ortensia
2024-10-09 08:57:32
1667文字
Public 傭リ
 

現パロ寄りよーり。これは洋琴が弾ける傭。ぴあのはさんでいちゃついてるだけ()。


 クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ。
 何故おまえの家なんかにグランドピアノがあるんです。知らねえよ最初からあったんだよ。そもそもこの男は家を報酬として受け取ったと言うのだから、そこから既に話がおかしい。更には弾ける上に調律も自分で覚えたと宣うので、勤勉なことである。
 家を受け取ったタイミングで、傭兵はその仕事を上がった。
 リッパーが、根無し草がどういった風の吹き回しだと揶揄えば、だからだ、と返って来た。全く意味が分からない。いつもおまえのアトリエに世話んなってるんじゃ悪いだろ、と肩を竦めて、今度はおまえがおれのところに来い、とは。殊勝な態度を取るなら最後までそうしろ。
 ピアノのある家は、リッパーのアトリエがどちらかというと都心に位置するのに対し、もう一回り田舎にあった。耳を澄ませば静かなもので、かといってピアノを鳴らしても誰も文句は言わない。そんな場所。
 ピアノのある部屋はその分広く取ってあり、部屋の中で反響する音は壁に跳ね返って戻って来る。
 リッパーは、傭兵が奏でるピアノ本体から聞こえる音と、じわりと滲むように響く音の、二種類をぼんやりと聞いていた。傭兵が誘ったように、まんまとここへ脚を運んだというわけだ。
 リッパーはピアノを弾く男の背に、自分のそれを合わせるように凭せ掛けていた。当然弾き難いわけだが、傭兵は気にせず文句の一つも言わなかった。だからピアノの前には、おかしなことに前後に椅子が二つある。
 傭兵の鍵盤は力強い。引き金でも引いているかのように衝撃的で、火薬が弾けるようだ。
 ぱちぱちと火花が上がるのを幻視する度に、リッパーの肩が小さく跳ねるのを、背凭れにされている傭兵も当然気付いていた。
 手を止めてどうしたと問いかけても、愚図るように首を横に振るだけで手を止めたことを咎めるので、変に刺激を返さずに、今では傭兵は、背中に懐く震えを感じながら、音を奏で続ける。その度に身悶えする冷たい体温に、傭兵は指が滑らないように深く沈み込ませる。背後に意識を向け過ぎてしまえば、また文句を斬り付けられるだろうから。
 普段と言えばひとりで喧々囂々としているのは専らリッパーのほうであり、そんなことを当人に言えば途端に侃々諤々とするものだが、今はただいじらしい。
 傭兵が指で弾いているのは、確かに象牙の鍵盤なのに、リッパーは自分の心臓を直接叩かれているようだった。
 だからこんなにも、急き立てられるように昂りを覚える。
 盛り上がりを見せる曲調に同調しているのか、リッパーは頭を傭兵の首筋に引っ掛けて、いっそ攻撃的とも思える力で叩かれる鍵盤を眺めている。それで上がる音が透き通っているものだから、リッパーは不思議に思って眺めていたし、傭兵は後ろの男のようだと思った。
 揺れる傭兵の首筋に当たるリッパーの吐息も一緒になって揺れる。というか、はっきりと吐息だと分かるくらいにリッパーから息を感じることがそもそも珍しかった。傭兵の鍵盤を叩く指に一層力が籠る。けれど次の旋律では細やかなものに変わるから、リッパーの体もか細く震える。
 どんなに強く叩こうと、どんなに早く動かそうと、上がる音は喜んでいるように聞こえる。
 楽器を弾くのはなかなかに重労働だ。それだけなのかは知れない汗が傭兵の首をなぞれば、それよりも確かな質量のものが汗の上から首筋を舐めた。
 傭兵は肩肘が張らないように気を配りながら動かした。もうそろそろ、逆に力を抜かなければならない。何故なら曲が終盤だからだ。
「あ。」
 置いた指を軽く上げた最後の音よりも、リッパーの吐息から生まれた声のほうが大きかった。
 大人しく弾き終えてもう揺れることのない傭兵の肩がゆさゆさと揺さぶられるのは、凭れたリッパーが大きく息を荒げているからだ。
 手を膝の上に置いた傭兵は、濡れた首を気にしながらも、いつも、暫くは振り返らずにそうしている。傭兵は自分が弾く楽器の音よりもいつもそれを聞いている。
 実に乱れた十二平均律だ。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。