スサ
2024-11-18 00:06:00
2534文字
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【ゲ/ほのぼの】ハゼ釣り

公開1周年&円盤発売おめでとうございます!それで振り返ったのですが、初見時からしばらくはずっと「幸せな家族モノが100万本みたい…」と言っていたので、謎の秋のレジャーの話を書きました。以前書いた潮干狩りの話とつながっていますが、未読でも大丈夫です。

 初夏に潮干狩りを企画した面々のうち何人かから、ハゼ釣りの誘いがかかったのは秋の初めのことだった。
 ハゼはいわゆる「誰でも連れる」といわれるくらい初心者向けの魚として知られ、古くからハゼ釣りは娯楽として楽しまれてきた。水木も小さい頃に釣ったことはある。
 汽水域にいる魚で、堤防から釣り糸を垂らしてもつれるし、昼行性だから早朝や深夜に出て行かなくても良い。たしかに、家族連れで楽しむこともできる釣りだといえる。河川敷のようなところなら飽きた子どもを遊ばせることだってできるだろう。なるほど、渓流釣りより遙かに家族向けかもしれない。それに初心者向けということは、子どもでも気楽に釣れるということだ。現に水木もそうだったし。
 二つ返事で参加を伝えて、それから水木は真剣に子供用の釣り竿を買うべきか考えた。さすがにまだ鬼太郎に釣り竿は早い気がするな、と思い、苦笑した。だが、もう少し大きくなったら釣りを教えてやるのもいいと思う。何なら、海釣りや渓流釣りに連れて行ってもいいかもしれない。
 とはいえ、幽霊族のおやじさんの方のよしみで魚が釣れまくってしまう可能性もある。それだと教えることにならないので、注意が必要そうだ。それは釣れた方がいいに決まっているのだが、うまく行き過ぎることばかりでは学びがない。

 帰宅し、膝に鬼太郎を載せて夕飯を食べさせたり食べたりしながら、水木はハゼ釣りの件を目玉のおやじに告げた。秋から冬にかけてはハゼ釣りの時期だ。釣って帰って天ぷらにしてやろう、と既に行く前から勝った気でいる水木を、目玉は笑ったりはしなかった。
「そりゃ楽しみじゃ。ああ、懐かしいの、釣りか」
「おやじさんも釣りしたことあるのか」
「いやあ、わしゃそんなまだるっこしいことはせん。エイヤッとひと睨みすれば魚の方が食べてくださいとなる」
 水木は渋い顔をした。なんじゃ、とおやじは首を傾げた。
「それの何が面白いんだ」
「おも、いや、飯に困ることはない」
「そういうんじゃない。釣りっていうのは、魚との我慢比べにだまし合いだ。それに勝って釣り上げるのがいいんだ」
 一家言ある様子の水木に、ほお、と目玉は感嘆のようにも聞こえる息を吐いた。水木は軽く小鼻を膨らませ、立派に言って聞かせる。
「要は大事なのはココと、我慢さ」
 ココ、と自分の頭をつついてみせた水木の貌は稚気に飛んでおり、おやじは笑ってしまいそうになった。子どもっぽいところのある男だ。鬼太郎は食事の手が止まったことで、ぱちりと瞬きした後水木を見上げた。えへん、となんだか得意げに笑っている水木を見付け、じっと見つめた後、にへらと笑う。そんな鬼太郎の平和な笑顔に気づいて、水木は自分の膝に視線を向けた。
「おっ、ごめんな鬼太郎。さあ、次はにんじんさんだ、やわらかいぞ」
 くたくたに煮たにんじんを箸でもって鬼太郎の口に運ぶ水木は甲斐甲斐しいの一言に尽きる。幽霊族は歯が生えればにんじんだって生で平気じゃ、とおやじなどは思うし、何なら言ったこともあったが、信じられないものを見る目で水木に却下されていた。おまえは何を言ってるんだ?と底冷えする声で尋ねられたのを思い出すと、おやじの背中も冷える。けして服を着ていないからではない。
……
 しかし、いい子のはずの鬼太郎は、にんじんを拒否するように顔を背けた。水木は眉を曇らせる。
「ちょっとでいいから。な、鬼太郎。ぱくってしてくれ。な?」
 世間には頭ごなしに叱りつける男親の方が多そうな中、水木は辛抱強く問いかけた。この類のことで水木が怒ったことはまずない。怒るとしたら、危ないことをした時くらいだ。例えばいつぞやは、湯を沸かしたばかりのヤカンに触れようとした所を本気で叱っていた。
やわらかすぎるんじゃないかのう
 鬼太郎はもう歯が生えている。乳歯だろうが、と水木は受け入れないが、幽霊族の歯だ。鉄をも砕く。しかし、俺の小指の爪より小さな歯でそんな固いモン食わせられるわけないだろ、と怒られたので、おやじもあまり強くは出られない。
 それでもこぼれてしまった独り言は、水木の耳には届かなかったらしい。まだ熱かったかな、とか言っている。そんなわけあるかい、とおやじは思ったが、ため息をついただけだった。
「しかして水木よ。釣り竿なんて持っておったか」
 にんじんを細かく切って、口移ししてどうにかやわらかく煮たにんじんを食べさせるのに成功したらしい水木は、目玉の質問に考えるような顔をした後、肩をすくめた。
「ねえな。でも、ハゼ釣りなら簡単な竿で釣れるだろ」
 俺も昔竹竿みたいなので釣った気がする、と思い出を語る水木に、うーむ、とおやじは腕組みをした。
「なんだよ」
 にんじんの苦労が何だったのか、固いのではと思ったごぼうは口に含んでくれる鬼太郎をあやしながら、水木は首をひねった。
「普段世話になっている礼じゃ。釣り竿はわしが用意しよう」
「おやじどのが?」
 目を丸くした水木に、うむ、と目玉はにこやかに頷く。
「古い知己に釣り好きがおるんじゃ。いいものを用意してやるから待っておれ」
 まかせてくれ、と胸をたたいて請け負う父に、じゃあ、お言葉に甘えることにするか、と水木は笑った。
 ──だってまさか、思わなかったのだ。
 おやじが用立てたといって持ってきた和竿は品が良い作りで、高級品じゃないのか?どうやって?と水木をその時点で困惑させたが、どちらかというと釣り針の方に秘密があった。とにかくやたらとハゼが釣れる。いや、ハゼは元々釣りやすい魚として知られているからそれはいい。だがそれにしてもあまりに釣れるので、早々に水木は釣りをやめ、鬼太郎を広々した河川敷で遊ばせ、ついでに、釣りに飽きた子ども達もまとめて面倒を見て、その人気を不動のものとすることになった。

 鬼太郎の髪の間にこっそりくっついてきた目玉のに「どうなってるんだ」とこっそり問い詰めた水木は、「海幸彦の釣り針を伝手を頼って借りてきたんじゃあ」との答えに絶句し、これからはよくよく詳細を確かめてから幽霊族の提案に乗る必要がある、と思ったのだった。