スサ
2024-11-22 23:13:33
1978文字
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【ヴィク勇】サプライズ

二人とも引退後で、日本で一緒に暮らしています。ヴィクトルが振付けのため外国に行ってしまったその間のお留守番勇利君と、まんまとしてやられた元コーチの話です。

 振付を担当する選手がいる北米にヴィクトルが旅立って1週間。数人いるからその期間に決まったリンクに集まってもらうらしい。勇利も来てくれない?と誘われていたものの、勇利は勇利で日本ですることがあったので、待ってるよと断ったのだ。とはいえ、補助的に勇利も振付を見てきた選手もいて、その場合はタブレットを使って練習を見たりもしたため、頻繁に連絡をとっているようなところもあった。
 そんな選手達の中には毎シーズン完成に時間がかかる男子選手がいて、俺が帰るのが早いかあの子が掴むのが早いかスリリングだよ、と数日前の通話でヴィクトルは嘆いていた。ありえない話でもなく、勇利も苦笑するしかない。
 振付が覚えられない──とはまた違うのだけれど、気がつくと少し違う動きが入ったり、逆に削っていたりするのに自覚がないというか。天真爛漫な性格で、ヴィクトルと揃うと意気投合していきなりプランが変わったりもするのでなかなか完成しなかったりもするのを横で勇利も見たことがある。楽しそうで止められない。ただコーチは青い顔をしていたりもしたが。
 予定ではそろそろ勇利のところに戻ってくるはずだが、果たしてどうなるか。
 とりあえず無事に戻ってきてくれればそれでいいんだけど、勇利はそう呟き、最近新しく家族として迎えたレトリバーの頭を撫でた。
 とりあえずSNSの投稿からヴィクトルの動向を探る。元気にやっているようでほっとする。と、思ったら、1日で消える方で「勇利、投稿ないよ。何してるかわからないじゃないか」と直接名指しで呼びかけられていて、コーヒーを吹き出しかけた。
っもう、何やってるのさ!」
 思わずぼやきつつ、しかし顔は笑ってしまった。消えてしまうところにこんなことを残して、もし勇利が気づかなかったらどうする気だったのだろう?
 ひとしきり笑った後、さてどうしようかと考える。
 答えが出るまではさほどもかからなかった。

 かつて勇利が現役選手だった時、ファンによる愛がそれはそれは重く熱い愛がこもった贈り物としてヴィクトルを模した手作りぬいぐるみが贈られることがよくあった。なにしろ勇利の食いつきが違う。ヴィクトルぬいは全部自分が回収するんだとばかりなかなかリンクサイドに戻らない勇利に焦れたコーチが革靴のままリンクに飛び出しかけたのも今となっては愉快なエピソードである(それを見てユーリが怒鳴ったことから勇利が慌てて戻ったため、ヴィクトルコーチ革靴でリンクイン!は発生しなかった)。
 とにかくそんなわけで勇利は様々な形で贈られたヴィクトルぬいぐるみをきちんと所持、保管していた。他のものは寄付などの形で手放すこともあったが、ヴィクトルぬいぐるみやヴィクトルドールなどは手放せず、たまにヴィクトル本人と喧嘩になる。本人がいるのにいらないだろう、と。なお、この世のヴィクトルというヴィクトルは僕のものだから嫌です、という勇利の冷静なのか暴走しているのかわからない台詞に大体敗北するのだが
 引っ張り出したBIGヴィクトルコーチぬいぐるみ(ブルーグレイトレンチコートの姿)をソファの半分に座らせ、その前に雪の結晶柄がうっすら入った薄氷色のペアのマグカップ。中にはきちんと湯気をたてる紅茶を淹れて。
 コーチぬいぐるみの横に座り、少し悩んだ後腕を組んだ勇利はめったに見せない笑顔を作り何枚か自撮りをする。愛犬達が勇利の膝やヴィクトルコーチぬいぐるみの横に顔を出したものも数枚。
 写真の出来を確かめながら、よし、と勇利は満足げに頷いた。

「?!??」
 あわよくば連絡不精なパートナーが何かメッセージの一つでも送ってきてくれやしまいかと思ったヴィクトルだったが、勇利の投稿に度肝を抜かれた。
 珍しく眼鏡を外し、髪も少し整え、服は少し前にヴィクトルが贈った薄手の鮮やかなブルーのニット。とてもかわいい。麗しい。膝に頭を載せる愛犬もかわいい。
まだそれ持ってたのか!」
 ヴィクトルは頭をかき回した。
 微笑んだ勇利に腕を組まれているのは、試合かアイスショーかで贈られたBIGヴィクトルコーチぬいぐるみ(手作り)(非売品)(すごくできがいいのでプロの手によるものではないかとヴィクトルは疑っている)。
 ベンチで顔を覆ってうなだれるヴィクトルを生徒たちが面白がって撮ったことで、勇利のいたずらとその結果はまたたく間にワールドワイドウェブの海を駆け巡ることとなった。
 最終的には、同じ服装、同じシチュエーションでぬいぐるみではなく本物のヴィクトルと腕を組んで座っている勇利のツーショットが投稿されることでこの件は幕を閉じた。

 勇利くん今でもヴィクトルぬい持ってるんだねというファン達の何とも言えないうめき声を電子の海の片隅に生んで。