ortensia
2024-01-20 00:03:08
942文字
Public 傭リ
 

よーり

リの話がころころ変わると見せかけて一貫して実はこれは神話なんですよ、なんちゃって。()

 目を眇めた。
「いたっ」
 晒せと言われた通りの素肌を不躾にに辿る大きな手は冷たいだけでなく遠慮無く爪が研がれており、全身裂傷だらけだった。
 そのせいか、否、それでもか。熱を上げる体を誤魔化したくて、わざと鬱陶しそうに投げ掛けた。
「なんでそうもおれの肌を触る」
 上擦らないようにとばかり気が回ったせいで、疑問の形を作ることには失敗した。
 それに相手は気を回すどころか興味もないように淡々と答えた。
「病める時も健やかなる時も」
「はっ!?」
 というか、とある儀式の文言を垂れた。何を誓おうと……本当に?
 期待、いや、こういうことはもっとちゃんと、と動揺しそうに揺れる体は、相変わらずこいつに触れられた儘だ。
 だから肌の震えを伝ってる筈なのにちっとも伝わってないように気にした様子のない仮面はにべもなく言うのだ。
「これを覚えておくのです。」
「へっ?」
 しかし少し傾げられた首は、考え直すような仕草だったが、独白めいている上、何を言っているのか分からないことはさっきからずっと変わらない。
「いや……病める時も健やかなる時も、生きている間の話ですからね」
 死体と誓い合うつもりか?冥婚か?
 動揺の次は混乱で眼が揺れる。
「どこのだれと……
 死んだ自分がこいつとどうこうなるならそれも良いと思えた。
「は?」
 だがどうしたって話題は一転二転しているようにしか聞こえないこのエセ紳士が転がす。
「例えばわたしが絵の具に溺れて生死を彷徨うとします。」
「はぁ?」
 いっそ朗々とすらしている。いつものことだ。
「ぬるついた油ばかりの中、ふと、この手触りを思い出すのです。」
「いたっ」
 明確に引っ掻かれた。
「するとわたしは、死の淵から戻ってくることが出来るのですよ。」
 めでたしめでたし、ってね。
 神父要らずのその声は、焦れたように自らの仮面を外し放ると、引っ掻き傷から浮かんだ赤を舐め取った。
 油程ではそりゃないが、血液は、凝固の過程で多少の粘性を帯びているが、それは良いのだろうか。
 赤い口の男を見ながら続けて思うことは、やっぱり互いに生きているうちにこの男にも何か誓わせよう、ということだった。
 この男はおれを思えば甦るとのことなので。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。