合うとかじゃねぇだろ」
「いや、それにしてもだよ。あ、もしかして敬一君、ほかに恋人いたりする?」
「別にいねぇ」
「じゃあ、なんで?」
 そもそものスタンスの違いだった。好きになったら全部欲しいと思う人間と、そうではない人間と。獅子神は後者で、叶はおそらく前者なのだろう。獅子神が欲しかったのはたった一回の思い出だけで、それ以上でも以下でもなかった。運良く手にできたそれが消えてなくなってしまうまで思い出しては浸る。それでお終いにするつもりだった。だから、そこから先の話なんてあるはずもなかった。
「身体から始まっちゃったけど、お互いに好きだから付き合おう的な流れじゃないの? 今の流れ」
 不貞腐れて言われても、いまの獅子神にはどうしてやりようもない。
「知らねーよ。そもそもオメーがオレにそういう興味持ったのって昨日のがあってだろ? それで興味持つ程度の好意なら、なにがきっかけで無くなるかも分かんねぇし。そんなのに振り回されるくらいなら、いい思い出ってことにしときてぇっつーか」
 簡単に抱いた興味は、同じくらいのスピードで失せてしまうだろう。事実、獅子神はそういった光景を何度も見てきた。昨日好きになったから今日から恋人になりましょう、なんて応じられるはずもない。
「気付くきっかけではあったけど、別にヤッただけで興味持ったわけじゃないし。オレのこと好きなら良くない? 敬一君、本気で……言ってんな、これ」
 それが獅子神の本心であることを叶は正確に読み取ったらしい。叶相手にブラフが通用することなどそうそうない。逆に言えば本心を伝えたい時、これほどスムーズなことはないだろう。叶は覆いかぶさっていた上体を起こして軽くこめかみを押さえている。
「なんでこんなややこしいことになるわけ? お互い好きなのに? おかしくない?」
「知らねーよ。オレの中のオメーは空気読んでさっさと帰ってるはずだったし、ましてやオレに気持ち確認して付き合おうとか言う男じゃねーんだよ。昨日悪くなかったからまたヤらない? て言われた方がまだ納得できるわ」
 叶は獅子神を一瞥すると心外だとでも言いたげに深々とため息をついてみせる。叶のことをなにも分かっていないと言われればそれまでだが、それでも自分がそう見てしまうような振る舞いをしていた叶本人にも責任の一端があるように思えてならなかった。
「分かった。正直ヤリたいかどうかって言われたらヤリたいけど、オレ主導でそれやっちゃうといよいよリカバリーできなくなるから止めとく」
 よく分からない理論だったが、叶が納得したのならよしとする。これでようやく帰ってもらえるとほっとしたのも束の間、気を抜いた獅子神にずいっと叶の顔が近付いた。至近距離で見つめてくる叶に獅子神は思わず息を飲む。
「なんか安心してるみたいだけど、別にオレ敬一君のこと諦める気ないから。ちゃんと付き合えるまでは手出さない縛りにするけど、間違ってもその間に他のヤツに脚開くなよ?」
 なぜだかやる気を出した叶はそう宣言し、更には一方的な約束を押し付けてくる。他のヤツもなにも、そもそも男相手に誘うなんて獅子神にとっては昨夜が初めてのことだったから杞憂でしかないが、それは伏せておく。
「オレのやる気を煽っちゃったのは敬一君だからさ、覚悟しておくといいよ」
 本当に全くもって自分勝手な言動に、これでこそオレが知ってる叶だな、なんてどこか明後日なことを思ってしまう。この瞬間、叶は確かに本気なんだろう。ただ、おそらくはクリアが容易だと思っていたゲームが思った以上に上手くいかなくムキになっているのに近いんだと獅子神は思っている。今は躍起になっていても、一週間もしたら興味も薄れ、きっとまた新しいゲームに夢中になっているはずだ。叶の世界は素晴らしいもので満ち溢れているから。




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マシュマロ
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