ortensia
2024-10-30 05:45:31
1249文字
Public 傭リ
 

夜這星よーり

よよよよばいじゃないです(どっちだよ)

 月も星も明るい夜だったが、リッパーにとってはそんなもの全部流れて行ってしまったかものであるかのように、なんだか晴れぬ気分だった。普通、流れ星と言えばひとは喜ぶものだろうが、その夜のリッパーは兎に角面を俯けて、廊下に落ちる明かりと暗がりしか見ていなかった。
 訪ねるなんて殊勝なものではなく、這入るつもりで辿った末の扉は、既に開いていた。例え鍵が掛かっていても入る手段はあるが、薄く開いたそこが、通り抜けられる厚さだったので、その儘入った。その後閉めた。
 部屋のサバイバーはいつからか知らないがとっくに身を起こして寝台の上からこちらを見ていた。
「どうした。」
 静かな声には答えずにするすると近付き、寝台のそばに膝を突いて男を見上げた。
 その一見従順そうな態度に男は驚いたようだったが、それが顔に出ることは一切なかった。リッパーはその傭兵の目からその一連を読み取った。目に星が流れていなくても、それくらいの心象風景の流れは分かる。
 リッパーは顔の方向を傭兵に向けた儘、傭兵の掛け布団の上に伏せた。上体だけを起こした自分の膝元にまるで懐くようなリッパーの様子を、傭兵は月のように見下ろしていた。つまり何もしなかった。
 リッパーはそこで右手を持ち上げ傭兵に触れようとして、手前でやめて、腕を落とした。落ちたそれと上体は、揃って傭兵の膝の上に、布団越しに確かな重力を伴って乗った。
 だから傭兵はそれを拾った。リッパーは自分の手を傭兵が掬ったことを意外に思うと同時に、確かに内心をほくそ笑ませて自分の思惑通りの展開にことが運んだ結果に満足した。
 優しさと呼ぶような軽さはない。だから窮屈なのだ、ひたすらに。他の人間達にはそう思わせる。けれど本当はそれで誰よりも己を縛り付けている定められた流星。
 まだ燃え尽きはしないか。
 ならば、だから利用出来るのだ。
 リッパーは自分が甘えた態度を取って、それがほんのポーズでも、それを軽く見れない傭兵を分かっていたし、傭兵自身にも自覚があった。だから人と距離を縮めたがらない。
 リッパーはそこ迄分かってて、傭兵はそれも分かってて、いたちごっこだ。ごっこで互いに擦れ合って、その儘燃えるのかも。
「上がって来ないのか?」
 隣、と、傭兵はいつ迄も床に座るリッパーを気にした。
 リッパーは仮面を布団に擦り付けながら、まだいい、と言った。
 リッパーがそうしている時間が長引く程、傭兵は甘くなる。反対に焦りを見せる傭兵が心配しているのがリッパーなのか、傭兵自身なのか、もう混ざり合って分からない。
「よく起きていましたね?」
 リッパーが見上げながら言ったことに、傭兵は少し思案するような目をした後、またリッパーを見下ろした。降り注ぐのは、何も星ばかりではない。
「呼ばい星、かな。」
 リッパーは心外だと思った。甘えては見せているが、甘えた声など出していない。
 だから漸く腰を上げて、寝台に上がり込んだ。
 傭兵は、星が笑うように声を上げた。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。