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けろか
2024-11-23 22:16:07
2025文字
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竹くくワンドロワンライ「おとぎばなし」
竹くくワンドロワンライ「おとぎばなし」
黒猫の恩返し……なお話です🐱
昔々のあるところに、八左ヱ門という青年がおりました。
村外れの古びた小屋に独り住まい、狩りをして暮らしていました。とある理由から、彼は滅多に人と言葉を交わすことはありません。時折、村へ獲物の毛皮を売りに行く程度です。村人たちは彼のことを、明るい男だけれど、たまに獣のように目が光る不気味な男だと噂していました。
その年の冬はとりわけ寒かったそうな。湖面には白い氷が張り詰め、まるで鏡のように月を映し、寒風が枯れ木の枝を軋ませては雪を舞い上げていました。
そんなある夜のこと。八左ヱ門が灯りを消そうとしたとき、風の音に紛れて微かな鳴き声が聞こえてきました。戸を開けると、軒先に黒猫が倒れております。月光に照らされた毛並みは烏の羽のように艶やかで、人の子のような賢そうな瞳をしています。後ろ足を痛めたのか、雪の上には点々と血の跡が染みていました。このままでは凍え死んでしまうことでしょう。
「うちで休んでいくか? 気が済むまで、いくらでもいればいい」
そう言って八左ヱ門が黒猫を抱き上げたとき、不思議なことに、猫は少しも暴れません。ただ、底の深い黒い瞳で彼をじっと見つめておりました。
次の朝。軒先の氷柱が朝日に溶けてぽたぽたと雫を落としていました。
昨夜、大事に抱いて眠った黒猫の姿は消えておりました。不思議に思う八左ヱ門が戸を叩く音に気付きます。開けてみれば、そこには端正な顔立ちの青年が立っておりました。
雪のように白い肌に墨を流したような黒髪。切れ長の瞳はどこまでも黒く、光が差すと細く縦に伸びて見えるようです。着物の襟元から覗く首筋が、どこか艶めいて見えます。
「兵助と申します。道に迷ってしまいまして
……
もし差し支えなければ、しばしの間、お世話になれませんでしょうか」
澄んだ声は、冬の朝日のように清らかでした。
暮らしに慣れるにつれ、兵助の手先の器用さが見えてまいりました。細い指先が針を持てば、破れた着物があっという間に繕われ、大豆を挽けば、まるで魔法のように真っ白な豆腐が出来上がります。
八左ヱ門の着物を繕ってくれたり、作り立ての豆腐を振る舞ってくれたり。豆腐を頬張る八左ヱ門を、兵助はどこか嬉しそうに眺めるのでした。村でも「八左ヱ門さんとこの豆腐は格別だ」と評判になり始めましたが、
「村なんかに売らなくていい。俺だけに作ってくれ」
そう言う八左ヱ門に、兵助は頬を染めて頷くのでした。
ある冬の夜のこと。兵助がいつものように繕い物をしておりました。月明かりに照らされた指先が、八左ヱ門には雪のように透き通って見えます。
「痛っ」
針が指を刺したのでしょう。真っ赤な血が滲みます。
「大丈夫か」
心配そうに覗き込む八左ヱ門の瞳が、不意に妖しい色を帯びました。獣の本能が目覚めたように、思わず兵助の指を口に含み、舌で血を舐め取ります。
「あ
……
」
そのとき。兵助の頭の上に黒い猫の耳がぴょこんと生えました。つんと尖ったその耳は、兵助の動揺を表すかのようにぴくぴくと揺れています。
「も、もう、ここにはいられない!」
兵助は耳を押さえ、慌ててその場を離れようとしました。しかし、その背中に八左ヱ門の手が伸びます。大きな手が腰に回り、逃げるのをやんわりと、でも力強く止めました。
「気づいてたよ。ずっとな。
……
俺だって人間じゃないからな」
兵助がぎょっとして振り返ると、月に照らされた八左ヱ門の影が、ゆらりと揺れていました。その影は狼の形
――
いや、確かに狼そのものでした。大きく尖った耳、力強い前脚のシルエット、そして長い尾。
兵助は息を呑みました。自分の秘密が暴かれたと思った矢先に、相手の秘密をも知ってしまったのです。これ以上ないくらい尻尾を膨らませた兵助を見て、八左ヱ門はにっこりと微笑みました。
「お前が猫なら、俺は狼だ。お似合いだろ?」
その言葉に、兵助は思わず吹き出しました。お互いの“化けの皮”が剥がれたというのに、それがどこかおかしくて、愛おしくて、二人は笑い合いました。
笑いが静まる頃、八左ヱ門がふと兵助の顎を軽く持ち上げました。ふわりと黒い耳が動き、頬が熱を帯びます。そして、月明かりの下で二人の唇は優しく重なりました。
それ以来、村はずれの古い屋敷からは時折、猫の甘えた声と狼の低い笑い声が聞こえてくるといいます。昼は豆腐を作り、夜は愛の営みが聞こえる暮らしは、今も続いているとか、いないとか
――
。
「こ、こんな破廉恥な展開、恥ずかしいぃ!尾浜勘右衛門くん、“お話を作る授業”補習です
……
!」
「そ、そんなあ!これで破廉恥なんですか松千代先生
……
」
「そういえば鉢屋くんも補習ですよ。一緒に受けてくださいね」
「え?あいつが?」
「赤ずきんちゃんで狼の竹谷くんが赤ずきんちゃん
――
誰とは言いませんが。を食べちゃうところが破廉恥だったので補習です
……
」
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