ひがあぎういな
2024-11-18 00:28:00
9137文字
Public アンデラ小説
 

百薬うわばみ死を招き

【不死不運06】読み切り版の風子ちゃんもお酒強いのかな?っていう妄想から膨らませました。
※お酒苦手なので酒エアプ

【百薬うわばみ死を招き】



「ねーそういえば今はどこ向かってんの?」
「方角的にはこのまま行きゃロシアのどっかに着くな」
「目的があるわけじゃないんだ」


追手の迫ってない穏やかな船旅は初めてだったから、最初のうちはデッキに出てホントに海の上を走ってるって事にすら感動してずっと海面を眺めてたけど、そういえばなんで船に乗ってるのかとか基本的な疑問を今になって聞いてみた。


「追いづらいように逃げてるだけだ」
「そのわりに寄り道多いけどね」
「せっかく世界中ウロつくんだ、楽しまなきゃ損だろ」
「緊張感ないなぁ」


操舵席にいる男は酔いがないのをいい事に、缶ビールをちびちび飲んでいる。たいして旨そうにもしてないから暇つぶしかな。
あんまり飲み食いを進んでするイメージはないけど、たぶんアルコールは体に悪いから好んで口にしてるんだろうなって感じ。


「なんだよじっと見て。ハラ減ったのか」
「まだ平気。ロシアの事考えてた、全然知らないから」
「和解も不十分な元敵国だしな。国交少なめだよな」
「いや学校行ってないから戦争とかもよく知らなくて」


社会常識が欠けている自覚があって、ちょっと気まずい。
ネットで調べようと前のめりになれる話題でもないし、人と関わらない生活に甘えてあらゆる知識がないままぼんやりと生きてしまったなぁと、生き字引を地で行く男のそばにいると思い知らされてばっかりだ。


「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って知ってるか?恥に思うのは今だけだ、教えてやるから今知れば良い」


1904年の戦争は不死の男にとってはそんなに遠い昔ではないらしく、その時代を生きた生の記憶で当時の授業が始まった。


*************


きっと辛い記憶だってあったはずなのに、この男は努めて暗くならないように話すおかげでこの表現が適切なのかはわかんないけど、授業は楽しめた。
夢中になっている間に2時間近く経っていて、頭では空腹を忘れてても腹の虫が先にキュウと音を上げる。


……ごめん」
「メシにすっか」


出発前に買った手の平サイズのアップルパイが入った紙袋を渡された。よく見たら1個しかないコイツ、また食べない気だな。いつもの事だからもう聞かないけどね。

パイ生地のカケラが落ちるのを気にして紙袋の上でもそもそ食べてたら、腕を引かれて大きな一口が葉っぱみたいな形のパイを虫食い状態にした。


「ちょっとぉ!一口でっかい!アップルパイなのにりんごなくなっちゃうでしょ!!」
「甘すぎる」
「しかも文句かよお腹足んないよこれじゃあ」
「ハラいっぱいにしない方が良いぞ、ロシアついたら美味いもん色々あるしな」
「むーロシアの料理ってどんなの?」


そういう事ならお腹は空けとこうかなと思ったのを悟られたのか、虫食いの犯人は懲りずにもう一口と顔を寄せたので、大人しく差し出して訊ねた。


「ん〜煮込み料理やスープが多いな、あとは乳製品」
「乳製品ってチーズ?」
「チーズもあるがスメタナっつーサワークリームも有名だ」
「あ、私ポテチのサワークリーム味好きだよ」
「じゃあビーフストロガノフなんかは気に入るかもな」


不死に奪われながら食べたアップルパイはすぐ無くなっちゃったけど、お腹は空かせてていいや。名前もよく分かんない料理たち、一体どんな味なんだろう。


「そういやよぉお前18だったか?」
「あ、うん。誕生日7月だからアンタに会うちょっと前にね」
「ロシアなら18で飲酒OKだぞ、呑むか?」
「えっ良いの!?アタシ日本人だよ?」
「日本のコトワザにもあんだろ、郷に入っては郷に従えってな。将来失敗しないように俺が教えてやるよ」


ニヤニヤしながら言うから親切で言ってるとは思えない。でも自分がお酒をどのくらい飲めるのかは興味があった。


「じゃあお願いします」


*************


海沿いで適当に上陸可能なところを探して船を流してたら、着いたのはマクシモフカっていう地域だった。正直知らん。だが南下してアムグまで行けば空港もあるし何とかなるだろ。

現地人になんか美味いもんあるかと訊けば、ソリャンカなる料理があるらしい。燻製肉や野菜の塩漬けを色々入れてスパイスとレモンでさっぱりさせたスープだと。
ここは海沿いだから肉の代わりに魚やイカが入ってるという家庭料理を、ハラ空かせてる相棒に食べさせる事にした。


「うまっでも味濃い!!」
「サワークリーム混ぜるとマシになるらしい」
「ロシア料理ってホントにサワークリーム入れるの鉄板ってゆーか、当たり前なんだね。うまパンに合うねコレ」
「酸味と塩味が強ぇな。酒にも合うぞ、ちょうど良かったな」
「あ、マジで今からお酒呑むんだアタシ」


料理を振る舞ってくれた住民に声を掛ける。地元の訛りなのか分かりにくいロシア語だが、大げさなボディランゲージと充分なチップがあればだいたい何とかなるもんだ。この料理に合う酒はあるかと訊けば、あるに決まってるだろうってな勢いで色々勧められた。

まず当然という顔でウォッカ、次に一応海鮮だからと白ワイン、もうアルコールなら何でも合うよとジンにビールにマジで色々。流石ロシア人って感じだ。


「まぁまずはペアリングってことで白ワインだな」
「ハイせんせー、ペアリングって何?」
「料理と酒には相性がある。肉料理には赤ワイン、魚には白ワイン見てーな合う組み合わせの事だな。マリアージュとか言う事もある」
「そっちのが聞いたことある。なるほど」


白ワインは初心者には酸味が先に来てしまうんだが、この料理ならそれは問題ないだろう。
アルコールのパッチテストは変化ナシだったし大丈夫だとは思うが、初めての飲酒だ今日は1杯だけ呑ませて様子を見るか。


「ワインは香りだ、渋味に慣れるまでは味に集中するな」
「うん料理と一緒だと渋いとかは分かんないね」
「体調が変わった気がしたらすぐ言えよ」
「喉がかーってしたけどそれ以外は大丈夫」


初めは恐る恐る、料理を食べてはちょっと口にいれるを繰り返してたが、レモンやハーブの香りに負けない程度の量を口に含むとやっと香りの良さが解ったのか、うんうん頷いていた。


「あーワイン終わっちゃったぁ
「どーよ飲酒デビューは。楽しめたか?」
「うん、ありがと〜美味しかった!」
「そりゃ何より。あとは言うの忘れてたが、空腹のまま酒呑むのは急性アルコール中毒になりやすい。俺がそういう呑み方してるからって真似すんなよ」
「はーいせんせー」


酔ってるのか機嫌が良いだけなのか、分からない笑顔だ。
本当に大丈夫だろうか……ん?

ふと気配を感じ視線を向けると、隣の部屋から家主が小さく手招いていた。


家主が呼んでる。ちょっと離れるぞ」
「へーい」


チップを弾んだのは酒の為だけじゃない。地元で見ない顔があれば教えてくれと頼んでおいた。こんなところに観光客なんか来ないからな、居たらそれはほぼ追っ手だろう。

見掛けないタイプの船を海で見たという情報が入ったようだ。こっちの船は隠しておいて良かった、ルートがバレてるようだがどこに上陸したかまでは把握していないらしい。

ならすぐ動くのは見つかりに行くようなもんだな。
今後の動き方の算段を脳内で立てつつ、相棒にも共有しようとダイニングテーブルに戻ると


「おかえり。ねぇコレ飲みやすいけどなんてお酒?」
「ばッそりゃウォッカだ!ストレートで呑んだのか!?」
「喉乾いちゃってお水かと思って飲んじゃった
「かなり減ってんじゃねーか、なんともないか?」


けろりとしているが、ウォッカのストレートは普通1オンス(だいたい30ml)ずつ楽しむもんだコップ一杯がだいたい200ml、約6倍量を一気に呑んで平然としてるとは。信じ難い。


「魚みてぇだなあ~日本語で言えばウワバミか」
「なにそれ」
「底なしに酒が呑める奴の事だ。英語ではlike a fishっていう」
「私お酒強いって事?」
「っぽいな。後から来る可能性もあるが」


どのみちすぐには船で移動出来ない。
船を出すなら一帯の漁船が沖に出る少し前2時ぐらいか。目撃者は少ないほうが良いし、何かあった時に不幸で巻き込む対象がバラけちまったら敵に有利だ。

こいつの体調を見てからルートを考えても間に合うか。


「今後は俺の見てないとこで勝手に呑むな。水でもだ」
「はぁい
「あと俺が渡した物でも、席を立ったり目を離した後は捨てろ」
「えっ?もったいないじゃん」
薬混ぜられて拉致られるっつー手口がよくあんだよ」
「怖気を付けます


結局その後もなんともなさそうに受け答えもハッキリ、体調も特に変わらずだった。今はすやすや寝ている。


「追っ手が来てても全く緊張しないよな」


その方が助かるし、まぁ良いか。
時刻は1時55分、駆動音を抑えて速度は出してないが、アムグまでは30キロくらいとして2時間もあれば着く。上陸までに追いつかれることはないだろう。あそこならアジトもある潰されてなければ。


「おーい起きろ、そろそろ着くぞ」
「ん~~あと5ふん
「俺は待っても良いが敵は待ってくれねぇぞ」
「ふぁそうだったぁ〜もー……おきる
「アジトに着いてからなら存分に寝かせてやるよ」
……えっちなコトするんでしょ」
「お望みとあらば」
「じゃあいらないです」


寝起きでもバッサリ塩対応は健在で、酒が残ってる心配もなさそうだ。安心して町中を連れ回せそうで良かった。

せっかくの初ロシア、名物料理のピロシキやボルシチなんかは一度食べさせねぇともったいない気に入ったものは本当にウマそうに食うし、反応が面白くて色々食べさせるのがすっかり楽しくなっていた。こりゃ一人じゃ味わえない娯楽だな。


「まだ店は開いてねぇし、まずはアジト確認しに行くぞ」
「りょーかい」


*************


不死の男が長い人生の中で立ち寄った土地は多くあって、その時々で用意した拠点は当然あちこちにある。一応アジトを構える基準はあるらしいけどね、たとえば交通手段がたくさん選べる地域とか。
深夜に船で移動したここアムグは不法入国込みってヤバい条件付きだけど陸海空路どれでも選べるから、大きくない町なのにアジトがあった。

昨日寄ったとこもだけど、聞いたことすらない地名がいくつもあって普通に住んでる人が居るんだって、毎回感動を覚える。この強制的に世界中を連れ回されてる旅が良い学びになってるのは皮肉だよね。


「朝食なにが良いかだよな名物料理出すような店があっても早朝じゃあ開いてないだろうし」
「パン屋さんなら朝から開いてない?あと乳製品オススメって言ってたじゃん、ロシアのチーズ食べてみたい」
「なるほど、チーズとパンそれならスィルニキとか良いかもな。チーズに小麦粉混ぜて焼くパンケーキだ」
「なにそれ絶対美味しいじゃんめっちゃ気になる!」


餌付けでもしようってのか、この男は世界中の美味しいものを私に食べさせようとする。私もコイツも食べるのが特別好きだったわけじゃないのに、気付けば敵から逃げてるのかグルメツアーしてるのか分かんない旅になっていてそれが結構気に入ってしまっていた。

家族を失ったあとの私は生きる気力とかなくて、でも死ぬのも怖くて、飛行機事故の賠償金や遺族年金とかで生活費は足りてたけど碌なもの食べてなかった。
何を食べても味なんかよく分かんなかったしそういう話をしたら「ストレスで味覚障害になる事はよくある」とか何とか言われたけどさ、そうじゃないと思う。

誰かと食べるごはんは美味しいみたいな、フツーの話だと思うんだよね。


「レーズン入りもあるな、干しブドウ食えるか?」
「うん、レーズンパンとか好き」


コイツと食べるから何でも美味しいんだろうなって、気付いて。でもそれを教えたげるつもりはない。
言えるわけがない家族と食べてたごはんの味を思い出す度に、この男に家族のような親しみと、愛しさを抱いているなんて。そんな自分の気持ちを、もうとっくに受け入れているなんて。


(連れ回されるのも悪くないって思っちゃうなぁ)


*************


「どしたの、来た道とちがくない?」
「あールート変えてる。意味ねぇかもだが」
つけられてた?」


朝飯を食べに出掛けた帰り、違和感を覚えて道を変えた。
流石に気付いた相棒も声をひそめる。急に距離を寄せたのを不審に思われないように肩を抱き、何事もないような顔をして歩き続けたが、視線を感じる方向的にアジトはバレてそうだ。


「このまま人気のない所まで行くぞ」
「うん


もし敵側がわざと存在をアピールしてきたのだとすれば、俺らの戦い方を知っててわざと人気のない場所へ誘導している可能性もあるが、大掛かりな罠を仕掛けられるほど時間は与えてない。


(作戦が御破算になったからって町中で暴れられても困るからな思惑があるなら今は乗ってやろう)


不運の否定能力は予測が出来なきゃ盛大な自殺になるだけだ。火力の面では頼りになるがランダム要素も多く、決め手の武器とするには不安定な力だから、出来うる限りのお膳立ては俺がする。
俺達はそういうバディだ。

俺は不死なだけで、攻撃手段は銃火器に頼っていた。能力を活かして反動で腕がイカれる馬鹿みてーな改造武器を使ったりもしたが、そういうのはロマンだけですぐに飽きた。

災害レベルの不幸が向こうからやってくるこいつの能力が、俺にとってどれだけ魅力的か。こんな願ってもないお誂え向きの力を持っているのがこいつで良かった、心配になるくらいチョロいお人好しでなけりゃ俺について来る事はなかっただろうからな。


「ここか?」


しばらく歩いて町はずれの使われていなさそうな廃材倉庫に行き着き、足を踏み入れた。ここが罠場だろうが、やはり細工をした形跡がない。プレハブ小屋をそのまま馬鹿デカくしたようなトタン外壁の中には、漂着物らしき木の板や古びた網やブイ、陸揚げされたままカバーも掛けられず放置された船が雑多に詰め込まれている。

障害物の多さから銃撃を警戒したが、こんな閉所に潜んでいるなら流石に分かる。この建物内に敵は居ない。

耳を澄ましていると空気の洩れるような異音が始まった。相棒を背に庇いながら確認した音の発生源謎の機械は、無色透明の薬品らしき液体から気体を発生させる装置だった。


「チッ時限装置か何か知らんがお前は吸うなよ」
「ぁぃ」


袖で口を覆った相棒を抱えて脱出しようとしたが、そこで手足の重さに気付く。麻酔や筋弛緩剤の類は死の危険があるから俺には効かない、すぐ再生されるはずだったが。


「!?」
「ちょっと、大丈夫?」


再生されない……立っていられず膝をつく。
筋肉が動かないが命の危険はない?不随意筋が動くということは邪魔されているのは神経を通る信号の伝達か?意識がぼやける。
これは鎮静剤による過鎮静か普通の薬じゃねぇな。なかなか頭の切れる奴が来たらしい。


「体動くうちに逃げるか、隠れろ」
「これなにえ、寝てる?睡眠薬??」


薬の噴霧が終わり薬剤が散った後、動けなくなってる俺らをゆっくり捕まえに来るつもりだろう。
その前にこいつだけでも幸い口を覆っていたおかげか、まだ動けている。今のうちに離れろと何とか伝えたが、俺はもう発声も難しい。


(まさか再生の適用範囲外から行動不能にされるとはな)


こんな時こそ冷静にってわけじゃなく、焦りたくても薬の作用で感情が真っ平らにされていた。意識を失う事はないが、何とかしなくてはという思考がその先に進まない。解決策など出てくるわけもない。

ただ巻き込んじまった相棒の、無事だけを願っていた。


*************


(逃げるか隠れろったって


そしたらアンタは捕まっちゃうじゃん、私だけで逃げてもどうせすぐ捕まっちゃうし。そうは言っても私1人ではこんな大男運べる訳もない。どうすれば良いんだろうこのままここに居ても、私も薬で動けなくなるだろうし

一応辺りを見回すと、薪割り用なのか斧が壁に掛けてあった。


「頭だけなら運べるかもって、重っ!」


急いで斧を運ぼうにも、片手で口を覆っていては持ち上がらない。上着を脱いでマスク代わりに口元に巻いて袖を結んだ。


「悪く思わないでねアンタの事だから喜びそうだけど!」


うつ伏せに倒れたまま動かない相棒の首に斧を振り下ろしたのと同時に、入口からくぐもった悲鳴が聞こえた。
たぶん動けなくなった頃合いにアタシらを回収に来たんだろうけど、反応からして否定者のことすら知らない下っ端みたい。それならその悲鳴もしょうがない、相棒の首を切り落として返り血に濡れた女が正気に見えるわけないもん。

少し体はダルいけど、まだ動ける。生首を抱えて走った。

どんな建物でも入った時から出るルートを考えるように訓えられてたから、入口が駄目ならと迷わず窓へ向かう。窓の位置は高いけど船に登れば届きそうだ受け身も習ったから2階の高さくらいなら飛び降りても大丈夫。

積み上がった木箱を足場にして船に乗ったところで、怯んでいた敵が追って来てるのを確認。防護服を着てるせいか速くはない、けど銃を持ってる奴もいる一旦身を隠す。


(窓から出るつもりなのは気付いてるだろうし、このまま行けば置きエイムで撃たれるよね


急がないと不死の能力が勝手に再生を始めちゃう。頭だけでも結構重いから速く走る事も難しいのに……そっか、なら置いてけばいいのか。

倉庫の中央に近い船に移動して、わざと居場所を明かしてから隠れた。
予想通り連中は好機と思い込んで船を取り囲むあいつらが防護服を着てるのは薬のためもあるけど、たぶん素肌で触れるなと聞かされてるからだ。だから不用意には近付いてこない。
逃さず見張って、アタシが薬で動けなくなるまで待てば良いんだから。


「あ、起きてる。まだ動けない?………そっか」


抱えていた相棒の首と対面すると、目が合ったけどぼんやりしてる。頭が起きてない状態で体が再生しても意味がない、やるか。


「物好きだよね。こんな能力が欲しいなんて」


生首相手にキスをするのは初めてだった。変なの。


「アタシの不幸で良けりゃいくらでもくれてやるのに」

「じゃあ、あとヨロシク」


動けないはずの不死の口元が笑った気がした。
もし聞こえてたんなら「いいね最高だ」って言ってそう。

上着で口を覆い直すと、相棒を置き去りにして走り出す。

私が隣の船へ飛び移るのと同時に、さっきまで乗っていた船の船台が壊れた。傾いた船が小船の上に落ちて、シーソーみたいに跳ね上がった小船が柱をへし折って、組み立て式の倉庫は簡単に崩れ始め……なんか知らないけど外に停めてあった重機も誤作動を起こして突っ込んで行く。
あーもうめちゃくちゃ。いつもの事だけど。

重機のエンジンオイルか倉庫内のドラム缶に燃料が入ってたのか、小規模な爆発を繰り返して倉庫は派手に燃えた。
ひときわ大きな爆発のあと、破片か何か飛んできたと思ったら相棒の頭だった。


「わ、オーライオーライナイスキャッチ!おかえり〜」
ただいま」


高々と放物線が弧を描くポップフライ、目で追いながら何とかキャッチ出来た焦げ焦げ頭は見る間に再生していくのでこのまま抱え続けるのは無理だ、とりあえず陸に置かれたテトラポッドに身を隠す。


「良かった治ってきてる。どう?体動く?」
迷惑掛けたな、悪かった。よくやったじゃねぇか」
「ホントにね。不死だからって喰らわなくていい毒受けに行かないでよ口覆っておいたから何とかなったけどさ」
「馬鹿が、そんな布巻いたくれぇで防げるもんじゃねぇよ。せいぜい効きを遅らせるだけだ」


上着を解いて羽織り直す私の膝に頭を置いて、生えたての腕で上着の裾をペラペラいじってくる。


「え、じゃあなんでアタシ平気なのあっ分かった!不死にしか効かない薬だったんだ」
「んなもんねぇよ俺は死なないだけで体は普通の人間だぞ」
「そっかぁじゃあ男にしか効かないとか」
「お前が薬効かねぇんだよそういう体質がたまにあるらしい、酒に強いのもその影響だろうな」


薬が効きにくい体質と聞いて思い当たる節があった。
手の火傷を治療中、痛み止めをもらっても止まない痛みを気をそらして耐え続けていたけどそういうもんだと思ってた。


「痛み止めって、痛いのが減るだけで消えるもんじゃないと思ってたもしかして違うの?」
「おま……痛いって言えよ!ずっと我慢してたのかよ」
「だって効いてるって思い込んでたから
………


こめかみを押さえて俯いて、深刻そうな溜め息つかれたなんだよ良いでしょ迷惑かけてないんだから。


「いいか、お前は不死じゃないんだ。痛いとかしんどいとかはすぐに言え、遠慮とかすんな俺が!お前を必要だから捕まえてんだよ!」
「う、うん……わかった。ゴメンってば」
「人が集まる前に行くぞ」


怒らせちゃったかな
コイツ、頼られるの好きっぽいからなぁ。反省。


*************


戦闘になるのが分かっていたから道すがら調達して隠しておいた服を着た。アジトはバレてたし戻らず放棄するとしてどこだって安全とは言えないのはわかってるが、とりあえず休息を取るために自分達の乗ってきた船に戻った。

まさか助けられるとはな。
最悪一人になっても少しは動けるようにしてやらねばと、訓練は続けていたが。実戦であそこまで動けるなんて想像していなかった。


(俺が今まで頼ってたのはあいつじゃなくて不運の能力だけだ)


相棒だとこっちが思えてなかったのに、あいつが俺を頼れるわけねぇよな。悪いことしちまった。


(お前はもうとっくに、頼りになる相棒だったんだな)



おわり