何がきっかけだったかは忘れた。いがみ合って、罵り合って、手が出合って。ただそこに丸い頭が有って、直ぐに掴み上げられそうな、そう、髪が有ったのだ。
そして、ぞっとした。
無造作に結われた髪をそれ以上に無造作に掴み上げた。その筈なのに、その下の男の目は、獰猛な愉悦を浮かべた。
掴んだのはこちらなのに、罠に捕まったのはこっち、のように。
「……おまえ、なんで髪伸ばしてるんです?」
ぎょろりと向く目は、普段からはまるで剥けたかと思うくらい様相を変え、射抜くようにこちらを見ている。
「別に。」
目が笑っている。
「特に、意味なんて無い。無かった。」
遂に口まで笑った。
「今、この時迄は。」
髪に絡めた手を今更離すことも出来ない儘、そのゆっくりと甚振るみたいな答えをただ聞いていることしか出来なかった。
それどころか、どうせ千切って迄髪をほどいたところで、解放感を味わえるとは思えなかった。
掴んだのはこちらなのに、本当に、髪に逆に捕まれたような。
何せこの髪さえも、悦びに笑っているように思えたものだから。
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