浮上した意識が捉えたのは、上がった記憶のない寝台の上と、その次にそのそばからこちらを見下ろす双つの緑色。良く寝た。目も気配も静かな男は何も言わなかったが、その身の内からはさざめきを感じた。
「こちらへ来なさい。」
目覚めの挨拶も互いになしに体を起こしながら小男を呼べば、怪訝そうに口を薄く開けた男は、にじり寄るようにして身を屈めて来た。
「もっとです。」
いよいよ男が首を傾げて動かなくなったので、仕方なく腕を掴みながら背を押して促した。男がこちらの体ごと寝台の上に乗り上げ、体重を寝台のみに掛かるように腰を浮かせて腿を跨いで膝を突いた。
「わたしに寝ろと言うくせに、寝たらおまえは寝ないの」
「……おれが寝てる時におまえが寝ないから」
生意気に口答えして来る。あまり覚えがないが、確か日付が変わって暫くしてから入眠して、今はおそらく昼過ぎだ。それがこの男の眠っていない時間だ。夜を超過している。
右手で初めは男の目元をなぞっていたが、それを下ろして腹を撫でた。
「お腹空いてるんじゃありませんか、おまえのことだから?」
「……食べたよ?」
はて。
「おまえが食べても食べなくても、わたしはわたしの好きな時間に起きます。」
「……知ってる。」
細まった目は睨み付けるようだ。
「おまえこそ。食べたかどうかだの、おれが寝たか寝てないか分かるのかよ。」
おや。
「何を言っているんです、そんな眠たげな目をして、直ぐに分かりますよ。すけべですもん。」
「は!?」
言って直ぐ男の腰を下ろさせ左手で押さえ付ける。
「食べたんならおまえ、このまま寝ちゃっても平気でしょう?」
警戒して下手に動けない儘睡眠不足の目を白黒させる男のベルトを緩めるのは、寝心地を良くしてやろうという親切心からしかない。勿論だとも。
男を横たえながらまた腹を撫でればくすぐったそうにぐつぐつと身をよじって震えた。
「……お、い。」
「ふふ。気持ち良くて眠れそうでしょう?夢の中まで気持ち良くしてあげます。」
「よせ。起きた時空腹とは別の意味で平気じゃない……。」
言い合いをしていても男は警戒とは違った理由で充分な抵抗も出来ない中、その体はゆったりとした呼吸に変わって行き、細めた目で見詰めた儘薄い息を吐いたのち、すっと全身の力を抜き、寝入った。
それを直ぐそばで見届け、満足してひとり身を起こす。
見下ろした男に向けて、つい笑みが浮かぶ。
「死んだみたい。」
良く寝たおかげか、気分がすこぶる良かった。
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