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epitap

らるしゅ風味。PX再掲。
34話後。モヤモヤ引きずり兄さんシリーズ。

45話でラルフが軍服の侭現れたのは、見つかっても誤魔化せると思ったからだろうと。
ので、皇帝への叛逆を目論んだ裏切り者!指名手配!とかの扱いじゃなかったのではないかなあとか
 
親愛なるR。と言うオマージュをやろうとしていたのですがそれはまた次の機会(あれば


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 厳かな鐘の音が響き渡る。
 よく晴れて天まで抜ける様な鮮やか過ぎる蒼空の下を皇帝が進む。まだ幼ささえ感じられる程に小さいその背に負われた未来と言う重荷を、その歩む先を、誰もが注視し見つめている。
 二度目の鐘が鳴る。皇帝の小さなその手には、白く瑞々しい花が掲げられている。血塗られた彼の父祖の歴史を覆うには未だ到底足りぬであろう、白い花弁たち。
 三度目の鐘の音が消えていく頃、皇帝は足を止めるとそっと目を伏せ、掲げた白い花にくちづけた。背にぴたりと付いて共に歩んでいた宰相と元帥とが、儀礼めいた仕草で足を揃えて敬礼の姿勢を取る。
 彼らの眼前に築かれた黒い石碑。幾つもの名前の刻まれた真新しいそこに、皇帝が白い花をそっと手向けた。
 同時に、参列者も、普段は喧騒に包まれている時間帯の帝都も、誰もが口を噤んだ。物音はするが言葉のない無声の静寂。その中を、空気を震わせる鐘の音の余韻と、静かにすすり泣く様な音たちだけが響いていた。
 儀仗隊が一糸乱れぬ規則正しい動作で銃を捧げ持つと、弔銃の空砲を蒼い空に向けて撃ち放つ。
 一同が黙祷する中、シュバルツはそっと顎を擡げて空へと視線を投げてみた。
 よく晴れている。
 雲一つない広大な蒼色に対して、その程度の感想しか浮かびそうもなかったので、再び無言で目を伏せた。
 
 *
 
 戦後の帝都の復興事業の中で、大幅な人事と同時に急いで進められたのがこの、戦没者の慰霊式典であった。
 即位したばかりの皇帝のこなさねばならない極めて重要なイベントと位置づけられたそれは、なかなかにハード且つタイトなスケジュールの中で執り行われる事となった。
 戦没者の慰霊と言うイベントとしての意味は勿論なのだが、それも建前の一つでしかない。これは、国内の政情を速やかに安定させる為の一助と位置付けられた極めて重要な事柄でもあったのだ。
 共和国は和平の条件に、帝国の敗北を求めはしなかった。
 そればかりか、共に巨悪を倒したと言う事実を、後々の未来へと続く互恵の関係として築いていくべきだと言う、長きに渡って戦争を続けていた国の提示する条件とは到底思えない様な『申し出』が、和平の条件として羅列されていたと言う。
 デスザウラーに因って甚大な被害を被った帝国は、協力態勢として進軍してきた共和国に本来(両国の辿って来た経緯を思えば)であれば、その侭為す術もなく帝都の占拠と勝利宣言とをされてもおかしくない様な状況にあった。
 或いは、そこまで行かずとも相当に不平等な『終戦』を迎えさせられかねなかった。その最悪の想定を思えば、共和国のその『申し出』は理知的と言えたし、狡猾とも言えた。
 これは共和国に大きな借りを作りましたな、とは宰相の弁だ。尤も、その宰相本人が共和国に対プロイツェンへの援軍を求めた張本人であるからして、一歩間違えれば売国奴の誹りを受けかねない様な状況にあったのだ。共和国の破格の申し出に対して『借り』と鷹揚な受け入れ方もしたくなろうものだ。
 そうして両国は和平の道を進む事を宣言し、国家間で幾つかの協約が交わされた。然し困った事に──或いは予想通りにと言うべきか──この段階で、ルドルフ帝は実質共和国の言いなりではないかと、国内外に悪質なデマゴーグを広める扇動者などが現れ、人事改革を行ったばかりの帝国軍はその対処に日々追われた。
 戦後処理の一環としてその直中に置かれる事となったシュバルツは、矢張り先の戦争に対する損失の不満が民から決して拭えてはいない事を実感させられたのだった。
 戦争とは愛国心だけが原動力とは成り得ない。理想を除けば当然だが皮算用も大きい。勝利をすれば恩賞と言う利を得られる、その単純計算は、原始的だが民を戦に駆り出すには最も有効な建前である。
 この皮算用の難点は当然だが、敗北や休戦に対しては有効ではないと言う事にある。本来であれば、戦場に赴き家庭を空けた時間の分、或いは命を失った分を差し引いて余りある利を得る筈だった──その事実を補うだけのものを、国家が身を削って用意しなければならなかった。
 然し幸いと言うべきか、デスザウラーの脅威は両国の民に同様の感情を抱かせた。結果的に、この戦いで喪われた命と言うものは、『世界の脅威』を身を賭して払ったと言える。この前提が帝国の民たちの心を、皮肉な事にも幾分慰めたのだ。
 ゆえに、まずそこを最優先に慰藉する事が急務とされた。そして、帝国の為に戦争で命を落とした者たちへ──或いは残された遺族へ──の補償を明確化する事。帝国は彼らの犠牲を無駄にはせず、平和を固く誓うのだと言う意思表明。
 それらの為にもこの慰霊式典は速やかに、但し厳かに粛々と行われなければならなかった。
 ある新聞記事は大仰な文体でこう書いた。これが本当の終戦記念日であると。
 その片隅に掲載された、遺族に因る手記を引用したコラムにはこうあった。民が戦争による損失と喪失とを被る日々はこれで終わりにしなければならない。再び共和国が帝国に牙を剥かぬ事を望むばかりである、と。
 シュバルツとしては、個人的に思う所の多い記事ではあったが、敢えてその感想を何処かや誰かに吹聴する気にもなれなかった。
 理由や発端がどうあれ、死は、死だ。それを悼むのが如何な思惑であろうが、死は──、死だ。
 実際、前線では目の前で殉死した者らを幾人も見てきたし、そうさせもしてきた立場である。今はただ、石碑に名を刻まれた彼らが、遺された者たちの裡で心安く眠りについてくれる事を祈るばかりだ。
 黙祷を終えた皇帝がこちらを振り向き、参列者たちに演説を行う。その内容は宰相と元帥とが多くをアドバイスしたものだろうが、皇帝の紡ぐ言葉にはそれが決して形ばかりの虚事ではないと言う強い意志を示すだけの力があった。
 「共和国と共に歩んで行く事こそが、彼らの命を無駄にはしない、善き未来を築くものであるのだと私は信じています」
 そう締め括られた言葉に、どこからともなく拍手が鳴り始め、万雷の祝福の如くに辺りを包んだ。兵士たちは皆我知らず敬礼の姿勢を取って、まだ幼い皇帝に臣を誓う事を示す。
 目の淵に涙を溜めながらも、儀仗隊は一糸乱れず動き、楽隊は厳かに国歌を奏でる。この合同葬儀と慰霊の儀とは、またどこかの新聞に因ってさぞや心震えるものとして書き綴られ、後世へと伝えられる事だろう。
 敬礼を続けながら、シュバルツは思う。果たしてこれが生者の為の儀式であって言葉であると言うのならば、この蒼空の遥か頭上に居る筈の死者には一体何が届けられると言うだろうか。
 
 *
 
 発見された機体の残骸から、遺体は回収されなかった。
 シュバルツ自身も自ら現場に足を運んでそれを確認しているし、撃墜者の証言にもそれを何ら不自然と見る様な要素は何も無い。
 首を切断されたレドラーの胴体部分はその侭墜落し原型を留めてはいなかったし、発見された頭部も似た様な有り様であった。そして、レコーダーやログデータの回収も解析も不可能な程に破損したコックピットのパーツを集めて復元を試みて程なくして、ベイルアウトしたのは間違いない、と調査に当たったチームからはそう報告が上がった。
 撃墜され、然し遺体が回収されていないのだ。墜落寸前に脱出しているか放り出されているかのどちらかしかあるまいとは既に予想されていた。後者より前者の方が生存率は幾分高いが、墜落地点の深い森の多い地形を、墜落から時間の経過した後から隈無く捜索する事は困難で、そして大した意味は無いと結論付けざるを得なかった。
 ──つまりは生死不明と言う事だ。
 黒いレドラーを墜としたパイロットは、過去の帝国軍籍にその名を確認出来たが、当時は除籍されており、彼らの腕を見込んだ共和国の協力者となって活動していたと言う。
 彼らの立場については共和国からの証言と、実際にデスザウラー相手に上げた戦功、そして何より彼らと行動を共にして来たルドルフの言と強い要望もあり、『共和国に加担した』事は、国家に対する『裏切り』とは見做されず、赦免となった。
 以降彼らは正式な帝国軍籍に戻されはしたが、今は各軍には属さずルドルフの護衛と言う特殊な任に就いて貰っている。
 証言の為に彼も現場を訪れた事があった。
 「操縦者パイロットは死んだと思うか?」
 シュバルツの端的なその問いに、赤毛の巨躯をしたその男は、撃墜は間違いなくした筈だが、その先は解らないと、そう淡々と己の知る事実だけを伝えて寄越した。
 その言葉が報告書に当時記載されたものと全く変わらなかった事に、シュバルツは苦笑すると同時に奇妙な安堵をも得ていた。気遣いや憤慨の一欠片も混じらぬ言葉は少なくとも彼の知る事実でしかなく、だからこそに彼はそうと紡ぐに留めたのだと、素っ気ない程に実直なその態度からも確信出来た。
 「何しろ当時の我々は、共和国のゾイドに乗る元帝国軍人と言う微妙な立ち位置に置かれていたもので」
 そう言い置いた彼は、万一を考えた共和国に因ってストームソーダーにも一切ログの類は記録されない様になっていたのだと説明を付け足した。それが真実か虚偽かまでは、当のストームソーダーが共和国所属ゾイドである以上、シュバルツに調査をする権限はないし、何より、そこまでして疑う理由も──必要もなかった。
 「貴官に対し帝国軍人として何らかの疑心がある訳ではない。誤解を招いたのであればその非礼は詫びよう」
 「誤解と言う程には。ただ、やけに拘られるものだと言う疑問は湧きましたな。それこそ、非礼であるとは存じますが」
 言う言葉程に、赤毛の男がシュバルツの本心の在り処を気にしている様子も無く、シュバルツはその事にも密かに安堵を追加した。
 探る意味がないと感じているのは、お互い様だ、と言う事だろう。それで終わりだ。納得を示して頷くシュバルツの前で、レドラーの首の残骸がグスタフに牽引されたトレーラーに積まれて運ばれていく。
 「私は飛行ゾイドには殆ど乗る事はないし、自ら操縦桿を握った事など数える程にしか記憶にないのだが……、飛ぶと、空を近くに感じるものか?」
 答えを知る事が出来るとは思わなかったが、シュバルツは木々の狭間から空を見上げた。雲は重たい天蓋の様に垂れ込めていた。雨が近いのかも知れない。
 恐らくその問いに大した意味などないと彼は察したのだろう。フライトジャケットを纏った赤毛の男は、重たい雲の緞帳の裏を覗き見ようともせず、ただ一言、
 「逆でしょう。空を裂いて飛ぶことは、地上をこそ近く感じるものだ」
 そう、酷く軽い声音でそう言って、僅かに笑ったようだった。
 
 *
 
 薄い雲の僅かに出て来た空の下、黒く聳える石碑は参列者の捧いだ白い花で一杯になっていた。
 刻まれた名前たちの中にはシュバルツも知る名が幾つもある。たった一つ、二つを除いて、それはあの戦いの中で、ひょっとしたら避けられたものも含まれた『死』の証でもあった。
 そこには、発見されなかった遺体の『名』はない。
 シュバルツはエーベネ空軍基地で自身の体験した経緯を全て包み隠さず報告していた。だが、彼らを撃墜した、共和国の協力者であるアーラ・バローネの証言以外の明確な証拠も無い事から、アイゼンベック部隊の明確な『裏切り』は断定出来ないとされ、結果的に彼らはMIA戦闘中行方不明と言う扱いとなった。
 叛逆者、ではない。それは、次期皇帝殿下に刃を幾度も向けたにしては実に破格の処分と言えた。
 これは立場を危うくしたくはない帝国空軍の上層部の思惑が幾つか働いた結果だった様だが、シュバルツとしてはどちらであっても同じ事であった。
 シュバルツは彼が国を、皇帝に背いた事を確信していたし、そこに何か崇高な、心惹かれる様な理由があったとも思ってはいない。『裏切り』などと言う解り易い言葉には内包されない特別な意味があったとも思っていない。
 結局のところ、解らない侭だと言う事だ。
 だが、その中でただ一つ確かな事がある。
 ここに名前が刻まれていないと言う事は、彼は未だ『死んでいない』のだ。
 逃亡中の叛逆者であれMIAであれ同じだ。ラルフは未だ、死んではいない。
 用意された献花を、訪れた人々や兵士が手にとっては供えて行く。シュバルツも石碑に近付く為に手渡されたそれを、捧げる棺の用意されていないそれを、どうしたら良いのか解らずに手の中で持て余した。
 甞て友と呼んだものの影を、己は未だ失ったきりでいる。
 捧げる場所を持たない花が指の隙間をすり抜けて落ちたが、それを拾い上げる気にもなれず、眸はまた無意識のうちに寂寥を見いだし空を追っている。
 この埋葬出来ぬ感情がある限りには、あの新聞記事の言葉を借りるのであれば、まだ終戦を迎える事は出来そうもない。
 感傷と感情とを空の何処かに見て、遺された憧憬の中で、美しかった全てを花弁で埋め尽くしても。
 
 おまえが死んで呉れない限りは、、

 
 
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 "死んだ人なんかゐないんだ。
 どこかへ行けば、きつといいことはある。"