杏夏
2018-05-26 22:13:55
1169文字
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箒は安定が片付けた

キスの日に遅刻した鶴清です。


「おかえりー」
庭の掃除をしているところに、ちょうど出陣部隊が帰ってきた。加州は箒を隅に置いて出迎える。何となく気が向いたのだ。
砂埃と血の匂いがする。
けれどそれらは風に吹き散らされるような曖昧なものでしかなかった。部隊の誰も負傷していないようだ。
「ただいま戻りました!」
物吉がぺこりと頭を下げてすり抜けていき、後藤と厚が元気良くそれに続いて玄関へ入っていった。
「ただいまー」
大和守が加州に応じ、その隣を歩いていた陸奥守も片手を挙げた。
そのあとに十数歩を空けて鶴丸が続いていた。わずかに傾いた首の向きで、表情が伺えない。
どことなく妙に思い、加州は鶴丸へと近づいた。
「おかえ、!?」
言葉は最後まで続かなかった。
腰へ回った鶴丸の左手が、加州を強く引き寄せた。右手は加州の首へかかり、親指で顎を押し上げる。加州の唇が塞がれる。
戦装束の鶴丸と、草履の加州では身長差が著しい。加州は真上を向かされていた。
「んっ、……んんっ! ふぁっ!?」
無理矢理唇を開かれ、舌が押し入ってくる。
きつく抱き締められ、身体がぴたりと合わさる。
戦場からそのまま持ち帰られた熱が、口から、身体から、加州を犯す。
ぼやけた視界の中に金色が獰猛に光る。
戦場での鶴丸のように、舌が飛び回っては重く歯裏や舌先を撫でていく。唾液で溺れそうになり、嚥下する音が水音に混じって響く。飲み込みきれなかった滴が喉を流れていくのが妙に擽ったいと頭の片隅で思った。
身体を支えられない。加州の膝が折れかけたとき、ようやっと唇が離される。しかし、密着した身体はそのままだ。加州の喉のすぐそばで鶴丸の心臓が生きていた。
白い髪先が加州の頬の上で揺れる。
…………湯を、つかってくるから、あとで部屋にきてくれないか」
金色の中でぐるぐる渦巻く激情に、舌が追いついていないようだった。たどたどしくさえ聞こえる声だ。
「ぁ……
こんなところでこんなことをされて、加州は怒りたかった。けれど、もう鶴丸が持ち帰った熱に煽られて、加州もどうにもならない。
「あ、あとででいいの……
パン!と凄い音がした。おそらく大和守が陸奥守の耳を勢いよく塞いだのだ。「何するんじゃ!?」「教育に悪いと思って」「何言っとるがか!?」と、随分遠くで話しているように聞こえる。鶴丸と大和守の馬鹿のせいで手入れが必要になっていたら申し訳ないが、いっそ記憶が消えてしまえとも思った。
加州の視界がくるりと回る。
身体を包んでいた熱がすっと消え、加州は鶴丸の肩に米俵のように担がれていた。
鶴丸の膝がたわむ。
「安定、ほうき」
辛うじてそれだけ言い残して、加州は一足飛びに走り出す鶴丸と共に屋内へ消える。
大和守にたった今作った借りのことは、あっという間に熱に融かされて消えていった。