toko-honey
2024-11-26 00:00:00
7801文字
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恋する尻尾

レオン×タクミ
タクミに竜の尻尾が生えたのでレオンがお見舞いに行く話。
自分への誕生日プレゼント用に書きました。ハッピーバースデー!

 なんてことのない瞬間だった。
 拠点の当番の合間、偶然見かけたレオンと読んだ本の感想を話し合っていたときだ。
「タクミ王子の髪ってきれいだよね」
 話が途切れた合間に彼がそう言った。
 タクミはとっさになんと返していいかわからなかった。
 高く昇った太陽の光は、レオンのさらさらした金の髪をいつもより輝かせている。きれいな髪というのは、彼のような髪のことをいうのではないだろうか。ただ長いだけの自分の髪よりも、細くまっすぐ整った彼の髪のほうが余程きれいなのに。レオンの髪を見て、自分の髪もこんな風だったらいいのになといつも思った。
「触ってもいい?」
 レオンがこちらに手を伸ばす。うんと頷くと、彼はタクミの髪に触れ、嬉しそうに微笑んだ。
 その微笑みは美しかった。きれいな髪も顔立ちも自分に向けられた優しい表情も、彼の持つ何もかもが美しく見えた。
 彼はこの世にあるどんなものよりも美しいんじゃないだろうか。
 タクミはぼうっとなりながら、ただただそう思った。



 次の日の朝、タクミが自室で目を覚ますと、尻から尻尾が生えていた。
 着替えの最中に気が付いて姿見を凝視する。帯か何かが垂れ下がっているのだと思いたかったが、自分の意志で左右に動かせた。怖々触れてみると、尻尾に触れている感触と、尻尾を触れられている感触の両方があった。
 タクミは着替えもそこそこに廊下に飛び出した。
「リョウマ兄さん! リョウマ兄さん!!」
 隣の部屋で寝ていたリョウマを大声で叩き起こす。
「どうした、タクミ。朝から騒がしいな」
「大変なんだ! こ、これ見て! これ!」
 リョウマは眠たそうに眉間を押さえている。タクミは横を向いて着物の裾をまくり、兄に尻尾を見せた。
「その帯がどうかしたのか」
「帯じゃない! よく見てよ!」
 タクミは尻尾を左右に振った。パタパタ揺れる長い尻尾は白い鱗に覆われている。
「なんだ、蛇か。よく捕まえたな」
「違う! 尻尾だよ!」
 まだ寝ぼけているリョウマにいらつきながら訴える。起き抜けに蛇を見せに来る弟ってなんだよ。僕をいくつだと思っているんだ。
「尻尾?」
 リョウマはタクミの尻尾をまじまじと見つめた。掛け布団をどけて敷布団の上にあぐらを組んで座る。兄の様子を見てタクミは裾を戻し、畳の上に正座した。尻尾があるせいで尻と腿の下が落ち着かない。
 リョウマは思案した後に口を開いた。
「ついにお前にも話すときが来たようだな。タクミ、よく聞け。それは竜の尻尾だ」
「竜の尻尾?」
「ああ、俺たちの中にある、神祖竜の血が強く現れたものだ」
 リョウマの声は重々しい。とても冗談には聞こえなかった。
「じゃっ、じゃあ、僕もカムイ兄さんみたいに竜になるってこと? この尻尾はずっとこのまま? でもなんで僕だけ? リョウマ兄さんたちは?」
「一つずつ説明するから落ち着け。まず、お前はカムイのような竜にはならない。その尻尾も数日で消える。お前がそうなったのは、白夜王家に代々伝わる特異体質のせいなのだ。白夜王家の血を引く者は、ある条件を満たすと身体の一部が先祖返りをする」
「ある条件って?」
 リョウマがにやっと笑った。
「初恋だ」
「は……初恋ぃ!?」
 タクミの脳裏に、昨日見たレオンの笑顔がフラッシュバックした。途端に頬が熱くなり、バクバクと心臓がうるさくなる。「心当たりがあるだろう?」とのリョウマのデリカシーのない質問もよく聞こえなかった。
 自分はレオンに恋している。
 自覚の薄いまま、尻尾が生えるという衝撃的な手段で事実を突きつけられ、タクミは軽く混乱した。
 タクミの気も知らず、リョウマがのんきに言った。
「お前が初恋とはめでたいな。今日の夜は赤飯にするか」
「やめてよ!」
「そう嫌がるな。これも白夜王家に生まれた者の宿命だ」
 リョウマの話では、白夜の王族が初恋で先祖返りをすると赤飯を炊く伝統があるらしい。
「伝統だかなんだか知らないけど恥ずかしいから絶対にやめて」
 尻尾が生えたことだけでも恥ずかしいのに、初恋をしたことまで皆に知られるなんて、嫌がらせや罰ゲームを越えて拷問だ。
「先祖返りが起きる原因は王族の極一部の関係者しか知らないことだ。お前だって知らなかっただろう。時が来たときに、こうやって家族間で口伝えで教えるものなんだ。他の者にとってはただ赤飯が振る舞われるだけだ。恥ずかしいことは何もない」
「でも、リョウマ兄さんだって、僕と同じ立場だったら『嫌だ』って言うに決まってるよ」
「どうだろうな。俺はもうとっくの昔に済ませたからな」
「えっ、リョウマ兄さんも尻尾が生えたことがあるの」
 タクミの着物の中で尻尾の先がパタパタ動いた。恥ずかしい思いをしたのが自分だけでなかったことに少しだけ安心する。
「尻尾ではないが、俺はこの辺に短い角が生えた」
 リョウマは両手の人差し指を頭の両側に立てた。炎の部族がつける鬼の面のようだ。
「そんなことあったっけ?」
「十にもならない子どものころの話だ。お前の記憶にはないかもしれん」
 初恋のときの年齢を聞いて少し驚く。なんでもできる兄だから、初恋も早かったのかもしれない。
 角が生えている間はどうやって過ごしたのかと聞いたら、普通に過ごしたと返ってきた。髪の毛に隠れるくらいの長さだったらしい。なんだかずるい。
「僕のこの尻尾はどうやって隠したらいいんだよ。普通に過ごすなんて無理だよ」
 タクミの着物の尻の部分は尻尾の分だけ布が引っ張られ、そのせいで裾も割れてしまっている。もっといえば下帯もずれていた。尻尾がある場合の締め方の正解がわからない。
「先祖返りで尻尾が生えた例は過去にあるそうだが、どれも小さくて短いものだったと聞くぞ。ヒノカやサクラも腕や背中に少し鱗が出たぐらいで済んでいた」
「えっ、サクラも!?」
 リョウマやヒノカはともかくサクラにまで初恋の先を越されていたことに驚愕する。
「しかも少し鱗が出たくらいって……。なんで僕にだけこんな大きな尻尾が生えてくるんだよ!」
 先を越された悔しさと、自分だけ負担が大きすぎることに憤って立ち上がる。尻尾がブンブンと大きく左右に揺れた。
「ここは竜の力が強い場所だからな、体質にも強く影響が出ているのだろう」
 理由がわかったところで到底納得できるものではなかった。全身が竜になるならともかく、尻尾だけが生えているなんてただみっともなくて恥ずかしいだけだ。
 リョウマと相談し、タクミは尻尾が元に戻るまでは体調が悪いことにして部屋から出ずに過ごすことになった。尻尾のことはきょうだいと臣下にだけ話し、初恋云々は当然伏せる。
 仕方のない処置だとわかっているがタクミは不満だった。初めての体験ではあるが、恋に落ちるというのは、もっとわくわくして楽しいものだと思っていた。数日のこととはいえ、なぜこんな不便を被るのか意味がわからない。部屋に閉じこもっていては弓の練習もできないし、自由にレオンに会いに行くこともできないのだ。
 不満顔のタクミに、リョウマがなだめるように言った。
「そう落ち込むな。いいことを教えてやろう。先祖返りした部分に初恋の相手が触れると、その恋は実ると言われているんだ」
「それ、本当? 迷信じゃないの?」
「どうだろうな。現にこうして神祖竜の力の一部が発現しているんだ。神祖竜の力は計り知れないほど偉大だ。あながち迷信とも言えんかもしれんぞ」
 リョウマの言葉がタクミの内側でわんわんと響いた。
 レオンとの恋が実る。
 レオンもタクミのことを同じように想ってくれる。これから先ずっとレオンの側にいられて、同じ人生を歩んで行ける。
 タクミは幸せな妄想に浸りかけてから、はっと現実に引き戻された。
 レオンとの恋が実るのは自分にとってはこの上なく幸せなことだ。それは間違いないのだが、彼の人生にとって最善かどうかはわからない。 
 何しろ彼は暗夜王国の王子で、賢くて、優しくて、この世でもっとも美しい存在なのだ。自分なんかよりも、もっとふさわしい相手がいるような気がする。いや、きっといる。
 レオンに尻尾に触れて欲しいような、本気で彼を思うなら触れさせてはいけないような。そんな相反する思いがタクミのなかでぐるぐると回り、それに合わせて尻尾もくるくると回った。



 タクミが体調不良と聞いて、レオンはすぐに見舞いの準備をした。
 幸い、今日の拠点当番は朝だけだ。昼食後にタクミを見舞いたい旨を手紙にしたため、朝のうちに臣下に届けさせる。断りの返事はなかった。行ってもいいということだ。
 手土産は迷うことなく本にした。読書家の彼は何でも喜んで読みそうだが、せっかく贈るのならできるだけふさわしいものにしたかった。軽く読めて、内容が明るくて、心と身体を軽くさせるような本。レオンは条件に合いそうな本をいくつかピックアップし、すべてに目を通してこれぞという一冊を選んだ。
 朝の当番を終え、昼食後にレオンは甲冑を脱いだ。普段着に着替える。
「そこまでしなくてもよろしいのでは?」
 甲冑用のアンダーシャツから、白色のシャツと濃い青色のズボンに着替えているとゼロが言った。
「タクミ王子のお見舞いでしょう。知らぬ仲ではあるまいし、いつもの格好でもイイでしょうに」
「見舞いに甲冑姿なんて失礼だろう。いくら仲が良くても、こういうときは礼儀を尽くさないと」
 それに、少しでもタクミの心象をよくしておきたい。
 タクミはレオンにとって大事な相手だ。隣り合う国の王子同士という立場を除いても大事な相手だった。タクミのほうではレオンのことをただの友人と思っているだろうが、レオンのほうでは彼に友人以上の感情を抱いていた。
 きっかけは些細なことだった。ある日、彼が的に向かって弓を練習する姿をながめていたとき、その感情がストンと胸の中に落ちてきた。まるでそこに前もって席が用意されていたかのように、彼を好きだという想いはレオンの胸にぴたりと当てはまった。
 このまま一人で想いを抱えているのも悪くはないが、本音を言えば友人以上の関係になりたかった。だが、どうすれば成功するかの道筋はなかなか見えなくて、レオンは決定的な一歩を踏み出せずにいた。
 それでも昨日は勇気を出してタクミの髪を褒めた。褒めたけれど、彼はぽかんとするばかりで特に何も反応しなかった。脈絡のないレオンの言動に引いていたのかもしれない。
 そんな折のタクミの体調不良だ。もちろん彼を見舞って励ましてあげたい純粋な気持ちが大部分である。だが、言葉は悪いが、彼に優しさを見せるチャンスであるともほんの少し思っていた。
 見舞いの本とクッキーの包みを持ってタクミの部屋へ行く。
 部屋の前にはヒナタがいた。レオンが用件を伝えると、ヒナタは「少し待っててください」と言って、部屋の中へ入っていった。
 すぐにも入れるものと思っていたが、予想以上に待たされる。戸に顔を近付けると中の声が少し聞こえた。何やらもめているようだ。
 見舞いに行くことはあらかじめ伝えていたし、断りの返事はなかったはずだ。ゼロにもオーディンにも確認した。ひょっとして自分は歓迎されていないのだろうかと不安になったころ、部屋の戸が開いた。ヒナタが顔を出す。
「お待たせしてすみませんでした。どうぞ」
「もしかして、僕は来ないほうがよかったのかな」
「そんなことはないです! ただ、ちょっと心の準備に時間がかかって……
「心の準備?」
「いえ、なんでもないです」
 案内されて部屋に入ると、タクミがこちらを向いて座っていた。彼は普段あまり見ない服装をしていた。上衣はいつもの着物よりも短くて腿の辺りまでだし、下はぴったりしたズボン姿だ。すぐ横には衝立があって、そこに腰をくっつけるようにして座っている。寝込んでいるのかもしれないと思っていたが、そこまで悪いわけではないようだ。若干浮かない表情をしているけれど、顔色は悪くない。
「体調不良だなんてどうしたの? どこか痛めた?」
 レオンは勧められた座布団に座った。座布団の位置は、タクミとやや距離があった。
「ええと、うん。ちょっと腰を痛めたみたいなんだ。でも休んでいれば治るから」
「それは大変だね。変な風にひねったのかもね」
 レオンはお見舞いだよと言って、本とクッキーの包みを両手で差し出した。
「本は僕から。クッキーはエリーゼからだ」
「ありがとう、レオン王子」
 クッキーはエリーゼが焼いたものだった。自分で渡しに行きたいと言っていたのを、大勢で行ったら迷惑になるからと説き伏せて預かってきたものだ。
 お礼を言ったものの、タクミは受け取ろうとしなかった。やや距離があるとはいっても部屋の中だ。彼が少し腰を浮かして手を伸ばせばレオンの手から受け取れそうである。レオンは察した。きっと彼は腰が痛いせいで、手を伸ばす動作も辛いのだ。
 レオンは本とクッキーの包みを持ったままタクミに近づいた。見舞いの品を手渡すと、タクミは戸惑ったような顔をして受け取った。
「本は随筆にしたんだ。庶民の日常をテーマにした軽い内容だから、集中できなくても読めると思う」
「う、うん」
「クッキーはエリーゼの手作りなんだ。食べてもらえたら嬉しい。身内びいきかもしれないけれど、エリーゼのクッキーはおいしいよ。君の腰が治ったらまた焼いてもらって、一緒にゆっくり食べようか」
 タクミは嬉しいような困ったような表情をして「そうだね」と言った。不機嫌にも見えるがこれは痛みを我慢しているのだろう。長居せず、早く立ち去るべきか。
 ふと、レオンは動くものの気配を感じた。衝立の向こう側でなにかがカサカサ動いている。
「タクミ王子、もしかしてそこに誰かいるの」
「えっ、えっ、誰もいないよ」
 タクミが明らかに嘘をついている態度になった。タクミのことは大切にしたいが、自分に隠しごとをしているのは面白くない。
「ちょっと失礼するよ」
「わあっ、待って!」
 レオンはタクミを押しのけて衝立の裏を見た。そこにはタクミの言ったとおり誰もいなかった。誰もいなかったが、一匹の細長い蛇がいた。上を向いた尾がゆらゆらと揺れている。
「あっ、蛇だ」
「わわわっ! 見ちゃダメ!」
 タクミが取り乱す。突然の蛇の出現に驚いているのだろう。
 蛇の頭はどこかと目で追うと、タクミの背後に繋がっていた。服の中に潜り込んでいるようだ。
「じっとしてて。こんな蛇、僕が追い払ってあげる」
 近寄ってさっと蛇の尾をつかむと、タクミが悲鳴を上げて腕に飛びついてきた。あわてた様子で叫ぶ。
「違うんだレオン王子! これは僕の尻尾なんだ!」
「えっ――
 尻尾?
 握っていた手をぱっと放し、あっけに取られてタクミを見つめる。タクミは恥ずかしそうにうつむいた。
……タクミ王子って、尻尾、生えてたっけ?」
「あの、驚かせてごめん……。実は、今朝起きたらこうなってて……
 タクミはうつむいたままぽつぽつと話した。
「白夜の王族って、たまに先祖返りをするんだ。数日で治るんだけど。でも恥ずかしいから、あまり見られたくなくて……。だから、体調が悪いことにして……
 今着ている服はニシキのを借りたのだとタクミが言った。そう言われれば見覚えがある。話している間にも、タクミの尻尾が畳の上を決まり悪そうにするすると滑る音がした。
 レオンは今の騒動で倒れた衝立を元のように戻した。見舞いの本とクッキーも部屋の端に吹っ飛んでいたのでタクミの近くに戻す。自分の座布団をタクミの前に持ってきて、座り直した。
「話してくれてありがとう。このことは誰にも言わないよ」
「レオン王子……
 タクミがすがるような上目遣いでこちらを見た。自分より先にタクミの尻尾のことを知っていた人間が存在することに胸がちくちくしていたが、この顔を見たらそんなことはどうでもよくなる。
「知られたくないんだろう。誰にも言わないから安心しなよ。さっきは尻尾をつかんじゃってごめん。痛くなかった?」
 タクミがこくんと頷き、次の瞬間がばっと顔を上げた。
「僕の尻尾をつかんだ!?」
 タクミは信じられないものを見るような驚愕の表情になった。尻尾もピンとまっすぐ立ち上がっている。
「つ、つかんだよ。やっぱり痛かったの?」
「違う、違うんだ、レオン王子。どうしよう」
 タクミは困った顔でおろおろと視線をさまよわせた。尻尾は落ち着きなくゆらゆら揺れている。
「尻尾をつかむと、何か困ることがあるの」
「あるよ! あんたが触ると実っちゃうんだ!」
「何が?」
 レオンが聞き返すとタクミはぐっと返事につまった。
「話してよ、タクミ王子。僕は君の力になりたいんだ」
 タクミが言いにくそうに言った。
「は……、初恋……
「えっ?」
「だから、初恋だよ! 何度も言わせるなよ!」
 やけになったのかタクミが叫ぶ。
「叫ばないでよ。どういうことかちゃんと説明してよ」
 タクミは耳まで赤くなった。尻尾はますます落ち着きがなくなり、パッタンパッタンと畳を叩いている。
「だっ、だからっ……、僕に尻尾が生えたのは、僕がレオン王子を好きになったからなんだよ!」
 飛び込んできたタクミの告白に、レオンは思わず息が止まりそうになった。あまりに都合が良すぎてにわかには信じられない。かえって冷静になる。
「それって、本気で言ってる?」
「本気に決まってるだろ。冗談でこんなこと言わないよ」
 タクミが尻尾を持った。身体の前に持ってくる。
「レオン王子を好きになって、それでこんな尻尾が生えたんだ。この尻尾に想う相手が触れると恋が実るってリョウマ兄さんに言われて。でもそれだと、僕の都合しか考えていないような気がして。だからあんたにだけは触られないようにしなくちゃと思ってたんだ。それなのに」
 タクミの手から尻尾が離れた。畳の上にぱたんと力なく落ちる。
――タクミ王子が僕のことを好き。
 その事実はじわじわとレオンの中に広がった。彼が好きだという想いと呼応して、胸をいっぱいに満たす。
「そういうことなら困らないよ。僕もタクミ王子のことが好きだからね」
 タクミの目がこれ以上ないくらい真ん丸になった。
「えっ。そ、それってやっぱり、尻尾に触ったから?」
「違うよ。君に尻尾が生える前から、僕は君のことが好きだよ」
 タクミの手を取り、そこに口付ける。タクミは真っ赤な顔で口をぱくぱくさせ、尻尾はぴょこぴょこと嬉しそうに跳ねた。
「尻尾に触ってもいい?」
 微笑みながら言うと、尻尾のほうから近づいてきた。レオンの手首にするすると巻きつく。持ち主の性格とは反対に、随分と素直なようだ。
「初恋が実ってよかったね」
 尻尾をなでながら言うと、タクミがむすっとした顔で頭を押し当ててきた。
「なでるならこっちにしなよ」
 わかりやすい嫉妬に口元が緩む。タクミを抱き寄せて頭をなでると、「ふふっ」と照れくさそうな笑い声が聞こえた。