ortensia
2024-09-09 22:49:26
2687文字
Public 傭リ
 

現パロぎじおやこきんしんよーり。傭←リ。けっこうメリバっぽい。

傭→独身親
リ→引き取られ孤児

この傭ひょっとして善人に見せ掛けて不器用なんじゃなくて普通にクズなのでは?

 最初はなんだったか。そうだ。湿った口に同じような湿り気が入り込んで来た飛び起きた時だ。
「な、な、なんだ、突然」
「突然……?前からやってみたかったんですけど、ほら、あなたはいつもお早いので。」
「おまえは規則的な寝起きが不得手だからなあ。」
「えへへ。」
 じゃなくて。
「二度とするな。」
 引き取った血の繋がらない我が子の両肩を掴んで言う。
 びくりと震えた子供の体は、思えば本人からすれば普段の悪戯と変わらぬつもりだったのだろう。途端に体全体をぐしゃりと歪ませ、まずい、泣く。
「驚いて舌噛んだら危ないだろ?」
 慌てて肩を撫でさすりながら宥める。薄いが、成長した肩。大きくなった。同年代に比べても高い背だが、変わった存在であるので、この子にとって今の段階が真っ当な成長速度なのかは分からない。だから心だけでも健やかであってほしいと思う。
 暫くそうやって宥めていれば、しゃくり上げながら深呼吸していた子供がぱたりとこちらに凭れて来た。
「ばか。二度寝してやる。」
「親に馬鹿って……
「はいはいごめんなさーい」
 嫌いにならないで。
 小さな声で言われたら、投げやりな謝罪でも抱き締めて許してやるしかこちらにはすべがない。
「分かった。朝飯何が良い?」
 あとは、ご機嫌取りに、リクエストを訊いてやるくらい。しかし子供はむずがるように首を横に振る。
「分かってない。」
「ん?」
「あなたもここでわたしと一緒に寝て。」
 添い寝するような年は勿論とっくに過ぎてる。けれど子供の体ごと、自分の身を倒した。
 前にたまにこちらより目を覚ました時は、布団に潜り込んで来る程度だったのに。
 あるいは。その時から。
 そして二人で遅い朝食を摂る。子のご所望のホットケーキだ。
 朝からよく食べられるものだと思うような献立とも言えないリクエストだが、他所の家庭では有ることらしい。親は自分とは言え、子供の自分とは大きく異なる価値観を、出来るだけ抑制しないように育てて来た。相手の趣味に付き合っているとも言う。
 元々周りと合わなくて、孤児院で浮いていた子供だ。自分の育った場所でそんな目に合っている子供を気の毒に思い、引き取った。自由を教えてやりたかった。
 しかし。
「きすして。」
……今飯なんだが。」
「駄目なの?」
 機嫌は直ったと思っていたが、まだ不安なのだろうか。しかしよくよく考えていればこの子は普段から我儘だしマイペースだ。駄目だと説き伏せる理由もなく。舐めた口を拭って、子供のこめかみに音を立てて口付けた。子供は喜んだ素振りを見せたにも関わらず、口答えした。
「口にして。」
……なに?」
「くーちー!」
 今朝起き掛けに舌を入れられた時には自分を誤魔化したが、目の前の我が子が知らない相手に思える。だがそんなことは勝手な思いだ。趣味が合わないと承知で引き取り、突飛な言動に驚きながらも面白い子だと認めていたくせに。そもそも例え血が繋がっていても、親子は別の人格なのだから、違う価値観があって当然なのだ。
 それを躾けて来たつもりだった。価値観は、本人の元来の性格があっても、育った周りの環境で形成された人格で整えられる。例えば倫理は、善悪は、理由を持ち出して説き伏せるものじゃない。そういうものだと植え付けないと、疑問を抱いてしまったらその場で崩壊するような代物だ。けれどそれを歪めては、それ無しでは、生きられない。そういうものだ。
 しかしこの手の話に関して自分は躾けられていなかったのかと、目の前の子供を見て思う。子が親の鏡だと言われる所以だろう。
……親子のすることじゃない。」
 子供が首を傾げる。頂点に向かっている陽の光が、その横顔に当たる。
 我が家の食卓は、家で一番大きな窓のそばに低い机を置いてラグに腰を下ろして囲む。外からその時間の光が入り、食事をいっそう彩る。「ご飯を食べるお部屋はここ!」越して来た時にそう宣言したのは、他でもないこの子だ。
 当時の記憶より成長した子は、今は首どころか体全体を傾げて、遂には横たわった。
 自然と仰け反る形になった細い首筋は、今も細い儘だ。
「わかりません。」
 その喉が陰影を作って動いた。
 更に震えて、笑い出した。
「あなた、おんなのこみたい。」
「は?」
「女の子達がわたしに言って来る時があります。自分ならわたしに好かれる自身がある、自分ならわたしに相応しい、自分なら他の子より女らしい。」
 ですって。と。
 なんだ。そう言う相手、いるんじゃないか。
「だから、そういうのは同じ年頃の女子に向けて思うもんだろう。ほら、おまえが好きな恋愛小説とか、映画とか、」
 そういうやつ。この子が自らそういうものを好むから、そういう情緒は自分で身に付けるだろうと、躾を怠っていたということなのかもしれない。何せ自分は、そういうのがさっぱりなので。
 しかし会話の流れから安心することは出来ない。
 何せこの子は笑っている。
「なのに、おれが女子みたいって、どういうことだよ」
「だって、そういうことでしょう?」
 子供は笑うあまり右手を顔に当て、その儘自分の首筋をなぞり下ろした。揺らした子供の背が、ラグに擦り付けられて立った衣擦れの音が妙に耳を打った。
「自分の価値観をわたしに押し付けてる。」
 あゝ。やはり、この子はそう思うのか。
 自由にさせたいと願ったくせにこのていたらくだ。
「これは価値観じゃない。倫理観だ。」
「倫理……。」
 子供は、すっと笑い声を収めてか細い声を出した。その声は子供らしいあどけないものなのに、甘い朝食の匂いを掻き消す程切なげな吐息を漏らすものだから、倒錯を覚える。
「あなたは、倫理は理由を求めるものではないとわたしに教えました。」
「ああ。」
「倫理は覆そうと抵抗するものではないとわたしに言いました。」
「ああ……。」
 我が子にじっと見詰められる。
「それが……自由に身動き取れないほどわたしを押さえ付けて来て、くるしい……
 子供の眦がそっと溶けて、涙となって流れた。
「苦しむわたしの手を引いて招いてくれる、わたしのあなたはどこにいるの?」
 もう耐えられなかった。
 我が子に覆い被さり頬を捉えて口付けた。その中も暴いた。水音を弾かせた。舌を啜った。舌を舐めさせた。
「ずっとわたしを助けてね。」
 合間合間で嬉しそうに告げられるおねだりに応えながら、胸中で思い出すこの子を引き取った時の姿に、こんなつもりはなかったと言い訳した。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。