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seika_ashe
2024-11-18 18:36:59
2915文字
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(続)車内で不運な目にあう双鶴の話
3巡目や!!!相変わらず双鶴が可哀想です
笋さん宅のちゃんネズを巻き込んでいます……
登場人物
双鶴浅葱
妖狐の血を祖先から引く人間。関東圏の私立高校で国語(主に現代文)を教えている。
人間ドックの再検査の為に東医に来たはずが、何故か怪異調査に巻き込まれている苦労人。追加で胃に1つ穴が開きそうな心持ち。
子狐
浅葱の式神のような、契約妖精のような何か。
言葉は喋れないが、意思疎通は難なく行える。浅葱の気が緩むと時折虚空から無限に湧き出てくるらしい。
給料は一週間に一回いなり寿司3つ。
ちゃんネズ(ネズミもどきと浅葱は呼称)
目と脚が沢山あるネズミだった何か。喋る。
・
・
・
再検査は真っ赤な嘘というところから始まった大騒ぎからなんやかんや、それはもうなんやかんやあって、浅葱は今艘夜の運転していた車の中で1人、とある名刺を穴が開くほど見つめていた。
黒地に銀の箔押しがされたその名刺は、何の変哲もない名刺に見える。強いて言うなら、こういう箔押しのものは好きそうな奴が同僚に数人いるな、という感想を抱く程度。ただ、名刺に残る幻想の気配が、浅葱の表情をまた難しくするのだった。
「
……
CandyShop
……
飴屋?タダの飴屋が幻想の気配させるとは思えん
……
隠語
……
?覚醒剤の類とかだと厄介だな
……
」
浅葱は独り言を零しながら名刺をダッシュボードに置いて、手を2回叩く。
程なく虚空から小さな狐が転がり落ちてきた。
……
今回は浅葱の膝に着地することに成功したようだ。もきゅ、とご機嫌そうな声を上げて主である浅葱にじゃれつき始める。遊んでやるために呼び出した訳では無いのだが、などど言いつつ、片手で狐の相手をしてやりながら名刺を子狐に近づける。
浅葱の指にじゃれついていた狐は名刺を近付けるやいなや、仕事だと勘づいたのか匂いを嗅ぎ出す。数秒ふんふんと鼻を動かした後、何を感じたのかチベットスナギツネのような表情になってしまった。
「おいなんだその顔は、どういう感情なんだ
……
」
「モギュヌ」
「
……
悪くは無いが良くも無いって所か。事件に直接の関係は無いかもしれない
……
にしたってこの面じゃ話を聞きたいところだな」
少なくとも名刺の主が、多かれ少なかれ真っ当に生きている人間でないことだけは確かだ。関連性が無いなら無いで、ハッキリさせておきたい。艘夜が戻ってくるまではまだかかるだろうと踏んで、浅葱は狐の首に小型カメラ付きの首輪を付ける。因みにカメラの出処はいつの間にか服に仕込まれていたものである。
「よし、行ってこい。
……
まあ、名刺を置いてった本人が見つけられなくても、痕跡くらいは何かしら見つかるだろう」
もきゅ!!と元気な返事をして狐は虚空に再び消える。
……
それを見届けてから、浅葱は盗撮と人間観察が好きな同僚
……
カメラを仕掛けた人間に「テメェの撮影データ後で寄越せ、さもなくば帰った時吊るし上げる」と脅迫紛いの電話をかけたのだった。
***
近場の自販機で珈琲を買ってゆっくり堪能しながら狐の帰りを待つ。車の目の前、黄色い規制線とブルーシートの張られた向こう側には、きっと凄惨な光景が広がっていることだろうと思考を回す。
……
姑獲鳥、あるいは夜行遊女や天帝少女と称される怪異は、印をつけて魂を奪うものだ。そう、奪うべきは魂のみのはずなのだ。それが心臓以外の臓器全てを持っていくなど、有り得るはずもない。寧ろ
……
「
……
魂の在処を定義するなら、奪っていくにしても、心臓を狙いそうなものを
……
」
これは文学、精神学など様々な学術において議論されるものだが所謂「心」「魂」の在処として良く取り上げられるのは心臓あるいは脳だ。実際はそんな単純な話ではないのだが。それを、心臓以外全て持っていくというのはどうにも気にかかる。だが何故心臓だけ残したのか、そんな事を考えたところで結論は出ない。
それに、被害者の死因も奇妙なものだ。大量出血はまだしも、切迫早産。年若いにも関わらず妊娠。しかも全員が多胎妊娠していたとすれば異常以外の何物でもないのだ。多胎妊娠の確率は極端に低い訳でもないが高い訳でもない。不妊治療をしていれば確率は自然妊娠の10倍ほどに跳ね上がるらしいが、二十歳になったばかり年若い被害者達が治療をしていた可能性は低いだろう。ならば被害者達全員が多胎妊娠となると
……
被害者は一体『何』を妊娠していたのか?もし、人で無いものを孕んでいたとしたら?
「ンモヌ」
「んぷっ!?!?!?」
思考を遮るように顔面に狐が張り付いた。あぁもうまたかよ、と言い辟易した顔で狐を引き剥がす。
この式神とも契約妖精とも呼称するのが難しい子狐は、いつもこうして大事な考え事をしている時に限って顔面あたりを狙って帰ってくる。それが意図してのことか、はたまた単純な運なのかはわからない。ただ、1人で思考を回すと触れてはいけない部分にまで踏み込もうとしてしまうのは浅葱の悪い癖なのは確かだ。
幻想、神秘が薄らいだとしてもそこらに漂っているこの世界において、1人でその領域に踏み込むことは自殺行為以外の何物でもない。道標になるものが無い中で其方へ迂闊に踏み出せば、帰ってこられなくなるのだ。
……
浅葱はその辺り、普通の人間と違って帰って来やすいが、それでも危険な行為であることは確か。下手したら沼に足を取られて飲み込まれるだろう。
コイツにもたまには感謝しないとな、等と思いつつ引き剥がした狐を横目で見ると、何かを咥えている。証拠や手がかりになりそうなものを持って帰ってきたのか、と確認しようと視線を合わせて
……
浅葱は思わず2度見をし、そして2度見したことを後悔した。
狐が咥えていたのは、目と脚が増殖しまくったネズミ
……
と呼称して良いのか疑問ものな生き物であった。
そのネズミもどきを暫く見つめ、数秒思考停止をした後、浅葱は絶叫する。
「うわああああああっっっ!?!?」
「モキュヌ!!!」
「誇らしげにするな馬鹿!!何捕まえてきてんだ!!!」
「ヘルプミー!!」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!喋ったア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッッ!!!!!」
沢山ある脚をばたつかせて助けを求めるネズミもどきに驚いて、浅葱は狭い車内で暴れた拍子に思い切り天井へ頭をぶつける。痛みに悶絶し、苦痛の呻き声を漏らす浅葱をよそに狐は相変わらず誇らしげにネズミもどきを見せ、ネズミもどきは相も変わらず甲高い声で「ヘルプミー」と鳴き続けていた。
「いてぇ
………
最悪だ
………
。おいこら離してやれ可哀想だろ
……
」
飼い主に褒めて貰えず不満そうにしている狐からネズミもどきを解放してやると、その生き物は「テンキュー」と何とも律儀に礼を言い、車のダッシュボードをウロチョロし始めた。先程まであわや命の危機だったというのに、今や我が物顔で車内を走るところを見ると存外図太いようである。
「
………………
名刺の主にどう関係あるかまではわからんな
……
御守に聞くか
……
」
早く帰って来ねぇかな
……
と嘆きにも諦めにも聞こえる声で独りごちて、浅葱は暫しこのネズミもどきと嬉しくない2人きりを過ごすのであった。
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