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はなれ
2024-11-19 00:37:36
4456文字
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哥忌
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信頼と心配と
モブ喋る
――
現在地、牢屋。
意外にも埃っぽくないのはそれだけ出入りが激しいという事に他ならない。
洞窟をそのまま活用したような檻には忌炎と、隊を組んでいた仲間が三人。
全員武器を取り上げられ、後ろで組まされた手には枷が嵌められている。
(
……
仕方ない、か)
忌炎は冷静に辺りを見回し、見張りの姿が見えなくなったのを確認すると、一思いに共鳴能力で手枷を破壊した。
パキン、と音を立てて鎖が地面に落ちる。
どうやら追放者たちは忌炎が共鳴者であることに気付かなかったらしい。
それもそのはず。
普段から共鳴能力を使う機会のない忌炎は、音痕を服で隠している。
だが今は、そのせいで音痕を覆っていた部分が破れてしまった。
非常事態とはいえ、故意に制服を破くにはためらいもあったが、背に腹は代えられないというやつだ。音痕も背部にあるし。
忌炎は同じ要領で一緒に捕まっていた仲間たちの手枷も外してやる。
「後は武器だな」
「来る途中に倉庫みたいな所ありました!」
「そんじゃ脱獄するか~。頼むぜ、忌炎先生」
「もう少し緊張感を持て
……
」
自由になったことで腕を伸ばしたり屈伸したりしている仲間たちを横目に、忌炎は檻の鍵も風の刃で壊した。
そもそもこんな事になっているのは、聞くも涙、語るも涙の事情が
……
まぁ、あるにはある。たぶんそう。部分的にそう。
北落野原で残像潮が起こり、忌炎たち軍医も野営地に駆り出される事態になったのは先週の話。
そこから残像潮を退け、基地に帰還しようとしたのは数日前の話。
帰りの道中で運悪く無音区に遭遇し、本隊と分断されたのが昨日の話。
あいにくの悪天候で視界不良の中、忌炎たちはなんとか撤退を果たし、気が付いたら
――
追放者のアジトに紛れ込んでいたのである。
その後追放者たちと交戦になり、残像潮撃退の疲労を残していた忌炎たちは敗北。
全員揃って牢屋行き、という訳だ。
その場で殺されなかったのは、夜帰と何かしらの取引でもしたいのだろうか。
「迅刀あったぞ!」
「よし、装備は一通り見つかったな」
追放者たちの倉庫から武器を拝借し、洞窟からの脱出を目指す。
しばらく進む内に自然光が見え、忌炎たちの心は浮ついた。
出口だ。
見張りが帰ってくる前に脱出し、基地に帰る。
だが、その願いは簡単には叶わないらしい。
「おいおい、モルモットが放し飼いになってるじゃねぇか」
やってきたのは、追放者と
――
残星組織のアーティファイサー。
そこで全員が理解した。
追放者たちが殺さなかった理由は、残星組織の実験台にするためなのだと。
出口は彼らが入ってきた一つのみ。
いくら牢の中で少し体力を回復したとはいえ、追放者と残星組織を相手に正面突破できるほどの余力は残されていない。
(爆薬苞
……
あれだ!)
互いに武器を構え、拮抗状態が続く中、ついにガンマスターが開戦の合図を撃ち込んでくる。
忌炎は爆薬苞を動かし、砲弾に当てて爆発させた。
「走れ!」
爆薬苞を煙幕の代わりにして、忌炎たちは駆け出す。
洞窟を出るとすぐに側の茂みに隠れ、息を殺して追手が去るのを待った。
「
……
これからどうすんだ」
「逃げるしかないだろう」
「この崖、昇りますか?」
「ばっかお前、そんなの的になるだけだぞ」
「
……
デバイスが繋がらない。おそらく通信を阻害する装置がどこかにあるはずだ」
「応援も呼べないってことか!? いよいよ追い詰められてきたな
……
」
「ここに留まるのもよくないだろう。この場から離れるか、装置を探すか決めるぞ」
手短に話し合った結果、忌炎たちはこの場から離れることに決めた。
アジトの中を探索するより、その外に出る方が幾分か難易度は低く思える。
「わかった。それならこれを頼む」
忌炎は自分のデバイスを仲間に手渡した。
「将軍宛てのメッセージは送信してある。阻害装置の範囲から離れたら自動的に送られるはずだ」
「は? 忌炎、何を言って
……
」
「逃げる時に足を捻ってな。どうにも走れそうにない」
「そんなの肩ぐらい貸してやるって!」
「いい、俺のことは放っておけ。残星組織まで絡んでいる以上、足手まといを抱えるのはリスクが大きい」
仲間たちは苦い顔で俯くばかり。
忌炎の言うことは正しい。正しいが、それを二つ返事で了承できるほど、浅い仲間同士ではないのだ。
「ここで全滅する訳にはいかないだろう?」
忌炎とて別に、ここで死ぬつもりはない。
だからこそ、仲間に託すのだ。
そんな意志を感じ取ったのか、忌炎が発破をかけると、仲間の一人がデバイスをひったくるように掴む。
「勝算は」
「お前たちの走る速度と、将軍の気分次第だな」
「言ってろ、十秒で送ってやる」
「無茶するなよ」
「だったら陽動もいるんじゃないか?」
「なら装置も探します!」
「おい、そんな危険なこと
……
!」
「まぁなんだ。同じ部隊になったのが運の尽きってことで」
「そうそう。軍医が命張るなら、俺たちも一緒にさ」
結局、本命の一人が基地を目指し、その他三人でアジトの中をかく乱する、という方向に落ち着いた。
そうして、頭上にあった太陽が、そろそろ沈みかかろうとしている。
建物の影に身を隠しながら、忌炎は仲間たちの安否を気にかけていた。
あいつはちゃんとアジトを抜け出せたのだろうか、他のふたりは無事だろうか。
アジトの中はたまに爆発音が聞こえるので、戦闘になっているのは明白だった。
彼らはちゃんと逃げきれているのだろうか。
足さえくじいていなければ、忌炎は共鳴能力を使って追放者どころか残星組織とだって戦ったのに。
今からでも遅くない。
そう思って踏み出そうとすれば、やはり足首を突き刺すような痛みが襲う。
こんな状況では処置ができないので確認すらしていないが、きっと腫れているのだろう。
『くそっ、あいつら、どこに隠れやがった!』
近くで追放者の声がする。
まともに動けない今、見つかる訳にはいかない。
忌炎は必死に身を縮め、呼吸すら止めて足音が遠ざかるのを待つ。
「!」
けれど、背後から伸びてきた手に口を塞がれ、忌炎はぎゅっと目をつぶった。
拘束を振りほどいて逃げなければと思うのに、咄嗟のことに何もできず、思考だけがぐるぐる回る。
このまま腹を裂かれるのか、はたまた心臓を突かれるのか、それとも首を刎ねられるのか。
きっと、ろくな死に方はしないだろう。
忌炎の顔半分を覆っている手は大きく、節くれだっていて、いかにも武人の手だと思った。
きっと忌炎など赤子の手を捻るがごとく葬られてしまう。
せめて軍人として戦場で
――
いや、そもそも忌炎は軍医なので前線に出ないが。
とにかく、打つ手なし。何もできない。
忌炎はただ、にじり寄る死の恐怖に体を強張らせ、己が行く末を憂いていた。
だから、その人影が忌炎を守るように覆いかぶさっていることに気付かなかったのだ。
「忌炎、もういいぞ。
……
忌炎?」
しばらくの間縮こまっていた忌炎は、頭上で聞こえた声に急いで振り返り、目を見開く。
「
……
何故、あなたが、ここに
……
?」
哥舒臨だ。
忌炎の後ろに、哥舒臨がいた。
驚いて問いかければ、哥舒臨は呆れたようにため息をつく。
「お前が俺を呼んだのだろう」
まったくもってその通り。
じゃああいつは無事に脱出できたのか。
なんて忌炎が胸を撫で下ろしたのも束の間。哥舒臨は両手で拳骨を握りしめると、忌炎のこめかみをぐりぐりした。
「ただでさえ残像潮が沈静化したばかりだと言うのにどれだけ面倒事を背負い込めば気が済むんだお前は
……
!」
「いえ、今回は俺も巻き込まれただけで
……
」
「問答無用!」
トドメとばかりにデコピンされ、忌炎は頭を抱える。
ひりひり痛むのは足だけで充分だというのに、ひどい将軍だ。
仁王立ちで忌炎を見下ろしていた哥舒臨は、忌炎の服の背部が破れていることに気が付くと、長い前髪の奥で限りなく眉間にシワを寄せる。
それは、忌炎が共鳴能力を使った証拠だ。
忌炎の共鳴能力は治癒の力ではない。どちらかといえば、それは戦うための
――
。
軍医である忌炎が、揮う必要のない力のはずだ。
だからこそ、哥舒臨は忌炎が共鳴能力を使うことを良しとしなかった。
己の部下の役割すら守れないなど、鎮戍将軍の名が廃る。
「直に制圧も終わる。ここで大人しくしていろ」
「俺の他にふたりいるんです! あいつらは
……
!」
「合流の報告は受けていないが」
「だったら探しに
……
いっ」
忌炎は立ち上がろうと足に力を込めるが、痛くて動けそうにない。
哥舒臨に会えたことで張りつめていた気が緩んでしまったのか、ズキズキと断続的な痛みが忌炎を苛んだ。
「
……
お前、足を?」
「捻っただけです。このぐらい
……
」
「見せてみろ」
「いえ、本当に大したものでは」
痺れを切らした哥舒臨が忌炎に手を出そうとした時、哥舒臨のデバイスが鳴った。
哥舒臨は舌打ちをしながら通話に出ると、しばらく何かしらの相槌を打つ。
内容からして、アジトを制圧したとかそこら辺の話だろう。
「知らん。大獄に送っておけ」
最後は投げやりな様子で通話を切り、哥舒臨は未だ座り込んだままの忌炎に向き合った。
「隊の連中は無事だそうだ。他に何か杞憂は?」
「
……
ありません」
哥舒臨に手を差し出され、忌炎はまじまじとその手を見た。
口を塞がれた時はあれほど怖かったのに、哥舒臨の手だとわかると、安心感すらあるのだから不思議なものだ。
「どうした? 帰るぞ」
帰る。
帰れるのだ。
仲間たちも無事に、夜帰の基地に。
その事実に安堵して、ようやく忌炎が哥舒臨の手を借りて立ち上がろうとすると、哥舒臨はがっしりと忌炎の手を掴んでそのまま勢いよく背負った。
「哥舒臨将軍! 俺歩けますってば!」
「やかましい。耳元で騒ぐな。
……
お前はいつも他人の身を案じているが、お前が残ったと聞いて、どれほど俺が心配したと思っている」
ぐ、と言葉に詰まり、忌炎は大人しく哥舒臨の背にもたれかかる。
夜帰を、今州を背負う男の背中は、なによりも頼もしく、大きく見えた。
「
……
助けに来てくれるって、信じていました」
「
……
そうか」
ぶっきらぼうな返事ではあったけれど、忌炎は哥舒臨の耳がほんのり赤く色づいたことを見逃さなかった。
本心からの言葉ではあったが、思わぬ副産物に忌炎の顔に笑みが浮かぶ。
こんな顔見られたら、反省していない、と怒られてしまうだろうけど。
いいのだ。背負われていれば、哥舒臨には見えないから。
ちなみに制圧に参加していた他の夜帰軍兵士たちにバッチリ見守られていたことに気付いて、基地に帰ってきてから忌炎の顔も真っ赤になった。
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