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水樹
2024-11-21 21:50:20
3703文字
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友達の距離(ではない)
友達との適切な距離感がよくわからないスグリと、それにつけ込むアオイの話
に、なるはずでした
引っ込み思案で人見知りで。キタカミに同年代はそう多くはなかった。だから、友達、という間柄になれたのは、アオイが初めてだった。
それからいろいろあって、それらを一旦リセットして、ゼロからやり直して。
つまり、俺達は、友達、な、わけで。
「あの、アオイ」
「ん?」
「近くねえ、かな
……
?」
「そう?」
復学してそこそこ経ち、前よりは話せる人が増えた。人との距離感も、それなりに掴めてきたとは、思うん、だけど。
「近いって
……
」
「えー? こんなもんだと思うけどなー。それに、スグリだって近いときあるよ?」
「うっ
……
」
アオイとは、なぜかうまくいかない。
画面を覗き込もうもんならすぐ横に顔。隣に座れば肩が触れあいそうになる。歩いてるときでさえ、手と手が触れるか触れないかぐらい。
そんなのが続けば、嫌でも意識してしまう。
そんなのなくても、俺は意識しまくっているのに。
いつからか俺は、“友達”では満足できなくなっていた。
アオイのことを、恋愛的な意味でも、好きになっていた。
「あっ、アカマツとか、カキツバタには、こんなに近くねえべ
……
!?」
「ん? んー
……
言われてみれば?」
その距離感覚をなぜ俺に適用しねえんだ。
や、でも、俺とのこの距離を、他の人にもしていたら、俺は、受け入れられるんだろうか。アカマツ達との距離が俺にも適用されたら
…………
それは、ちょっと、嫌、かも。
「んー
……
スグリは大切な友達だし、側にいるとなんだか安心するから、つい近くなっちゃうのかも」
「えっ」
「ん?」
……
ともだち。あんしん。それってつまりは、男として意識されてない、ってこと、で。
嬉しいような、悔しい、ような。
「あの、アオ」
ロトロトロトロト
……
。
「!」
「あ。ペパー着いたみたい」
「ペパーが?
……
あ、特別講師?」
「そう。ちょっと迎えに行ってくるね」
「う、うん
……
」
そういやペパーとの距離は、どういう感じだったっけ。キタカミでは基本みんな一緒だったから、よく覚えてないんだよな。
ペパーをここ、部室に送り届けると同時に、アオイは校内放送で呼び出されてしまった。
……
今なら、聞ける、かな。
「あの、あのさ、ペパー。聞きたいことが、あんだけど
……
」
「ん? なんだ? 野菜サンドの作り方か?」
「違う。
……
えと、ペパーはさ。アオイとの距離が、なんか近いなとか、思ったこと、ある
……
?」
「距離?」
「そう。こんな位置さ顔とか肩とかあったり、しない
……
?」
自分の手であらわしてみても、やっぱり近いなと感じる。
「
………………
いや? オレとアオイは親友だけどよ。だからって、やたらめったらそんなに近付くことなんて、めったにないぜ?」
「え」
「せいぜい写真撮るときとか、必要なときだけだな。スグリの言い方だと、普段からその近さなんだろ?」
「う、うん」
「
……
オレが知る限り、アオイがそこまで自分から近付くような男は、スグリだけだ」
……………………
は????
「っ、だ、けど。アオイは、俺のこと、と、友達だって
……
」
「
…………
はあ?」
「
…………
?」
「
……
あー、そういう
……
そっかそっか
……
」
いや一人で納得しないでほしい。頼むから説明してほしい。
「あの、ペパー
……
?」
「あ、悪い。えーと、なんて言やいいんだろうな
……
こういうのって第三者が口出すとバンバドロに蹴られるっていうしな
……
」
「??」
「うーん
……
けどこれは、言っても、大丈夫ちゃんなやつ、だよな
……
?」
何をだ。
「
……
あのな、スグリ」
「うん?」
「アオイはさ、ハグとかの軽いスキンシップくらいだったら、割と誰とでもしてるけどな? だけど男であれ女であれ、不用意に距離つめるようなやつじゃないし、無意識でも多分、必要以上に近付くことはない、と、オレは思う」
「う、うん
……
?」
「オレは実際にスグリとアオイが近いとこ見たわけじゃねーが、話聞く限りだとそれは近すぎちゃんだ。ええっと、つまり、つまりな?」
「アオイは多分、意識的に。オマエとの距離、つめてるんじゃねーかな」
「え」
そ、れは。
いったい、どう、いう。
「ペパーお待たせー!」
「!」
「! お、おう」
「
……
もしかして、話し中だった?」
「や、平気。
……
だよな? スグリ」
「
…………
ん」
「そっか。
……
ってスグリ!? 顔真っ赤だよ!? 熱でもあるんじゃ
……
?」
誰のせいだと。
額にのびてきた手を掴んで、自分の胸に押し当ててやる。息をのむ音が聞こえた。
……
伝わった、かな。
「っ、スグリ
……
?」
「
…………
俺は」
「
……
?」
「俺は、友達に、対して。こんな、どきどき、しねえから」
「っ」
「
……
っ! あっ、あたま、ひやしてくる!」
ここが部室だということ、ペパーやカキツバタがいることを思い出して、ばっと手を離した。その勢いのまま駆けだす。今更になって恥ずかしさが襲ってきた。何を、何をしてんだ俺は
……
!!
すべり込むようにエレベーターへととび乗って。扉が閉まる直前、アオイの姿が、見えた。
エントランスロビーはブルーベリー学園で唯一、外を感じられる場所だ。つくられたものではない潮風が、頬をなでていく。
アオイのあの様子だと、多分すぐに追ってくるはずだ。だからせめてと、死角になる場所に腰をおろし、膝を抱えて丸くなる。
ああもう、何やってんだ、俺は。あんなの、ほとんど告白も同然だべ。
友達じゃもう、満足できないくせに。その関係を壊すのが怖かった。近しい距離に甘えていた。もしかしてって、思ったこともないわけじゃなかった。ペパーの言葉が、頭ん中でぐるぐる渦巻いてる。
もしかして。でも、違ったら?
アオイの真意を、知りたい。知りたくない。
アオイの気持ち、聞きたい。聞きたくない。
「ジチュ!」
「わぎゃ!?」
「カジッチュ? スグリ見つけたの?」
「
……
ぁ」
「チュ!」
「ありがとう」
……
俺があげた、カジッチュだ。アオイによく懐いてるようで、差し出された手に元気よくぴょん、と乗ると、そのまま肩まで登っていく。定位置、なのかな。
「スグリ。隣
……
いい?」
「
…………
うん」
アオイが隣に腰掛ける。肩が触れて、温度が伝わる。じんわり伝わる温かさが、心地良い。
「その、ええと。わ、私、ね。ずるっこ、なの。スグリに、嘘、ついてた」
「
…………
うそ
……
?」
「
……
あの、えっとね」
「
…………
」
顔をあげてアオイを見た。アオイは視線を前へ、バトルコートへとむけたまま、話し続ける。
「スグリが大切なのは本当。近くにいると安心するのも本当だよ。
……
でも、でもね」
「わざと、近付いてた」
「! なん、で」
「
…………
スグリに、私を、意識。して、ほしくて」
視線が、ぶつかる。その瞳は潤んでて、今にも、こぼれおちそうになってた。
「い、しき」
「
……
うん」
「
……
んなの、ずっと、してる」
「っえ」
そっと手をのばして、三つ編みに触れる。ぴく、と、肩がはねた。
「
……
こんなふうに、近いと、どきどきする。今も。こうして、触りたくなるし、もっともっと、って、欲しくなる。欲張りになる」
「す、ぐ」
「けど。“友達”だからって、我慢、してた。我慢しなきゃって、思ってた」
「あ、え?」
頬に触れる。柔らかくて、すべすべしてる。俺とは、違う。
「でも、アオイがわざと、近付いてたって言うんなら。俺に、意識さしてもらいたかったって、言うんなら。
……
その、脈ありだって、思っても、い?」
「ふ、ぇ
……
? みゃ、脈
……
?」
潮風が、髪をゆるり、ゆらす。
「俺っ
……
俺、アオイが好きだ」
「っ!」
「アオイ、は?」
「ぁ
……
え、と」
「アオイは、俺のこと、好き? 俺のこと、欲しいって、思う?」
「っ、そ、んな、聞き方、ずる、い、よ」
先にずるっこしたのは、アオイだべ?
「アオイ」
「
……
」
「あおい」
「
……
っ、わ、たし! スグリ、の、こと」
その日から俺達の距離は、友達のそれではなくなった。
……
なくなった、のだけれど。
「アオイ」
「ひゃっ!?」
「
……
あのさ。毎回そういう反応されんの、ちょっと傷つく」
「ごっ、ごめん。でもその、ち、近すぎて
……
!」
「
…………
」
ついこの間までは平気そうにしてたくせに。
照れてるらしく顔真っ赤にしてるアオイが、わやめんこいから別にいいけど。
だけど。
欲しいって気持ち。触れたいって気持ち。もう、我慢、したくない。
「まずは、手繋ぐことからかな
……
」
「
……
スグリ? 何か言った?」
「いや、なんでもね。気にしねえで」
「う、うん
……
?」
ほんとに嫌がるようなことはしたくないけど、でももう、止まれそうにないから。
「なあ、アオイ」
「何?」
「お願いだから、慣れてな?」
「!?」
俺から、逃げないでね。
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