寒くはない?お腹は空いていない?私はあなたのことが一番知りたいのに、あなたは私の知らない言葉で「みんな」に声をかけ、頷き、それからこちらへ向き直る。
言葉が通じるのはあなただけなのだもの、仕方ないでしょ?そう言い訳して、今日もあなただけに声をかける。
(月島基)
上官は給仕の娘から勧められるままにワインを一杯また一杯とみるみる空にしていく。香りと味の変化を味わえ、それでは粋な飲み方とは言えないなと俺を笑ったのはつい先日の話だった筈だが。毎日飲みに来るくらい気に入ったのなら、買っておけばどうです。
だからお前は?何ですか。
(鯉登音之進)
不意に思考が晴れる瞬間がある。療養所のベッドに横たわり、隠した薬瓶と、弟と、あの男のことで頭がどうにかなりそうな終わらない時間の合間に。
カチャカチャガラガラいう音の後に、ドアの開く音。ゆっくりと近付く足音。ごく小さな、耳元で空気が揺れる音。世界が戻ってくる音。
(二階堂浩平/看護婦)
そのひとに合わせて仕立てた一点ものを、オートクチュールというのですって。我ながら素材はいいと思うのだけど。どんな風に仕立ててくれるのか、楽しみで仕方がないの。自分の目で見られないのは残念だけれど、私を着たあなたはさぞかし素敵でしょうね。
(江渡貝弥作)
あっちへふらふら、こっちへふらふら。ご自身の関心ごとに素直すぎる貴方だから、私はこれでもやきもきしているのですよ。かわいいもの小さいものに心惹かれる貴方は、その関心がいつか……いえ。女の私から申し上げることは何も。ただその時は二度、手を叩きましょう。
(鯉登音之進/婚約者)
※現パロ
言っておくけど僕、人を部屋に入れるの嫌いだし人の家に上がるのも好きじゃない。だからこうして外で会うつもりしかないし仕事の邪魔はしてほしくない。
はぁ、これだけ言ってもそんな感じ?しつこいなあ。好きか嫌いかって言われたら好きだよ、二番目に。
(宇佐美時重/お題「最大級の口説き文句」)
※現パロ
口数少なく強面で、一見とっつきにくいけど頼れる上司。その上司が恋人だというのは公言を控えているから、在宅勤務もリビングと寝室で必要以上のやり取りはナシ!
「皆聞こえるか?朝礼を始めるぞ」
働き者の黒猫が鳴らすインターホンが二つの画面で共鳴した。
(月島基/お題「ただし、ご注意を。」)
ひとつの蜜柑をふたつに分けた。並んで見た夕陽を綺麗だと言い合った。最初にあの子に声をかけたのはどっちだっけ。
分け合えないものはどうしたらいい。分け合いたくない気持ちをどうしたらいい。初めてだ、怖い。
逃げてしまいたい、征こう、ふたりで。いつも俺たちの間にいたあの子を置いて。
(二階堂兄弟/お題「いえない我儘」)
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