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残りの夜が来た
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スラダン
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雑な越野
仙越
初出・Webサイト「苦行クラブ」2014年
越野はしっかり者だと言われていて、彼自身もそう思っている節がある。しかし仙道からしてみれば、それは仙道という人間があっての相対的な話に過ぎない。しかも部活という極々、極々極々狭い範囲での話だ。
長年の付き合いの甲斐あり真理をついたと思ったが、福田の返事は
「おまえが言うな」
の一言だった。フォローとは言わないまでも同意くらいはと期待していたが、続く言葉は待てど暮らせど降りてこない。
「福田
…
それ真剣に検討しての返事?」
「
…
だから、おまえが言うな」
期末テスト後の球技大会はまもなく決勝を迎えようとしている。学年末ということも相まって盛り上がるポイントでは盛り上がっているのだろうが、顔がボランチっぽいという理由でサッカーチームに入れられた福田と例年通り身長を理由にバレーボールをやらされた仙道は、既に揃って敗退していた。感動のドラマは望めそうにないクラスの応援よりも部活連中の冷やかしにと二人でだらだら校内をうろついていたが、センターバック植草もさしたる活躍を見せずに敗退した今、元気に残っているのはよく叫ぶアタッカー越野だけだ。
体育館にはわんさか生徒が集まっていたが、仙道と福田は運良く舞台上にあぐらをかくことができた。福田が空になったいちごオレの紙パックを戦車の形に折っているので、仙道は「そういうの」と指をさした。「越野は絶対握りつぶす」
「
……
」
練習終了まであと3分、とホイッスルがなっている。ずいぶん気合の入っている越野がクラスメイトに何か指示を出している。もしかしたらキャプテンなのかもしれない。
福田は返事をしなかったが、仙道は続けた。
「酷い話がある」
「
……
」
先週の日曜のことだ。
釣りに行くと言うと、今まで特に興味を見せなかった越野が突如「俺もやりたい」と言い出した。初心者の越野のために仙道は予定を変更し、ちょっと投げればすぐ釣れるポイント行くことにした。釣り竿を2本、オキアミも大きいパックを買った。
…
買ったパックが大きすぎたのかもしれない。オキアミではなく虫にしておけばよかったのかも。
とにかく、すぐ釣れるからつける餌は少しでいいと仙道は確かに言った。それ以外の指示はしていない。それなのに、越野はものすごい量のオキアミを撒き散らすのだ。撒き餌だと。
「もう顰蹙もんだよ。顔見知りのおっちゃんもいたのに」
「
……
」
越野のチームは作戦会議を始めている。魚住が引退して平均身長のぐっと低くなったバスケ部だったが、クラスメイトに混じると越野も少しだけ背が高く見えた。
福田はあくびをする。
「まだある」
仙道のうちのベランダにはガジュマルが置いてある。部屋が殺風景だからとかつて女の子が置いていき、何故かそれをいたく気に入った越野が勝手に植え替えを繰り返してあっという間に太太と立派に育ったものだ。越野は来る度に水をやる。やるのは構わないのだが、彼は必ず裸足でベランダに出て、必ずそのまま部屋に入ってくる。
「床がジャリジャリだ、人のうちだと思って」
「
……
」
練習終了のホイッスル。コートに散らばっていた生徒は二つのラインになる。向い合って礼をすると、体育館中で声援が上がった。越野君!なんて女の子の声がする。
「越野君はトイレから出ても手洗わねえぞ~」
「
……
」
サーブが飛ぶ。
「風呂も2分半くらいだぞ~」
低い弧を描いた球がレシーブで垂直に浮き上がる。トス、駆けてくる越野、
「っしゃあ!!」
床を跳ねるボールと似たような動きで跳ね、越野は律儀に全員とハイタッチをした。開始直後にこれじゃあきっと、越野のクラスが勝ってしまう。キャプテン越野よ。打ち上げではあんたが主役のタスキでもかけるが良い。
その姿を想像してニヤリとすると、突如福田が長いため息をついた。いちごオレの戦車を手の中で弄びながら、彼は
「良かったな」
と言う。
「
…
何が?俺の話聞いてた?フクちゃんよ」
越野クラスのサーブ時にはそお~れ!と掛け声がする。優勝候補はギャラリーまで優秀だ。少し高いサーブが目の前を横切るのを仙道は目だけで追った。レシーブ、トス、アタック、レシーブ、トス、トス、
…
「丁度いい、お前と越野で」
再び越野のアタック。
「
…
満足か」
仙道は再びニヤリと笑い、手でメガホンを作ってきゃあと叫んだ。
「越野君!かっこいい~!」
「っせえな!!黙ってろ!!」
仙道の声援にも律儀に返してくる越野の声に重ねて、福田の再びのため息が聞こえた。
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