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杏夏
2018-08-04 21:54:52
1824文字
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西瓜
#つるきよ版深夜の60分一本勝負にて、お題:夏の過ごし方で書きました。
「あっ、つい
……
」
加州は首を伝い落ちる汗を拳で拭った。あまりの暑さに髪は上にまとめ、襟巻きも着けていない。胸元の合わせも心持ち広げているが、その程度でどうにかなるような暑さではなかった。
「そうだなぁ
……
」
隣に座る鶴丸も似たようなものだった。首にかかる襟足を一つに結って、小さな尻尾がぴょんと後ろに飛び出ている。着物は加州よりずっと着崩して肌蹴ていた。
蝉がミンミンどころかもはやザーザーと雨音のように絶え間なく鳴いている。五月蝿い。
ここには二人だけだった。ここの縁側は日陰は多いのだが風通しが悪いため、あまり人気がないのだ。
拳一つ分を開けて座っているが、その距離でも互いの体温が伝わっている気がする。暑い。
鶴丸は二人の後ろに置いた皿に手を伸ばした。
「早く食わないとぬるくなるな」
鶴丸が正面に戻した手には西瓜が一切れ。ちょうど先端が一口大になるようなそれにかぶりつく。通りがかりにもらってきたものだったが、あまりの暑さに加州は存在を忘れていた。
「どう?」
「うん、甘くて美味い。何よりまだ冷えてるのがいいな」
「ふーん」
加州も西瓜を手に取った。軽い音を立ててかじると、果汁が口内に溢れる。甘さと水分が心地よい。噛むのもそこそこに飲み下す。喉が渇いていた自覚はなかったが、あっという間に一切れを食べ終えてしまった。
「あー、ちょっと生き返った」
「だな」
加州が食べ終えた皮を皿の隅に戻し鶴丸を見ると、鶴丸は果汁が垂れたのか唇を舐めていた。さっきまで疲れ果てたようだった顔は、今はわずかにすっきりしている。汗が引いたわけでもないのに白い肌が冷たそうに見えた。
「どうした清光?
……
っ!?」
加州は首を伸ばして鶴丸に口付けた。唇を舐め、舌を伸ばして口内へ侵入する。鶴丸は驚いたようだったが、すぐに舌を合わせてくる。甘さを感じたのは一瞬だった。舌が絡んだと思うと鶴丸は逆にこちらに入り込んできて、歯の裏や舌の真ん中を撫でてくる。
鶴丸は片手に西瓜の皮を持ったまま、もう片手は板の間についている。頭を固定されていないので、逃れようと思えばいつでもできるが、加州はそのまま続けた。
お互いに手を伸ばさずに口だけを寄せている。ぬるつく舌が触れ合うたびに熱を持つ気がする。初めは少し冷えていた舌はすぐに熱くなった。こんなに白く涼しげな肌をしているのに、なんて熱いのだろう。ぼやけて見える金色の目は奇妙に凪いでいる。涼しげな気もするし、どろりと溶けた鉄のようでもあった。
離れたのは加州からだった。
「あつい」
「なんだい、きみからしておいて」
「西瓜で冷えたかな、って思ったの。すぐに熱くなっちゃったけど」
加州は汗で張りついた前髪を掻き上げ、次の西瓜に手を伸ばした。皿にはあと三切れ残っている。
しゃくしゃくと音が立つ。うん、こちらはまだ冷たい。
「なるほどな」
鶴丸は一人頷いて二切れ目を手に取った。
先端に歯を立て、かじらずにそのまま器用に一口大に折り取った。鶴丸は西瓜を食んだ口を加州に寄せた。身を引く気にもならなかった加州の口に赤い果肉が触れる。加州はそれを小さくかじった。果汁が溢れる前に鶴丸の舌が果肉を中に押し込む。甘さが広がる。鶴丸の舌は加州の口内で果肉を上顎に擦り付け潰す。果汁塗れの舌が絡み、擦れる。舌の間で欠片がしゃくりと崩れる。
唾液と果汁が混ざって溢れそうになり、加州はいつもより早めにそれを飲み下す羽目になった。脳髄に嚥下の音が響く。
絡んだ舌が脈絡なくすっと離れた。
「ちょっとは冷たかったか?」
鶴丸はまた西瓜をかじり取り、唇を寄せてくる。
「そうかも」
加州は口を開けた。
二口目の西瓜はさっきより甘味が薄い。西瓜は美味しいけれど、実の中心が一番甘いので食べ進めるとどんどん薄くなるのが少し切ない。
西瓜を味わいながら、何やってるんだろうと思わなくもない。
二人で西瓜を食べ合うなんて頭が茹だっているとしか思えない。でも、まさに今茹だっているので何もおかしくないのかもしれない。
死にそうに暑くて、蝉は五月蝿くて、鶴丸は涼しげな真っ白な肌に汗を浮かせながら、やわらかく笑んだ目を裏腹にどろりと波打たせている。加州は加州で、食べさせてもらえるのがちょっと楽しくなってしまった。暑くて西瓜を持ち上げるのも面倒になってきたのだ。
鶴丸の手にした西瓜が少しずつ減っていく。
皿にはあと二切れが残っていた。
終
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