ぽたり。口の端に落ちてきたしずくを、ふみやはつい舐め取った。美味くはない。たとえ恋人のものであろうとも、汗は汗だ。少しだけ塩の味がする生あたたかいそれを、とろみの増した己の唾液に混ぜて飲み下す。
情事の真っ最中、と言うにはいささか落ち着いた、二戦目の終わり。快楽に呑まれてぼんやりとしたまま、崩れて下りた黒髪越しに覆い被さっている巨躯を見上げた。今しがた飲み込んだものを、鍛えられた胴や腕、整った顔にまで玉のように浮かべて熱い呼気を漏らす天彦。その姿はけものに似ている。しかしなぜだか今夜のふみやは、あおい瞳へ釘付けになった。ぎらぎらとしている。昼間は、青空の。それも、こんなにひどく照りつけない時期の、やわらかな空の色をしていると思うのに。自分を抱き潰す男の瞳は、太陽を反射する眩しさと、流される恐ろしさを併せ持つ海に似ていた。
ふみやはほんの少し唇を寄せて、天彦の頬をつたう汗を拭った。口内に広がる味は、やはり美味くはない。それでもいいと思った。今夜はこの男が海に見える日だから。ちょっと塩辛いくらいが、ちょうどいい。ついでに、ハウスのみんなで青の中に落ちた、とあるサイクリング日和のことも思い出す。あのときの、みんなの叫び声と言ったら。にまにまと楽しげに口角を上げる姿は、もうすっかりと今の状況を忘れているようだった。そんな油断をするものだから、ふみやはまた、海にさらわれてしまう。
「おや。考えごとですか? いけない坊やだ。貴方が溺れていいのは僕だけ……ね、ふみやさん」
ゆったりと、けれど決して逃がさぬように。甘い律動が再び襲いくる。それは、二戦を乗りきった身体にはつらいほど、気持ちのいい波をもたらした。好いた男を海に重ねるだなんて詩的な気分に浸る青年は、今やどっぷりと快楽の海に浸らされて。シーツを懸命に泳いでも、逃げ場など無かった。知性も理性も藻屑となって、ふみやはまあるく吼える。
「ぇ、っちが、おまえの゙……ッぉ、お゙ぅ……っふ♡ ぁ、あ……ぃ゙、っぐ……うぅ゙……〜〜ッ♡♡」
そうして深い、深い絶頂へ堕ちて。しあわせのてっぺんで息継ぎをするふみやに、ちいさなふたつの海は。愛を湛えて、ほほえんだ。
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