ちよど
2024-11-18 21:08:14
6357文字
Public ビマヨダ
 

召喚されたら宿敵がカルデアのメンタルケアをしていた話

わし様が掌握したカルデアに召喚されるビマさんの話。ほのぼの? pixivからの再掲です

 召喚されたビーマはマスターによってまずは管制室に連れてこられた。
「きっと、びっくりするよ」
 と、にこにこ笑いながら踏み出した少年に合わせてドアが開く。
 知識では知っていても生前には無かったその仕組みに、ビーマがなにかの感情を抱くより先

「だからな、わし様はわし様の役に立つ者が好きだ。当然献身には手厚く報いる。お前達はすでにわし様にその労力を捧げておる。ならば褒美を与えるのは当然のこと」

 管制室を我が物顔で歩く宿敵に走り出しそうとしたビーマを、マスターは手で制する。
 しっ、と指で自分の唇を抑える仕草は黙って欲しいというジェスチャーだ。
 召喚早々マスターの指示を無視するわけにはいかない、宿敵は後でも二つ折りに出来る。そう判断したビーマは静かに立ち止まった。
 なお、召喚されたばかりでほとんど強化されてなかったビーマに対し、ドゥリーヨダナはレベル120、限界まで金フォウを与えられ、勝負にならないことを後で彼は知ることになる。
 そんなビーマが睨みつける先、ドゥリーヨダナはコンソールに向かっているひとりのスタッフの肩に手を置いた。
「わし様はちゃんと覚えておる。お主はわし様とマスターがレイシフトしていた時に適切にデーターを解析してくれたな。あれがなければあの特異点の解決はもっと時間がかかっておった。見事である!
 わし様自らが褒美を与えよう。何がいい?」
「ドゥリーヨダナ、褒美を与えるのはいいけど、カルデアのリソースの範囲内にしてくれたまえよ」
 少女の言葉に笑いがわき起こる。意外にもドゥリーヨダナ本人も愉快そうに笑っていた。
 そのままスタッフの肩を軽く叩き、身をかがめる。

「レイリー。わし様の言葉、忘れるなよ」

 名前を耳元で囁かれ、頬を赤らめてこくこくと頷くスタッフに他のスタッフから視線が集まる。それは明らかに羨望が滲んでいた。
 ビーマは生前何度も見たことがある、ほんの少し前までは割りとまともだった奴がドゥリーヨダナに出合った後は人が変わったようにドゥリーヨダナに熱狂し、全てを捧げることすらためらいがなくなるのだ。
 このカルデアはドゥリーヨダナの勢力圏だ。
 そう判断したビーマが傍らのマスターを見おろすと、少年は誇らしげに笑った。
「ドゥリーヨダナはすごいでしょ」
「わし様がすごいのは当たり前だ、マスター」
 マスターに歩み寄ったドゥリーヨダナは、隣に立つビーマを見ては露骨に顔をしかめた。
「カルデア式の召喚の欠点は、召喚する英霊を選べないところだな。よりによってこやつとは」
 もっと他に喚ぶべき英霊がいるだろう? カルナとかアシュヴァッターマンとか!!
 大げさに嘆くドゥリーヨダナにマスターはへにょりと眉を下げた。
「ごめん、うちは本当にインドとは縁がなくて。ずっとドゥリーヨダナひとりだったから、顔見知りが来てくれて嬉しいかなって」

「「嬉しくない(ねぇ)!!」」

 ハモったふたりにマスターは微笑ましそうに笑った。
 後にビーマはマスターが一部サーヴァントが作成していた怪しげな本で彼らの関係性を予習していた事を知るが、その時にはもう手遅れであった。
 はぁ、とドゥリーヨダナがわざとらしくため息をつく。
「わし様、見たくもない顔を見て大変傷ついた。わし様の繊細な心には耐え難い苦しみ」
「おまえのどこが繊細だ。繊細という言葉に土下座しろ」
「黙れバカビーマ! こほん、ということでわし様は休暇を申請する!」
 サーヴァントが休暇だぁ?
 訝しんだビーマは、この場の責任者であろう少女の姿をしたサーヴァントを見た。
 彼女は論外なドゥリーヨダナの要求にうんうんと軽く頷いて
「前回から時間が経っているのでそろそろ頃合いだと思っていたよ。一晩でいいかい?」
「優秀で有能なわし様が不在になれるのはそのくらいが限度であろうな」
「では今晩。いつものようにシミュレーターを貸し切りにしておくよ。終わったら教えて欲しい」
「うむ。マスターはどうする? またわし様と一緒に行くか?」
 一部の信者が花のようだと讃えたドゥリーヨダナの瞳がマスターを静かに捉える。
 その視線をマスターは真っ直ぐに見返した。

「行くよ。前も楽しかったし」

 その言葉にドゥリーヨダナは破顔した。ビーマですら見たことのない表情でくしゃりとマスターの黒髪をかき回す。
「さすがわし様のマスター! わし様はお主の心持ちを確かに受け取った! 今の言葉だけでお主は未来永劫讃えられるべきだ! これからもわし様に仕えるがいい」
 これからも、と言われてマスターは顔を綻ばせた。
 仕えるとの言葉にビーマは顔をしかめた。
 そして少女は持っていた大きな杖でとんとんと床を叩き、3人の注意を引く。
「マスターが同行するならモニターはさせてもらうよ」
「そうだろうな。マスターのバイタル値だけなら許そう」
「盗み聞きとかはしない。約束は守ろう」
 そして少女はビーマに顔を向ける。

「挨拶が遅くなってしまってすまない。私は技術顧問のダ・ヴィンチ。気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んで欲しい。
 新しくカルデアに来た君は聞きたいことがたくさんあるだろう。こちらもいくつか説明したいことがある。
 これからふたりで話し合いをしようじゃないか」

 親しげな誘いにビーマはドゥリーヨダナを一瞥した。
「確かに。聞きたいことはたくさんあるな」
「では、会議室はこっちだ」
「ああ」
 犬猫を追い払うように、しっし、と手を振るドゥリーヨダナにビーマは青筋を立てたが、申し訳無さそうにこちらに手を合わせるマスターに免じて無言でダ・ヴィンチちゃんの後に続いた。
 



 
「さて、まずはドゥリーヨダナのことだろうね」
 あまり広くない部屋でビーマの向かいに座ったダ・ヴィンチちゃんはそう切り出した。
「ああ、あんたらはあいつがどうしようもないクズだと知っているのか?」
「知っているとも! 英霊の集まるカルデアでは経歴の確認は必須だよ。彼の生前の逸話はくまなく調べてあるとも」
 そんな上っ面だけの情報でドゥリーヨダナの恐ろしさが分かるはずがない。
 眉をしかめたビーマにダ・ヴィンチちゃんは困ったように
「不服そうだね。君から見たドゥリーヨダナはそんなに危険人物かい?」
「俺なら余計な事しか言わないあいつの口を縫い付けて船の外に投げ捨てるな」
「ああ、あれか。あれはメンタルケアだよ」

 
「めんたるけあ?」
 

 オウム返したビーマは聖杯からの知識を再確認する。あまりにドゥリーヨダナとは反対の意味に絶句していると、ダ・ヴィンチちゃんは眼差しを真剣なものに切り替えた。
「知っての通り、私達カルデアは人理修復の途中だ。これまで、それなりに困難に打ち勝ち、結束を深め、共に歩んで来たけれども異聞帯を攻略する度に士気の維持は難しくなるばかり。心理的障害を訴える者や薬に手を出す者も増えてきてね。
 困っていた時に召喚されたのが彼だ」
「最悪じゃねぇか」
「そうかな。ドゥリーヨダナは少なくとも自分に利益を与えるものには肯定的だよ。彼の召喚後からスタッフの安定性が目に見えて向上している。もちろんマスターもね」
「だから最悪なんだよ」
 それは、よりによってあのドゥリーヨダナに依存しているということだ。
 ビーマがそう言うとダ・ヴィンチちゃんは口元を歪めた。
「いや、これは取引だよ。カルデアは彼が欲しがっているものを提供する。彼はカルデアスタッフのメンタルケアをする。イーブンだろう?」
「あの強欲が何を望んだんだ? どれほど金銀財宝を積んでも手に入れた瞬間足りないと言い出す奴だぞ」
「今のところ追加を要求されたことはないし。彼の望みはカルデアのリソースの許容範囲内だとは言っておこう」
「内容を言う気はないということか」
「守秘義務だね」
 チッと舌打ちしたビーマにダ・ヴィンチちゃんは微笑みかける。
「ドゥリーヨダナの件では私達は意見が異なるが、君をカルデアが歓迎していることは分かって欲しい。
 我らがマスターはあまり召喚運が無くてね。いつでも戦力が足りないんだ」
「ドゥリーヨダナを最悪のタイミングで召喚するようなマスターか。いいぜ。協力しよう」
 ビーマはここで協力を断って座に還るという選択肢を選ぶわけにはいかなかった。
 このカルデアはあの宿敵が根を張った敵地。だからこそ、逃亡など出来るはずはない。
 そんなビーマの心境を知ってか知らずかダ・ヴィンチちゃんは顔を綻ばせた。

「ありがとう。協力に感謝するよ。では、カルデアの中を案内しよう」
 


 

 夜。ビーマはシミュレーターへと向かっていた。
 あのドゥリーヨダナがマスターを連れて休暇など、ろくな事ではない。
 昼間、最終再臨まで強化されたビーマはドゥリーヨダナの悪行を暴いてやるつもりだった。
 カルデアは眠らない。だというのにシミュレーター近くには人の気配がしなかった。
 それを幸いとビーマは稼働していたシミュレーターに滑り込む。

 
 そこは森だった。地面は軽く傾いており山の斜面だと分かる。木々の向こうから水音と少年の笑い声が聞こえた。
 とりあえずマスターの無事を確認して、ビーマは声が聞こえる方へと足を進めた。
 生い茂っていた木々に覆われていた視界が急にクリアになる。
 大岩が転がる河原にマスターたる少年とカリの群れがいた。

「我が血に眠る風神の力よ。今こそぶち目覚めろ!」

 宝具開帳のスペルにマスターが驚いたように振り返る。
 その背後でカリが動いた。
「うおおおおお!」
 襲われようとしているマスターを救わんと魔力が開放、

「ビーマ!! 止まって!!」

 されなかった。
 令呪の強制力に魔力は霧散し、ビーマは膝をつく。
 マスターを見ると彼は何匹かのカリに押し倒されていた。
「大丈夫だよ。ありがとう」
 少年がそう言うと、カリは不快な鳴き声を上げながら体をどかす。
 傷一つないマスターの姿にビーマはひとつの推測を手繰り寄せてしまった。
 もしかして、このカリ達はビーマの攻撃からマスターを守ろうとしたのではないか。
 不快な鳴き声が増えたのでビーマが視線を巡らせると岩陰に隠れていたカリ達が続々と現れてきた。
 どうやらマスターの側にいたのは一部だけだったらしい。
 何かを話し合うかのように鳴き声を交わしてカリ達は、じわじわとビーマに近寄ってくる。
 が、ビーマが槍の柄頭を地面に打ち付けるとまた岩陰に逃げ込んでいった。
 岩陰からビーマの悪口でも言っているかのように鳴き声を合唱するカリ達はどこか人間くさく、ビーマの記憶を引っ掻いた。
 どこかでこんなことがあった気がする。

「あーーーーっ!!!」

 聞き慣れた叫び声にビーマの思考は中断された。
 何かをかかえて森から出てきたドゥリーヨダナが、それを振り捨てて飛び込んでくる。
 迎撃しようと体を起こしたビーマは予想よりも簡単にドゥリーヨダナの拳を受け止めた。
「おまえ、レベル120じゃなかったのか?」
 ビーマが捕まえている手は赤子のように弱々しい。そのままひっくり返して地面に押し倒しても、ドゥリーヨダナは空いた手と足をばたつかせるだけでろくな抵抗をしなかった。
 そのまま地面に押さえつけて問いただそうとした瞬間、風切り音にビーマは拳を振り抜く。
 飛来したマスターの上半身ほどの大岩がビーマの拳で砕け散った。
「ぎっ!!」
 だというのに、腹部を抱えてうずくまったのはビーマの方。
 その隙にビーマの下から逃げ出したドゥリーヨダナはマスターの背後に逃げ込む。

「マスター! あの野蛮人がわし様に暴力を振るったぁ!!」

どちらかというと、酷いことをしたのはドゥリーヨダナの方だと思うよ」
 アレは酷い。と未だ腹部を抱え込んでうずくまっているビーマを少年はひきつった顔で見た。
 そんなマスターにドゥリーヨダナはすっと表情を真面目なものに変える。
「マスター。言っておくが、我が身の安全を確保するのに卑怯も酷いもない。生きていれば勝ちだ。大抵の男は相手が弱いとみると油断する。うまいこと気を逸した瞬間にこうやって! 思いっきり! 渾身の力を込めて! 急所を蹴り上げてやれ!」
 シュッシュッシュッと膝蹴りのモーションを披露してくれたドゥリーヨダナにマスターはビーマに同情の目線を送る。
 英雄と名高い彼はやっとふるふると顔をあげた所だった。
手慣れてんじゃねぇか、ドゥリーヨダナ。お前を弱いなんて思うボンクラがそんなに多かったなんてカウラヴァは大したモンだなぁ」
 ビーマの挑発に、ドゥリーヨダナは鼻で笑った。
「わし様とて生まれた時から完璧であったはずがなかろう。まあ、幼き頃のわし様は花も恥じらうような美少年だったからして」
 血迷う輩がいるのは当然、と続けたドゥリーヨダナにカリ達の鳴き声が被さった。
「え、いや待て。話してなかったのではなく、話す価値もなかっただけで、お前たちをないがしろにしていたわけでは」
 慌てたようにカリ達に言い訳し始めたドゥリーヨダナにやっと立ち上がったビーマは
「マスター、あのカリ達はまさか」
………そうです。ドゥリーヨダナの弟さん達です」
 ドゥリーヨダナの霊基には99人の弟と1人の妹が含まれている。
 それを戯れにシミュレーションで分割してみたところ100人のカリが出てきたそうだ。
「ドゥリーヨダナは自分のカリ側面が影響したのだろうと言ってました。でも、話してみるとちゃんと人間だし。いや、なんとなくしか言っていることわからないんですけど」
あいつがあんなに弱ぇのは今だいたい100分の1になっているからか?」
………そうです」
 ビーマはあたりを見回した。
 先程ビーマに大岩を投げつけただろうカリは群れに紛れて分からなくなっている。
 120の100分の1はたった12。最終再臨まで済ませたビーマならまた皆殺しに出来るだろう。
 そんなビーマにマスターはまっすぐ歩み寄った。
 頭を下げる。

「思う所はたくさんあると思うけど。これからもドゥリーヨダナを家族に会わせてあげてください」

「マスター!! そんな奴に頭を下げるんじゃない!!」


 ドゥリーヨダナの叫び声にも動かないマスターは、ドゥリーヨダナとビーマの因縁を知っているのだろう。
「お前がそこまでする必要があるのか?」
だって、家族には会いたいものだから」
 それは、人理を巡る出来事で家族を失った少年の心からの呟きだった。
 ビーマが息を飲む。家族、それはビーマにとっても大切なものだったから。
 英霊になっているらしいアルジュナにはビーマはいつか会えるかもしれないが、ドゥリーヨダナはこうでもしないと家族に会うことは出来ないのだ。
「それに」
 少年は続ける。
「ドゥリーヨダナにはつらい時に励ましてもらったし、落ち込んでいる時に褒めてもらったし、戦闘でもいっぱい助けてもらったし、いつの間にかスタッフのみんなも笑うようになったし、ビーマがちょっと我慢してくれればこれからもみんなで仲良く出来るよ」
 顔を上げた少年は誰かにそっくりな悪辣な笑顔を浮かべていた。
「ビーマはかっこよくて強くてすごい英雄なんだから、このくらいのこと見逃してくれるよね?」
 

「ドゥリーヨダナぁああああ!!!」
 

 ビーマの叫び声にカリ達が一斉に嗤った。


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