ちよど
2024-11-24 00:00:00
7805文字
Public わし様など
 

当女神は対象サーヴァントの名称を『オトウサマ』と定義します

殺戮女神がわし様を『オトウサマ』と呼ぶに至った経緯。 pixivより再掲

「わし様の『娘』に何をする!」
 前衛をすり抜けた魔獣の爪が少女に届く寸前、わし様の華麗な蹴りがその攻撃を弾いた。
 驚いたようにわし様を見る彼女はカルデアに来たばかり。ろくに種火も食べておらず、こんな雑魚相手にすら戦えないだろう。
 今がチャンスなのだ。
 わし様は格好良く棍棒を魔獣の頭に叩き込んだ。どんな生物でも頭を打てばダメージが入る。ドローナ師の教えである。
 魔獣が息絶えたのを確認して振り返ると、彼女は先程と微動だにしていない姿でこちらを見ていた。
「お礼の言葉はないのか? シヴァの神妃ともあろうものが」
 いつもの無表情の中、ドゥルガーの真紅の瞳に殺意がみなぎった気がした。
「魔は偽ります」
「わし様は人だが?」
 返答は神授の武器の実体化だった。
 さまざまな神がドゥルガーに与えたという魔神殺しの十装。その中には忌々しい奴と結びついているヴァーユの矢もある。
 戦略的撤退!!
 わし様はこの場で1番安全な場所に駆け込んだ。すなわち我が心の友カルナの背後に。
 素材集めの周回編成は、前衛のカルナ、孔明、孔明、アーラシュ、そして控えのわし様と、召喚されたばかりのドゥルガーだ。
 早々と宝具を撃ってカルデアに退去したアーラシュはともかく、孔明ふたりはわし様を見てため息をついた。
「馬鹿馬鹿しい」
「なんだと!」
 わし様の完璧な策を愚弄するのか! と言えばわし様の前でカルナが頷いた。
「短絡にすぎる」
 カぁルナ〜!!! 協力してくれただろう!! この『娘のピンチを救って『お父様』と呼ばれよう大作戦』に!!
 わし様の計画通りに魔獣を後衛に素通りさせてくれた友は、ドゥルガーの方を向き頭を下げた。
「すまない」
「当女神は謝罪を受け入れます」
「ついでにわし様を『お父様』と呼んでくれてもいいぞ」
 カルナの赤いふかふかから顔を出すとドゥルガーは険しい視線をこちらに向ける。
 なんで武器を打ち鳴らして返事するの!? わし様を『お父様』と呼ぶのはマスター命令だが!!



 どぅりどぅりよだよだ〜(回想タイム)
 さて、事の始まりは数時間前の召喚だった。
「でぃすてぃにー!!!」
 聖晶石を抱えて叫ぶマスターにわし様が連れて来られたのは召喚室。
 部屋の真ん中にある召喚陣は薄く光って、わし様とマスターを照らした。
 ふたりきり。
 新しいサーヴァントを喚ぶ時に、カルデアにいるサーヴァントを触媒にすると聞いたことがあったわし様は嫌な予感に震えた。
 このカルデアにはカウラヴァは揃っている。そして、カウラヴァ以外でわし様と縁があるサーヴァントと言えば
「ビーマさんを喚びます!」
「やだー!!! マスターの浮気者ぉ!! 実家に帰らせてもらう!!」
 よりによってビーマの触媒にされてたまるか!!
 召喚室から飛び出そうとしたわし様にマスターはすがりついた。
「お待ちください!! そんなわし様に耳よりな情報があるんですぅー!!」
 ふざけた調子のマスターに交渉の余地はありそうだとわし様は足を止めた。
「それはビーマに関することか?」
「いえすいえす! わし様がビーマさんを召喚すると、もれなくわし様はビーマさんの『お父様』になれます!」
「ハァ!?」
 突拍子もない話を詳しく聞く。かくかくじかじか。
「つまり、召喚時、触媒になったサーヴァントは『親』に、召喚されたサーヴァントは『子』になる慣習があると?」
「いぐざくとりい!」
 マスターが勢い良く親指を立てる。
「『親』は『子』にカルデアの事を教えたりする代わりに、『子』は『親』の指示に従う。ふむ」
 大所帯になったサーヴァントの教育を、一種の師弟制度で補っているわけだな。
 それはそれとして
「わし様の『父親』はアシュヴァッターマンのはずだが、あいつそんなこと言ってなかったぞ」
「それは、わし様が甘やかされているだけだと思う」
 アシュヴァッターマンがわし様を甘やかす?
 種火に飽きたらマナプリの素やちっちゃい白い獣っぽいなにかを持ってきたり、わし様にふさわしいコマンドコードを山と積んで選んでいたり、特異点から持ってきた聖杯をわし様に捧げたりしていたり(それはマスターに回収されたが)、食堂のおまけのデザートのプリンをあーんしてくれたりしたが。
「わし様が素晴らしいから当然だな」
「ご覧ください。天敵がいない環境で甘やかされてすくすく育ったわし様がこちらになります」
 このカルデアにカウラヴァは揃っているが、パーンダヴァはひとりもいない。
 それを天敵がいないと言われるのは心外だ。
 パーンダヴァの連中(特にビーマ!)がいなくても
「わし様はいかなる時も素晴らしいのだ」
「知ってた」
 話は変わるけどアシュヴァッターマンに娘がいたら結婚できなさそうだよね。
「どういう連想だそれは。………まあ、否定はできんが」
 コロコロと変わるマスターの話に相槌を打ちながら、想像を巡らせる。
 マスターの時代では違うらしいが、わし様達の時代では父親の言うことは絶対であった。
 イカサマ賭博でユディシュティラの奴の身ぐるみを剥いでやった時も、父上の言葉で一度は場を収めてやったものだ。その後の事はユディシュティラの自業自得なので知らん。
 それはそれとして、わし様がビーマの『父親』………わし様の指示に従うビーマ。わし様から説明を聞くしかないビーマ。わし様に質問をせざる得ないビーマ。
 すごく嫌そうな顔をするに違いない!!
 見たい! ものすごく見たい!!
「マスター! ビーマを召喚するぞ!」
「やったー!!」
 乗り気になったわし様にマスターは両手をあげて喜ぶ。
「じゃあこれ持って」
 渡されたのは派手な装飾をされたうちわ。
 表には『ビーマ』
 裏には『召喚されて♥』
 と、奴に似つかわしくない書体で書いてある。
「そして踊ります」
 マスターは奇っ怪な踊りを踊った。
 ドゥリーヨダナは聖杯で検索した。
 どうもこの踊りはマスターの故郷で死者を呼び出す踊りらしい。サーヴァントも死者であるから、その作法は正しいのだろう。
「わし様、『息子』のビーマさん見たくないですか?」
「見たいに決まっている!」
 ためらいを投げ捨ててわし様はうちわを振った。
「び! ぃ! ま!」(パパン)
「び! ぃ! ま!」(パパン)
 手拍子を打ちながら、マスターと一緒に召喚陣の周りを踊る。
 意外と楽しいが、それはそれとしてこれでビーマの奴が来たら指差して笑ってやろう。
 もちろんそれだけで済ますつまりはない。カルデアではわし様が先輩であり『父親』、どんな屈辱を与えるのも思いのまま!!
 輝かしい未来に思いを馳せていると、呼応したように召喚陣がぐるぐると光りだす。
 渦を巻く光芒に、金色のカードが浮かび上がった。
 それは、
「ビーマではないではないか!!」
 わし様が叫ぶのと同時にアーチャーのカードが人型を成す。
「私は神光融合型殲滅女神、ドゥルガー。当女神は魔を滅するために存在します。運用には充分な注意を払ってください。」
 真紅の衣装を纏い、白蛇を首に巻き、長い白髪に蓮の華を飾ったサーヴァントはドゥルガーと名乗った。
 神霊級サーヴァントだ。しかも混ぜものでもない。高純度なシヴァの神妃。
 ゴクリ、と喉が鳴る。
 神の強大さはよく知っている。
 だが、目の前の少女はサーヴァントとして生まれたてだ。しかもわし様の『娘』になる。
 象ですら子供の頃に躾ければ人の命令に従うようになるものだ。
「カルデアによく来たな! 我が『娘』よ!!」
 ビーマのうちわをポイ投げして、両腕を広げたわし様に、真紅の瞳が無感動に向けられる。
「視界内に魔を発見しました。殲滅の許可を」
「わし様は人だが?」
 こちらの主張に耳を貸さず、ドゥルガーはマスターを見る。
 マスターは全力で首を振っていた。
「殲滅だめ! 絶対!! ドゥリーヨダナは同じカルデアの仲間だよ!」
「ですが、魔の匂いがします」
「わし様は人だが」
 まあ、多少、ちょっとはカリの化身とかー。悪魔が作った上半身とかー。かっこいい逸話があるが。わし様は人だ。
(そうだ、わし様は人でなければならない)
 魔であるから殲滅されるなど認めてはならないのだ。
「ドゥリーヨダナ?」
 マスターの声にわし様は思考から顔を上げた。
「なんだ?」
「聞いてた? とりあえずドゥルガーにわし様は悪い魔じゃないということを納得してもらうために、一緒に周回に行ってもらうから」
「わし様は人だが」
「魔性属性付いているのは否定できないし」
 それを言われるといくらわし様でも反論し難い。
「わし様がドゥルガーの『お父様』だと言うことも説明したけど
 マスターの視線を受けたドゥルガーは無関心な表情でこちらを見ている。明らかに納得していない。
 だが、一緒に周回に行くというなら都合がいい。わし様の魅力を堪能させて、『お父様かっこいい!!』と言わせればいいのだ。
「では、いつもの素材回収だな」
 カルナが呼ばれる編成を選ぶと、マスターはレベル的にちょうどいいよねー。とのんきに許可をだした。
 そしてあの状況になったわけである。
 どぅりどぅりよだよだ〜(回想終了)



 周回時の事故(あくまで事故)を受けて、マスターはドゥルガーの育成を先にする事にしたらしい。
 サーヴァント強化室でドゥルガーに種火を食わせていると聞いて、気が効くわし様は差し入れをすることにした。
 マスターがいつもわし様にもたせている礼装。星がついているカレイドスコープ。とっておきだ。
 コストは重いが、すぐ宝具を撃てる便利な礼装。
 これでドゥルガーもわし様を『お父様』と認めるだろう。
「マスター。入るぞ」
 強化室のドアを開ける。
「我はカーリー……。我は、血を欲する。殺戮を欲する。捧げよ」
 なんだか不穏な声が聞こえたような。
 強化室中央の青い肌の女神と目が合った。
 カーリー。武器を握った8本の手。青い肌。ドゥルガーよりもヤバい女神の目に殺意が湛えられていた。
「死ね」
 死ぬ。………が、どうせここはカルデアだ。一度退去するぐらい大したダメージではない。
 しかし、その選択肢は女神がヴァーユの矢を構えた事で霧散した。
「は?」
 霊基がアーチャーだから最初に矢を選んだのだろう。向こうに取ってはだたそれだけの選択。
 だが、
 よりによってヴァーユの力で『俺達』を魔性だと殲滅するのか。
 逃げ腰になっていた下肢に力を入れる。
「兄弟たちよ!」
 わし様達は人間だ。人間でなければならない。
 我等が魔性なら、五王子は魔性を退治しただけになる。正しいものが正しくないものを駆逐しただけの。
 たおやかな手から投擲された何本ものヴァーユの矢が迫る。
 笑え。
「先に言ってやろう。勝ったな。何故なら我等は百王子。五人の奴等の二十倍多ーい! 泣いて謝っても許してやらーん!!!」
『ジャイ! カウラヴァ!!』
 こうやって宝具を展開したとして、勝つか負けるかで言えば負けるだろう。
 だが、わし様は認めたくないがビーマの奴に一度だって勝てたことはない! しかし、あの馬鹿から勝利することを諦めた事もない!
「これだからサーヴァント戦を知らぬ小娘は」
 召喚された百人の弟たちの中心で大げさに嘲る。
「わし様達はヴァーユの力には慣れておる! ーーー散開!!」
 百の軍勢が地響きをあげて駆け出す。投擲武器相手に密集するなど愚者のやる事。散開すれば被害を減らせる。
 はずだと言うのに弟達はぴったりとわし様の馬車に並走した。
「おまえ達! 何を!」
 自殺行為に仮面の下で弟が笑う。
(決まっているだろ兄貴)
 楽しげに弟達は笑い声をあげる。
(誰が最後に残るべきかって)
(まあ、生前も今もそこは同じだよなー)
(そもそも、ヴァーユの力に慣れてはいるけど、俺たちか弱い人間だからさー)
(出来ることって言えば、ちょっと先を読むくらいだよな、こんなふうに!)
 弟のひとりがわし様の前に身を投げ出す。わし様が直撃されるはずだったヴァーユの矢を受けて、地面に転がり落ちた。
(ナーイス!)
 ケラケラと他の弟達が笑う。
 疾走する馬車の上、後方に遠ざかっていくその骸をわし様は振り向かない。
(兄さんだって分かっているよね)
 これが唯一の勝ち筋だって。
 神の力には人は叶わない。どれほど努力しようが工夫しようが涼しい顔をして勝利を持っていくのが彼奴等だ。
 そんなものにひとりひとりで戦ってしまったのが生前の敗因。だから、我らは今ひとつの霊基に統合している。
(どうせ俺達は兄上の霊基に還るだけだし)
(そうそう。それに俺達がろくでなしだって事はおいておいて)
(兄貴が魔なら、俺達も、ドゥフシャラーも魔になるんだよなぁ)
(あはは、ないわー)
(兄さん! 人のことを散々魔性扱いしたあのクソ女神を殴ってやろうぜ!)
 盛り上がって鞍を叩く弟達は、笑いながらわし様の前で盾となって散っていく。
 自分がヴァーユの矢に当たりそうな時はなんとか避けているというのに。
 わし様は馬上に立ち上がり愛用の棍棒を振りかざした。
 被弾しやすい? 知るか馬鹿!
「わし様の最高の弟達よ! 比類なき勇者達よ! 我らに勝利を!」
 死ねと高らかに叫んだ俺に弟達は歓声をあげた。
 弟達を壁にして、降り注ぐヴァーユの矢をくぐり抜ける。
 戦車ですらない白い優美な馬車はぼろぼろに赤黒く汚れていく。弟達の姿もすでにない。まるでいつかの戦争のようだと思う。
 違うのは、肉薄した殺戮女神が何故か驚いたかのように棒立ちになっていることだ。
「ほらほら! ぼーっとするな!」
 馬車から跳躍した勢いで蹴り飛ばす。正直避けられると思っていたが、素直に吹っ飛んだので計算が狂った。
 だが、相手に何か事情があったからといって追撃をしない理由はない。
 わし様は棍棒で華麗に、その無防備な顔を撃ち抜いた。



 カーリーは戸惑っていた。
 目覚めてすぐに察知した魔を殺戮しようとしたのはいつもの事。だが、その魔が、自らの霊基の一部を盾にしてなお向かって来たのは予想外だったのだ。
 魔には様々な種類があるが、自己犠牲をするモノは見たことがない。
 そもそもそんなやり方は身喰いも同じ。万が一それでカーリーに勝利出来たとしても、自らのダメージは計り知れないだろう。
 眼の前の魔のように。
 仰向けに倒れたカーリーにのしかかっている魔からは、絶えず血が流れている。傷を負っていない箇所はない。引き裂かれていない部位はない。
 当然だ、カーリーが投げた神授の武器。ヴァーユの矢をくぐり抜けて来たのだから。
 カーリーの耳の横に突き立てられた棍棒が震える。魔がかはりと吐いた血が小さな滝のように流れた。
 それでも魔はふてぶてしく笑う。
「わし様の勝ち、だ。………『お父様』と呼べ」
 ぐらり、と倒れた魔の重みを受け止める。
 顔の横に立っていた棍棒が重い音を立てて転がった。
 この棍棒は明らかにカーリーの顔面を狙って突き込まれていた。それが顔の横にズレたのは持ち主の技量の無さでは決してない。
 理解出来ない、とカーリーが呻く。多大な犠牲を払ってもぎ取れたはずの勝利を捨てて、そんな小さな要求をするのかと。
 体の上の些細な重みの違和感に耐えられずカーリーの意識が沈む。代わりに浮上したのはドゥルガーだった。
 自分の上で気を失っている存在を確認する。
………該当の魔の殲滅を一時停止します。当女神は対象サーヴァントの名称を『オトウサマ』と定義します」
 白い腕がそっとドゥリーヨダナの体を持ち上げた。
 やっと騒ぎを聞きつけたマスター達が駆けつけてくる。ドゥリーヨダナが宝具で吸収したとはいえ、それなりに損壊した強化室にドゥルガーは目を伏せた。



「なぁんで喧嘩両成敗なのだ! わし様正当防衛なのに!!!」
 わし様の声に食堂にいた人々の視線が集まる。いつもなら偉大なるカウラヴァが素晴らしい会話をしていると分かりすぐに散るその視線は、わし様の横で涙を流しながら跪いているアシュヴァッターマンに釘付けになった。
 アシュヴァッターマンの正面にはドゥルガー。礼儀正しいアシュヴァッターマンがシヴァの神妃に礼を尽くしているだけだ。だけだが。
「おまえがわし様以外の者に頭を下げる必要はない!」
 アシュヴァッターマンの腕を引っ張ると、ドゥルガーがこくりと頷いた。
「一部肯定します。アシュヴァッターマン、私にそのような態度は不必要です。あなたは私の『祖父』なのですから」
 『父親』の『父親』は祖父。
 その論理を肯定しているという事は。
「我が『娘』よ!!」
 両手を広げて大歓迎のポーズを取ったわし様からドゥルガーはさっと視線をアシュヴァッターマンに移した。
「なぜ涙を流しているのですか?」
 その問いにアシュヴァッターマンは右耳のひとつのリング。鈍い輝きを放つイヤーカフに触れた。
 途端、涙の量が増える。
 声すらも出せない様子のアシュヴァッターマンの代わりにわし様が口を開いた。
「わし様がプレゼントを贈ってからずっと『こう』だ」
 いくらわし様が素晴らしい贈り物のセンスをしているからといって、いつまでも泣き止まないのは大げさというものだぞ。友よ。
 バシバシとアシュヴァッターマンの背中を叩くわし様に、カルナが呟いた。
「俺はこれ程のオーバーキルを見たことがない」
 その声にアシュヴァッターマンへの同情が滲んでいたのにドゥルガーも気づいたのか。
「具体的には?」
「アシュヴァッターマンの宝具に配慮した耐熱性の素材。ドゥリーヨダナの耳飾りとお揃いのリング。刻まれた文章も酷い」
『我が友であり、父でもあるアシュヴァッターマンへ感謝を贈る』
 読み上げるとアシュヴァッターマンが泣き崩れた。
 ギャラリーの中からももらい泣きの音が聞こえる。もしかして、わし様やらかしたか?
「わし様は今回の事で改めて学んだのだ。父親は大変なものだと! 尊敬するに値するものだと!!」
 じっとドゥルガーの方を見つめて声を張り上げると、真紅の瞳が細められる。
「そんな『オトウサマ』にこれを」
 渡されたのは一枚の紙。
「賭場の胴元であるモリアーティからの召喚状です。………イカサマをしたそうですね」
「あっ! わし様用事が!」
 慌てて逃げようとしたわし様の首元が猫のように掴まれる。
「行きますよ。『オトウサマ』」
「待ってくれ! わし様は決してイカサマなど行っていない! 『新しい骰子』を使うとは言ったが、『新品の骰子』を使うとは言っておらんのだー!」
 助けてアシュヴァッターマン! カルナ!!
 腕を伸ばしてもカルナは微笑んで静観しているし、アシュヴァッターマンはまだ泣き崩れている。
 ずるずると引きずられていきながらわし様は思った。
 こんなはずじゃなかった。 


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