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ちよど
2024-11-26 00:00:00
6125文字
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アシュヨダ
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わし様が初めて贈り物を受け取ってもらえた話
アシュヨダ。前作「ひかり」の蛇足の続き。わし様視点。わし様が初めて贈り物を受け取ってもらえた話。pixivからの再掲。
「ドゥリーヨダナ。最近召喚室によく来るね」
ちょうど召喚陣を回していた少女にわし様は笑いかけた。
広い部屋の中央に据えられた盾は淡く青白い光を浮かび上がらせている。
この部屋には夕日の色をした髪の少女がひとり。
彼女は戦闘中の礼装とは異なる、ラフなシャツを着ていた。
わし様はすたすたと召喚室に入り込む。
「なに。わし様の友は約束を守る男だからな。1番に迎えてやらねばならぬだろう?」
「うちのカルデアで会おうって約束した友達? ドゥリーヨダナがそれを言い出してからまだ1週間も経ってないよ」
約束して狙ったサーヴァントが来るなら聖晶石はなくなったりしないんだよ?
どこか虚ろな口調で呟くマスターは最近ビーマの奴を召喚しようとして爆死したばかりだ。
わし様はマスターの隣に立つ。わし様の胸の高さにある頭は小さく、簡単に鷲掴みに出来そうだった。
やらないが。
わし様はこのマスターをそこそこ気に入っている。
明るく、わし様相手にも物怖じせず、言いたいことを口にするがそこには優しさがある。
マスターとしてもわし様を重用し、周回にクエストに特異点にと頻繁に連れ出している。
問題があるとすればカルナとアルジュナふたりとわし様がいるこのカルデアに、アシュヴァッターマンがいない事ぐらいだ。
わし様はサーヴァントとしてのアシュヴァッターマンを知らない。
マスターは以前、異聞帯でアシュヴァッターマンに会ったそうだが、わし様はその頃は召喚されて無かったのだ。
わし様がアシュヴァッターマンに会えないなど! と内心憤っていたが。1週間程前にマスターに連れて行かれた特異点でわし様は『生前のアシュヴァッターマン』に会えた。
その時に奴はわし様と約束した。サーヴァントになってわし様に会いに来ると。
アシュヴァッターマンは約束は守る男だ。少なくとも約束を守ろうとする男である。
だからわし様は、
「ドゥリーヨダナ。自分の隣の部屋、友達のために買い上げちゃったんでしょ? 来なかったらどうするの?」
わし様を見上げる少女の顔にはからかいは無く、ただわし様の散財を心配する色だけがあった。
「まぁ、確かにずいぶん財を使ったが、QPはまた稼げばよい。それよりも友の方が大事だとも。あいつは金で買えんのだからな」
「人は財の奴隷なのに?」
わし様の言葉を覚えていたその小さな頭をわしゃわしゃとかき混ぜる。
財は誰のものでもないが、人は財の奴隷である。
あのカルナからの友情を得た時でさえ、国という対価がなければカルナにわし様の真心は伝わらなかっただろう。
「信頼は金で買えないが、金で信頼を補うことは出来る」
「来て欲しいと願う気持ちを聖晶石がブーストするみたいな?」
「かもしれんな」
マスターはわし様の言葉に座った目でまた聖晶石を召喚陣に焚べる。
わし様はそれを覗き込み、手を伸ばして召喚陣を浮かべている盾を軽く叩いた。
「こら!」
「いやなに。もしかしてあやつはわし様を見つけられてないのかもしれんと思って」
ちょっと魔力を流してみた。
わし様が言うと同時に召喚陣から光が溢れ出す。3つの横に広がる光の線。くるくると回る光の粒。そして、常にはない中央で輝く光芒。
「遅いぞ、アシュヴァッターマン」
わし様の声に応えるように光の中クラスカードが浮かび上がる。その絵柄は
「
…
アーチャー。まさか本当に」
弓兵のカードが溶け落ち、わし様にしか見えない光芒の主が現れた。
「あん? おめーが俺のマスターか? 腑抜けたツラしてんなぁ。まあいいや、アシュヴァッターマンだ。戦いに行くぞ、ついてこ
…
」
まくし立てていた言葉が止まる。
輝く光芒を額に持つ褐色の男はこちらを向いたまま動きを止めていた。
「
…
ほほう? おまえ泣いておるのか」
「っ、あんた顔が見えねぇってっ!」
裏返った声にわし様は嬉しくなる。
何故なら、わし様がアシュヴァッターマンの額の宝珠の輝きのせいで彼の顔を見れない事を知っているのは、1週間程前に特異点で出会った『生前のアシュヴァッターマン』だけなのだから。
アシュヴァッターマンは正しく約束を守ったのだ。
「見えなくとも伝わるものは多い。わし様はそれをよく知っている」
例えば声色、雰囲気、息遣い、手足の動き。それらでどんな表情をしているのかは推測出来る。
正解が分からなかったのは、アシュヴァッターマンがどんな風貌をしているのか、だった。
アシュヴァッターマンの父であるドローナ師の顔を頭の中でいじくりまわしては、答えのないパズルを楽しんでいたものだが。
まさか、サーヴァントになってからアシュヴァッターマンの顔を見ることが出来ようとは。
炎を移したような髪、溶かした黄金のような瞳。薄い眉、彫りは深く、痩せこけていても精悍さが残る頬。唇は薄く、口は大きい。
なんだ、おまえ、こんなにいい男だったのか。
額の傷跡も、ボロボロに荒れた肌も、その経緯を知っていれば口づけを落としたくなる。
「我が王」
全盛期の姿に戻ったアシュヴァッターマンがわし様の前に膝をつく。
「遅参をお許しください」
頭を下げたアシュヴァッターマンに、マスターがわし様の腕から下がっていた肩掛けを引いた。
「友達、なんだよね?」
「そうだ。まあ臣下でもあるが」
だが、ここはカルデア。マスターの元で全てのサーヴァントは(建前上は)平等だ。
わし様は跪いたままのアシュヴァッターマンを肩を掴んだ。
「友よ! ここでは我らは友としてだけあれる」
アシュヴァッターマンを引き起こす。その顔にわし様の顔を近づけた。
こちらからは光芒が眩しくて何も見えないが、アシュヴァッターマンからはわし様の睫毛の数まで見えるはず。
とっておきの顔で笑いかける。
「これ以上の喜びがあるか? アシュヴァッターマン」
少しの沈黙の後、光芒が上下に動く。頷いたのだと判断してわし様は手を離した。
立ち上がったアシュヴァッターマンを促す。
「とりあえず先に、マスターが用意してくれたおまえの部屋に案内するぞ」
驚いて顔を上げたマスターを目線で制してわし様は続ける。
「驚け。なんとわし様の隣の部屋だ。調度品もすでに用意してある。わし様のマスターに感謝するがいい」
ふははは、と笑いながらわし様はマスターに礼を言うアシュヴァッターマンを眺めた。
こうでもしないとアシュヴァッターマンはわし様からの褒美を受け取ろうとはしないのだ。
昔、まだわし様たちがドローナ師の家に住んでいた頃、わし様がアシュヴァッターマンに贈り物をしようとする度にドローナ師がすっ飛んできたものだ。
『その贈り物はどんな意味があるのか?』
友に贈る物に理由などない! と言い募っても、ドローナ師に息子に近づきたいだけだろうと言われて贈り物は全て没収された。
まあ、そういう思惑もないではなかったが。決めつけはよくない。あの贈り物の数々は当時のわし様にとってはなかなかの出費だった!
それを見ていたせいかアシュヴァッターマンは大人になってもわし様からの贈り物は受け取ろうとしない。
本当は、その忠義と友情には金銀財宝の雨を降らせてもまだ足りぬと思うのに。
「アシュヴァッターマン」
名を呼べば、褐色の男が纏う空気がふわりと緩む。ああ、微笑んだのだろうな。
1週間前に目に焼き付けたアシュヴァッターマンの生前の顔を脳裏で微笑ませてみる。
思わずわし様も微笑んでしまった。
「マスター。わし様たちは今日はゆっくり語り合う。アシュヴァッターマンの強化は明日からでよいな?」
顔を向けるとマスターまで微笑んでいた。
「うん。分かった。
…
思っていたよりもずっと仲良しなんだね」
「当然だろう! わし様の自慢の友だ」
バシバシとアシュヴァッターマンの背中を叩いてやると、こいつは手で顔を覆ってしまう。
照れているのか。かわいい奴め。
「ほら行くぞ」
わし様が歩き出すとアシュヴァッターマンもついてくる。
この時間の廊下は人がいないが、新しいサーヴァントが召喚されたと聞けば野次馬連中が駆けつけてくる。
その前にアシュヴァッターマンを用意した部屋に連れて行くべきだ。
でなければ、歓迎会だのなんだのとじっくり話す事も出来なくなる。
「
…
アシュヴァッターマン。おまえの全てはわし様のものだな?」
歩きながらの唐突な質問。アシュヴァッターマンの方を振り向きもしないわし様の言葉に
「ああ、俺の全てはあんたの物だ」
決意に満ちた声が返ってくる。
…
凶兆の子よ。国を滅ぼす。捨てるべき子供。
幼い頃に散々聞かされた言葉が蘇る。わし様はそんな事を気にしていないが、気にする者が多い事を知っている。
だからという訳では無いが、わし様はわし様の味方には財を惜しまぬ。
「アシュヴァッターマン、欲しいものはなんだ?」
「
…
もう、何もない」
あんたに会えた。
そう震え混じりに呟かれた言葉に、わし様は振り返ろうとした体を止めた。
代わりにシュルシュルと肩掛けを外し、後方に投げ捨てる。
当然、それを受け止めた気配がした。
「わし様、その柄にはもう飽きた。下賜するので頭から被っているがよい」
そうすればその泣き顔は誰にも見られなくて済む。
マスターならまあ許すが、他のサーヴァントには見せたくない。
自分の今の顔も誰にも、アシュヴァッターマンにも見せたくない。
わし様のかっこいいイメージ的に人に見せられない表情をしている自覚に、わし様は顔を覆いたくなる手をなんとか抑える。
対価なく求められる。その心地をわし様は久しぶりに噛み締めていた。
それがどれほど稀有な事か。実直なアシュヴァッターマンは知らぬだろう。
目的の部屋の前に着き、わし様はアシュヴァッターマンにドアの開け方を教える。
認証パスワードの数字の部分でアシュヴァッターマンは小さな笑いをこぼした。
「あんたが親父に贈り物を没収された回数だ」
「覚えておったか」
「忘れねぇよ。
…
いつも楽しみだった」
あんたが俺を構ってくれるのが。
笑みを含んだ声色にわし様は一瞬だけ目を伏せる。
友よ。与えられる財ではなく、わし様からの友情を喜んでくれる友よ。
おまえの全てはわし様の物だ。
財を、名誉を与えるとどれほど言っても受け取ろうとはせず、類稀な忠義と友情を、その全てをわし様に捧げる男。
英霊となってわし様が死んだ後におまえにに何が起こったかを知った。
まだ、おまえが地上を彷徨っているだろう事も。
英霊は座から離れられぬ。サーヴァントはマスターを失えば存在出来ない。
だから、あの特異点は千載一遇のチャンスだったのだ。
希望は時として人を殺すが、目的は人を生かし続ける。
クリシュナの呪いを解くことなど出来ぬ俺には、あれが精一杯のーーー。
わし様は、必ず来ると信じていた友のために用意した部屋にアシュヴァッターマンを導いた。
あまり広い部屋ではないが、贅沢を好まぬアシュヴァッターマンがひとりで住むなら、まあ悪くないだろう。
代わりと言っては何だが、アシュヴァッターマンが気にしない程度にはこいつが好みそうな調度品を置かせた。
内装もわし様たちの故郷に近づけてある。
会心の出来に心の中で胸を張っていると、アシュヴァッターマンはぐるりと周りを見渡した。
その額に輝く光芒に目を細める。
もう何もいらないとアシュヴァッターマンは言ったが、わし様の願いもとうに叶っている。
何年その光芒の下の顔を見たいと思っていたか。
やせ衰えた姿のおまえを嘆くより先に、その顔を見れた事を喜んだと告げれば。またアシュヴァッターマンを困らせるだろう。
わし様、おくちチャック。
余計な事を言わないのも信頼関係を築く上で大切なのだ。カルナはカルナなので除外とする。
突然、アシュヴァッターマンはわし様が下賜した肩掛けを頭にぐるぐると巻き始めた。
「うしっ! これで見えるだろ?」
こちらを向いたアシュヴァッターマンが何を言っているのか、一瞬遅れて理解する。
額の宝珠の輝きを覆えば、わし様に自分の顔が見えるだろうと。
光芒は変わらずアシュヴァッターマンの顔を覆っていたが、その心持ちが嬉しくてわし様は頷いた。
「アシュヴァッターマンはいい男だな」
「
……
ダメか」
しょぼんと肩を落としたアシュヴァッターマンにわし様は問いかける。
「なぜそう思うのだ?」
「俺がいい男なはずはねぇだろ」
「それはいかん!」
わし様が認めた男がそんなことでどうする。
その顔に手を伸ばしてもアシュヴァッターマンは動かなかった。
両手で顔を包み込む。
「精悍な頬だ
…
わし様ほどではないが」
「鼻も高い
…
わし様ほどではないが」
「眉も凛々しいな
…
わし様ほどではないが」
「額も秀でている
…
わし様ほどではないが」
布越しの感触を称えると手の中で頬が動いた。
「笑ったな、アシュヴァッターマン」
「すまない。
…
そうだな、俺はいい男だ。旦那ほどじゃねぇが」
「納得したならよし」
笑って、わし様はアシュヴァッターマンに唇を落とした。
触れるだけのキスだと言うのにアシュヴァッターマンが全身を強張らせる。
「先払いだと言っただろう? そんなに嫌か?」
「ちがう!!」
即座の否定に、わし様はにやりと笑った。
「なら、たっぷり褒美を払ってやらればな」
「もう充分に貰っている。これ以上は嬉しくて死んでしまう」
だって、この部屋を整えたのは旦那だろう?
指摘にわし様は表情を緩ませる。
「
…
確かにマスターに頼まれて内装を整えたのはわし様だが」
やり過ぎたか? と首を傾けて見せればアシュヴァッターマンは口ごもる。
この様子ではわし様が部屋そのものを用意した事には気づいていない。
嘘をつく時は多重構造に。要所要所に相手が納得する答えを用意しておけば、肝心な所は守り抜ける。
「
…
旦那がそんな顔をしている時は何か隠してんだよ」
だと言うのに我が友ときたら。
わし様は諦めて両腕を広げた。
「降参だ。正直に言おう。この部屋ぜーんぶわし様が用意した!」
「旦那ぁ!」
「ここは太っ腹なわし様を褒め称えるところだぞ。わし様はおまえには褒美を惜しまぬ」
「どんだけ金を使ったんだ」
「まあ、数日で取り返せる程度だな」
周回地獄で馬車馬のように働けば、とわし様は口に出さなかった。
3日も10日も1か月も数日である。嘘は言っていない。
案の定、アシュヴァッターマンは数日との言葉に胸を撫で下ろしたようだった。
「せっかくわし様が贖ったのだ。使ってくれよ?」
わし様の言葉にアシュヴァッターマンはしぶしぶといった仕草で光芒を揺らした。
わし様が初めて贈り物をアシュヴァッターマンに受け取ってもらえた話。
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