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フレーメンちう
2024-08-25 22:15:30
2761文字
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狼腹には優しすぎる
ヨダビマ前提だけど、ヨダビマ要素がほぼ無いご飯話です。マシュとビーマの話。
美味い。美味いが、ビーマにとって物足りない。
「寸胴鍋ひとつ分食ったとしても、食い足りねぇな
……
」
試しに少し
――
といっても、優に五人前は超えている
――
作ったものの、半分程食べたところで、匙を置くしかなかった。
李から教わった、主に鶏肉を使った中華粥。教わった料理を早速作ろうと自室のキッチンで作り、試食をしたが、空になった食器を前にビーマは悩んでいた。
決して口に合わない訳では無い。カルデアに召喚されてから、様々な国の食事を味わってきた事もあり、以前の様に「馴染みが無いから美味くない」と思う事は無くなった。
だが、大食漢のビーマにとって、優しい上に消化の良い粥は、食欲の呼び水にしかならないのだ。それを夕食の時間をとっくに過ぎた今なのだから、尚更食べる訳にはいかない。
鍋の中に残った手付かずの粥を見つめ、どうしたものかと頭を悩ませる。
ふと、小さなノック共に、鈴を転がすような声がビーマの名を呼ぶ。
「ビーマさん、いらっしゃいますか?」
マシュの声に目をぱちくりとさせる。珍しい来客にビーマは鍋に蓋をすると、ドアを開けた。
「待たせたな。どうしたんだ?」
「先輩の代わりに、明日の予定について連絡をしに来ました」
急いできたのだろう。ほんの少し息が上がるマシュは、申し訳なさそうに眉を下げる。
「あぁ、そういやマスターも明日の連絡で来るって言ってたな
……
廊下で話すのも何だし、入ってくれ」
「お邪魔しますね」
通された部屋の中は、食堂でもあまり嗅いだ事のない香辛料がふわりと立ち込めている。キッチンで漂う香りとは少し違い、マシュの鼻をくすぐるその香りに興味が湧いてしまう。行儀が悪いとは分かっているが、ついつい嗅いでしまう。香辛料の他に、頬かな料理の香りに気づく。
「ごめんなさい、お食事中でしたか?」
「いや、試しに作っただけだったから、気にしないでくれ
……
そうだ、味見していくか?」
ビーマの言葉に、マシュの表情が明るくなる。その反応にビーマはニカッと笑うと、部屋の隅にあるイスとテーブルを勧めた。掃除は行き届いているが、殆ど使ってないのだろう。ほぼ新品同様のイスに座ったマシュは、お邪魔ではないかとほんの少しだけ緊張しながらも、どの様な品なのかと期待が高まる。
「李に教わった中華粥を作ってな。良かったら感想も聞かせてくれるか?」
席に着いたマシュに、お玉一杯分の中華粥を盛ったお椀とスプーンを渡した。
「いただきます」
満面の笑みを浮かべながらマシュは中華粥を受け取った。
お椀から中華粥の熱さが伝わり、湯気と共に胡麻油と柔らかな出汁の香りが立ち込める。粥の中には細かく裂いた鶏肉とふわふわのかき玉、刻みネギと同じ位に小さく刻まれた黒いものが入っている。
食欲をそそる良い香りに、ゴクリと喉を鳴らしてしまう。何かを食べるには少し遅い時間だが、味見位なら大丈夫なはず
――
マシュはスプーンで中華粥を一掬いして口へと運ぶ。淡い塩味と共に、柔らかな鶏と貝の様な出汁が口いっぱいに広がった。柔らかながらも粒が残った米を噛みしめると、米の甘味と出汁の味が混ざり合い、また違った美味しさが溢れる。
もう一掬い、今度は黒い物も一緒に食む。歯を立てれば弾力があり、噛みしめればコリッとした歯ごたえがあった。どうやらキクラゲの様だ。
柔らかい食感だけでは無いお粥が珍しく、治療食とは違う楽しさにマシュは笑みを零す。
丁寧ながらも夢中で食べるマシュを見る限り、口に合ったのだろう。そんな姿に、ビーマは胸を撫で下ろした。
「味の濃さとか、大丈夫だったか?」
「丁度良い味で、とっても美味しいです! 鶏肉のお出汁意外に他のお出汁が入っているようでしたが、何が入っていたのですか?」
「良く気付いたな、帆立の出汁が入ってるぞ。干し貝柱から出汁を取ったから、粥の中にふやけた帆立も入っていたが
……
鶏肉と食感が似てたかもな」
ビーマが食べた際も、食感が似た帆立があった。もしかすると、マシュが食べた粥にもそのような帆立が混じっていたから気づかなかったのだろう。
「そうだ、中華粥がまだあるから持って行くか? マスターの分もあるぞ?」
その提案にマシュは目を輝かせるが、直ぐに戸惑いを見せた。
「ありがたいのですが、それはビーマさんのお夜食なのでは
……
?」
「夜食として作ったんだが、なかなか俺の腹に溜まらなくてな」
少し困り顔をするビーマに、マシュは意外そうな表情を浮かべる。だが、いっぱい食べるビーマだからこそ、お粥は直ぐに消化してしまうのだろうと納得する。
「では、お言葉に甘えて頂いてもよろしいですか?」
「おう! もちろんだ! スープジャーが二つあるから、それで持っていってくれ!」
食器棚から白と青のスープジャーを取り出すと、温め直した中華粥を詰めた。止まらない食欲を抑えられる事に安堵しながら、マシュへと渡した。
「そういやマスターが来るはずだったが、は急用でも出来たのか?」
「その
……
ちょっと他の方に捕まってしまいまして
……
」
言葉を詰まらせるマシュの様子に、ビーマは小首を傾げる。
マシュが悩むような事で思い付くのは、マスターが大好きなサーヴァント。例えば清姫に捕まるような事だろうか。精一杯の愛情を無下にも出来ない上に、それを理由に約束を果たせないとは言いにくいだろう。そう思うと、マシュもマスターもマスターが大好きなサーヴァントも、全てが健気さに満ちていてつい頬が緩んでしまう。
柔らかな笑みを見せるビーマに、マシュは目を泳がせる。
(ビーマさんが微笑んでいますが、確実に勘違いしているような
……
)
マスターがビーマの部屋に向かう直前、アルトリア・キャスターを連れたドゥリーヨダナに呼び止められたのが理由だった。巻き込まれたであろうアルトリアの姿に、マスターとマシュは狼狽した。栗毛色の馬に乗せられ、その隣で少々呆れ気味なドゥリーヨダナの弟が手綱を握っている。アルトリアは羞恥心と困惑で頬を赤らめており、ドゥリーヨダナに経緯を聞けば「周回のに編成ついて話をするのに、当事者は一人でも多い方が良いから連れて来たに決まっておろう。腕を引っ張って連れてくる訳にもいかないからな、頑張ってヴィカルナを喚んで乗せたのだ。思惑も無しに女人に気安くやすく触れるものでないわ」と。
話が長くなりそうだからと、マシュが代わりにビーマの部屋へと訪れたのだった。
アルトリアを巻き込みながらマスターへ抗議している事が知れたら、波乱の幕が開くのは目に見えている。
マシュは目と口をキュッと噤み、どうか気付かれないようにと心から願うと、気持ちを切り替えて明日の連絡を始めた。
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