浮気じゃ無くてその場を自分優位に進めて事を荒立てずに取り繕うのが目的だと分かったのは、普段のこの男のスリルを求める性分が本当に面倒臭いことへは鼻が利く線引きが出来るところを見て知って居るからだ。だから浮気じゃ無い。
しかし本人の硬派な見た目と反して軟派をやって居るように見えるのは、恐らく周囲から見てもそうだろう。そう、見た目の問題で。
だから「わたし」と目が合ったお互いの頭に浮かんだ言葉がそれであっても、なんら可笑しくは無いのだ。本当に可笑しかったのは、こちらの姿を認めた瞬間に初めて奴の顔が、これ浮気かも知れ無い、と浮かべた表情を晒したことだ。
こちらもこちらで、浮気と言えるかも知れ無いと思い浮かべて仕舞ったので、その場でくるりと踵を返した。つまり、浮気現場を目撃して動揺の余り立ち去る恋人、の、良い見栄えのワンシーンが撮れるわけだ。その後を焦った様子で慌てて追い掛けるところ迄完璧である。
特に足早で無かったこの身は、直ぐに男に引き留められた。
しかし互いに、浮気かも知れ無い、と思うと同時に、そんなんじゃ無い、と言うことも思って、いや、そんなんじゃ無いことの方が正解だと、それすらも互いに分かって居るのだから、よく有るワンシーンとは別の意味で気不味い。
「……言い訳、します?」
仕方無く茶番を続けるための水を向ける。
男が水を得た魚のように、鱗が鈍くそうするのと似た瞬きで目を光らせた。
「あー、……罰をくれ。」
成る程茶番だ。
「ぶつか?罵るか?ひどいことしてくれ?」
今この男は、気不味さをどうにかしようと言うよりは、この茶番を演じることに頭を割いて居るらしい。それが可笑しくて、ちょっと面白く成って来て仕舞ったかも知れ無い。
「……しません。」
男が茶番から思考を離し、ぱっとこちらを見上げる。
「して仕舞ったらそれは、許す、と言うことに成るでしょう?」
男はぽかと口を開けて。
「許せよ!?」
と言うか浮気じゃ無い。
茶番はもう少し続く。
遂に可笑しさが口から零れて笑い声を上げた。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.