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フレーメンちう
2024-07-14 23:07:01
3160文字
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ひとくち、ふたくち
周回で疲れ果てたドゥリーヨダナが、ビールを飲みながらおつまみの鶏のから揚げ(?)を食べる話です。
ぷかりと浮かぶ白い雲、目映いばかりの青い空。照りつける太陽、焼ける地面、肌を撫でる熱風。
効率が良いとはいえ、こんな場所で周回するなど馬鹿の極みだ、と言わんばかりにドゥリーヨダナは空を睨む。同行しているキャスターのアルトリアも余りの熱さに苦悶の表情を浮かべ、パッションリップに至っては大きな手で日陰を作り、双方共に疲労の様子が見て取れる。
ドゥリーヨダナも例外では無い。宝具で呼び出した際には勇猛果敢な戦いぶりを見せる弟たちが、疲労が溜まるごとにヤケクソな戦い方になっていくのが手に取るように解る。
指揮を執るマスターへ視線を向ければ、マスター自身も照りつける暑さにやられている。その上、疲労困憊なサーヴァント達に酷く申し訳なさそうにしていることもあり、文句を言えば早めに切り上げそうだ。
これで終いにしよう。ドゥリーヨダナは大きな溜息を吐くと、牙を剥く獣達を睨み付け、統率が取り切れていない弟達の軍隊を放った。
* * *
「おい、ビールをくれ。大ジョッキでな」
気分転換の為にシャワーを浴びたドゥリーヨダナだが、その程度で取れる疲れでは無い。
こんな時は黒髭に勧められたビールを飲むに限る。酵母の味が強くて濃厚な旨味があるドイツビールよりも、しっかりと冷やしたアメリカンラガーの爽やかな炭酸が恋しい。
「今の時間に来るとは随分と珍しいね」
いつもの得意げで自信家な様子の一欠片もない項垂れたドゥリーヨダナの姿に、キッチン内にいたエミヤは目をぱちくりとさせる。
夕食の時間真っ最中の食堂は、サーヴァントも職員も入り乱れ、賑やかな話し声で満ちていた。それと同時に注文が舞い込むキッチンの中は正に戦場の様だった。エミヤは注文を受けながらも担当するメニューを手掛け、奥にはフライパンを振るうキャットとグリルから魚を取るビーマの姿が見え、それぞれが担当している料理を作っているる。
「わし様は席で待つから運んでこい」と、そう言いたい所だが、おそらくビーマが大ジョッキを運んで来るだろうし、オマケに頼んでもいない小言のサービスをしてくるのが目に見えている。
深い溜息を吐き酷い疲れを見せるドゥリーヨダナに、エミヤは心底同情しながら「お疲れ様」と、大ジョッキになみなみと注がれたビールをカウンターへ出す。それと同時に、注文をしていない一皿を差し出された。
皿の上には、きつね色の大小さまざまな揚げ物が数個程度盛りつけられ、端には一味唐辛子をかけられたマヨネーズ。
「アルコールを飲むときは、おつまみが必要だろう? 今日のメニューが唐揚げで丁度良かった」
微笑むエミヤが差し出したから揚げは揚げたてなのだろう。油はきっちりと切られているにも関わらず、湯気が立ち上る。香ばしい匂いに食欲をそそられたドゥリーヨダナは、ビールと唐揚げの盛られた皿を手にすると空いているテーブルへと着いた。
先ずは喉を潤そうと、ずしりと重いジョッキを握る。唇に当たるグラスの縁が冷たく、それだけでも心地良い。一口含むと、ほろ苦い味わいの後に、ほんの少しの甘味とすっきりとした炭酸が口の中を刺激する。ビールの味わいと香りを堪能しながら喉を鳴らしながら飲み込めば、食道から胃にかけてこれ以上無い爽やかさが染みていく。
「~~っ!」
声にならない歓喜の音を零すドゥリーヨダナは、満面の笑みを浮かべながらジョッキを置く。
最悪で劣悪なあの周回が、ビールの美味さを引き立てる。この時ばかりは、「あの周回も悪くはない」と思うが、喉を潤すビールの冷たさが無くなる間だけ。二度とやるものか。
ジョッキに注がれたビールが半分になり、流石に口の中が冷えてしまった。淡い湯気が上がるから揚げに視線を向ける。少し冷めてしまった様だが、ドゥリーヨダナはフォークを手にすると、小さめのから揚げを刺して口へと運んだ。
一口囓ると、パリッと揚がった衣から、旨味が詰まった肉汁が溢れ出る。ニンニクの香りが食欲をそそり、醤油の風味が味に深みを出している。ビールのほろ苦さに合い、ジョッキを傾けるスピードが速まってしまいそうだ。
次のから揚げを口へ運ぼうと無作為にフォークを刺す。持ち上げようと力を込めるが、先程のから揚げと比べてズシリと重い。フォークから伝わる重さを不思議に思いながら持ち上げれば、ボイジャーの握りこぶし程ある。から揚げとは言い難い大きさにドゥリーヨダナは目をぱちくりとさせた。
「
……
中まで火が通っとるのか?」
生の鶏肉を食わせられたら堪ったものでは無い。恐る恐る齧り断面を見てみると、先程のから揚げと同様にしっかりと揚がっている様だ。それに味付けが違うのか、一口含んだから揚げから、様々なハーブの香りと胡椒の辛みが口に広がる。食べ慣れたスパイスとは少々違う風味だが、なかなかの美味さだ。それに、こちらのから揚げもビールと良く合う。
熱くなった口の中を冷えたビールで潤し、冷えてしまった口の中をから揚げで温める。それぞれの料理で最も美味い温度と味を堪能するように、ビールとから揚げを交互に食べていると、正面の椅子を揺らす音が聞こえると同時に誰かが座ってきた。相席をしなくとも空いているテーブルはあるのに。ドゥリーヨダナはそう思いながら顔を上げた。
「どうだ? 旨いか?」
よく知った声とよく知った顔。ビーマだ。嬉しそうな笑顔を向けながら、感想を求めてくる。至福の時間を遮られたドゥリーヨダナは、少しだけ不満そうにビーマを見つめた。
「何だ、ビーマの癖に職場放棄か?」
「んなわけねぇだろ。一段落付いたから飯を食うんだ」
ビーマが手にしているトレイには、バイキングの陳列と見紛うばかりの山盛りから揚げとそれと同様のフライドポテトが乗っている。見ているだけで胸焼けするが、ビーマにとっては腹八分目にも満たないだろう。
「で、から揚げは旨かったか?」
「まぁな。ニンニクと醤油のから揚げも美味かったが、胡椒や香草が効いたから揚げの方が好みだったな」
あくまでどちらかといえばなのだが、やはり醤油の風味よりも何種類ものハーブなどを使ったから揚げの方が故郷の味を思わせるのか舌に馴染む。とは言え、自分の料理に自信を持っているビーマが、他人が作った料理について意見を執拗に聞いてくるのは珍しい。大体の所、ドゥリーヨダナが旨いと言えば今後の参考としてエミヤにレシピを聞くのだろう。
ほんの少し不思議そうにしながらも答えたドゥリーヨダナに、ビーマは満面の笑みを浮かべた。
「それ、俺が作ったんだぜ」
眩しいほどに無邪気な笑顔をする所為だろうか、勢いよくブンブンと振りまくる犬の尻尾の幻覚が見えてしまう。
余りにも嬉しそうな様子を見せるビーマが可愛らしくもあるが、こんな他人の目がある場所でふぬけた顔をするなとドゥリーヨダナ眉間に皺が寄る。ビーマを調子に乗らせると碌な事が無いが、褒めずに流すのはドゥリーヨダナとしても礼儀作法に反する。
「
……
お前にしては上出来だろうな。次も食ってやらんこともない」
「ふぅん
……
まぁ、気に入って貰えて何よりだ」
素っ気なく答えるドゥリーヨダナの様子にビーマは少々気落ちしてしまう。だが、ドゥリーヨダナがビーマに対しての好意を人前で見せない事など重々承知だ。寧ろビーマの方が浮つき過ぎていた事もあり、怪訝な表情を見せるドゥリーヨダナの方が正しい反応だろう。
だが、エミヤが作ったから揚げよりも、ビーマが作ったから揚げを選んだ事に嬉しさを隠せない。ビーマにそれ以降声を掛ける事無くジョッキをあおるドゥリーヨダナを見つめながら、愛しい者が旨いと言ってくれた手製のから揚げをゆっくりと噛みしめた。
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