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溶けかけ。
2024-11-21 17:56:01
5348文字
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ほぼ日刊
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猫耳天使メイドはお持ち帰り不可です!
鮗さんの素敵なイラストを拝見した際に思いついたお話です。(許可済み)
ちょっとだけ雰囲気えちちなので、苦手な方はご注意です。ハロウィンの仮装のヌヴィフリフォカの続きになります。
「
……
いってきます」
フリーナは出来る限りの小声で呟くと家を出た。今の時刻は午前十時。昨夜はたっぷりと夜更けまでゲームに付き合ってもらったフォカロルスは未だ夢の中だ。
「じゃあ皆、この子が今日から入る新人さん。フリーナちゃんって言うの。──フリーナちゃん、挨拶して」
店長に促されて、輪の真ん中へと歩み出る。猫耳メイド服に天使の羽根を背負ったフリーナの先輩たちは皆、興味津々でフリーナを見つめていた。
「フ、フリーナです。よろしくお願いします
……
」
おずおずと挨拶をしたフリーナに温かな拍手が送られる。ほっと息を吐き出す彼女に店長の女性は満足そうに頷いた。
「じゃあ、自己紹介をしてもらうわね。とはいえ、うちは名札があるから間違わないと思うけど。こっちから時計回りにお願いするわ」
店長が指名した女の子が挨拶を始め、朝礼の時間は過ぎていった。
「ふぅ
……
緊張するなぁ
……
」
今日はフリーナの初めてのアルバイトの日だ。場所はいわゆるカフェ。それも、コンセプトカフェと呼ばれる場所である。この店のコンセプトはメイド、天使、猫だった。店の看板に描かれていた羽の生えた猫が可愛いらしく思えたフリーナは誘われるようにして、この店の面接を受けたのだ。学校では特にアルバイトの禁止の校則もなく、トントン拍子に話は進んでいった。無論、現状の小遣いに不満があったとかそういうことではない。彼女がアルバイトを始めたのにはちょっとした理由があった。
(ヌヴィレット、もうちょっとで誕生日だし
……
どうせなら初めて貰ったお金でプレゼントを買いたいな
……
ありきたりかもしれないけど、ネクタイとかでもいい
……
きっと彼に似合うと思うんだ)
そう。フリーナは少し背伸びをしたくなったのだ。社会人のヌヴィレットの足元には及ばずとも、ちょっとでも質の良いものを、と。勿論、彼は手作りであろうと、そのへんのゴミであろうと喜んで受け取ってくれるだろうが、フリーナの矜持が許さなかった。ヌヴィレットとのデートも、貰うプレゼントも天井知らずと言っていいほど質が上がり続けている。貰ってばかりでは性に合わないのだ。
(今年からはもっと良いものを用意してやるんだからな、覚悟しておいてくれよ)
「フリーナちゃん、一番テーブルのお客様の接客よろしく〜」
「あっ! はい! ただいま!」
フリーナは伝票を携えて気合を入れる。さあ、初めての接客だ!
「な
……
ななな、なんでいるんだい!?」
フリーナが向かったテーブルには見覚えのある影が二つ。一人はフリーナと瓜二つの少女で双子の姉、フォカロルス。そしてもう一人は──。
「ゴホンッ
……
」
「ヌヴィレット! キミ、仕事じゃなかったのかい!?」
「今日は有休でね。フリーナ殿こそ、奇遇だな」
「奇遇だな
……
じゃない! あああぁ
……
これだからキミたちに教えたくなかったんだ
……
」
フリーナはへなへなとその場にしゃがみ込む。一ヶ月
……
一ヶ月だ。フォカロルスにもヌヴィレットにも気付かれないように細心の注意を払って事を進めてきたというのに。全て水の泡だ。
「ふふっ
……
同じ家に住んでいるのに誤魔化せるわけないじゃないか。フリーナは可愛いね」
「すまない
……
私は止めたのだが
……
」
ヌヴィレットが申し訳なさそうに眉を寄せる。フォカロルスが不満げに唇を尖らせた。
「えぇ~
……
僕のせいだって言うのかい? キミだって、『フリーナ殿に危害を加える者がいないとは限らない』ってノリノリだったじゃないか」
「それは
……
恋人として当然のことであろう? フリーナ殿
……
ゴホンッ
……
フリーナに何かあっては君にもご両親にも顔向け出来ない」
「うんうん。キミの立場ならそう言うと思ったよ。でも、フリーナの猫耳天使メイドが見たかったのも本音だろう?」
「
………………
多少は
……
そのような下心がなかったとも言えない
……
」
「ほら。やっぱり、見たかったんじゃないか。もっと素直になりなよ。──あれ? フリーナ、顔が真っ赤だけど熱でもあるのかい?」
フォカロルスがにっこりと微笑んでフリーナの頬に手を添えた。二の句が告げず、ぱくぱくと口を動かすばかりのフリーナは、着ているコスチュームも相まって、どこか愛くるしい。
「かかかか
……
」
「かかか
……
?」
フォカロルスが首を傾げる。
「帰ってくれよぉ
……
!」
「うん。それは出来ないお願いだ。ほら、オーダーを頼むよ、メイドさん」
間髪入れずに切り捨てたフォカロルスはいつの間にかメニューを広げていた。
「僕は
……
天使のふわふわ肉球ココアにしようかな? キミは何にする?」
フォカロルスがヌヴィレットに水を向ける。彼はしばし、思案したあと、メニューの中でも一際大きな写真を指差した。
「では、この
……
天使のとろとろオムにゃいすを
……
」
「ほら、フリーナ。注文を取って?」
帰る様子のない二人にフリーナは肩を落とす。何が悲しくて、初接客の相手が身内なんだ。授業参観じゃないんだぞ。
「天使のふわふわ肉球ココアと天使のとろとろオムにゃいすを一つずつだね
……
少々お待ち下さいま
……
」
「あれ? フリーナ。語尾が違うんじゃない?」
フォカロルスがこてんと首を傾げる。柔らかな言い方ではあるが、彼女の言葉には強制力があった。
「うぅ
……
言わなきゃだめかい
……
?」
「だーめ。仕事だろう?」
フリーナは二人に向き直ると顔の横で拳を軽く握る。そして、頬を染めると言い放った。
「お待ち下さいにゃん!」
理解が追いつかず、即座に固まるヌヴィレットの隣ではフォカロルスが腹を抱えて声を出さずに笑っていた。
「じゃあ! 僕はもう行くからね!」
フリーナはそんな二人の様子に頬を膨らませると、ちりんちりんと首元の鈴を鳴らしながら去っていった。
「お、お待たせしました
……
にゃん!」
「いいよ。フリーナ。その調子」
フォカロルスの言葉にヌヴィレットも無言で頷く。キミ、本当になんなんだ。アイドルグループのプロデューサーみたいだぞ。ヌヴィレットに至っては古参ファンのような貫禄があるし。
フリーナは銀のトレーからココアとオムライスを下ろすと二人の前に置いた。ホットココアの上にはふわふわにホイップされた生クリームとピンクのチョコペンで肉球が描かれた猫の手の形をしたマシュマロが乗っている。
「わぁ
……
写真で見ていたけれど実物の方が可愛いね、これ」
フォカロルスが目を輝かせる。
「食べ物と飲み物は撮影OKだよ。店員さんは駄目だけど」
フリーナが壁に貼られたA4サイズの紙を指さして言えば、フォカロルスはいそいそと携帯端末を取り出すと、撮影を始めた。双子故か、彼女も猫や可愛いものが好きなのだ。
「ヌヴィレットのは、ちょっと待ってて」
スプーンに手を伸ばしかけていたヌヴィレットを静止すると彼の隣に回り込む。そして、持っていたケチャップを取り出すと、羽の生えたデフォルメされた猫のイラストをオムライスに描いていく。店内の至るところにグッズが置かれ、オムライスの皿やココアのマグカップにも印刷されているのを見るに、この店のマスコットキャラクターのようだ。
「
……
まだ何か?」
絵を描き終わっても立ち去る様子のないフリーナにヌヴィレットは首を傾げる。いつまでも身内と遊んでいるわけにもいかないのではないだろうか。
頭を捻るヌヴィレットと湯気すら出そうなほど顔を真っ赤にさせるフリーナ。二人がしばし、見つめ合っていると、フリーナが覚悟を決めたように動き出す。ずんずんと足音を立てながら二人の間に立ったフリーナは両の指先でハートを作ると大きく息を吸い込んで、半ばやけくそ気味に「魔法の呪文」を唱えた。
「ふ、ふわふわ、にゃんにゃん
……
ご主人さまにキューピッドの祝福をあげるにゃん!」
「
…………
」
「
…………
」
「な、何か言ってくれよぉ!」
フリーナの目尻に涙が浮かぶ。フォカロルスはテーブルに片腕をついて立ち上がると彼女の頭を撫でた。
「うんうん。頑張ったね、フリーナ。可愛いよ」
「ほ、本当
……
? 良かったぁ〜
……
」
安堵したように眉を下げるフリーナを撫でながら、フォカロルスはヌヴィレットの脛を蹴り上げる。
「ぐっ
……
!」
「ヌヴィレット
……
? どうかしたかい?」
心配そうなフリーナの横で、フォカロルスがヌヴィレットを睨めつける。その瞳は褒めてやれ──と言っているようだった。
「
…………
何でもない。それと
……
今のポーズと台詞は君の魅力を十分に引き出していた。自信を持つといい」
「そ、そう
……
? なんだか恥ずかしいな
……
」
異性に手放しで褒められて嬉しくない乙女などいない。ましてや、それが恋人であるのなら、なおのこと。
ヌヴィレットは耳の先を、フリーナは頬を、それぞれ染めてもじもじとし始めた二人を遮るようにパンッという音が響いた。
「いちゃいちゃは終わり。フリーナはまだ、仕事があるんだろう?」
「
……
あ、そうだった
……
! ごめん、二人とも! また後で!」
フォカロルスの声に我に返ったフリーナは手を振ると鈴の音を鳴らしながら、次のテーブルへと向かって行った。
「フリーナ殿」
「ヌヴィレット! 迎えに来てくれたのかい? 待っててくれ、これを捨てたら着替えて終わりだから」
フリーナの言葉にヌヴィレットは頷きで返す。フリーナは仕事着姿のままでゴミ捨てをしていた。
「そのような格好では体に障る。着けているといい」
ヌヴィレットは自身の首からマフラーを外すとフリーナの首に巻き付ける。僅かに触れた柔らかな肌の冷たさに彼は眉を顰めた。
「いつからここに?」
「じゅっ
……
5分くらい前かな。飲食店ってゴミが多いんだね。往復してしまったよ」
鼻頭を赤くさせてフリーナは笑う。本当はもっと前から居たのだが、心配させるのも悪い気がして、嘘をついた。眉をハの字に寄せたヌヴィレットは赤く染まった彼女の手を取ると自身の上着のポケットに導く。
「ふふっ
……
キミって、凄く世話焼きだよね」
「手のかかる恋人なものでな。無防備なので、自ずと世話を焼いてしまうのだ」
「へぇ
……
? キミの彼女ってそんなにお転婆なんだね」
「ああ。だから、困っているのだ。こんなにも愛らしく、こんなにも愛しいのでな」
ヌヴィレットはそう言うと、フリーナの喉下を無で上げた。ふるり、と彼女が僅かに震える。
「いい子だ
……
」
ヌヴィレットがフリーナの喉を撫でるたびに彼女の首元からくぐもった鈴の音が聞こえた。いつもより、甘い声と態度に脳の奥から甘い痺れが広がっていくようだった。
「に
……
にゃあ
……
もっと
…
撫でて欲しい
……
にゃ
……
」
フリーナの口をついて出たおねだりにヌヴィレットが思わず手を止める。我に返った彼女は慌てた様子で、忘れてくれ、と目をそらした。
「もっと欲しいのかね
……
?」
ヌヴィレットの手がフリーナの首筋をなぞる。焦らされるような動きに嫌でも体温が跳ね上がった。
「ヌヴィレット
……
僕
……
」
「うん? 言ってみるといい
……
どんなことでも私が叶えてみせよう。今日の君のがんばりの対価として
……
」
「じゃあ、僕
……
」
うっとりとしながらフリーナが吐息を零し、
ピピーッ!
突如として甲高い笛の音が静かな路地に響き渡る。
「ヌヴィレット
……
僕はフリーナを迎えに行けとは言ったけど、いたずらをしろ、と言った覚えはないよ?」
フォカロルスは口から玩具のホイッスルを離すとヌヴィレットとフリーナの間に割って入った。そして、フリーナに着替えてくるよう促して、席を外させるとヌヴィレットに向き直って腕を組んだ。
「僕と交わした約束
……
まさか忘れたなんて言わないよね?」
笑顔で威圧するフォカロルスにヌヴィレットは視線を泳がせた。
「無論、君との約束を忘れたことなどない
……
」
「ふぅん? そのわりには、フリーナがちょっとずつ、えっちな子になってしまっているんだけど? 知っていたかい? あのハロウィンの日から、自慰を覚えてしまったみたいでね。時々、キミの名前を呼びながらしているみたいなんだ。心当たりがあったり──なんて、しないよね? 手を繋いだり、ちょっとしたボディタッチまでは許したけど、下まで触る許可は出してないよ?」
「
………………
」
「おや、だんまりかい?
……
キミ、沈黙は肯定って言葉を知って──」
「二人ともお待たせ! って、どうかしたかい?」
着替えを済ませたフリーナが息を切らせてやって来た。彼女はヌヴィレットとフォカロルスの間にある並々ならぬ空気を感じて首を傾げた。
「ううん。なんでもない。フリーナ、今日の夕飯は何がいい? たくさん頑張った子にはご褒美をあげないとね」
「本当かい!? えっと、何にしようか〜
……
」
フォカロルスはフリーナの腕に自身の腕を絡めると、さも当然のように歩き出す。夕食に悩むフリーナの横でこちらをこっそり振り返ったフォカロルスはヌヴィレットに向かって、ウインクをするように片目を閉じると小さく舌を出すのだった。
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