ortensia
2023-07-12 00:15:31
1585文字
Public 傭リ
 

若干しんうるとらまんみたいなヨーリ

※戦わない(笑)※そもそも謎時空ばーすなのに更に別次元に飛ばされた傭、をリが迎えに来る(?)

 流れ着いたこの世界に来て、まだ瞬きの間しか経過していない内。同時に、この世界の住人にとっては「数週間」と言う時間単位が経過した内。それはここの人間からすれば「おれ」という存在に「慣れ」が生じる頃合いだった。
 そんな「今」を、ここの人々は「夏」と呼んだ。
 人々が暮らす環境を守るオゾン層の下、天空は青色に輝いていた。田舎と呼ばれるこの地にも多少は存在する、アスファルトを被った大地は、太陽光を反射し熱を照り返していた。蜃気楼が上がるのが先か、熱さで幻覚を見るのが先か、皆が顔見知りのここいらでは、互いが互いを気遣って生きる、優しい土地だった。
 閑静な土地に、遠くから自転車と言う乗り物の警音器の音が響く。鳥の声。誰かの笑い声。
 それが、全て無く成った。
「あ〜、居た居た。こ〜んなところに居たのですね。」
 炎天下の青空に浮かび上がる、蜃気楼でも幻覚でも無い長身の男。夕陽に長く伸びた影のような身長は、この真昼の暑さの中、外套を着込んで居た。それでも本人は、至ってさも涼しそうな顔をしている。仮面を被っているが。
 明暗の差に思わず目を細める。光り輝く夏の季節の中、その影だけが明らかに異質な闇だった。
 男は珍しそうに辺りをきょろきょろと見回しているが、恐らくそれは素振りだけで特に何も感じていない。
……よくここが分かったな。」
「なんです、呑気なこと。もっと感激してください。こんな辺境空間、大変だったんですからね?」
 分かってるよ。
「それでも、」
 男は長い爪をこちらに伸ばし、触れるか触れないかの位置で滑らせる。その下には、ここの時空がもう何度季節を巡らせたか天文学的数値の規模に成ってしまう程、以前に付けられた、当然とっくに治っている傷が有る。目の前のこの男が付けた傷だ。
 治っていてもこの男がそばに居るだけで、ぐらぐらと湯立つようないたみを感じる。きっとこの男がどこかの世界次元にただひとりでも存在している限り、これはこの儘だ、ずっと。
 だからこの男も、おれがどこに居ても、見付けられるだろう。
「さぁさ。感動の再会を果たしたところで、行きましょうか、おまえ……、」
 そこで男が不意に黙った。
 そしてにやりと笑う。仮面越しでも充分に分かる。
「よーへー。」
「!……
「ここの住人にそう呼ばせて居るのですね〜。ふ〜ん。」
 こちらが身を強ばらせるのに気を良くした相手が、わざとらしく首を傾げながら、益々機嫌良さげに言い募る。
「他所者のくせにお名前呼んでもらっちゃって、ご自分が必要とされて居ると、好かれて居ると、お思いです?居場所が有ると?あは?」
 背筋がざわざわする。
 あんなに暑さを、この時空での「環境」を認識出来て居た筈なのに、冷たく感じる。
 そして一層近寄って来た男が耳元で囁く。
「ここの方々のためなら、死んでも構わない?」
 相手の肩を掴んで離す。
 影のような男だが、とんでもない、こうして求めれば、触れ合える。
 相手の目を見る。仮面が有っても支障など無い。
「この世界でこの辺りの地区に住まう人間達は、寿命が近い者が多いらしい。」
 けれど。
「自分達の力で、さいご迄おまえに抗う者達だ。」
 嗚呼、かつて付けられた己の傷がいたむ。
 男が自ら距離を元に戻した。
 上背の高い顔を見上げる。
 自分の周りに夏の気配が戻って来た心地だった。
「へえ。おまえが守って遣る必要は無いと?」
「おれは別におまえの相手をするのは嫌じゃない。」
 言うと、男は笑い出した。
 そして差し出された大きな手。
 迷い無く繋ぎ返す。
 離さないように。
 けれど別に離れても良い。また繋ぎ直せば良いのだから、何度でも、それこそ天文学的数字に成っても。
 治った傷のいたみが治らない。それで良い。
 そんな、夏との別れ。


—————————————————————
いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。