ちよど
2024-11-21 00:00:00
4107文字
Public アシュヨダ
 

わし様がちいさくなった話

アシュヨダ。わし様が小さくなった話。pixivからの再掲。
なんとなく「付き合っていないアシュヨダとビマさん」の続きっぽい感じ。読んでなくても問題ないです。
ビマさんがちょっと悪者かも。

「で、どうしてこうなった?」
 アシュヴァッターマンの問いにマスターである少女はうなだれた。
 周回中に敵に襲われたマスターがカルデアに帰って来た時にはひとりの少年を連れていた。
 その少年の背丈はマスターの腰あたり、すらりと伸びた四肢はバランスが良く、まだ柔らかさが残る輪郭とは裏腹に鍛えられているのが分かる。ふわりと乱れた紫の髪はうなじまで。端正な顔立ちに垂れがちの目尻が甘さを滲ませていた。
 黙りこくってただ真っ直ぐ前を向いている少年は、アシュヴァッターマンの主君であり友の幼き日の姿そのままであった。
 そして少年と同じ紫髮のサーヴァント、ドゥリーヨダナの姿はない。
 異変を聞きつけて駆けつけてきたドゥリーヨダナに関係があるサーヴァント達。カルナ、ビーマ、そして今声を上げたアシュヴァッターマンにマスターである少女は両手を合わせる。その手には令呪はなかった。
「本当にごめん! 油断してた」
 いつもの周回だと思いマスターはバーサーカーであるドゥリーヨダナ以外はキャスターのアルトリアのみで編成を組んでいたのだという。
 そこに現れたライダーのエネミー群。サポートのキャスターアルトリアとこのカルデアのキャスターアルトリア。そのふたりの宝具で防御は出来たが、回復効果は無いためにそのままではジリ貧になるのは目に見えていた。
 突破するにはどうしてもドゥリーヨダナひとりに頼るしかなく。
「アーツチェインとキャストリアのスキル、それで足りない時は令呪でNPをチャージして」
 宝具を撃って撃って撃って撃って撃ちまくって敵を殲滅。して気づいた時にはドゥリーヨダナは少年の姿になっていた。
 マスターの隣に立つキャスターアルトリアが所見を述べる。
「どう考えても原因は魔力不足です。しばらくすれば元に戻るでしょう」
「けどこの子………私達、というかカルデアの事を何も覚えてなくて」
 自分の名前もスヨーダナだって言うの。
 マスターの困ったような視線を受けた少年はそこで初めて顔を上げた。
 自分の周りを囲む、マスター、キャスターアルトリア、ビーマ、カルナ、アシュヴァッターマンと目線を巡らし。
 その薄いアメジストのような瞳が見開かれる。ふっくらとした幼い唇が花のように開いた。
「アシュヴァッターマン? アシュヴァッターマンなのか?」
 少年の視線が自分の額に注がれているのを察したアシュヴァッターマンは前髪をかきあげて、額の宝珠を少年がよく見えるようにした。
 少年の前に膝をつく。
「スヨーダナ様、アシュヴァッターマンがお迎えに参りました」
「うむ」
 鷹揚に頷くスヨーダナは、なんのかんの言いつつ愛嬌があるドゥリーヨダナと違い、その硬い表情を緩める様子がない。
「スヨーダナなら、俺の事も知っているはずだろう?」
 前に出てきた巨漢にスヨーダナの視線が上がるが、アシュヴァッターマンと違ってその唇からビーマの名前は出なかった。
「分からねぇのか。ビーマだ、ビーマ。そんくらいの大きさの頃には一緒にいただろう?」
 ビーマのたくましい手が無造作にスヨーダナに伸ばされる。その瞬間、スヨーダナが怯えたように肩を揺らした。
「触るな!」
 怒声と共に手が弾かれる。
 とっさにスヨーダナを抱き込んだアシュヴァッターマンに払われた手を、ビーマは軽く揺らした。
「何もしねぇよ」
「俺がまだ小さかったころ、稽古以外で旦那が怪我していたのはみんなあんたが原因だったじゃねぇか」
 呻くようなアシュヴァッターマンの告発に、その腕の中で体をこわばらせていたスヨーダナは
「手加減ぐらいする」
 そのビーマの侮辱にさっと頬を紅潮させた。
「っ!」
「お腹、空いてますよね」
 スヨーダナの言葉を遮ったのはキャスターアルトリア。
「ここの食堂のご飯はきっと王宮よりも美味しいですよ」
 静かなキャスターアルトリアの眼差しに、スヨーダナは怒りをため息に乗せて吐き出した。
「そうなのか。………それは楽しみだ」
 ゆっくりと体の力を抜き、落ち着こうとしているスヨーダナを見てマスターは思う。
 妖精眼。
 キャスターアルトリアが持つ能力で、『ドゥリーヨダナ』なら言ってはいけない言葉をスヨーダナが言いそうになったのが分かったのだろう。
 先程の戦闘時にぎゃんぎゃんと言い合っていたふたりの会話が蘇る。
『なんでバーサーカーのくせに人をかばったりしたんです!』
『そんなもの、お主が落ちたらわし様が詰むからに決まっておろう! えぇい! 回復スキルはないのか!』
『私に回復スキルまであったら完璧で究極ですよ!』
『完璧で究極なのはわし様!』
『はいはい、周回の王子様。宝具いきますよ! タイミングを合わせてください!』
『分かっておる!』
 この後めちゃくちゃOCした。
 アーツ宝具はNPたまりやすくていいよね〜。とちょっと遠い目になったマスターは、カルナの声で意識を戻した。
「俺は部屋に戻る」
 何かあったら呼んでください、という意味だとスヨーダナ以外の全員が理解する。
 カルナと出会った記憶を持たないスヨーダナだけが、不審そうにカルナを見上げていた。
 その視線がまたぐるりとまわりを見回す。
………何も、言わないのか?」
 去って行ったカルナの事かと思ったが、キャスターアルトリアが口を開いた。
「ここは王宮じゃないんです。身分差とか陣営の違いとかないですよ」
「本当か!?」
 ぱぁあ! と顔を輝かせたスヨーダナは、マスターの自分に対する言葉遣いや、アシュヴァッターマンのビーマへの態度、そして今のカルナの行動が誰にも咎められなかった理由を合点して笑顔で自分を抱えているアシュヴァッターマンに顔をすり寄せた。
「じゃあ、俺がアシュヴァッターマンを好きなだけ構っても、アシュヴァッターマンが責められることはないんだな!」
 ぎり、っと歯を噛みしめる音がした。
 憤怒の化身たるサーヴァントは、怒りに震える手でそっと主を自分から引き剥がした。正面から顔を見つめる。
「誰が、あんたに、そんな事を言ったんだ?」
 アシュヴァッターマンの気迫を真正面から浴びて、少年はおかしそうにくふくふと笑う。
「気にしなくていい。………ただの幼子ならともかくひとかどの戦士となれば俺が重用するのは当然だろう、と言ってやったからな。ふふ、俺の勝ちだ」
 少年の目が、アシュヴァッターマンの鍛え上げられた体を誇る。
 アシュヴァッターマンが素晴らしい戦士になると賭けた少年は、自分より大きな年下の戦士に手を伸ばした。
「俺に勝利を運んできたおまえの褒美は何にしようか」
 まだ小さな手が、動きが止まっているアシュヴァッターマンの頬を押さえる。幼さが目立つ顔がそっと近づき、唇が額に添えられた。
「あちっ」
 すぐに魔除けの宝珠から唇を離した少年は、小さな火傷が出来た唇を指先でなぞって笑みを浮かべた。
「お前は熱いな、アシュヴァッターマン」
………
 動きを止めたまま一言も発しないアシュヴァッターマンの目の前でマスターは手を振った。
「処理落ちしてる! カルナ呼んできて! カルナ!!」
「は、はい!」
 キャスターアルトリアがカルナを追って走り出したのを見送って、ビーマがスヨーダナの襟首を掴んだ。
「お前、この頃からここまで悪辣な奴だったのか」
「離せ! 馬鹿ビーマ!!」
 

「離せ」
 

 手足をばたつかせたスヨーダナを再び抱き寄せたのは瞬時に再起動したアシュヴァッターマンだった。
 

「この人に、触れるな」

 
 マスターは後にこう語った。
 手負いの母熊ってあんな感じなんだろうな、と。数々の修羅場慣れしたマスターでも思わず一歩下がってしまう気迫がそこにあった。
 だが、アシュヴァッターマンが対峙しているのは英雄ビーマ。
 彼は向けられた殺気を風のように受け流し
「そんな魔性垂れ流し状態の馬鹿をカルデアに放り出すわけにはいかねぇだろ。ちょっと危機感を与えれば生存本能が刺激されて元に戻るんじゃないか」
 危機感、生存本能、そして筋肉(ビーマ)
 そこからもたらされる結論にアシュヴァッターマンのスヨーダナを抱きしめる手に力が篭った。
 アシュヴァッターマンの冷静な部分が自分の不利を判断する。
 ただでさえ、アーチャーはランサーの不利クラスだというのに、無力なスヨーダナを抱えている。ビーマがその気になれば勝ち目はなかった。
「マスター! 俺はカルナと一緒にいる。何かあれば知らせてくれ」
「逃げるのか」
 笑い混じりのビーマの言葉に、アシュヴァッターマンは唇を噛み締めた。
「俺は、旦那を守るためならなんだってする」
 その言葉に、ビーマの表情から笑みが消える。
 忘れていたわけでは決してないが、ドゥリーヨダナの死後アシュヴァッターマンが行った事がビーマの脳裏に再生された。
 生前ドゥリーヨダナを失ってあれほど狂乱したアシュヴァッターマンが、再び彼を害される事に平静でいられるはずがない。
 特にそれが、ドゥリーヨダナを殺したビーマとあっては。
 ビーマがちょっと遊び半分で手を出しただけでも、アシュヴァッターマンはビーマを許さないだろう。
 スヨーダナを抱えて立ち上がったアシュヴァッターマンにビーマは道を空けてやった。
 そこをアシュヴァッターマンは足早に歩いていく。
 腕の中の温もりの小ささと軽さに目眩がした。
 はやく、カルナの所に行かなければ。とアシュヴァッターマンは思う。
 カルナに旦那を助けてもらわないと。旦那を、俺から守ってもらわないと。
 いつものドゥリーヨダナなら万が一アシュヴァッターマンが血迷っても簡単に返り討ちに出来るだろう。だけど、今、アシュヴァッターマンを信用してこの腕の中にいるスヨーダナはサーヴァントに対して無力に等しい。
 自分の中の衝動をありありと自覚して、アシュヴァッターマンは足を早めた。
 

 アシュヴァッターマンの受難はこれからである。


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