ortensia
2024-11-18 17:05:15
971文字
Public 傭リ
 

よーり。人体における個人の情報量の話。3

続きでも、続きじゃなくても。

 傭兵は絵を描くリッパーの顔ばかり見ていた目を、その仮面の先の画板に移した。
「普通そこに表情があるなら顔を見るべきだと言うおまえが、描いているのは顔ばかりではないように思えるが?」
「そもそも普通は絵を描いていたらその絵を見るもんなんですよ絵描きの顔じゃなくて。」
 傭兵の疑問に、筆を止めていたリッパーはそれを弄ぶように宙空でゆらりと動かした。
「確かに絵の題材として人物像は良いものだ、とても。しかし逆に情報量が多すぎて、顔を描いてしまうと見せたい情報を操作しづらい、という点がある。つまり顔さえ描いておけば、何かしら描いたものとして、容易く評価される、ということですが。」
「はは。酷評。」
「もっと暴論を差し上げます。顔はモチーフの時点で既に完成されてしまっているので、わざわざ絵にして描く必要がない。」
 言い捨てるとリッパーは描画を再開した。傭兵は笑い続けている。リッパーが今描いているのは「顔」だ。
「それとは逆の意味で、おまえの顔なんて、わざわざ筆を取って描くようなもんでもないですし。」
「酷え。」
 描きたくなる程美しいものではない。わざわざ美しく捏造して描きたくなるものでは、もっとない。
「だから顔以外いっぱい描いてくれんの?」
 リッパーが描いた傭兵は、今描いている顔の絵一つに限らず、色々な角度の色々な表情もあれば、そもそも顔以外の傭兵の人体部位を描いたものも多い。
「五体と称した段階でも一対四の割合なのだから、いっぱいになるのは道理では。」
 リッパーは傭兵を冷徹に見下ろした。
「そもそも別に、何処でもいい、その時の気まぐれです」
 リッパーはおどけるように小首を傾げた。それをわざとらしいと傭兵は思った。
「まあでも。」
 リッパーは傭兵の視線に応えて見詰め返すことなく、また直ぐに描画に戻った。その、気まぐれを描くために。
「おまえの体のどの部位だけを、例え欠片で受け取ったとしても、わたしならその情報だけでおまえだと分かるかもね。」
 リッパーは、と、と筆を画板に置いた。特定の場所に、緑色が付いた。
「例えば目玉一つでも。」
 それを見た傭兵は、顔の表情を和らげ、言った。
「目玉なんか最も遺り難い部位の一つだろ。」
 リッパーはそこからは口を利かず、二人の間には静かな絵の具の匂いが漂った。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。