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ちよど
2024-11-22 00:00:00
7113文字
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アシュヨダ
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旦那を返しやがれ!! この蜘蛛野郎!!
アシュヨダ。ドゥリーヨダナがORTに水晶化されてキレたアシュヴァッターマンの話。ミクトランのネタバレあります。
pixivより再掲
轟々と炎の精を纏った巨大なチャクラムが唸りをあげて回転する。
炎を帯びて戦場にひとり立つアシュヴァッターマンの眼の前にはORTと呼ばれる天を衝くような異形の敵。
荒れ狂う嵐のような宇宙線を浴びて、無敵スキルを使い果たしたアシュヴァッターマンの額の宝石は焼けるように熱くなっていた。
体力は残り少なく、次のORTの攻撃がどんな些細なモノでもアシュヴァッターマンの命を刈り取るだろう。
だが、アシュヴァッターマンは獰猛に笑ってチャクラムを引き寄せた。
「こっからが我慢比べだぜ!」
当然ながらORTは答えない。だがその円盤のような体に輝きが走った。
「
………
ああ良いとも、皆殺しにしてやらァ!」
これはアシュヴァッターマンが生前はどれほど願っても得ることが出来なかったスダルシャンチャクラ。
『死』の果てにサーヴァントとなって手に入れた武器。
アシュヴァッターマンは高らかに宝具を開帳する。
「我は死をもたらす戦士なれば、不滅の刃を持って汝を引き裂こう! 『転輪よ、憤炎を巻き起こせ』!!!」
業炎と共に投擲したチャクラムはORTの生命をえぐり取る。
だが、それは痛手を与えただけに終わり、ORTの金色の腕がアシュヴァッターマンに振り下ろされた。
◆
「なるほど。つまりマスターはカルナとアシュヴァッターマンは温存して、わし様を捨て石に使うという事だな」
アシュヴァッターマンがORTに挑むしばらく前、シャドウ・ボーダーにはドゥリーヨダナが先に召喚されていた。
状況説明を受けたドゥリーヨダナのその言葉にマスターの少年は強張った喉を無理矢理動かす。
偽らないというせめてもの誠意で。
「アシュヴァッターマンはバスター単体宝具で、カルナは星5の主力だから」
「ふん、わし様はアーツの全体宝具。しかもバーサーカーとあれば単体の強大な敵相手には向かんぞ。
わし様は有能で最優なサーヴァントだが向き不向きというものがある。それでもか?」
このミクトランまで駆け足で進んできたマスターはサーヴァントの層が薄い。そのために『後のことを考えてORT向きではないサーヴァントから先に戦場に投入する』という戦術を選ぶしかなかった。
それは最近来たばかりのドゥリーヨダナにも分かっている。
ORTに倒されたサーヴァントは水晶化のうえ情報として吸収され英霊の座にすら還れなくなる事も説明された。
しかし、ドゥリーヨダナはにやりと笑う。
「そう深刻な顔をするなマスター。わし様はお主をとても評価しておる。わし様達カウラヴァを全員召喚したというのに、パーンダヴァの連中は一人たりとも喚び出しておらぬあたりを特に!」
これからも喚ぶなよ! 特にビーマ!!
胸を張ってろくでもない事を要求するドゥリーヨダナにマスターは息を飲んだ。
「これ、から?」
意外な言葉を繰り返したマスターの肩にドゥリーヨダナはそっと両手を置いた。
「これから、だ。マスター。わし様が評価したお主があんな訳のわからん生物だかなんだかに負けるはずがなぁい!!」
大声が少年の頭に響く。ガラガラと溜まっていた何かが崩れるような衝撃に、少年はちぐはぐな笑みを浮かべた。
「ドゥリーヨダナは脳を焼くって噂は本当だったんだ」
「誰だ、そんな怖い噂流したの。
………
こほん、まぁともかく。水晶化されようが吸収されようが、お主が勝てばみぃんなチャラ! そういう事だろう?」
「そういう、ことなのかな?」
「そういう事だろう? 食われるのならともかく、リソースとして保管しているだけのようだからな」
少年は、彼らのやりとりを黙って見ていた少女姿のサーヴァントに顔を向けた。
「確かに、その可能性は高いね」
ORTを倒せば吸収された霊基が無事開放される可能性は高いが、カルデアがORTを倒せる勝率の方には触れずに、ダ・ヴィンチちゃんは微笑んで頷いた。
「だろー? わし様賢いー!」
援護を受けてきゃっきゃっとはしゃぐドゥリーヨダナと絶望的な状況のちぐはぐさに、少年の唇が無意識に微笑みの形を作った。
ORTの侵攻を阻止するために、何度このシャドウ・ボーダーにサーヴァントを呼び出しては説明し、水晶化前提の作戦に殉じさせてきただろうか。
笑った者、泣いた者、逆に少年に激励の言葉を送った者。いろいろな反応を少年は受け止めてきた。
だけど、当たり前に未来を語る者はいなかったのだ。ドゥリーヨダナ以外は。
「わし様は勝てる勝負しかせん」
「知ってる」
ドゥリーヨダナの定番のセリフに少年は顔を上げた。
その少年にドゥリーヨダナは手を差し出す。
「さあ、わし様にふさわしいとびきりの礼装をよこすがいい。
…
ちょっとぶん殴って、わけわからん生物の腹の中でサボっていればいいだけのつまらん仕事だ」
「
………
うん」
目元を拭った少年はとびきりの礼装をドゥリーヨダナに手渡した。
「では、行ってくる」
ノウム・カルデアで食堂に出かけるような気軽さでドゥリーヨダナは霊体化してORTの前に立ちふさがった。
(「では、行ってくる」
…
わし様最高にかっこよくキメたな。これでマスターの中のわし様の評価は鰻登り。見える、見えるぞー! 話を聞いた女性サーヴァント達がわし様をちやほやする姿が!!)
自画自賛しながらORTの前で実体化したドゥリーヨダナは構えた棍棒を軽く揺らした。
「攻撃してこないな。やはり邪魔をした場合のみ反応するのか」
ORTの人型とも甲殻類とも取れる銀の巨大な姿のどこかに、先に破れたサーヴァント達が情報となって保管されているのだろう。
(わし様、嘘はついてないしー。勝手に勘違いしたマスターが悪い)
この戦い、カルデアが敗れれば地球は破壊されるらしい。
ならば負ければすべてご破産。取れる手段などなく考えるだけ無駄というもの。
ならば、勝利する側に全部賭ける!
『勝利すれば未来がある』のではなく『勝利以外では未来がない』のだ。
だからこそ、勝利を前提に気前よくORTと戦い、犠牲になってみせることでマスターに恩を売り、これからのカルデアでカウラヴァの勢力を拡大させる。
負けた時の事を考慮しなくていいこの賭けは、あのユディシュティラの間抜けでも同じ事をするだろう。
今回はあんな半端な勝負ではないから、思いっきり勝ちの目に全振り出来る。
カルデアが勝てば当然水晶化されたサーヴァントは開放されるし。ビーマはこのカルデアに来ない。わし様の天下!!
ここでかっこよくキメたわし様にマスターの好感度は確実に上がっただろう。
「ただちょっと、これはどうかと思うよ。わし様」
涙ながらのマスターから渡されたのはとっておきの星がついた『カレイドスコープ』。それは
「宝具撃ってから死ねと。バーサーカーに持たせる礼装じゃないな。これ」
わし様泣いちゃう。
しくしく泣き真似をしてもORTしか見ていないのでドゥリーヨダナはため息をついた。
カルデアで少しでもへこんだ姿を見せれば、赤い髪の友がすっ飛んできたものだが。
(わし様を捨て駒にするのは置いておいて。カルナとアシュヴァッターマンを温存するのは正しい)
あの二人の実力は誰よりも自分がよく知っている。
二人が揃っているカルデアがORTなんていうわけわからん生物に敗れるはずがないのだ。
だから友よ。
自分の死後、怒りに身を任せた時の姿でサーヴァントとなった友を思う。
文字通り死ぬほどの痛みの中、思うように動かぬ指で拭ってやった金色の目元を思う。
(しばしの別れだ)
未練を断ち切るかのように棍棒を振るう。
「勝負するか」
ドゥリーヨダナはスキルを発動する。バーサーカーはどのクラスの攻撃を受けても不利になる。
「お前は負ける」
スキルを発動する。故に初撃で最大のダメージを与える。2撃目はない。
「本気を、見せてやるか」
最後のスキルを発動する。つまりは宝具とクリティカルで殴る!!!
「此処に在るは我等が勝利。百の王子が集いて地を駆け吠える。蹂躙せよ! 我が最強の軍団よ!!」
「ジャイ・カウラヴァ!!!」
駆け抜ける軍団の中、ドゥリーヨダナは赤髪の友の姿を見た。
◆
「我は死をもたらす戦士なれば、不滅の刃を持って汝を引き裂こう! 『転輪よ、憤炎を巻き起こせ』!!!」
憤怒の炎を巻き上げてチャクラムがORTの命を削り取る。
もう何度繰り返されただろうか。
最初、アシュヴァッターマンは為すすべもなくORTの攻撃を受けていた。
マスターから差し出された『カレイドスコープ』を除けて、違う礼装を身に着けたからだ。
だが、それも自身が瀕死になり。NPが貯まるまで。
「来い来い来い!」
初めてアシュヴァッターマンがスキルを発動する。額の宝珠が輝き無敵が付与された。
「ぶっ殺してやらぁな!」
続いて発動されたスキルの名は士道の蹂躙。
それはドゥリーヨダナを卑怯な手段で殺害された時。アシュヴァッターマンがクシャトリヤの間で立てられていた誓いを破棄し夜襲を行った逸話から生まれたスキル。
ORTがキュルキュルと輝き、アシュヴァッターマンが発動したスキルを写し取る。
だが、それは大した事ではない。アシュヴァッターマンはそもそもORTの攻撃力がどれほど上がろうが気にしていない。
チャクラムが膨れ上がり雄叫びのように回転数を上げる。
「怒れ! 怒れ! 怒りこそが、我が力!」
彼は怒っていた。常も怒っている彼だが、この状況に怒り狂っていた。
ORTという化け物の事も。それに吸収されていった仲間たちの事も。
そして、ドゥリーヨダナがORTに吸収された後に召喚された自分の事も。
眼の前に浮かぶORTのどこかに、アシュヴァッターマンの友であり主でもあるドゥリーヨダナの霊基が保管されている。
「旦那を返しやがれ!! この蜘蛛野郎!!」
蹴りつけた宝具がORTの命を削る。だがそれは全体から見れば大したダメージではなく、ORTは金色の腕のような触手でアシュヴァッターマンを殴りつける。
「ちぃ!」
アシュヴァッターマンにダメージはない。しかしスキルに守られた防御は永遠ではなく。2度3度と攻撃の応酬の後、アシュヴァッターマンの命はたやすく刈り取られた。
はずだった。
死んだはずの者が立ち上がる。
それはアシュヴァッターマンが選んだ礼装。『死霊術師』の効果だった。
倉庫の片隅で忘れ去られていたその礼装の効果は、死亡時に50%の確率で付与されるガッツ。
2分の1の確率を引き当てたアシュヴァッターマンは虎のように笑う。
そして、ORTを蹴りつけチャクラムで殴りつけ、また殺される。
またガッツが発動した。
しかし、今度はNPが十分に溜まっている。
宇宙線を浴び続けて体力の最大値は1000あるかないか。
だが、アシュヴァッターマンの宝具はその状況でこそ真価を発揮する。
「燃えろぉ!!!」
唸りをあげてチャクラムがORTの装甲に激突する。チャクラムが纏う炎とORTが帯びる光が悲鳴をあげて絡み合った。
ORTが輝きを放つ。アシュヴァッターマンが死亡して蘇る。ORTが金色の腕を振るう。アシュヴァッターマンが死亡して蘇る。
ORTに意識があれば、2分の1の確率を引き続けるアシュヴァッターマンを不死身かと疑っただろう。
ORTは知らない。英霊とは逸話の集合体。アシュヴァッターマンの逸話には、その根幹には『不死であること』が刻まれているということを。
己の逸話を縁に礼装の確率を上げ続けているアシュヴァッターマンは、死しては蘇る苦痛の中チャクラムを掴んだ。
喉が焼けただれたように熱い、眼球は膨れ上がって今にも破裂しそうだ。体中を焼けた鉄が巡っている。自分が立っているのかさえ分からなくなりそうな激痛に、それでもアシュヴァッターマンは怒った。
「この程度、クリシュナの呪いに比べたらそよ風みたいなものだぜ!! オラァ!!」
チャクラムごと殴りつけたORTが一瞬動きを止める。
今までになかった動きにアシュヴァッターマンがチャクラムを構えた瞬間、その体から強化がすべて剥がれ落ちた。
足元が抜けたような感覚。
アシュヴァッターマンのとっさの防御をやすやすと超えて、ORTの触腕は彼の霊基を礼装ごと叩き潰した。
その一瞬、アシュヴァッターマンは死を味わう。
3000年待ちわびていたソレは思い描いていたよりも甘く。
(今度は、一緒に
………
)
思考が形になるよりも早くアシュヴァッターマンは水晶化した。
それをORTは機械的に吸収する。
太陽はもう近く。ディノス達がチチェン・イツァーと呼んだ都市はすぐ側に迫っていた。
◆
「南極って寒い? インドより寒いの?」
わし様寒いのはちょっとなー。とごねるドゥリーヨダナにマスターはジュースを片手に笑った。
ORTを倒し、7つめの異聞帯も終えたカルデアはお祭り騒ぎになっていた。広いストーム・ボーダーのどこを見ても飲んでいる奴と笑っている奴しかいないし、その両方を兼ねている奴も多い。
「サーヴァントは寒さを感じない」
ドゥリーヨダナの部屋に設置されている大きなテーブルと3人がけの大きなソファー。その豪華なソファーの端、ドゥリーヨダナの隣に座っていたカルナの言葉に部屋の主は持っていたグラスを揺らした。
「気分の問題だ。この酒も食事も究極的にはサーヴァントには不必要なものだが、うまいものは何であれわし様達の心を慰めてくれる」
それが大きな戦いの後であればなおさらだ。と続けたドゥリーヨダナにマスターは軽く頭を下げた。
「協力してくれてありがとう。ドゥリーヨダナの言ったとおりになったね」
「わし様の先見の明はすばらしいであろう。マスターはこれからもパーンダヴァの連中を絶対、ぜぇったい!! 喚ばないように!!」
「努力するよ」
カルデアの召喚式はほぼランダムだが、触媒が作用するという仮説もある。マスターは今度から召喚する時はインド系の触媒を近づけないようにしようと決めた。
パーンダヴァが召喚されないと聞いて微妙な顔をしたカルナの顔を突っつこうとドゥリーヨダナが体をひねる。
それに引きずられてドゥリーヨダナの腕にしがみついていたアシュヴァッターマンがバランスを崩した。
「こらこら、寝ておるのか?」
「寝てねぇ」
言いながらもしがみついた腕に顔を埋めるアシュヴァッターマンに、マスターは苦笑した。
「アシュヴァッターマンはひとりでORTのゲージを全部削ったから疲れているんだよ」
休ませてあげてね。と言ってマスターはドゥリーヨダナの部屋から出ていく。
カルデアにサーヴァントは多い。そのほとんどがORT戦に参加したためマスターはこうやって功労者に声をかけてまわっているのだ。
そのマスターがいなくなったのを確認して、ドゥリーヨダナはグラスをテーブルに置いた。
その表情から笑みが消えたことを、アシュヴァッターマンは感じ取る。
ドゥリーヨダナは悪辣な男だが、身内にはめっぽう甘い。そんな彼が、アシュヴァッターマンの死ぬことを前提とした戦い方に何も思わないはずがなかった。
(くそっ、カルデアのアーカイブには戦闘記録は残らなかったのに!)
まさか水晶化されても知覚が残っているとはアシュヴァッターマンだけでなく、誰も予想していなかっただろう。
なぜなら、それはもしORTが勝っていたら、吸収されたサーヴァント達はORTと共に永遠に宇宙を彷徨うことになっていたかもしれないからだ。
「ドゥリーヨダナ。俺はお前にも非はあると思う」
最後まで温存されたままで終わったカルナはそれを知らないのだろう。水晶化したサーヴァント達はマスターのためにこの事実を口にすることは決してないのだから。
「ふむ。カルナはそう思うか」
「旦那は何も悪くねぇ」
顔を伏せたまま反論したアシュヴァッターマンの頭に主であり友である男の手が乗せられる。ぐりぐりとそれが赤い髪をかき回した。
「まぁ、出撃順番を決めたのはマスターであるからして。わし様はそれに従っただけだしなー」
「拒否権はあったと聞く」
「そんなもったいない事だれがするか。せっかくの恩を売れるチャンスだぞ。
………
いたた、腕が痛い、痛いって」
ぱしぱしと軽く頭を叩かれてアシュヴァッターマンは締め付けていた腕から力を抜いた。
そんな二人を見て、カルナは薄く微笑んだ。
「変わらないな」
「変わらないとも。多少生前とは違っても、わし様たちの友情が変わるわけなかろう」
その言葉にアシュヴァッターマンは目を閉じた。
戦士の太い指が乱れた赤い髪を梳く。
「だからな、わし様の言うことは同じだ。特に気にしとらん。
………
お前がここにある。それだけでいい」
アシュヴァッターマンは3000年苦痛に苛まれながら死を望んでいた。ORTとの戦いで得たその擬似死は甘く誘惑に満ちていたが。
ドゥリーヨダナの言葉はそれと比較にならない程甘くアシュヴァッターマンの魂をぐずぐずに溶かしてしまう。
彼が変わらないなら、自分は何度でも何度でも同じことをするだろう。
アシュヴァッターマンはまた失われるところだった腕の中のぬくもりにそっと体を寄せた。
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