果汁100%
2024-11-23 03:20:30
1630文字
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夏まつり

2024/08/23あいあまワンライ『祭り』『熱』
天ふみ


 それは、ふみやの要望で新しくできた夜パフェ専門店へと出かけた日。カードを使うと際限がないだろうことを見越して、天彦は黒いそれを留守番させると決めた。代わりに、普段はあまり持ち歩かない現金を、多めに持っていくことにする。自身が最年少の子に甘く、さらに恋人ともなればそれ以上に甘いことはよく分かっていた。こうでもしないと、破産しかねない。おそらくは、この現金も大半がパフェに変わることだろう。
 果たしてその読みは大正解で、何枚もあったお札はあっという間にいくらかの小銭へと変わる。ふみやは案の定、財布を忘れていた。わざとだと疑念を抱く反面、ミステリアスな青年の恋人対応には相応しい対価だと思ってしまうから恐ろしい。一歩間違えればパパ活である。それでも、二人にとってはひとつの愛の形であった。

 さて、たっぷり甘味を堪能したふみやと、夢中でパフェを頬張るふみやを堪能した天彦はご機嫌で帰路につく。すると、二人以上に浮かれて、文字通りお祭り騒ぎと化した大通りがあった。何のための祭りかもわからぬまま、青年はふらりと屋台に吸い込まれていく。かき氷にりんご飴、鈴カステラにチョコバナナ。甘いものはいくらでもあった。天彦は懐事情に不安を覚えつつも、はぐれないように追いかける。カードだったら立ち寄れなかったな、なんてうきうきした顔で言う恋人には適わなかった。
 甘いものにつられた恋人は、パフェで相当腹が膨れていたらしく存外すぐに食べ歩きを終えた。最後に、と選んだ冷やしパインを齧るふみやは、少し離れた神社を目指してだらだらと歩を進める。通りすがりのカップルが花火の話をしていたのだ。見て帰らない手はないと言い放つ青年は、見た目にそぐわぬお祭り男である。そんなところもセクシー、とすぐさま立ち寄れる場所を探した結果、小さな神社がヒットしたのだった。

 熱気に包まれた大通りを抜けて辿り着いたそこは、なかなかの穴場であった。生ぬるい、と言うにはまだ少し暑い風を浴びながら、爆音で浮かぶ花々をぼんやりと眺める。天彦はふと、同じ風景があったことを思い出した。海に行って、浴衣を着て、それから。まだ新しい記憶の糸を手繰るうち、なにかふみやに伝えたい、と甘酸っぱい気持ちになって。花火を見つめたまま呼びかける。
「ふみやさん。僕ね、お祭りに来ても思い出すことなんかなかったんです。……でも、今は。去年みなさんで来たことを、思い出します」
 その低くやわらかな声を逃さぬよう、ふみやは隣の恋人へ意識を向けた。空を見上げて穏やかに微笑む天彦の顔が、花火に照らされる。七人での日々が積み重なり、この男の記憶の一部になっている。きっと他の五人も同じだろう。彼らを集めた青年は、そのことに確かな喜びを感じながら、つられて再び空へと視線を移す。しばらく無言で眺めていると、ラストスパートとばかりに大輪の花が次々と咲き誇って。もはや、互いの声も聞こえるかどうか、といったところだった。そんな色とりどりの光を見つめながら、ふみやはおもむろに口を開く。
「来年は、今年のことも思い出してよ」
 届かなくていいと思った。きっとまた、自分の方から今日のことを口にするだろう、と。敢えて、普段通りの声色で投げかける。返事は無かった。それでよかった。
 ややあって、どうやら最後の一発を終えたらしい空は静けさを取り戻す。屋台のものか、花火の名残かもわからない煙が上がって、まるで夜明けのように白んでいた。こうなると少し寂しいもので、ふみやはもう一度屋台で甘いものでも食べようか、と思いを巡らせながらふと天彦へ視線を投げる。
 天彦の口元は、満足気に弧を描いていた。ねむたいぶどう飴のような瞳に、きっと花火よりも華やかな笑みを刻みつける。そうして、ふみやの耳へ唇を寄せて。幸せな、幸せな声音で愛を語るおとなは、この瞬間だれよりも祭りを満喫していた。

「天彦、今日を忘れられそうにないです!」