杏夏
2017-08-26 23:14:45
1417文字
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召し上がれ

#鶴清版深夜の真剣文字書き60分一本勝負
「嫉妬」のお題で鶴清を書きました。

「俺は焼き餅を焼いています」
その言葉と共にのしかかられて、加州は驚いた。鶴丸が自分の肩に顔を埋めて、体重をかけてくる。
自室の掃除を終えて、縁側で一休みしているところだった。
馴染んだ体温が背中から伝わってきて、加州は笑った。
「俺も焼き餅を焼いてるよ。もちもちに膨らんでた」
「俺の餅は凄いぞ。きな粉と砂糖をまぶして食べ頃だ」
「じゃあ俺のは醤油つけて海苔で巻こうかな」
「こっちはずんだもつける」
「大根おろしで辛味餅」
「バター醤油」
「チーズとキムチ」
「汁粉」
「揚げ餅」
ぽんぽんと食べ方が飛び交う。不意に沈黙が落ちて、鶴丸がふはと笑った。
…………美味そうだな」
「だよね」
鶴丸は加州にのしかかるのをやめると、その位置で胡座をかいた。加州は身体を後ろにずらす。
鶴丸はすっぽり収まった加州の身体に腕を回し、肩に顎を乗せた。加州は鶴丸の手を取ってするりと撫でる。手慰みに爪までなぞる。
「二つ目にずんだ持ってくるのは酷くない? 俺さぁ、あんたが伊達の刀たちと一緒にいるとあー、踏み込めないなーって思っちゃうのに」
「いや美味いからついな。しかしきみはつい昨日、幕末に駆けた刀たちで宴会をやっていたろう。恋人の俺をほっぽって」
「鶴丸昨日、夕方に出陣して夜は爆睡してたじゃん」
ここ暫く、鶴丸と加州はタイミングが合わない。出陣や遠征が二人別々に重なり、なかなか会うことが出来なかったのだ。加州が鶴丸を見かけることがあっても大体誰かと談笑中で、すぐに出かけなければいけない加州は声を掛けられなかった。鶴丸もそういったことがあっただろうか。
「それで起きて探してみたら、きみはずっと自分の部屋の掃除ときた。きみが日中部屋に篭っているとは思わなくて随分探したぞ」
「なかなか会いに来ないと思ったらそういうことかー」
部屋の掃除は随分前に終わっていたのだが、起きたら会いに来るだろうと思っていた鶴丸が一向に現れず、加州は別に汚れていなかった鏡台をぴかぴかに磨く羽目になっていた。
「きみは俺を待っていたのか?」
「来てくれたら嬉しいなーって思ってた」
加州は鶴丸の手と自分の手を合わせ、そして指を絡める。しなやかな肌とその奥の骨をきゅっと握った。
鶴丸は加州の頬に口付ける。
「ならもっと早く来れば良かった。きみはいつも色々なところにいるから、そっちを探してしまった」
「鶴丸ほどじゃないけどね」
特に約束がないときに鶴丸を捕まえるのは酷く面倒臭い。ここ、というあたりをつけられないため、何人もに聞いて回ることになる。
「鶴丸ときたら伊達の刀とは馴染みが深いし」
「きみも、きみが身内と呼ぶ刀たちとそうだなぁ」
「御物あるあるとか鶯丸としてると置いていかれるし」
「初期刀面子の謎の連帯感には入っていけない」
「物吉と並んでると画風が凄く美しいし」
「大和守とのニコイチ感はいい加減にして欲しい」
まあ、つまり。
「お互い様なんだよなあ」
「だから、きみの邪魔をしたくはなかったんだが、今俺はきみの邪魔になってるかい?」
優先すべきは刀としての任務だった。恋人のそばにいられる刀を羨んでも仕方がない。
しかし、今日はやっと揃った二人の非番だった。
「なんのために掃除したと思ってんの」
加州は身体を反転させて伸び上がる。
鶴丸の耳元で囁いた。
「嫉妬ついでに部屋に引っ張りこんでやろうと思ったに決まってるだろ」