ヒナツキ
2024-11-18 09:10:00
4659文字
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宗さにファンタジーパロ2

・自我夢注意
・自我夢なので作中にヒナツキって名前が出てきます!!
・精霊とか神獣とか出てくるファンタジー風のパロ
・衣装は東南アジア風のイメージ
・左文字兄弟は王国の王子様、さには侍女で18歳の設定
・乱は女装している(さには女の子だと思っている)

今回の副題は「そうはならんやろデデ◯ープリンセス」
作中さにはちょっと視野が狭くて思い込みが強いところがあり、自画像にマイナス修正をかけがち



 孤児は自問を繰り返す。
 どうして自分は捨てられた?
 顔が気に入らなかった? 髪が駄目だった? 肌の色、それとも性別? 何がいけなかったの……
 孤児は繰り返し夢を見る。
 自分は捨てられたのではない。何らかのトラブルがあって一時的に手放されただけ。いつかきっと本当の両親が迎えに来てくれる。

 『お家騒動があって一時的に隠されただけの、本当は貴族の子』
 このストーリーは孤児たちの間でも特に根強く信仰されていた。
 孤児院カナリヤは国の福祉施設であり、貴族たちは社会貢献として積極的に孤児を使用人として引き取ることが推奨されている。孤児たちにとって上流階級の世界は『いつか行くところ』であり、そこに『使用人として』ではなく『本当の子として』という夢が入り込むのだ。
 カナリヤの孤児たち、誰か一人くらいはそんな『本当の子』が紛れ込んでいるのではないか。それが自分だったら……
 『そんな話があるわけない』と、『もしそうだったら』を行ったり来たりしながら教育を受け、使用人として一人、また一人とカナリヤを巣立っていく兄弟たちを見送る日々を孤児たちは過ごした。
 ほとんどの孤児は十五歳になる前にいなくなる。カナリヤには年齢制限があり、十八歳までしかいられないからだ。
 十八歳になっても引取先が決まらない場合────そんな孤児の最終的な受け皿となるのは王宮だ。
 つまり本当の両親どころか、どこの貴族からも声をかけてもらえなかった売れ残り。それが自分なのだった。



 ────おめでとう、おめでとう、おめでとう。
「だから、違うんだってば……‼︎」
 侍女は真っ赤になりながら中空へ叫んでいた。
 ────祝福を、祝福を。
「違う、やめて、祝福しないで、違う……っ!」
「何の騒ぎです?」
 声のボリュームは抑えていたつもりだったのだが、それでも通路で目立ってしまっていたらしい。侍女のところまでやってきた侍女頭はその姿を見て目を丸くした。
 侍女の周りを五、六匹の蝶がまるで懐くようにくるくると舞っていたのだ。
「ヒナツキ、何事ですか? その蝶は……?」
「わ、わかりません……
「ふむ……。蝶は宗三様の眷属です。宗三様に何か」
「違います‼︎‼︎」
……?」
 侍女の様子に侍女頭は眉根を寄せたが、仕方ないというように溜息をつくときっぱりと言った。
「その様子では仕事になりませんね。落ち着くまで休んでいなさい」
「えっ」
「蝶を鎮めていただけるよう宗三様にお願いしてきます」
「えええっ⁈」
「なんですか?」
「あの、仕事は、できます。ですから、宗三様にご迷惑をかけるのは……!」
「蝶を連れて調理場には入れません。お部屋の掃除もです。鱗粉が落ちるかもしれませんし、蝶を傷つけるわけにもいかないでしょう」
「それは、そう、ですけど……
「それに眷属に命じることなど王族の方にはわけもないこと。それともなんですか、あなたが自分でお願いをしに行きますか?」
……‼︎」
 侍女はぶんぶんと首を振った。宗三に直接物申しに行くなどとんでもない。
 侍女頭は眼鏡を押さえると再度溜息をついた。
「何があったのか知りませんけれどね。宗三様に失礼だけはあってはなりませんよ」
「! それは、もちろんです……
 侍女は深く俯くと裾をぎゅっと握った。どうしてこんなことになってしまったのだろう。
「お休みを、いただきます。申し訳ありません」
 頭を下げ、とぼとぼと侍女部屋へ向かう。その後を蝶たちも無邪気についてきた。
…………本当に、駄目なの」
 侍女は蝶たちへそっと囁いた。
「私に、そんな資格は、ないの」
 語尾が弱々しく震える。じわりと浮かんだ涙が、雫になってぽろりと落ちた。


「ヒナツキ〜、具合はどう……ぅわっ?」
 見舞いに来た乱は部屋の戸を開けるなり驚いた声を上げた。床に色とりどりの花びらがたくさん落ちている。その真ん中に座り込んで、侍女はさめざめと泣いていた。
「ど、どうしたの、ヒナツキ……⁈」
「乱ちゃあん……
 一体どれだけの時間をこうしていたのか。なす術なく泣き腫らしている様子にハンカチを差し出せば、侍女は素直に受け取って目に押し当てた。
「どうしたの? 何かつらいことでもあったの……?」
 侍女がこんなに泣くなんて、滅多にないことだ。よほどのことがあったのかと身構えながら隣に座り、顔を覗き込む。
 侍女はぐすぐすと鼻を啜りながら乱の質問に答えた。
「き、昨日……
「昨日?」
「宗三様に……
「えっ、宗三様?」
「こ、交際を、もうし、こまれ」
「え〜〜っ⁈」
 全く予期していなかった方向からの告白に、乱は脊髄反射で歓声を上げた。
「それ本当⁈ よかったじゃんおめでとう!」
「うっ……うわあああああんん‼︎」
「えっえっ⁈ なんで泣くの⁈」
 まさかの大号泣だ。訳がわからず乱は困惑してしまう。
「わた、わたし、じゃ、駄目、だもん」
「えー? そんなことないよ、すごくお似合いだよ?」
「わあああああ‼︎」
「えええ……? どうして? そんなに泣かないでよ……
 しゃっくりを上げる背中を優しく撫でる。息をするのも苦しそうなほどの泣きっぷりだ。
 乱は戸惑いながらも侍女を慰めようと試みた。
「えーと、もしかして身分のこととか気にしてるの……? 大丈夫だよ、お妃様たちの中には平民だった方もいらっしゃる。ヒナツキも知ってるでしょう?」
 この国の第一王子から第四王子まで全員母親が違い、出身も身分もバラバラだ。王は豪快な気質で、全員を正室にして全員に愛情を注いでおり、妃同士も仲が良く国民からも人気があるという大らかさである。
 侍女であっても、王子から見初められて踏むべき手順さえ踏めば白い目を向けられることなどほぼない。
「宗三様がヒナツキのことを気に入っていらっしゃるのは側から見ていてもよくわかったよ。ヒナツキがいるときの宗三様は機嫌が良くなられるし、ヒナツキの言うことなら聞き入れてくださるし。外交とかでお疲れのときに呼ぶのだって絶対ヒナツキじゃん!」
「それは……侍女としての、仕事を、評価してくださっているだけで……
「それだけじゃなかったって宗三様ご本人が仰ったんでしょー⁈」
「でも……でもっ……
 完全にデモデモダッテだ。いつも明るくて元気な侍女なのに、何がそんなに不安なのだろうか。
「だって、私……親にも捨てられた身、だし……
「それはボクだってそうだよ。カナリヤのみんなそうだよ? だいたい、どうしてカナリヤに預けられたのかなんてわかりようがないんだから、捨てられたとも限らないでしょ」
「売れ残り、だし」
「それはたまたま! いいご縁がなかっただけ!」
 ちなみに乱は違う。歳は三つ下の十五歳だし、侍女が王宮へ引き取られるときにちょうど欠員が出ていたとのことで一緒に来たのだ。
「それに、目だって……左右で色が違うし……
 侍女は伸ばしている前髪を引っ張った。何故か侍女の目は右が緑、左が青で、こんな目の持ち主はカナリヤでも侍女一人だけだった。このせいで捨てられたのだろうかと考えたことも、一度や二度ではない。
「目? ああ、そうだったね。……そうじゃん! 宗三様と同じ色!」
 乱はパッと手を叩いた。
「すごい偶然じゃない! これって運命ってやつじゃない?」
「い、言わないで‼︎」
 侍女は新たな涙を湛えながら乱に縋りついた。
「言わないで、宗三様には絶対に言わないで! 侍女と同じなんて知られたら、きっと気を悪くされるっ……!」
「えええ〜……? そんなことないと思うけどなぁ……
「駄目だよ、とにかく駄目」
 そうなのだ。宗三の両目に緑玉と蒼玉が輝いていることは初めて会ったときにすぐ気がついた。だから侍女は下ろしていた前髪を翌日から更に厚くしたのだ。額に傷がある、など嘘をついて。
 同じだなんて気づかれたくなかった。だって、宗三と自分は全く違う人間なのだから。
「うーん……?」
 乱は腕を組みながら小首を傾げた。
「ヒナツキって、宗三様のこと好きだよねぇ?」
「‼︎ そ、それは……! その、とても素敵な方だと、思ってるけど……っ!」
「でも、お付き合いするつもりはない?」
 侍女はものすごい勢いで何度も頷いた。付き合うだなんて、同じ場所に立つだなんて、あの人の意識が自分に向くだなんて、とんでもない。
「わ、私は、侍女としてお仕えできれば、それだけで……!」
「じゃあ、お断りするってこと?」
……う、うん……
「うーん」
 乱は可憐な眉間に軽く皺を寄せた。
……宗三様なら、ヒナツキを守ってくれると思ったんだけどなー」
「え?」
「とにかくさ! どちらにするにせよ、一度宗三様とちゃんと話しなよ。ね?」
…………うん」
 告白をされたときは、あまりに驚いてその場を逃げ出してしまった。そのままにしてしまっているのはよくないとわかってはいる。
……ちゃんとお会いして……お話する」
 数々の非礼を謝罪して────気持ちに応えることはできないと、伝えなければ。
「よしよし。そのハンカチは貸しておいてあげるからさ。ちゃんと目を冷やして、お水も飲むんだよ?」
「うん……ありがと」
 仕事に戻るという乱を見送って、侍女は重い溜息をついた。ふと床を見下ろせば、色とりどりの花びらが落ちたままになっている。
…………
 侍女は窓へ近づくと、ゆっくりと開いた。その途端パタパタと軽い羽音が部屋の中へと入り込む。
 小鳥だ。小鳥が二羽、三羽と侍女の肩や腕にとまる。その嘴には瑞々しい花びらが咥えられていた。
 ────泣かないで。元気をだして。
……どうして放っておいてくれないの?」
 小鳥たちは次々と花びらを侍女の肩や周辺に落としていく。まるで贈り物のように。
(こんなの、どう考えたって普通じゃないじゃない)
 侍女は幼い頃からこうだった。生き物たちの声が聞こえる。感情がわかる。
 だけでなく、十歳を過ぎた頃から精霊の姿も捉えられるようになり、会話までできるようになってしまったのだ。
(でも私は、王族じゃない……
 侍女はポケットから石を取り出した。ころんと丸く、手のひらに収まる大きさの白い石。何かの紋のような不思議な模様が彫られているそれを、侍女はそっと指で撫でた。
 これは自分のおくるみの中に入っていたものらしい。
 もしかしたら家紋かもしれない、両親が持たせてくれたものかもしれないと同じ模様をずっと探してきたのだが、見つからなかった。当然王族のものとも違っている。
(王族でもない私が、王族のような力を持っているなんて知られてしまったら……魔女や妖の類いだと断じられてしまうかもしれない)
 そうなったら、あの優しい宗三も態度が変わってしまうかもしれない。二度と微笑みかけてもらえなくなるかも、と考えると胸が張り裂けそうなほど悲しかった。
(目のことも、この力のことも……話せないことが多すぎる)
 だから……宗三の寵愛を受けることなど、絶対に無理なのだ。侍女の立場以上のものなんて望まない。ただ、今のままの穏やかな日々が続いてほしい。
 そう心から願っていたのに────


 その日のうちに王宮を出ることになるなんて、このときには思いもしなかったのだった。