こゆ
2024-11-22 21:58:09
1529文字
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いっこちがいのおいかけっこ

スワロー時代のペンシャチ未満
ペンギン→(←)シャチ
15・16くらいでヴォルフの家でやっと暖かな日常、普通の暮らしを手に入れたふたりのモダモダ期というか逃げるシャチと振り切っちゃったペンギンの話。



※ この作品は無断転載禁止AI学習禁止です(こゆ)




いっこちがいのおいかけっこ


シャチは逃げる様にして、割り当てられた部屋に入った。こんなことしても、追いかけて来てるやつも同室なので意味はない。
でも、今顔を見られたくはなくて。
部屋に戻る途中でサングラスを落としたから。この無防備な顔をあの眼で覗かれたくないと、シャチは頑なに下を向いたまま走った。
追いかけてきたペンギンは、閉められる扉をすんでのところで止めた。シャチは一瞬で閉めることを諦めて、直ぐに無言で手を引く。ここで暴れても意味はない。逃げ出したいけど、逃げる場所もない。
部屋の奥に進み、壁に追い詰められて、下を向く。ほんの少しだけペンギンの方が高い背丈が、今日はやけにその差を感じる。 

「シャチ、こっち見て」
……

ペンギンの手が肩に触れるが、シャチは腕で顔を隠したまま黙っている。結ばれた唇だけが見えた。ペンギンは吸い寄せられるようにして、身体を乗り出す。
「顔上げねーとキスすんぞ」
シャチは息を飲んだ。唇が僅かに開き、そして閉じた。腕は震えている。ペンギンはその腕を引いて、その頑なな唇に口付けた。
押し付けて、離れる。反射の様に開いた唇に、舌を捻じ込んだ。

「っ……ン」

腕が外れて、そのままシャチの肩を掴んだ。反対の手は手首を捕まえて、そのまま壁に寄りかかっていたシャチはずずっと床に座り込む。ジタバタと捩り逃げようとする身体を押さえつけて、好きに咥内を舐め回した。

「っ…………は、んっ……
……ふっ、」 

唇を離しても、直ぐに塞ぎ直す。繰り返すと次第に抵抗は消えた。水音と、衣擦れの音。最後に舌を吸って、解放する。シャチの身体はくたりと力を無くして、大きく胸を上下させていた。
のぼせ上がった赤い顔に、汗で前髪が張り付いている。瞳が涙で揺れていて、それを見てシャチはいくつになっても泣き虫だな、とペンギンは思った。
やってしまったと、その感情の方が後から来た。もっと大事にできた筈なのに。シャチは顔を背けて、黙ったままだ。

「シャチ、ごめ——
「謝んな」

反射の様な早さだった。
さっきまで、逃げる回っていたのはシャチの方なのに。続けて謝んな……と、シャチはペンギンの身体の下で丸まって、啜り泣くような声音で言った。 

「シャチ」

シャチの涙がほろと溢れて、鼻梁を伝い、冷たい床に落ちた。この涙を止める術を、ペンギンは持たない。掴んだままだった手首をゆっくりと離すと、シャチはやっと自分の手首で涙を拭った。

「ペンギンは俺じゃないやつにしなよ」

それは、押し返すには説得力にやや欠けるとペンギンは感じた。

「もう、俺じゃなくてもいいだろ」

続けて放たれる言葉に、何を今更、と思った。
ペンギンはシャチの顎に触れ、強引に顔を上げさせた。濡れた瞳の美しさに、感動と同時に憐れみさえ浮かぶ。

「俺しか見えてないペンギンが怖い」

何ひとつ恐れることなど無いような声音で、真っ直ぐペンギンを見据えてシャチは言った。

「俺といたらペンギンおかしくなっちゃう」
「とっくにおかしいんだよ。俺も、……シャチも」

それこそ、今更な話だ。 

「シャチこそ、いい加減に腹を括れよ」

ペンギンは涙で濡れたシャチの顔を撫で、抱きとめた腕に力を込める。
シャチの揺らめく瞳に映るのは、ペンギンの苛烈な瞳。決して消えない、燃えるような執着の色。

それでも、シャチは抵抗したかった。
だって、そんなのだめだから。
世界で一番、普通に幸せになって欲しい相手だから。

……離せってば」
「おれは離すつもりないから、一生。諦めろ」