けろか
2024-11-20 20:37:12
1777文字
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テレビ局パロ竹くく 照明×AD

照明な八左ヱ門あまりにかっこいいのとAD兵助がめちゃめちゃはちゃめちゃ可愛くて衝動的に……
性格の悪いモブ俳優俺目線です!!

 俺はモブ田。バラエティ番組の引っ張りだこの売れっ子俳優……とまではいかないが、それなりの知名度はある。今日も某局の人気バラエティの収録だ。
 スタジオの隅から、耳に馴染んだ声が響く。耳障りがいい、よく通る声。華やかな照明に照らされた舞台セットの向こう、飾り気のない黒いポロシャツが目に留まる。
「はい、次のコーナーいきます! スタンバイお願いします!」
 今日の撮影は彼がいるからラッキーだ。業界で密かに話題のアシスタントディレクター、兵助くん。初めて彼を見た時から、その存在が俺の目を惹いて離さない。
 すらりと伸びた背筋に凛とした佇まい。和風美人と呼ぶにふさわしい端正な顔立ち。癖のある黒髪が首筋で揺れるたび、艶やかな光を放つ。しかも現場回しは完璧で、優等生の肩書きまで持ち合わせる。
 特に笑顔の指示を出す時の彼には、俺だけでなく、誰もが思わず息を呑んでしまう。
 それが見たくて、意図的に無表情を作ってみる。さほど難しくはない。役作りの一環として、既に何度も鏡の前で試した表情だ。演技のプロなのだから、こんな程度の表情管理など、お手のものだ。 
 案の定、兵助くんは俺の不機嫌そうな表情に気付いて、心配そうな眼差しを向けてくる。
『もっと笑顔で!』
 ――来た!唇が柔らかく弧を描き、頬に小さな窪みができる。ふにゃりと緩んだ瞳。そう、この笑顔が見たかった。息を呑む。と、彼がふと横を向いた。あ、なんでだよもっとこっち向いててほしいのに。
「竹谷さーん、照明の調整お願い!」
 彼の視線の先に、野性味溢れるボサボサ頭の男がいた。脚立の上からスタジオを覗き込むように身を乗り出している。
 にかっと笑う照明スタッフに、兵助くんの表情が変わった。スタッフがさり気なくウィンクを返すと、彼は慌てたように視線を逸らし、それでも頬を緩ませている。
 妙な違和感が胸を掠める。形は同じ笑顔なのに、どこか違う。仕事の時の清々しい笑顔に、ほんの僅かな艶が混じっているような……
 面白くないが、しょうがない。こちらは知名度という切り札は、まだ切っていないのだから。スタジオの片隅での目配せなんかじゃなく、もっと直接的に、この想いを伝えてやろうじゃないか。
 次は、俺から仕掛けていく——彼のあの笑顔が、俺だけに向けられる日も、そう遠くはないはずだ。

 休憩中の兵助くんを探して歩いていると、奥まった倉庫から、微かな気配が漏れてきた。
 半開きのドアの隙間から見えた光景に足が止まる。
 薄暗い倉庫の中で蛍光灯の明滅の下で、例のボサボサ頭の男が兵助くんの細い腰に手を回していた。白い首筋に唇を寄せ、額を重ねて、僅かな間を置いたかと思えば、唇と唇が重なる。生々しい音が聞こえるようだった。
 ――広めてやろう。言いふらしてやろう。誰に?いや、誰でもいい。スタッフに、マネージャーに、局長に。誰かに言えば、この二人は――。そう思った矢先、今まで聞いたことのない声色が耳に届く。
「たけや、……やめ、誰か来ちゃう」
 か細く震える声には、艶めいた色が混じっていた。
「大丈夫だって、このビルも久々知グループの持ち主じゃん」
「っおい、苗字で呼ぶなって誰かに聞かれたら」
「大丈夫だって、な、じゃあへーすけも俺の名前呼んでよ」
……はち」
 甘えるような声に、無骨な手が兵助くんの髪を優しく梳く。嫉妬する気は、もう起きなかった。「久々知」という響きが、大きすぎたからだ。某財閥系の不動産グループの――このビルの持ち会社だ。優位に立っていたはずの足場が、音を立てて崩れていく。言いつけるどころか、今まで抱いていた淡い期待さえ、夢のように消えていった。届くはずのない場所で、あの柔らかな笑顔は、永遠に俺のものにはならない。

 次の日、現場で見た久々知くんは相変わらずキラキラしていた。時折、照明の位置を見上げては柔らかな笑顔を零している。――あんな上玉は俺には荷が重すぎたってことだ。あいつにくれてやる!そう強がってみても、胸の奥に広がる虚しさは消えない。ふと見上げると、例の照明と目が合った。にやり、と笑って、こちらにもウィンクをよこす。
 ――まさか。あのやりとりって、俺に気づかせるために?
 背筋に寒いものを走らせながら、カメラの前で作り笑いを浮かべた。