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まきわ
2024-11-21 21:26:13
4680文字
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クロリン
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君の香り
学院時代〜創後クロリンです
フォロワーさんと先輩のシャツ着てぶかぶかでずるいって拗ねるリィン君の話をしていて書きたくなったんですが、主題が匂いになってるのは私の趣味ですね…
学院時代だけだと切なすぎたので奥義数年後を使いました
ざぁっという雨音が一瞬大きくなったのは扉が開かれたからだった。
「すみません、失礼します!
…
って、クロウしかいないのか」
閉めた扉の前でぽたぽたと雫を落としているのはクロウの後輩であり、いまや同級生でもあるリィンだった。
一人技術棟でぼんやりグラビア誌を眺めていたクロウは雑誌を閉じて立ち上がった。
「ジョルジュは出かけてるぜ
…
ってかこの雨の中走って来たのかよ?」
クロウは隅にある棚からタオルを出してきてリィンに投げてやる。
リィンは礼を返しつつそれを受け取って髪を拭い始めた。
「依頼を片付けてたら急に降り出したんだ。本校舎に戻るつもりだったんだけどひどい降りようでついここに飛び込んでしまった」
ふう、とため息をついたリィンはバケツの水でもかぶったような有様だ。
少し前に急に激しい雨音がし始めたと思ったが相当降っているらしい。
「んじゃしばらく出れねぇな
…
。
…
んーその状態じゃ風邪ひいちまいそうだな」
まだ残暑の時期とはいえ少しずつ気温は下がってきている。
リィンはタオルで顔を拭いながら苦笑した。
「鍛えてるし大丈夫だ。気にしないでくれ」
「するっつの。オレの着替えが置いてあるから貸してやるよ」
「
……
いやなんでここにクロウの着替えが?」
「ふっ、心配すんな。教室にもある」
「なんの心配だ
…
。でもそうだな
…
せっかくだからあるなら借りようかな」
「おう、そうしろそうしろ」
クロウはタオルがあったのとは別の棚に袋に入れてしまってあった予備の制服を取り出した。
ジャケットはないが、シャツとズボンの一揃いがある。
「パンツはねぇからノーパンで我慢しろな」
「そっ
…
余計なことはいいから!」
濡れたままでは一番気持ち悪いところだろうが、リィンの性格では脱ぐとも脱がないとも明言できなくて誤魔化したようだ。
着替えをテーブルに置いてやるとリィンは礼を述べてそれに手を伸ばした。
じっと見つめていたら睨まれてしまったので仕方なく背を向ける。
同性なんだしいいような気もするが、じっと見るものでもない気もするので大人しく待ってやることにする。
ただし扉の向こうの気配には気を配った。
自分が見ることのできないリィンの裸を他の者が見るのはなんだか癪だ。
「よし、もう大丈夫だ」
声を掛けられて振り向くとクロウの服を纏ったリィンとテーブルに広げた置かれたリィンの制服が目に入った。
ジャケットが一部わずかに盛り上がっているのは、恐らく下着をおおっぴらに置けずにそこに隠したのだろう。
やはり脱いだか、と妙な納得をしていると、リィンがなんだか不満そうな顔でシャツの胸元をつまんでいた。
「なんだ?洗ってあるから臭くはねぇと思うが」
「いや、そうじゃなく
………
すごく、余ってる」
「へ」
一瞬考えて、何を言われているのか思い当たる。
…
確かに、だいぶ余ってぶかぶかだ。
なんなら袖も手を覆いかけている。
「
…
そりゃ
…
しょうがねぇだろ」
体格が違うんだから、と言いかけてやめたのはせめてもの気遣いだ。
「歳だって一つしか違わないのに」
本当は二つ違う。
だがそれを言うわけにいかずに困った顔で眉を寄せるとリィンはぶかぶかのシャツのあちこちをつまんで持ち上げて、むくれた顔をした。
「
…
なんか、ズルイ」
「ズルイってお前な」
あまりにも理不尽な物言いに思わず苦笑する。
リィンがつまんでいた胸元から手を離すと、肩幅も若干余っているのかずるりと少しシャツがずれる。
「鍛えてるはずなのに
…
なんでだ」
「そりゃまぁ体質ってのもあるが
…
とはいえお前だってまだまだ身長も伸びんだろ」
「身長と筋肉って関係あるか?」
「成人して体がしっかりしてくりゃもう少しつくだろ。
……
多分」
「むう」
むくれられてもこればかりは保証はしてやれない。
とはいえまだまだ少年期と言えるリィンの体はまだ大きくなるだろうという気はした。
「コーヒーでも淹れてやるから機嫌直せって。体冷えただろ」
「ん
…
そういえば少し肌寒いかもな。でもいいのか?ジョルジュ先輩のなんじゃ」
「四人揃ったら適当にトワが淹れたりしてるし大丈夫だって」
ここに籠って作業していることの多いジョルジュの為に、そしてここをたまり場にしている四人の為に、去年の内に簡易コンロとポットを買って置いたのだ。
ジョルジュは作業に熱中し始めるとコーヒーを淹れる手間も惜しむのだが、四人揃って雑談をする時には重宝している。
水を汲んでポットを火にかけ、挽いてあるコーヒー豆はどこだったかと首を巡らせるとシャツの胸元に鼻先を突っ込んでいるリィンと目が合った。
視線に気付いてリィンは気恥ずかしそうに微笑んだ。
「当たり前だけど、クロウの匂いがするな」
「
…
っ」
ポットの柄を掴んだままだった手が動揺に揺れてかたっと音をたてる。
なんとか一瞬で鎮めて作り笑顔を浮かべる。
「
…
そりゃオレの服だしな。お前の服はお前の匂いがするだろ」
「うーん
…
でもクロウは香水をつけてるからこれってその香りだろう?俺の匂いってするのかな」
「そりゃするだろ。体臭がつくもんだ」
「そ、それはなんかやだな
…
」
クロウはにや、と揶揄うような笑みを浮かべた。
「好きなやつの体臭はいい匂いに感じるらしいぜ?」
「そ、そうなのか?」
言ってリィンは何故か再びクロウのシャツを鼻先に近付けた。
変な気分になるからやめてくれ、と思ったが口には出せない。
「この匂いは好きだな。
…
でも
…
」
しばらく試すようにかいでいたリィンはふと呟いてクロウを見た。
「クロウはいつも香水をつけてるから
…
クロウの本当の匂いってどんなのなんだろう?」
「
…
っ!」
仮面を被って学院生活を送っていることを見透かされたように感じて一瞬表情が固まる。
なにげなく、言葉通りのことを聞いただけなのだろう、リィンは。
けれどクロウには真っすぐな瞳で「本当のクロウは?」と聞かれたような気がして、それが酷く胸を刺した。
思わず沸騰し始めたポットに視線を逸らす。
「
……
さぁな。ずっとつけてるから、もうわかんねぇな」
何が本心で、何が偽りなのか。
どうしたいのか、何が本当の願いなのか。
それでも、クロウはもうこのまま歩みを止めないと決めている。
だからこそ。
(お前は
…
本当のオレを知った時に、それでも「好きだな」って言えるのか?)
その問いを口に出すことはできない。
けれどその答えは近い未来必ず出ることになる。
これ以上考えたくなくて、クロウは頭を振って考えるのをやめた。
数年後。
ばたん、と扉が閉まって雨音が小さくなる。
「はぁぁぁっ」
「うへー
…
急に降ってきやがんだもんなぁ」
玄関に雫を落としながら、クロウとリィンは揃って息をついた。
旅から一時帰省したクロウを駅まで迎えに来てくれたリィンと、二人で借りた家に戻る途中のことだった。
ぽつり、と水滴が頭に当たったと思ったら次の瞬間には滝のような大雨が降りだした。
二人は慌てて家まで走ったものの、その間にコートから下着までしっかり濡れてしまった。
「とっとと着替えようぜ、風邪ひいちまう」
「だな」
頷き合うと一旦風呂場まで揃って駆ける。
そこまでの廊下は後で拭くとして、脱衣所に辿り着いたところでコートを脱ぎながらクロウはリィンを見た。
「先入ってろ。着替え持ってきておくから」
「え、いいよ、俺が行く」
同じくコートを脱いで洗濯用のかごに放り込んだリィンにクロウはにやっと笑って見せた。
「これ以上廊下濡らしてまわんのもあれだろ。かといってリィンくんは裸で寝室まで走るなんてできるのかな~?」
にやにやと言うと、リィンは少し頬を染めて拗ねた顔をした。
「
…
クロウだって家の中とはいえ裸で走り回るのはどうかと思うが
…
わかったよ。なら頼む」
観念したリィンの頭をぽんと軽く撫でて全裸の状態で服をしまっている寝室へ走る。
クロウの服は家に置いたままのものもあるので、そこから適当に掴んで持っていく。
服を掴んだその瞬間、ふと懐かしい記憶が頭に蘇った。
悪戯心が湧いて思わず笑みを浮かべつつ、そのまま服を二揃い持って風呂場に戻った。
その後は揃って風呂で温まりつつ、久しぶりの再会だったので多少「親交」を深めもした。
浴室から出て、湯の効果以外の原因もあって火照ってぼぉっとした様子のリィンは、置いてある服を掴んだところで我に返って眉を寄せた。
「
…
クロウ、これ両方ともクロウの服だぞ。わざとだろ」
「着れるだろ?」
「まぁそうだけどなんでわざわざ
…
」
意図のわからない悪戯に困惑しつつも、裸のままでいるわけにいかないのでリィンはクロウのシャツを着込んだ。
そこでふと、何か思い出したように動きを止めた。
「
…
そういえば、前にも雨に濡れてクロウの服を着たことがあったな」
「
…
ああ」
同じ記憶を思い出した様子にクロウは少しだけ自嘲気味に笑みを浮かべた。
それには気付かずリィンは胸元を引っ張って口を尖らせた。
「ふう、やっぱりぶかぶかだな
…
」
呟いた言葉に思わずクロウは口元を緩める。
想像通りリィンの体はあの頃よりがっしりしたが、それ以上にクロウの体格が良くなった。
悔しそうにあちこち引っ張ってから、ふとリィンが横目でクロウを見た。
「
…
あの時した会話、覚えてるか?」
あの時のように襟元を鼻先に近付けながらリィンが聞いた。
クロウは少し切なげに眉を寄せつつ頷いた。
「
…
ああ」
「あの時、香水の混じらない本当のクロウの匂いはどんなのなんだろうって思った。
…
でもちょっとわかったんだ」
「わかった?」
リィンは、自分とは逆にズボンだけを纏った状態のクロウに近付いて、胸元に鼻を寄せた。
「香水ってつけるとつけた人間の体臭とまざって少し匂いが変わるだろう?」
「まぁ、そうだな」
「だったら、香水と混ざり合ったこの全部合わせた香りがクロウの匂いなんだろうって。本当も何もないんだ」
愛おしげにクロウの胸に鼻先を擦り寄せるリィンの言葉にクロウは目を瞠った。
「
…
全部」
「うん。今のクロウはこれまでの過去全部が合わさって出来上がっているものだろう?それと同じで
…
クロウが香水をつけているなら、それも全部合わせて香るこの匂いが『クロウの匂い』だ。
…
俺は、好きだな」
あの時と同じ言葉を告げて、すぅっと浸るようにリィンがクロウの胸元で大きく息を吸う。
…
今はもしかしたら、ボディソープの香りがするかもしれないが。
「
…………
ったく」
クロウは呆気に取られた後、脱力したように呟いて思い切りリィンを抱き締めた。
「わわっ」
「香水やめたらとんでもねぇ悪臭がするかもしれないぜ?」
「
…
どうだろうな?でもきっと、それでも俺はクロウの匂いが好きだよ」
散々クロウを追いかけ続けてきたからこその説得力ある言葉に、クロウは降参するしかなかった。
抱き締めたままリィンの濡れたままの髪に顔を埋める。
「オレもお前の匂いが好きだぜ、リィン」
「そ、そうか。なんか言われると恥ずかしいな
…
」
「いやお前が先に言ったんだろーが」
こつんと頭を小突いてやると楽しそうに「いて」という声が胸元から返ってくる。
温もりと匂いを感じながらクロウはしっかりとリィンを抱き締めた。
(そうかもな。つけてきた仮面も含めてきっとオレで
…
全部ひっくるめてこいつは受け止めた。本当も何もねぇ、か
…
)
なんだかまたひとつ、かつてのわだかまりが解けた気がしてクロウはふっと顔を緩めた。
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