僕は自分宛の手紙を貰ったことの無い配達人だけれど、手紙とはひとえに言っても内容が様々なのは知っている。仕事人として当然だ、と言えばそうなのだが、例えば、届けた先で僕がまだ居るその目の前で開封してあまつさえ嬉しそうにその内容を語ってくれる人も居るからだ。まあ、僕が相手に対して緊張のあまり碌に反応を返せないで居ると、気を遣ってかあまり引き留められることもないのだけれど。それで良いのかもしれない、あんまりにも手紙の自慢なんかされて仕舞ったら、僕はその手紙を受取人から取り上げて持ち去って仕舞うかもしれないから。
そう。その内容が様々な手紙は、互いの体を気遣う家族に宛てたものだったり、友達同士が互いに聞かせたい自分の身の回りの話だったり、自らの思いの丈を懇々と綴った恋文だったりする。だから僕も、自分が使わないにしろ、いわゆる口説き文句やロマンチックな言葉を知らないわけじゃない。
だからそういう台詞を良く使っている人は、そういう文章を好むのだろうなと思う。
そう思うのは、きっと自然なことだ。
そして僕がはたから見ててもそうなのだから、そばに居る相手は、もっとそのことを分かっている筈だ。
「で、おれがあいつにそういう言葉をかけないのが不思議だって?あいつが好きそうなのを分かっているんだろうにって?」
その相手である傭兵の彼は、僕の言いたいことを分かってくれると、彼にしては珍しい表情、苦笑いをしていた。
困らせてしまったのだろうか。そう戦々恐々とした僕が何か訴え掛ける前に、彼の方が顔に手を当てながら僕に口を開いた。
「そりゃ分かってはいるさ……。あのヤローが、気障ったらしい台詞や、周りくどい駆け引きだとかあいつがぬかしやがる言い方とか、情緒がどうとかの文言を好むのは……。」
だからだよ、としかし彼は項垂れた。
「おれはそう言う語彙を持ち合わせて無えから、好きそうだと思っても、自分から文章を作ることは出来ない。」
僕は目をぱちくりとさせた。
口の方は目程ぱくぱく動かないものの、彼に伝えた。
彼はその内容を初め訝しそうに聞いてくれていたが、最後には何やら難しい顔をして、納得してくれたよりは疑わしげにしかし、神妙に深くゆっくりと頷いた。
後日、傭兵の彼が話しをして居るところにまた通り掛かった。
会話というより、片一方の朗々とした声に、傭兵の彼はやはり口数少なく相槌を打っているだけのことが多いようだった。
しかしその時。
「おれはおまえの、そういうものの考え方がいつだって新鮮だから、」
あー、と唸りを挟む傭兵を、驚いて見下ろして居るようだった。
そして彼はゆっくりと続けた。
「おれはリッパーがすきだ。」
そう言われた背の高い紳士は、驚いた儘びしりと固まってしまったように動かなくなった後、恐る恐ると言ったふうに傭兵の彼の頭を一撫でした。喜んでいると思う。傭兵の彼が一度目を見張った後、これまた彼にしては珍しく、柔らかく嬉しそうに笑ったから。
そう、別に恋文に語彙とか表現力とか、芸術性を突き詰めたって、そればっかりが必要なことなんて無い。だって「手紙」なんだから。僕は知っている、文章量なんて言葉知らないみたいに、便箋の大きさなんて見えていないみたいに、ほんの小さな文字でたった一言だけ「すきです。」と綴られた手紙を。そしてそれを受け取った人物は、嬉しいと言って、心底参ったみたいな顔をして、所在なさげに無意味に手を彷徨かせた後、やりようなく自分の頭を撫で下ろしていたことを。
丁度今のリッパーの彼のように。
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