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杏夏
2017-08-25 00:35:54
2407文字
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恋とはどんなものかしら
「三角関係」「ひみつ」をお題に書きました。加州に恋する兼さんと、堀川の話です。
和泉守の視線がすっと動く。まただ。最近和泉守はよく何かを探すような仕草をする。
「加州くんを探してるの?」
目当てのものが見つからなかったらしく、わずかに落ちた肩に堀川は訊ねた。
びくりと下がったはずの肩が上がる。
「国広
……
」
「ふふ、いつも見てるからわかるよ。最近の兼さん、加州くんの方ばっかり見てる」
「あー
…………
、まじか
……
」
がしがしと気まずそうに和泉守は頭を掻いた。
「それ、あいつは
……
」
「うん? 加州くん本人? 気付いてないと思うよ」
「ならマシか」
うん、と頷きながら和泉守は持っていた箒を担ぎ上げて倉庫まで向かう。
堀川と二人で玄関先の掃除をしてきた帰りなのだった。掃除に行く前、ここから見える縁側では加州が何か資料を眺めていた。加州は和泉守と堀川に気付くと、声の聞こえるような距離ではなかったけれど、「がんばってねー」というような口の動きとともにひらひらと手を振っていた。堀川の隣で和泉守は一瞬動きを止めたあと、片手を上げて応じていた。
「ねえ兼さん」
「あぁ?」
「なんで兼さんは加州くんのこと見てるの?」
「あ、なんでって」
「何かされたとか喧嘩してるとか、そういうのではないよね? 兼さんいつも妙な顔してるから気になっちゃって」
「妙
……
」
先に歩き出した和泉守へ追い付いた堀川が見上げると、和泉守はそれこそ妙な顔をしていた。苦虫を噛み潰す直前で口の中から取り出されたようなはっきりしない顔だ。しかし、加州を見ているときの顔とは違う。
加州を見ている和泉守はどこか熱を感じるのだ。堀川にはそれが上手く言い表せない。
「妙、ねえ
……
。まあ国広に隠してもしょうがねぇな。好いた惚れたって話だよ」
「へ?」
「この本丸でこのなりで再会して、まあ最初は物珍しいだけかと思ってたんだが、いつまで経っても、どうもあいつのことばっかり目につくんだよ」
「目につく
……
」
「ああ。いるかいないか探しちまうし、いれば少し気合いが入るし、いなきゃあ気になる。これが恋ってやつかと最近気付いたんだ」
「兼さんが恋
……
」
いつの間にか倉庫の目の前まで来ていて、和泉守は自分の箒と堀川の持っていた箒と塵取りをしまった。堀川は動けなかった。
和泉守は何だかやわらかい顔をしている。夕飯に好物が出たときや、干してふかふかになった布団で眠るとき、遠征先の景色がとても良かったとき、そんなときにする顔ととてもよく似ていて、けれどどれとも違っていた。
本当なんだ、と思った。本当に、自分の相棒の和泉守兼定は恋を知ったんだ。
「そ、うなんだ
……
」
「ああ。だがまあなんだ、お前に気付かれるほど見てたとは思わなかったぜ」
和泉守は顔を反らした。気まずそうに頬を掻いている。
「僕、兼さんのこと応援するね!」
「しなくていい、しなくていい! 別に今すぐどうこうって話じゃねぇんだ。こっちはまあ気長にやってくから、お前はお前でしゃんとしろよ」
「わっ、ちょっと兼さん!!」
ぐしゃり、わしゃわしゃと堀川の頭がかき混ぜられる。
それを受けながら堀川は考えた。恋、か。
堀川は恋がわからない。前の主には馴染み深かったが、堀川自身にはわからない。まだ人の心に馴染んでいないのか、堀川には快不快以外はよくわからなかった。
美味しいのも気持ち良いのもわかる。でも、綺麗な景色に感嘆する気持ちはまだちょっとわからない。面白いと見せてもらった本だって、知識として興味深くはあったけれど、面白いかと言われると首を捻ってしまった。かといって面白くなかったかと言われればそれもよくわからないのだ。
そんな堀川の相棒が恋をした。和泉守のことは理解したい、共感したい。恋とは何かを知りたくなった。
「あれ、お前らまだこんなとこいたの?」
急に声を掛けられた。この声は。
「加州!?」
「なんだよ、そんな驚いて。掃除終わってるっぽいのにいないから探しちゃったじゃん」
件の加州が後ろに立っていた。まだ堀川の頭に乗っていた和泉守の手にわずかに力が入ったのがわかった。
「いや別に
……
」
「何か僕達に用事でもあったの?」
「用事っていうか、山伏が冷やしてた西瓜切ってくれたんだよね。冷えてるうちの方が美味しいから呼びに来ただけ。早く来ないと安定が食べちゃうし」
加州はそう言うと二人をまじまじと見て、そして呆れた顔をした。
「っていうか何してんの? 堀川頭ぼさぼさじゃん」
「えっ、あ、これはな
……
!」
「あー、ちょっとしたじゃれあいというか何というか」
和泉守はどうも動揺しているようで、堀川が適当に後を引き継ぐ。こんなところで「君を好きだって話をしていた流れでこんなことになっていた」なんて暴露してしまうのは、和泉守も本意ではないだろう。
「なにそれ、お前ら本当仲良いね」
「相棒だからね」
「まー、食いっぱぐれたくなかったらさっさとそれ切り上げて上がって来てよね」
加州はにっと笑うとくるりと身を翻して行ってしまった。
和泉守をそっと見上げると、またあの熱を感じさせる顔で赤い後ろ姿を見送っていた。
何を考えているんだろう。どう感じているんだろう。相棒にこんな顔をさせる恋とはどんなものなのかしら。
堀川はそして思い付いた。わからないのなら当事者になってみればいいのだ。加州に恋をすればいい。そうしたら和泉守の気持ちもわかる。それに和泉守とお揃いだ。
そうだ、そうしよう。
「兼さん、いつまでこうしてるの。加州くんが行っちゃうよ! 兄弟の切ってくれた西瓜食べに行こう!」
和泉守の手を引いて歩き出す。和泉守には内緒で加州清光に恋をしよう。そうしたらきっと、もっと良く和泉守を助けられる。
「おい、国広引っ張るなよ!」
「えへへー」
そうと決めると、堀川は何だか楽しくなってきた。これが恋が持つ力なのかもしれないと思った。
終
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