ortensia
2024-09-11 16:21:18
4363文字
Public その他
 

上忍ifカカオビ。平和。かかしせんせえがざんねん。

医療忍者サクラちゃんが出て来る。

 いつも棒付きの飴を咥えているオビトには、飴係りがいる。といっても、オビトがそう頼んだわけではなく、オビト自身不思議に思っている。なので自主的に係り活動をしている相手に、カカシに、オビトは訊ねたことがある。
「オビトがお腹空かせて泣いちゃわないようにね。」
……兵糧丸あるけど」
「兵糧丸不味いから嫌いなんでしょ?っていうかお腹空かせたら本当に泣いちゃうの?」
「不味くてもちゃんと食うし!腹減っても泣かねえし!正直、兵糧丸食ったほうが泣きそうになる。」
 確かに空腹は悲しい気持ちになる。しかし自分は忍者なのだし、兵糧丸もあるし、兵糧丸不味いけど、涙が滲む程不味いけど。
……ならどっちにしろ、あったほうが良いでしょ。」
 クールに息をついて、尚飴を差し出して来るカカシに、オビトは結局それを受け取る。
 その飴は、オビトが好んで自分でも購入することのある商品だ。
 オビトが飴に手を伸ばすと、それより先にカカシがオビトの手を取り、そこに飴をしっかり受け渡す。
「オビトはドジだからね。取り落とさないようにしっかり持ってよね。」
 さっきからコケ落としてくれるのはカカシのほうだった。
「飴くらいなら、オビトの荷物持ち、やってあげるよ。お前いつもお年寄りの荷物持ちしてるでしょ、それと一緒。」
 カカシ本人が言うには、荷物持ちらしいけれど。オビトには飴係りがいる。オビトが中忍の頃からだ。

 一つの大きな争いが収まるくらいの月日が経った今も、その係り活動は変わらなかった。

 飴を舐め終わったオビトが口から紙製の棒を抜き出して、宙に放ったそれを火遁で消した。忍術は安易に使うものではないが、困っている人に簡単に手を貸すオビトには、こういうところがある。
 行動原理の由来を分かっているカカシは、だから軽率だと口を出せない。カカシはそれをオビトの美徳と感じるためだ。躊躇いなく人に手を貸すオビトに、自然に忍術を扱って見せるオビトに、憧憬すら覚えていた。
 カカシはオビトの飴を舐めている姿も好きだった。口から突き出た細い棒がぴょこぴょこ動いているのを見ると、胸の辺りがじんわりあたたかくなる。食べ始めで、飴に口の中から頬の内側を押されて、外側に少し膨らんでいるのもかわいい。
 カカシは、オビトの忍らしくない部分でも、オビトの美徳であるならば咎めることが出来なかった。
 だから簡単に忍術を使うことに何も言えないし、飴を好むオビトに間違っても子供みたいと卑下することが出来なかった。前者はともかく後者は、こちらが少し揶揄い気持ちだけで言っても、オビトは飴を加えることをやめてしまうかもしれない。そんなことになっては、カカシの癒しがなくなってしまう。普段反射で言い返してしまう言い合いの中でも、うっかりそれを言ってしまわないようにだけは気を付けていた。
「はい、オビト。」
「ん、ああ。ありがとカカシ。」
 だからカカシは今日もオビトのために持ち歩いている飴を、オビトの手を掬ってそこに乗せる。
 これもカカシにとってはある意味儀式のようなものだった。
 飴を咥えるオビトから癒しを得ている身としては自ら飴を差し出すのは当然だし、自分が捧げたものをオビトが受け取って食べていることは喜びだ。
 オビトの手はあたたかくて大きいから、その手に触れて差し出すものを受け取ってもらえることは、心の芯まであたたまるようだった。
 オビトは困っている人誰にでも手を差し伸べるからそのあたたかさは誰もが知ることだろうが、オビトと何度もチームを組んだカカシとリンは殊更彼の手のあたたかさを誰よりも知っていると、二人の間でもっぱら話題に登る喜びだ。
 オビトはカカシから受け取った飴を咥えながら、飴の包み紙を指でするすると広げて、ポケットにしまっていた。オビトにはこういうところがある。カカシは目を綻ばせてそれを見てしまう。
 カカシはオビトの部屋で、小さなお菓子の缶に、包み紙が取ってあるのを見たことがある。貰ったのが嬉しかったから、とオビトは教えてくれた。オビトは自分が嬉しかったから、と自分本意のような言い方をしたが、カカシには包み紙を大事に取っておくオビトが、人の心を大事にしている姿に見えた。
「カカシせんせ!」
 そこにサクラがやって来た。
「どーしたのサクラ?」
「よ。」
「あ、オビトさんこんにちは!」
 急ぎじゃないんです、と言うサクラは、オビトに気付くと気を遣ったように立ち去ろうとした。カカシは、サクラの用事はサスケのことでの恋愛相談かな、とあたりをつけていた。
「じゃ、オレもう行くわ。」
 しかしサクラが踵を返すより、オビトがその場を蹴って立ち去るほうが早かった。
「あ。オビトさんに悪いことしちゃった。」
「気にしなくていーでしょ。図書整理の手伝いするって言ってたから用事があるのは間違いないし。今度サクラが得意なお菓子でも作ってやってよ、喜ぶよ。」
 オビトは古い知識を持つ人物と暮らしていた時期があったため、結果本人の意図しないところで禁書レベルの史実に造詣が深い運びとなった。そのため逆に言えば、禁書の扱いを頼むことが出来る数少ない人員なのだ。
「お菓子かー。了解です!飴以外、ですよね?」
 飴係りはカカシ先生の特権ですもんね、と笑いながら暗に言われる。否定しようとするカカシより、普段お喋りなサクラが話し続けるのが早かった。
「カカシ先生、またオビトさんの手握って飴渡したんですか?」
……握るってほどのことは。」
「ハタから見ても、どうかと思います。」
 あれ、サクラの話をするんじゃなかったのか、とカカシが思っても、サクラの口を止められない。
 自分の行動が、オビトに気持ちが向くあまり、不自然なのは自覚があった。けれどオビト本人からは何も言われていない、今のところは。
 その筈だった。
「オビトさんがなんて思ってるか知ってるんですか?」
「えっ!?」
 自分が思ったより大きな声を出してしまったカカシは、サクラに渋い顔で眉を顰められながら無言で見られた。その視線に意図せず肩身が狭いような思いになる。
……オビトは……な、なんて……?」
 鈍感なオビトに甘えていたつもりでその手を味わっていたカカシは、恐る恐る真相をサクラに訊ねるが、サクラはうーん?と言葉を纏めるように唸るので、カカシは勝手に焦れた。
「なんて言うか、オビトさん、はっきりとカカシ先生が手を握って来る、って文句を言っていたとかじゃなくて。先生が健康か判断材料にしていることがある、って話してて。」
「は?」
 健康?何故そんな話になるのだろうか。
「カカシ先生がオビトさんの手を握って来ることを利用するみたいな感じで、カカシ先生の手の温度がちゃんと温かいか、冷たくないか、熱すぎないか。確認しているって言ってました。」
 リン先輩から、手の温度でも相手の調子は分かるって話、聞いたことがあるみたいで。
「自分がカカシ先生に勝手に手を握られる上勝手に喜ばれてるって言わない辺り、オビトさんって優しいですね!」
 サクラは最後に、良い笑顔でそう言った。
 それから、もう行かなきゃ、なんて言って、手を振ってその場から去ってしまった。
 そんな話だけされて置いて行かれてしまったカカシは、暫く案山子のように立ち尽くしていた。
 カカシだって手の温度で診る方法がある話は聞いた。随分前の話だった筈だ。懐かしい。
 けれどカカシにはオビトの手の体温を感じはしても、逆にそのことに一生懸命で、オビトの体調を診るという行動になんて考えを繋げられなかった。
「オレがクズだから……?」
 オビトが優しいということに関しては否定しない、まったくもって。寧ろ全力肯定である。
 まさか自分が恩恵を得るようにしていた行動を、逆に利用されていたとは思いもしなかった。
 カカシは常備しているオビト用の飴をおもむろに取り出した。ためつすがめつ、くるりと棒を回して、結局またしまった。

 ぼうっとしていたらナルトにラーメンを奢らされたり、修行をねだられたりしたが、他の面子が集まって互いに組み手まがいのことをし始めた頃に、隙を見てカカシは離脱した。
 そうしてまたふらふら歩いていると、用事が片付いたらしいオビトに再会した。
「オビト、もう手伝いは済んだの?お前のことだから、どうせ他の仕事も安請け合いして長引かせたんじゃないの?」
「相変わらずのカカシの減らず口は一言多いな!今帰るところだよ。」
 そう言い返すオビトの手にはお持たせの他にも色々ある。お持たせは本命のお土産だろうが、その他は別で手伝いを買って出たお礼だろう。相変わらずはどっちだか。
 サクラからあんな話を聞いても、オビトを前にすると心が自然とあたたかくなってしまう。これはもう手の温度がどうとかいう話どころじゃない。
 図書館では原則飲食禁止だ。その帰りのオビトの口は空いていた。
 カカシはすかさず、さっきしまった飴を取り出した。
「手塞がってるね、剥いてあげるよ。」
 カカシは飴の包みを開いて、飴をオビトの口に差し出した。包みを開ける世話迄任されれば、気分は捧げ物だ。オビトは何も言わずそれを咥えた。
 しかし飴を舐めながらカカシを見た。
「お前さ、オレのなんだって呼ばれてるか、知ってる?」
「飴係り、でしょ?」
「お前は荷物係りだって自分では言ってたけどな。」
「ああ。言ったね。」
 懐かしいね、と笑って見せるが、オビトが何を言いたいのかカカシには分からない。その口の中で飴が彼の歯に当たってかちりと音が鳴る。
「でもどっちも違う。不正解。」
「ええ?」
 よく分からないが、どうやら質問の答えを外してしまったようだ。
 確かに、これと言った表情も浮かべていないオビトが、真っ直ぐ黒い綺麗な瞳でじっと見て来る様子は、クイズの司会者が回答者に正確を告げる前の間に似ている気がしなくもない。
「正解は?」
 カカシが首を傾げると、オビトはあっさり教えてくれた。
「オビト係り。」
 ただし、答えを言うと、さっさと歩みを進めてしまう。
「へ?」
 立ち止まるカカシに、なんでもないようにオビトは容赦なく声をかける。
「ほら、お前も帰るところだろ?さっさと行くぞ。」
……はい。」
 しかし、何係りだろうと係員がカカシ一人しかいないことは変わらない。今迄も、そしてこれからも。

 オビトには飴係りがいる。
 それはオビトが上忍になっても、カカシが生徒を持つようになっても、その生徒が上忍になっても変わらなかった。
 火影が代替わりしても、その係り活動は続いた。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。