ortensia
2024-11-10 16:48:40
1587文字
Public 傭リ
 

荘園から「帰れることになった」時空よーり。傭→リ。

どうしたら諦められるのか、そればかり考えていた。そしたら、このザマだ。

 荘園を後ろにして立った門前で交わした言葉は、実に他愛も無いものだった。
「え?この先のこと?……古巣に戻りますよ。元々わたし、師の代理のようなものだったので。……それがこんなゲームをさせられるなんて、確かに老体に鞭打つのも気の毒……いや、師よりも高齢者がいましたね……?」
 元来た場所に戻るのは当たり前でしょう?と言った調子でつらつらとお喋りなのっぽは、荘園暮らしの時と変わらず、自分の話したいことを勝手に話すだけ話して、さっさと出て行った。
 喋るならもっと有益な情報をくれれば良いのに、なんてその後ろ姿を恨みがましく思った後直ぐ、有益ってなんだ、誰の何のためのだ、と自問したことを、自分でも無意識の内にその感情を押さえ込んだことが、多分何かのきっかけになった。
 奴の言った古巣、それがロンドンを指すことは、もっと以前の全然別の会話から拾った情報から推理出来た。そんなこと、推察して自分はどうするつもりなのかと、また虚しく自問した。
 見えなくなった長身は、幾ら見ようとしたって無駄だ。自分も元の仕事に戻るとしよう。荘園程では無いにせよ、スリルを求めるならば、この生きかたしかない。これは諦念ではない、自分で、選んだことだ。
 荘園を前にそこで手を組んだ者達と別れてから、それ以前の生活にすっかり戻っていた。
 ただ、気持ちだけが、どうにも悪い。人格と言っても良いかも知れない。作戦任務の目的に合わせて自分の心算を切り替えることはこれ迄もあったが、あの荘園ではゲームの度にそれを切り替える必要がある時もあった。ただ、気持ちにしろ人格にしろ、上手く切り替えが効かない。
 リッパーのことだ。
 荘園にいた頃なら、ゲームの前に切り替えられていた。
 でも今は駄目だ。もう荘園はなくなったし、リッパー相手にゲームをすることも必要も無い。
 自分はまたリッパーとゲームがしたいと言うのだろうか、残酷でスリリングで無意味な、あのゲームを。
 けれどそれは二度と叶わない。ならば諦めなければ。
 諦めて、今の遣ることに励む。それは勿論、脱出ゲームなんかじゃ無い。スリルを確かに味わえているのに、こんなにも物足りない。空腹だ。
 どうしたものだろうと思ったところで、手段は諦めるしかないのだ。どう遣ったら諦められるのか、まだ、分からないけれど。もうずっと、分からない儘だけれど。
 そう、ずっと諦められないでいる。
 閉じた荘園の外で、これで終わりなんだ、と思ったその時から。終わりだと分かっているのに、その時からずっと諦められないでいる。
 諦めねば諦めねばと念い続けているのに、そう出来無い。
 寧ろずっとそう念い続けていることこそが、諦められていない証明になっている。
 そうだ。諦められないのだ。どうしても。
「なになになんです久方振りのお顔、背はお小さいようで、お変わりなく。」
「おまえが!」
「ほんとになに、いきなり顔を見せに来て、こちらの近くに寄る用事でも有ったんですか?それなのになんか怒ってるんです?低身長ネタ弄りなんて前からのことでしょう?」
 相変わらず自分の好き勝手喋ってやがる。
「おまえのことが!諦められなかった!」
 その相変わらずさに泣きそうだと思ってなって叫んだ。それが泣きそうなのを誤魔化したいからそうしたのか、そんなことは関係無く喉から這い出る儘に上げた声だったのか、自分でも分からなかった。
 自分自身ではそんなんだったのに、こんないきなりアトリエに現れた傍迷惑な招かれざる客を、追い遣ることもなく面白そうに眺めた男は、最初の内暫くはこちらの剣幕に気圧されていたくせに、一息つけば優しさなんか欠片も無い雑な仕草で頭を撫でて来て。
「諦めることに諦めが就いたんですね。」
 なんて、分かったように言った。
 ここがおれの諦念の墓標だ。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。