箪笥や収納やあれやこれやをひっくり返しては天手古舞。天気の予報の進歩もむなしく、相も変わらずのんびり屋な人々は、突然の冷え込みにあくせくと衣替えにいそしんだ。
かれこれ時間が経って、町ゆく人々の装いもすっかり変わったころ。町はずれに活動拠点を置くとある芸術家たちも、あれやこれやと仕事が終わって、ようやく一区切りして帰って来ては、空の遠く遠くで見守る月と星々の下、あまりの寒さに身を震わせていた。仕事先で間に合わせにと購入した上着に腕を通し、絵師はしまい込んでいた暖房器具はどこだったかと押入れを探し、見つけ、ひょいと持ち上げては、居間にとんと置いた。
チチチチ、ボウ、と久方ぶりの音に、布団をかぶって身を寄せていた能楽師たちは歓喜の声を上げる。じきに暖かくなるだろうが、それにしても寒い。「ほれ、これでも飲んでおけ」と、厨房に立っていた雅楽師が人数分のホットミルクを食卓に置く。手に取れば、芯まで冷え切った体に温もりがよく染みわたる。口をつければ、けれど反射的に顔が離れてしまった。「…まだ熱い」、「あぁ、そりゃすまん」。そういって、能楽師たちと雅楽師は食卓を囲んでは、ぼんやりと現代的な火鉢と、それに灯った至極安全な炎を眺めていた。
コップのミルクがみるみる減って、部屋がすっかり暖まってきたころ、黒衣がちらりと部屋を覗く。「お風呂入れるよ」、と。「ほれ、一番風呂だ。行っておいで」。雅楽師がそう促せば、能楽師たちはわずかに残っていたミルクを急いで飲み干しては、わあわあとはしゃいで、風呂場へと向かっていった。いくつかの厚手の服を引っ張り出してきた絵師とすれ違い、能楽師たちの分を1回分手渡して、残りは居間に残った雅楽師と人形師へ。2人が衣服を整理する間に、働きづめだった絵師も食卓について、ミルクを一口。
「ん、旨いな」。そんな呟きに雅楽師がふと顔を綻ばせれば、「どうも」、と返す。絵師がかじかむ手を火鉢にかざしていれば、2人は見事な手際で、衣服たちはすでに準備万端といった様相であった。
窓の外は暗く、けれど、遠くの山々はまだ紅に染まっていたはずだが、もう直に雪が降りそうだ。「タイヤも早めに履き替えないとな」。絵師がまたぽつりと呟けば、「そうだなぁ」と雅楽師が返す。
冬間近。今日明日の忙しさに思いを馳せ、けれど今だけは、疲れた体を温もりで癒す。風呂から上がってくるのを待つ間、3人は苦笑してそう決め込んでいた。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.