その任務は、既に制圧した現地の住人を管理することだった。つまり暴動が起こらないように牽制し、それでも何かあれば鎮圧する、そのための武力と兵士だった。それで減って行く人数を数える。そういう管理だ。
稀有だと思うかもしれないが、そんな中でも新しい命というのは生まれるもので、個人的にはそれを歓迎する気持ちだ。赤子に罪はないのだから。だから住人の数は、何も減るばかりではない。
現地住民の管理業務中、こんな仕事はつまらないと血の気の多い他の傭兵もいる。そんな連中が現地の集落を彷徨いてサボってる様子も多々見掛ける。
この仕事に来る前に散々耳に焼き付けた相手の笑い声とは違う、下卑た笑いに思わず、程々にしとけよ、なんてあくまでも軽い調子を装った声掛ける。そんなことで連中がどうにかなる筈もなく、任務に黙って従事しているこちらのことも、つまらない奴だと見下していることは分かっているのだから。
ただ、そんな連中が出て来た場所が、酒屋でも床屋でもない、寂れた民家だったのが気になった。
連中が余計な苦言を呈したこちらに構うことなく、どこかばたついた様子で出て来たことも、不可解だった。
その家は、明らかに今も人の暮らしている気配だけはあるのに、息遣いさえ顰めたような静けさで、こちらもそっと扉から入った。
戦地であったことも相俟って、汚れて暗いところだった。金や物資が無い状況でも改善に励んだ様子が見られないのは、その気力すら無いからなのか。
その中を進むことは、息を殺すことに慣れた自分ですら息苦しく感じるような気がした。
その奥で、女が倒れていた。
容体を診る前に、あれは死んでいるものだと思った。
そして彼女をそっと取り囲む子供達。数が多い。
待て、覚えの無い顔触れに、数えている住人の子供の数に合わない。
子供達の顔は、皆似ているようで似ていない。他の子供が抱えている細腕の中には、まだ皮膚の赤い赤子も多数いる。なのに出生登録を受けていない。この人数の子供全てをこの女一人が生んだのか?産ませたのは?さっき出て来た兵士達は?その中の男には一般の住民もいなかったか?
子供達はみんな、その姿を目にして尚、静か過ぎる息遣いで生きていた。
自分の脳裏で言い聞かせる、吐くな。自分の脳裏で言い聞かせる、母の手を思い出すな。自分の脳裏で言い聞かせる、妹の目を思い出すな。自分の脳裏で言い聞かせる、ただ冷たいだけの任務内容を思い出せ。
子供達から、温度を感じてはいけない。
「なあ。これからのことで、おれに提案があるんだが。」
色々ふらふらと傭兵をやって来た身だ、それで多少のツテはある。
どうせ数にされなかった人間達だ。いなくなっても問題ない。
連絡して車を回して来た退役軍人のお貴族様に子供達を引き渡し、探偵の知り合いにも話をしておく。自分でも幾つか孤児院を知っているが、この人数なら新しく孤児院を開いたほうが、おそらく早い。自分ではその方法は分からないが。だからこそ人に任せるのだ。押し付けるとも言う。
なんにせよこちらの任務ではない。
そうして最近で一番気分の悪い任務を終えて帰宅する。
顔を合わせれば、仮面のツラが口を吊り上げる。
「おやまあ、酷いサマ。」
思わず駆け寄って抱き締めた。
「なあに。」
「おまえは冷たいな。」
冷たい眼差しだ。
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