fedge
2024-11-24 05:00:17
6687文字
Public カピオロ
 

責務

5.2幕間クリア済想定だけど要素的には4幕終了時点想定。書きかけ(半分・後半R18予定)

「緊急です!北部にあるこだまの子管轄の採掘場の支援を行っていた隊員の一部が、崩落に巻き込まれて行方不明となっています。捜索のため、援護を願います」

支援地域から拠点に戻ってきたばかりの隊長の元に、声に焦りを滲ませている通信が入る。
数日前から、こだまの子の採掘拠点の復興に隊員たちが支援に向かっていた。
戦争の際に、炎神マーヴィカが単独で守りに行ったマグマ地帯に隣接していたあの採掘場は、ファデュイの仮設拠点にも近い。顔なじみの人間も多いとのこともあり、その拠点に駐屯していた隊員たちの希望で、現場の復興作業に加勢していた。

「わかった、直ぐに向かう。……戻ってきたばかりで悪いが、動ける者は一緒に来てくれるか」

掛けたばかりの外套を羽織り直し、隊長は急ぎ、現場へと向かった。


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同時刻。

「じゃあ残りはあっちの拠点のみんなに届けてくる。調理場を貸してくれてありがとう、シロネン」

こだまの子のシロネンの作業場に、シロネンとオロルンが居た。
気だるげだが満足そうな笑みで、シロネンがオロルンを見送るところだった。

「こっちこそわざわざありがとう、燃素ミツムシのミツと人参のケーキ、とても美味しかった。そういえば、いつもはこーいう届け物ってイファに頼んでるのに、なんで今日は自分で来たの?」
「ミツムシたちがなんだか騒がしくて、何故かちょっと胸騒ぎがしたんだ。それで、自分で届けたほうがいい気がして。僕は朝起きるのが得意じゃないから、いつもはこんな早い時間に行動しないんだけど」

早いといっても、もう太陽も高く上り、昼といっても差し支えない時間だ。
それでも少し眠そうに目の下をこするオロルンの腕には、甘い匂いのするケーキが入った籠がある。

「採掘場に行ってるこだまの子のみんなも、手伝いに来てるファデュイの人たちも、きっと喜んでくれるよ。そのケーキめちゃくちゃ美味しいし、甘いものは疲れも取れるからね。あとで食べたいから、ウチにももう一切れちょうだい」
「え、ファデュイのみんなも採掘場にいるのか?」

籠から取り出された一切れ包みのケーキを受け取ると、シロネンは、んーっと伸びをした。

「そう聞いてるよ。族長が昨日ぐらいに話してたんだ。ウチも今作ってる奴が終わったら差し入れを持って顔を見せにいくつもり」
「そうか、それならもっとたくさん作るべきだったな。みんな碌な物食べてないだろうから……

いつだったか分けてもらった軍用食糧の味を思い出したのか、オロルンは口をへの字に曲げた。
未だ最終決戦を残すとはいえ、地脈再構築の作戦が立ち消え、アビスの脅威がある程度落ち着いた今、オロルンがファデュイと行動を共にする頻度は目に見えて減っている。だが、わずかな間とはいえ協力関係となり一緒に行動していた面々には情がある。

……隊長もいるかな、居たら嬉しいけど」

オロルンは小さくつぶやきながら、目的の採掘場の方角の崖を蹴って跳び、風の翼を開いた。


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「状況は」

報告を受けてから半刻も経たないうちに、隊長と数名の部下が現場に到着していた。

「はっ!バ、バラノフら3名の隊員ががこだまの子の民2名と共に作業中、マグマエリア側から原因不明の衝撃が、起き、じ、地盤が崩れ連絡が途絶えている状態です」
「落ち着け。場所の見当はついているか」

報告していた隊員が深呼吸して息を整え、続けた。

「この先の橋が落ちている場所になります。衝撃が収まった後に我々も下へ降りようとしたのですが……
「まだ地盤が不安定な可能性があるな、大人数で降りるのは危険だろう。俺だけ降りて様子を見てくる」
「そんな、隊長様だけ行かせるだなん」
「俺が行くと言ったら行くんだ。上に残る者は引き上げた者たちの救護体制を整えろ」

有無を言わさずそう告げた、その時。

「隊長!」

暫くぶりに聞く、僅かにだけ幼さの残る声がした。気配すら察知させないのはさすが謎煙の主といったところか。バレバレの尾行をしていた時とは比べ物にならないくらい成長している。

「久しぶりだなオロルン、すまんが今お前にかまってる時間はない」

寄り添うようにすっと傍らに入り込んだヘテロクロミアの男は、首をかしげながら見上げるようにこちらを見る。久しぶりに会ったというのに、自分の定位置だと主張するように、さもここにいるのが当然という顔をしている。

「話は聞かせてもらったよ。人を探すのであれば、僕の得意分野だ。僕が魂の気配に敏感なのは君もよく知っているだろう?」
「だが危険だ。お前も上に残っていろ」

外套の下に潜り込まんとする位置まで寄っているオロルンから離れるように半歩先へ行く。オロルンも譲る気はないようで、離されまいと足を速めた。そのまま外套の裾を掴む。

「人命が掛かっている。時間が無いから離せ」
「そっちこそ要らない意地を張るな。今までだって何度もやったじゃないか。それとも何だ、僕よりも探し物が得意だと言いたいのか」
……わかった、お前の能力なら間違いなく探せるだろう。頼む」

オロルンは嬉しそうに頷くと、両目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませる。集中して気配を探っている間、邪魔をしないよう静かにそっと外套を取り払い、近くにいた隊員に渡した。

「見つけた。少し怯えている魂が二つと、それを守ろうとしている魂が三つ。ここの真っすぐ下、岩場の一部に空間があるみたいだ、そこにある。……隊長、降りるよ」
「ああ、急ごう」

身軽になった隊長とオロルンは、かなりの高さのある崖から跳んだ。風を切りつつ最高速度で降下し、着地寸前で衝撃を殺す。
オロルンが郊外で野菜や動物を相手にしていたころだったら絶対に使わなかったようなこの降り方も、だいぶ慣れたもので様になっていた。

「あそこだな」

降りてすぐの場所に、おそらく洞窟の入り口だったであろう岩場があった。落ちてきた岩で入り口が塞がれているようで、このままだとテペトル仔竜ですら入るのは厳しそうだ。

「聞こえるか!返事をしろ!」

隊長が岩場の隙間に向かって叫ぶが、返事は聞こえてこない。

……かなり奥の方に気配がある。怯えが酷くなってる、なにかと戦っているみたいだ」

引き続き探っていたオロルンが伝える。

「急がねば。離れているなら怪我させる心配もない、思い切り壊していいな」

おもむろに大気中の水分を凝固させ、氷の片手剣を生み出す。それを逆手に持ち、積みあがった入り口の岩に叩きつけるように振り下ろす。刹那、塞いでいた岩は見事に粉砕され、人が通れるほどの空間ができた。

「この大きさの岩さえも一撃か。さすがだな」
「この程度どうということはない。走るぞ。この先で間違いないな?」
「ああ。そんなに深くもないはずだ」

なだらかな斜面になっている洞窟内を、黒い影二つが駆け抜けていく。

「くっ……
「どうした?オロルン」

急行している最中、オロルンが突然顔をしかめた。

「この場所、よくない気が溜まってる。まるであの戦争のときの、アビスの門の周りにあったような、禍々しくて重い気配がある。早くみんなをここから出さないと」
「俺も薄らと気配を感じてはいたが、お前が言うならほぼ確定だろう。ゲートの残骸か、それとも取り逃した魔物が逃げ込んで居たか……どちらにせよ、遭難者達が心配だ」

二人が遭難者達を見つけたのは、それからすぐのことだった。


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それは、あまりにもおぞましい気配を湛えた樹だった。アビスの境門にあまりにもよく似た、否、それそのものが育ったような、大樹。それの新芽のような、2つの小さな株が手前にある。

「隊長様!」

こちらを視認したファデュイの一人が声を上げる。禍々しい株に対峙する4人と、その株に捕まっている1人のファデュイの姿があった。こだまの子の二人は足がすくんだようで酷く震えている。
視認した瞬間に隊長は駆けた。手にした剣で部下を捉えている植物の蔦を叩き切り、そのまま身体を抱えあげ跳躍する。斬られた植物はのたうつように跳ね、紫の霧となって散った。

「ありがとうございます、隊長様」
――ミミックパピラか」

隊長は助けだした部下を無事な一人に預け、大樹へと目線を戻す。
戦争の残滓。未だ取り逃がしたアビスの魔物が各地に残っているが、その中でも一番厄介な魔物だ。様々な敵の姿を模り、予測不能な攻撃をしてくる。

「花翼の集の地下で目撃報告があったが、こんなところにも居るとは……お前たちは負傷者を連れて拠点まで戻れ。救護班を待機させている」
「隊長様はどうなさるので!?」
「俺はこいつを処理してから戻る。早く行け」

こだまの子の二人とアビスに食まれた仲間を抱え、部下二人は斜面を駆けあがり出口へと消えていった。

「二人抱えあげてあの速さが出るのか、さすが鍛えている軍人は違うな」
「何をしている、お前も早く逃げろ」
「嫌だ。僕は隊長と一緒がいい」

オロルン真っすぐに隊長を見つめている。

「僕の実力は散々見ただろう。――足手まといには、ならないから」
「はぁ……お前という奴は」

この男は本当に一度言い出したら聞かない。
出逢った時からその気はあったが、共に過ごすうちに、よりそういう面が出てきたように感じる。

「裾をひっぱるな、伸びるだろう。……さっさと片付けて戻るとしよう」

敵前で緊迫しているというのに、不思議と気が綻んでしまう。
芯のある強い意志を真っすぐにぶつけてくるかと思えば、次の瞬間には拗ねた幼子のような振舞いをする。不完全な魂の危うさに引きずられているのか、それとも育った環境のせいか。
ふぅ、と息を吐き、2人はミミックパピラに向き直った。
ぐにゃりと枝葉が歪み、虚ろな気配が一段と強くなる。体躯の大きい夜叉――確か、稲妻にいる魔偶剣鬼という奴だったか。その姿を模して襲い掛かってきた。
隊長は振り下ろされる刀を片手剣で弾き、そのまま跳躍して喉元を斬り裂く。魔偶剣鬼を模した何かは、あっけなくその姿を解くと、再び枝葉の姿に戻り、また別の姿を取った。
兆載永劫ドレイク――スメールに居た、空を飛ぶドレイク型の兵器。変化するやいなや、エネルギーを噴射し地下空間内を高く飛び上がった。

「あれは僕に任せて」

上部まで飛び上がったそれの両肩を、紫電を纏った矢が突き抜ける。浮力を失ったドレイクのようなものはそのまま体勢を崩し、地面に叩きつけられる。その衝撃でまた姿を解き、再度ぐにゃりと――

「そう何度も許すと思うな」

形を変えようとしたミミックパピラを、凄まじい冷気が包み込む。全ての線維を引き裂くように、全ての道管を断ち切るように、凍結した植物が、冰気の刃で粉微塵に切り刻まれる。
存外あっさり倒されたそれは、紫の霧となって、消えた。

「一撃で落としたか。よくやったなオロルン」
「ふふ、君のところの弓兵に教えてもらった甲斐があったよ」

戻ったらオロルンに弓を教えた兵士を探して少しばかり礼を渡すか。そんなことを考えながら、消え去った魔物を背に、さあ戻るかと踵を返す。――ひとつ、忘れられてた小株を残して。

引き上げようとしていたオロルンと隊長の背後から、ミミックパピラの子株であったミミックフローラが襲い掛かってきた。変化を伴わず、植物系魔物そのものの攻撃。

「しまっ――

少し考え事をしていたせいか、珍しく、本当に珍しく、隊長が遅れをとった。繰り出される攻撃を躱そうと姿勢を低く落とし、剣を生成しようとしたその瞬間、対象との間に割り込む影があった。
実体化させた冥色の宿霊玉を携えたオロルンが、隊長と植物の間に身体を滑り込ませる。

「させない!」

オロルンが宿霊玉をミミックフローラにぶつけると、草元素を纏った赤とも桃色ともつかない粉が舞った。雷がバチバチとその粉と反応し、いわゆる激化状態がミミックに付着する。
怯んだミミックフローラを、隊長が両断し親株と同様に粉微塵に切り刻んだ。

「けほっ、けほっ……
「大丈夫か、オロルン」
「大丈、ぶ、ちょっと粉を吸ってしまっただけだ」
「無茶をするからだ。遅れはとってしまったが、俺があんなものにやられるわけがないだろう」
「そうだよね……。でも、隊長があぶない!って思ったら体が勝手に動いていたんだ、ごめん」

勝手な行動を怒られたと思ったのか、フードから覗く耳までぺたんとしている。

「まったく……戻ったら救護班に診てもらえ。子株とはいえアビスの植物だ。変な影響があっては適わん」
「ひゃっ」

隊長は膝裏に手を入れてオロルンを軽々と抱えあげ、救護班の待つ仮設拠点へと急いだ。
これは、娯楽小説の本で見た「お姫様だっこ」とかいうものではないかと考えつつ、オロルンは咳が隊長にかからないよう、首元の布を口までたくし上げた。

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「空、いそいでこっちに来てくれ!」

仮設拠点に戻ると、空、パイモン、シロネンが現場を訪れていた。先に帰した5人は、救護テントに寝かされている。

「オロルンがアビスの魔物の胞子を浴びちまったらしいんだ!空の力でなんとかできないか?」

パイモンがおろおろしながら隊長に抱きかかえられたオロルンの周りを飛んでいる。

「大丈夫だ、パイモン。僕はなんともない、けほっ」
「抱えあげられながら言う台詞じゃないだろ!咳してるし!歩けないくらい弱ってるんじゃないのか?」
「いやこれは……隊長が下ろしてくれなくて」

やいのやいの騒ぐパイモンを無視して、隊長は空にオロルンの浄化を頼んだ。

「アビスの魔物から噴出された花粉を吸いこんでしまったのだ。頼めるか」

空はいつもより大分申し訳なさそうな声音の隊長に少しばかり驚いたが、顔には出さないように努めた。

「わかった、一旦オロルンを下ろしてあげて。椅子に座ってもらったほうが俺もやりやすいから」

腰掛けられそうな岩場にオロルンを下ろし、空が手をかざしてアビスの力を浄化する。かざした手に向けて暗いもやが吸われるが、それは一瞬で終わった。

「取り除いたけど、アビスの力は本当にわずかだけだったよ。咳はアビスの力というよりは、草元素の魔物そのものの花粉の影響かもしれない」
「けほっそれなら、少し安静にしてたら大丈夫だね。ミツムシの世話をしているときにトリックフラワーの粉を浴びた時も、けほっ、同じように咳き込んだけど、少ししたら治ったから」
「お前という奴は……トリックフラワーの花粉は属性によっては麻痺効果もあるんだぞ、少しは危機感を持て」

はは、と力なく笑ったオロルンに、遅れてやってきたシロネンが問いかける。

「体調はどう?横になるんだったらベッドもう一つ組み立てるけど」
「わざわざ組み立ててもらってまで、ベッドで横になるほどじゃない。家もそこまで遠くないから、僕は帰って休むよ」
「ならば俺が家まで連れて行こう。同行させた俺の責務だ」
「隊長にそこまで迷惑をかけるわけにはいかない。動けるから大丈夫」

岩から腰を上げて立ち上がろうとしたオロルンだったが、ふらとよろけて隊長に支えられた。

「大丈夫、ではないだろう」
「はは……

力なく笑うオロルンを見て、溜息をついた隊長は再度オロルンを抱えあげた。

「ちょっとまって、その抱え方はなんか恥ずかしい!降ろしてくれ!」

もがくオロルンを意に介さず、隊長は傷病テントの横に居たファデュイを呼びつけ、淡々と業務連絡をこなす。

「オロルンを自宅まで送る。この場の指揮はお前に任せる、負傷者が回復したら拠点復興を進めてくれ」

そう告げると隊長はすぐさまオロルンの家へと向かっていった。
隊長の姿が見えなくなったのを確認したシロネンは、ふと抱いた疑問を口にする。

「ねえパイっち、隊長ってあんな余裕なさげな人だったっけ?」
「え?普段となんにも変わらないようにみえたぞ?堅いやつだよなぁ」
「あー……、まぁ、いっか。そうだ、オロルンが持ってきてくれてたミツケーキがあるから、これ皆に配っちゃおうよ」
「おいらも食べたいぞ!甘い匂いの正体はそれだったんだな!」